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敗北王と呼ばれた最弱の騎士はハーレムを目指した。  作者: オジsun
断章 新婚生活編(マリカ)
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二話 『わたし、あなたの妻でございます』

 あちこち穴が空いているボロボロの馬小屋で、右頬を腫らした半泣きのタレムが、愛妻、和風料理を食べていると……


「それで。これからどうなさるお積りでございますか?」


 向かいで、ニコニコと微笑みながら、タレムを視ていたマリカが聞いた。

 これからの行動方針に付いてだ。


「んー? とりあえずは、お父様に今回の事を謝って……」


 もちろん、タレムがしたことは、謝って許されるようなことではないが……

 育てて貰った父親に、息子として、誠意と言う義理を通さない事も出来はしない。


「ユリウス様に、ご挨拶っ。……緊張します」


 そんなタレムと一緒に行く気で、マリカが緩んだ顔を引き締める。


「……ん? マリカちゃんも来るの?」


 ……正直、ユリウスとの対面を考えただけで、お腹がぐるぐると鳴って痛む。

 ユリウスに限って、殺される事はないだろうが…… 


「結構、格好悪い様を晒すことになると思うんだけど……できれば見せたくないな」


 好きなマリカに見せて嬉しい格好は付かないだろう。

 ……だが、


「構いません。タレム様がダメダメなのは何時ものことですので。そんなことでわたしの愛は揺るぎませんから」

「おおい! ほ、ほら……お母様にイジメられちゃうかもよ? ……かなり無茶苦茶したし、来ないほうが――」


 マリカは、淡々と切ない事実を語り、焦るタレムを真剣なひとみで見つめて説く。


「タレム様。タレム様。お忘れですか? わたし、あなたの妻でございますよ? グレイシス家からも追放されてしまいましたし、あなたに付いていかずに、何処へ行けとおっしゃいますか?」

「……あ」 


 そうして、言われてから、改めて思い至る。

 ……それは結婚。という言葉の実感だった。

 電撃的に結婚し、まだ一日しか経っていない為、昨日までの他人だった感覚が残っていたのだ。

 しかし、今はもう……違う。

 

「そっか。マリカちゃんは……俺の妻。家族だったね」

「……はい。タレム様の正妻でございます。あなただけのものでございます」

「そして、俺のせいで……マリカちゃんが帰る場所も……」


 ……なくなった。

 結婚騒動で、マリカはグレイシス家から勘当されてしまった。

 親に逆らったのだから当然だが、その原因を作った本人としては心が痛む。


「ふふふ。タレム様。わたしの帰る場所は、あなたのいる場所。でございます、よ?」 

「……っ。だね。ゴメン」


 今までマリカを育み護ってきた、グレイシス家という大きな揺り籠はなくなった。

 今のマリカにはタレムしかいないのだ。

 これからは、タレムが護らなければいけないのだ。

 ……それこそが本当の、マリカと結婚したタレムの権利であり義務である。

 

 ……スケベ云々はその後だ。


「ふふ、いいえ。慣れていなかった。それだけでございます」

「マリカちゃん……」

 

 ……本当にマリカを守れるのか? 何不自由のない、とまではいかずとも、安定した生活を送らせてあげられるのか? 最下級騎士と言う身分で幸せにすることが出来るのか?

 

 考え出すと、キリのない不安に襲われる。胸が透くような感覚だ。


 結婚する前は、明るい夢しか見ていなかったが、結婚したとなれば、こうして現実的な事を見なければいけない……。

 心がとても冷たく、重く厳しい現実を。


「タレム様……二人で。歩んで行くのでございますよ? ……どうか、わたしが傍らにいることを、寄り掛かって良いと言う事を、お忘れなきように」

「……うん。忘れないし解ってるよ。俺は何時だって『独り』じゃない」

「はい」


 それでも、そんな不安を覚え、共有するという事もまた、愛する人と結婚した実感と充実、言い換えれば……幸福であった。 

 

「よし、アルタイル家に一緒に行こうか!」


 ――はい。

 と、短い即答を聞いて、


(本当に、マリカちゃんと結婚できて良かった……)


