五十二話 『約束のゴールイン』
――夜。
結婚式を終えたタレムとマリカは、アルザリア帝国学院の馬小屋に帰ってきていた。
「結婚初夜♪ 初夜♪ 初夜♪ マリカちゃんとの初夜♪」
「ふふふっ……もう、落ち着いてくださいまし。私は逃げませんので」
大好きな女性と一緒になった最初の夜。ムフフな事を期待して既にベッドで全裸の獣が、鼻唄を歌っている。
「ねぇ? マリカちゃん。本当に良いの?」
「何がでございますか?」
「むふふっ。嫁とは言え、修道女。その、ふわふわとろとろおっぱいを揉んだり、可愛い乳首を摘んだり、神聖な身体中をペロペロしたりして……」
「ふふ。良いのでございます。わたしはもう、あなたの妻なのでございますから。好きなだけお召し上がりくださいませ」
「嫌だったり……」
「致しません!」
「そう……なら良いんだけれど……むふふ」
「本当に食べても良いので」
「それは……」
「うふふっ」
マリカも、蝋燭の白炎の明かりの中、白く滑らかな肌を晒し、濡れたタオルで身体を拭いている。
……一応、淑女の嗜みと言う奴らしい。
そうして、マリカは、タレムが、正に期待する通りの初夜へ向けて準備を進めながら、
「そんな事よりも」
「(そんな事……!?)」
と前置き、
「本当に、アルタイルの名まで捨てて、私を選んで良かったのでございますか? ……タレム様の夢まで遠のけて……」
「……ああ」
心に刺さっていた刺の疑問を口にした。
貴族名を捨てる言うことは、タレムがあれだけ口にしていたハーレムや騎士王から遠く離れる。
それを、マリカの為だけにしてしまったのだ。
(わたしに……そこまでの価値が……あるとは、とても……)
こういう気持ちを拗らせれば、ユリウスとコルネリアの様になっていくだろう。
そういう類の刺が、マリカには刺さっているのだ。
……そんなマリカに、タレムは一言。
「マリカちゃんだったら後悔はない」
「……っ」
ハッキリと、凛然と、気持ちを告げた。
その言葉がマリカの刺を抜いたのかは、後にならなければ解らないが、マリカは体を拭く手を止めて……温かそうに微笑み、涙を一粒……流した。
「はい……。マリカと呼んでくださいまし」
と、その顔も涙もベッドで全裸の獣に、見せるマリカではない。
「って、言うか。それは俺の台詞なんだけど」
「……はふぅ?」
「……マリカこそ、あんな勢いで、俺を選んで良かったの? ウィルムの方が俺より全然――」
「全然っ! なんて言葉。いやっ」
「……ん?」
身体を拭き終えたマリカは、爪を整え髪に櫛を入れながら、
「約束……覚えておりませんか?」
「……あん?」
全く心当たりのない事を言い出した。
……約束? そんなものをマリカとしたのだろうか?
キョトンとするタレムを、マリカは冷ややかに流し見てから、
「もう……あなたは……本当に酷い。最後まで思い出してくれないなんて。あれは……ずっと前、の事でございます。わたしがまだ、修道女を目指す前」
「マリカちゃんが……ぷっくりしてた頃?」
「はい。その頃からずっとわたしは、いつも兄様と連れ添って現れるあなたが好きで、」
「え?」
「好きで! 告白いたしました。そして、あっさりとフラれてしまいました」
「ええ!?」
ここに来てとんでもない事実が発覚したのである。
(いや待て、そんなむかしの話、俺が記憶を失う前の可能性が微レ有り……)
「わたしが六歳の事でございます」
「……あばばばっ」
(バッチし俺だ! この俺だ! ……ん? なんか記憶があるかも知れない……そう、そういえば)
「その時、あなたは言いました。『もし、十年後、お母様の様に美しく、優しく、清楚で貞淑な女性になっていれば』《永遠》に、愛してくれると(永遠は嘘でございますが……本当は……)」
「……あばばば」
「タレム様から、わたしを抱いてくれると……」
「……」
タレムは何となく思った。
(言った気がする)
「だから、わたしは母様の様な修道女を目指し、あなたの前に女として出向いたのでございます」
「……おぅ」
「それなのにあなたは、約束も忘れ、わたしのことも忘れ、ハーレムとのたまり、適当な求婚ばかり!」
「ぐふぅ……」
「まあ、もう、ハーレムはいいのでございますが……せめて、わたしを好きだというのなら……既成事実ぐらい作る甲斐性を見せて欲しかったのでございます」
