一話 『新しい生活の始まりだ!』
断章です。もともと二章で書く予定だった中編。一応、新婚生活編かな。
なにもなければ、一日一回、更新でサクサク行く予定です。
内容は二章前半のように、ゆったりと行くので、悪しからず。
政略結婚騒動から、一晩明けた早朝。アルザリア帝国のとある馬小屋で。
――ふにゅふにゅふにゅ……っ。
「……んっ。ん……やらけぇ……っ。むしろ、とろとろぉ……気持ちい」
「……」
タレムは、右手の平で究極に柔らかいモノをふにふにと揉みながら、まぶたを開いた。
……で、
「ふふっ。お目覚めでございますか? 旦那様」
天使がニコリと微笑み、甘く囁いた。
様々な困難を越えて、晴れて夫婦の契りを結んだ、マリカである。
「……あ? ああっ! マリカちゃんっ! マリカちゃーんッッ!」
愛しいマリカが、同じ床で横になり、寝起きに笑顔で挨拶してくれる。
……そんな現実だけで、幸せすぎて死にそうだ。
だから、衝動のまま、隣で微笑む新妻を……貪るように抱き締めた。
「まあっ。ふふふ」
先ほどまで揉んでいた、ふわふわ、たわわな乳房に顔を埋め、ぷるぷるの唇に何度もちゅちゅっとキスをして、もちもちの肌を弄び、極楽浄土の快楽を堪能する。
こうして、愛妻を可愛がる事は、すべてを賭して、マリカを手に入れた、タレムの権利であり、義務であるのだ!
(ムフフ。マリカちゃんと結婚後、初の朝! ムフフ♪ スケベな事、していいよね? 良いよね! だって、だって! 昨日、既に……俺は……ん? 昨日? ……あれ?)
「……」
昨日の夜。
夫婦になって初めての夜。
大人の階段を上る夜。
ハメを外して、精魂尽きるまで愉しむと……決めていた夜。
……なのに、昨晩の記憶が殆どない。
結婚式を終え、夫婦水入らず、じっくりとしっぽりと愛し合おうと、話していたところまでは、覚えているのだが。
しかし、しかしである。
楽しみにしていた……いや、愉しんだ筈の、大人なムフフの記憶が、経験が、すっぽりと欠け落ちているのだ。
(あれ? あれれ? ……これは……あれぇ?)
薄着の嫁を全裸で抱きしめる男は、思う。
……俺、昨日、ヤッたっけ?
(もしかして寝起ちあばばば……)
「ん? あなたさま。どういたしましたか?(微笑)」
「……ハハハ。なんでもないよ」
可愛く、美しく、愛しい嫁の笑顔。
婚前と変わることなく、振りまくマリカの愛嬌は、愛おしい……が、
変わってないから、判断が難しい。
(……昨日? スケベしたっけ? ……って、聞いたら、流石に怒るよな。シたとしても、シてないとしても、覚えて無かったら最低だ)
「ん? タレム様? 汗がぐっしょりしておりますが……?」
「……」
暫くマリカの微笑みを見ながら長考し、
(ここでマリカちゃんに恥をかかせるよりは……)
愛の営みに励んだ前提で、話しを進めることにした。
「そうそう。わたしの愛しい旦那様」
「なんだい。俺の可愛いお嫁さん」
そんなタレムに、新妻は、にこにこと微笑みながら、
「昨晩は……」
「……っ」
早速、例によって例の話題に突撃し判決の時が訪れた。
初夜の朝なのだから、避けることのほうが難しいのだが……
(さて。どっちだろう? ……昨晩はおかわいかったですね。ふふふ。とか言われるのも嫌だけど)
マリカはゆっくりとタレムに抱き着き、
「ふふふ……」
「うっ……」
激しい動悸を起こす、タレムの胸に耳を当て、
「気持ちがよかったでしょうか?」
「……うっ、うん。超! 気持ち良かったよ。今からもう一度、したいくらいだね」
大量に流れるべとべと汗を、嫌な顔一つせず、手ぬぐいで拭いとる。
「――お一人で眠ることが」
「……っ!」
そこで、妻が微笑む瞳が、冷たいことに気付くタレムだが、
「じゃあ……そういうこと?」
「はい。そういうことでございます」
「き、君は、眠った?」
「当然。一睡もしておりません」
「……」
マリカが抱き着いて離さない為、逃げることは許されなかった。
「何時、目を覚ますかも知れない……旦那様の求めに応じる為。眠る訳には、いきませんでしたので」
「ひっ」
もちろん、曲がりなりにもタレムは騎士。か弱い修道女を突き放すことなど容易だが、
……心から愛しい妻に出来る行為ではない。
「……お、怒ってる?」
「怒ってないと思いますか?」
「……」
マリカは、ふふふと、柔らかく微笑みを携えて、
「タレム様。先に謝るので、はしたないと思ったり、嫌わないでくださいまし、ね? ケジメをつけさて頂きます。その方が、あなたにとっても、よろしいでしょう?」
「……あい。先に言うけど、大好きだよ。マリカちゃん」
「ふふふ。私もでございます。心から愛しておりますよ。タレムさま……」
――ペッチーンッ!
タレムの頬に強烈なビンタが叩き込まれた。
……これはもう仕方ない。
「で。マリカちゃん。どうすれば、許してくれる?」
むしろ、罰を受けた方が、タレムの気が楽になると言うものだ。
そんなふうに身構えるタレムに、マリカは、にこりと優しく微笑み、
「ふふ……わたしは鬼嫁ではございませんので。先程のように抱きしめられたり、キスしたりは受け入れます。……それは、お嫁さんの勤めでございますし」
「おお~」
……「が」と、前文を否定して、
――性交渉は断固拒否、致しますので。
冷たく冷たく、非道な判決を降した。
「……Nouぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!」
そんな感じで、タレム騎士伯の明るく幸せな新婚生活が開幕したのであった。