 そう、改めて思い、噛み締めて。

 ……その、先の事も話しておく。


「後は……」


 ユリウスの次にしなければいけないのは……有力貴族や懇意にしている貴族たちに、マリカと結婚した事を改めて報告しておくことだ。

 貴族付き合いが苦手なタレムでも、これだけは、やっておかなければ……後から、難癖をつけられて、マリカを奪われる可能性もある。

 ……帝都とは、少しの油断と怠慢ですべてを失う怖い場所なのである。


「やるべき事やったら、すぐにロック村へ戻る予定だから、それまでに、マリカちゃんも、やり残している事を、終わらせておいて……護衛はイグアスに」

「ありません。ですからわたしも、タレム様と一緒に――」

「――それと流石に、挨拶回りには君をつれていけないからね。マリカちゃんの場合。初夜権とか主張されても困るし」

「ううっっ……それは、確かに……困ってしまいます」


『初夜権』とは、有権者が新婦の『初夜』をもらう権利。

 廃止されている制度だが、いまでも男の権力者と、性欲と言うのは切り離せず、ツガイの女性を搾取しようとする貴族も多い。


 結婚権を持たない下級身分の平民は、妻を貢いでツガイ関係を認めて貰う悪しき風習が残っているのだ。

 騎士と公爵令嬢の身分なら、強行されることはないが……

 道ですれ違えば見返してしまうほど、容姿端麗なマリカなら、例外ぐらいいくらでも起こるだろう。


 廃止された制度を求めるのは、明らかに不法だが、痩せた狼の前に愛する妻を連れていくのもバカというものだ。

 間違いだろうと、理不尽だろうと、『自分のモノは自分で守る』。

 それは、どこの世界だろうと生きる上で重要なことだ。


「とにかく、あんまり帝都に長居はしたくない。……ロック村でやることもあるし」

「やること?」

「……」


 それは、マリカには、まだ、伝えていない事だった。

 ……むやみに言い触らせない話だが、妻になったマリカに隠す必要もないと、改めてソレを説明する。


「夢を叶える為に……。シャルと計画を立てたんだよ。一つ。マリカちゃんと結婚して子供を孕ませる。二つ。騎士団を創設し、練兵する。……とかね。詳しくは後で話すけど。とにかく、春までは向こうで力を蓄える必要があるんだ」

「子供……春……」

「ああおおおっとととっ! 気にしないで! 気にしないで! 僕、貴女と結婚出来ただけで満足です!」


 一瞬、困った顔をして下腹部をさするマリカに、タレムがあわあわと取り繕う。

 昨晩の事はタレムが悪い。こんなことを人質にして、愛の行為を強要したくはない。

 ……マリカの機嫌が治るまでは我慢しなければならないのだ!


「……でも。タレム様の目的に必要とあらば……それに嫌と言う訳でも、むしろ――」

「別に、ソッチは、そこまで重大な事でもないよ。……いや、マジで」

「……そうなのでございますか?」

「うん。ただ愛妻と、あまあまに過ごすのも俺の夢だから。……飾って置かずに手を出していけって、シャルが汲み取ってくれただけだよ。マリカちゃんには関係ない、ただの俺の都合、煩悩でしょ?」

「……っ(……関係ない)」


 タレムの夢は、理想のハーレムを作ること。そのための過程が騎士王であり、一歩目がマリカとの結婚だった。

 理想とは則ち、作るだけに非ず、そこで温かく甘く淫らな生活を悠々自適に送ること、である。

 シャルルは、そんな夢の実現の為に、言っただけであり、まだ若く、上級貴族の跡取りでもないタレムが、結婚したからと言って、急いでや子作りに励む必要などありはしない。


(……ですが。ですが。タレム様の夢であった事には変わりありません。わたしはそれを拒否してしまったのでございますね。今から訂正しても、タレム様は納得して、くれませんよね……)


「……そうでございましたね。タレム様の夢は煩悩でございました……ね」

「茶化さないでよ……本気なんだから。……ハーレム。作っていいんでしょ?」

「はい。なので、茶化しては、おりませんよ?」

「あん?」

「……ただ。まだまだ、わたしの理解が及んでいなかった、というだけでございます」

「んん?」

「……タレムさまを理解できている、王女様たちが羨ましいだけでございますので」


 ……少しだけ、悲しそうな声で呟いた。


「羨ましい……か」


(マリカちゃんが羨ましむほど、シャルは恵まれていないんだけどなぁ……)


 タレムには、マリカが何を思って、悲しんでいるのか解らなかった。

 それでも、マリカに不満があるのなら、それは、できる限り解消しておきたい。


「じゃあ……取りあえず。シャルと会ってみる?」

「王族さまとの貴重なお時間……わたしが、お邪魔しても、よろしいのですか?」

「……」


 シャルルとのひと時は、タレムにとって神聖と言っていい時間になっている。

 とても大切な女性であり、誰にも触らせたくはない……が。


「良いよ。マリカちゃんだし」

「……っ!」


 それは、妻に娶ったマリカも同じである。


 綺麗なモノと綺麗なモノ。

 大切なモノと大切なモノ。

 愛するモノと愛するモノ。

 

 同じ宝箱に仕舞っても価値が落ちたりしない。

 触れ合わせても汚れたりしない。

 引き合わせても愛おしいのは変わらない。


「マリカちゃんなら、良いんだよ」

「タレムさま……っ!」


 マリカが心から愛しいからこそ、心から愛しいシャルルと合わせる事にためらいはないのだ。

 ……そんな、タレムの気持ちは、少しだけだが、しっかりと、


(ちゃんと、タレム様はわたしを愛してくださっているのですね……)


 ……マリカにも伝わっていた。


「では。お会いしとうございます。……王女さまと、お話したいこともありますので」

「うん。解ったよ」


 それから、何故か事情を知っている、鬼の仮面を付けた少女が突然登場し、新婚の場を掻き乱しつつ、シャルルが半刻後、例の場所で待っていると伝えてきたりして騒がしくなるのだが……それは、どうでも良いお話。

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