「……ああ……だから」
今、思い出すと、マリカは何度も、そんな気配を匂わせ、タレムを誘惑していた。
いまさら、言っても仕方ない事なのだろうが、タレムがもう少し、度胸のある男であったならば……
「まあっ。もう、良いのでございますが」
「……ほんとうにごめん」
「ふふ」
身体の準備を終えたマリカは、再び着物に袖を通していく。
……脱がせるのは、男から、夫唱婦随な精神の持ち主なのだ。
「そういえば、さっきから思ってたけど……本当に、ハーレム作っていいの? ……あれだけ嫌がっていたのに」
「はい。わたしを悠久に愛してくれるのならば」
「……それは、当然。だけど? 心変わりの理由は?」
「先ほども言いましたが、あなたに愛されること、それがわたしのたった一つ、一番大事な夢だった、そのほかの幻想は捨ててもあなたに愛されたい、という、事が一つ」
「……もう一つは?」
「もう一つは……今回の件で、王女様を初め、リン様……と言った沢山の方にお力をお貸しして頂きました。今更、わたし一人であなたを独占など出来ませんよ。今度、王女様には拝見させてくださいませ。お礼を言いたいので」
「それは良いけど……大切な女性だから、殺そうとしないでね?」
「もーっ! そんなこと致しませんよ!」
どうだか……と、言いたくなったタレムだが、それは飲み込んで、瞳を閉じ……
「さて……そろそろ……かな……ぐへへ……」
「ふふっ。お待たせしてしまいましたね」
完璧に準備を済ませたマリカが、指を鳴らして、蝋燭の炎を消すと、さささっとタレムが、待つ藁ベッドの布団に入った。
「どうぞ……好きなだけ……召し上がってくださいまし」
「マリカ……」
「……はい」
――ぎゅっと、抱きしめられたマリカは少しだけ、身体を弾ませて、ドキドキと鳴る心臓の音を聞きながら、そっとタレムに身を預けた。
そして。
遂に。
結ぶ時っ!
「グーッグーッグーッ……マリカちゃん……まってぇ~」
「え?」
待ちくたびれたタレムは眠ってしまっていた。
「た、タレム様っ! そんなっ。さっきまで、ずっと、初夜、初夜と高ぶっておられたでなございませんか! おきてくださいまし! 起きて! 起きてよぉ……」
「グーッグーッグーッ……」
ぽんぽんぽんと、マリカがタレムの胸を叩くが起きる気配はない。
……結婚騒動が起きていた三日三晩寝ることがなく、今日に至ってはウィルムと決闘しアルフリードに殺されかけたのだから、その疲労度は絶頂を越えており無理もない。……のだが。
「そんなっ。そんなぁ……っ。わたしだって……ずっと、この時をまっていたのに……酷い。初めての夜なのに……」
花嫁は裸の夫の腕の中で瞳を濡らす。
「特別な夜なのに……」
「グーッ……グーッー」
「もう……イヤァアアア――っ!」
絵本の王子様に憧れる純粋な心を持ったマリカにとって、表には出さなかったが、結婚後、初めての夜。
愛する人に、しっぽりとゆっくりと、ねっとりとじっくりと……愛されたい……そんな欲望があったのかもしれない。
しかし、それを叶えられる唯一の男は、全裸のまま、
「グーッグーッグーッ」
「……」
爆睡中。
……わたしって、こんなのばっかりなのかな?
と、覚めた瞳でガラスもない窓から満点の星空を見上げると、また、一筋の涙が零れた。
「……んっ。マリカちゃん」
そんな悲しい気持ちの花嫁に、眠っているタレムが乗りかかり、抱きまくらの様に抱きしめる。
「タレム様……」
「大好きだよ……マリカちゃん」
「っ!」
タレムが忘れた約束があった。
先ほどタレムに言ったのは少し嘘が有る。本当は……
『十年後、マリカちゃんが元気になって、まだ、俺を好きなら、俺がマリカちゃんを大好きって言いながら抱きしめるから』
……である。
「もう……ふふっ。本当に……あなたは……ふふっ。もう……仕方のないお方でございますね」
「大好き……だよ……げへへ」
「はい……わたしもでございます♪」
こうして、タレムとマリカは夫婦になって初めての夜を越えるのであった。
「大好きでございます。タレム様」
……この後、マリカはめちゃくちゃ悶々した。(二章結婚編、終わり)
《後書き。ネタバレ有り注意》
最後までお読みくださりありがとうございます。
どうでしたでしょうか?
一章はシャルルを軸にしましたが、二章はマリカを軸にしました。
……少しでも可愛いと思って貰えたならば幸いです。
えっと、日常編と銘打って書いていたはずなのに……結局、シリアスチックになったはなぜだろう?
ええ。戦犯は途中でプロットを大幅に変えた僕ですね。
……はい。
なんか、ロック村のノーマ辺りをぬるく、甘く、書いていたら、我慢できなくなりました。
……というか、初期構想だと、帝都帰還した政略結婚の下りから、もう一度ロック村に行き、そこで、医者、クラリスをヒロインに切り替えて、ロック村の病気にもう少し踏み込んでから、再び、帝都で結婚騒動という、全部やったら、二十万文字超えるよね! ……みたいな感じになったのでやめました。
いや、結局、すごく長めになってしまったけれど。
そのせいで、前半に貼っておいた伏線達を放置し、入れたかったマリカの過去話とか、夢の話とかを、行き当たりばったりでばらまき……あばばばっ。
後半、アイリスが暴れまくったのは、完全な想定外。何、勝手にお父様を殺してくれてるのでしょうか?
あの辺を、半ば超特急で、しかも、アイリス目線で書いたため、アルフリードとユリウスが昔、マリアを巡って奪い合った的な裏設定まで、超特急で流れました。
気づいた人は居ないと思いますが、一応、匂わせては起きましたので、そういうの考えるのが好きな人はニヤニヤしてくだされ。
というかアイリス、とうとう人妻……になっちゃったよ。
因みに。最初の構想では、タレムとマリカがアルフリードに強制政略結婚を狭まれ、約束を覚えていないタレムと政略結婚をしたくないマリカが嫌がり、正義の良い奴、司祭ウィルム・ドラクレアが奮起し、『その結婚ちょっと待ったああああっ!」って言う役でした。……真逆ですね。
当然のように、マリカはタレムを選ぶのですが……のほのほしてるでしょ?
熱い展開を書きたくなって今の形に、構想を変え……しかし、結局、ぐたぐただった気がいたします。
何がぐたぐたって、前半ののほほんと、後半のシリアス……どっかで通せよ! ……って意味です。
……どっちの方が好きでしたかね?
僕は昔から、芯がぶれまくるので困ります。
さて、タレムのハーレムは、ここで、完結にします。
続きが長すぎる上に、人気もでなかった……という事です。
一応、結婚したので許してください。
未だに彼が童貞なのは仕様なので……
それにしても、唇を食べる話、アレ、究極の愛を表現したかったのですが、割と文字にすると、……あばばばっ。
次の作品は……冒険者のシリアス系を書こうかなと思っております。今回騎士の話書いたので。
……どうでもういいか。
――さて、もしかしたら、完結とか言って、ロック村編でぶった切った話とか、ただの無意味な閑話になった話とか、ちょっとだけ、更新するかもしれません。
と言うか、その辺、書かないと三章にいけない。……お父様とか死んじゃってるし。
因みに、多分書かない三章は、遂に敵国のアレがアレしてアレアレアレとああなります。
もし。続きが読みてぇーよって方は名乗り出て、作品を褒めちぎってくだされ(笑)、書くかも知れません。
……割と書く。
ふぅ……。
シャルル。アイリス。クラリス。マリカ。リン。ロッテ。ノーマ。まだ、七人……しかヒロインっぽいの出せていない。
……ノーマは、イグアスとくっつけるのも良いかなと、思ってたりもするけど。
あ、ロッテとノーマは触りだけだし……多分、皆忘れちゃったよね?
本当に、阿保みたいに長い構想で作ってしまった作品でしたね。
まあ、そんな感じです。
最後までありがとうございました。
――追記。というか、何と言うか。上の後書き書いてから三ヶ月ほど経って、私の状況が変わってますので、追記後書き? みたいな感じですん。……三日に一回は長かった(笑)
十九年三月現在。一応、三章作ってますん。(途中……)
……辞められなかった。(笑)
途中から、感想たくさん送ってくれた方もいましたし♪
なので、予定としては三章までは公開します。
……正確には三章の前の二・五章があったり。
三章が二章と同じくらい長かったり……。
そんな感じです。
次。二・五章の公開日は、後日、活動報告で知らせます。(まだ考えてないのよん。理由と言い訳書かせて)。
わざわざ、見に来なくても良いですが、早く知りたい方はどぞ。でわ。しがない私の小説にお付き合いありがとうございました。
……評価・感想・レビューはお好みで(笑)




