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五十一話 『私の夫になりなさい。うふふ』

 コツコツ……と、騒乱がさり誰も居なくなった西の大聖堂に、乾いた足音が響く。

 ほんの少し前まで、タレムとマリカが結婚式を行っていた場所だ。


 その名残で残るのは、タレムとの決闘に敗北し、時間停止の魔法を受けたまま放置された花婿ウィルム・ドラクレア。


(許さない。絶対に……許さないっ! タレム・アルタイル!)


 そんなウィルムは、思考だけで出来る状態で、タレムへの恨みつらみを極限まで募らせていた。


(落ち着け。これは魔法。いずれ、解ける。その時が来たら……最後です。フフっ。ドラクレア家の権力、全て使って破滅に追い込んでやります。目の前で、私を裏切ったあの女を犯してやりましょう。フフ……っ)


 心だけが、醜悪に染まっていく。

 そんなウィルムの耳に、突如、凛とした声が響く。


「うふふっ。なるほどね。時間停止を限定し、半永久的に継続させる」

「……っ! (誰だ? 私を助けに来たのか?)」

「少ないデメリットで、最大限のメリットを。やるじゃない。あの馬鹿。……でも、タレムって言うよりは、駄犬の腰ぎんちゃくの入れ知恵かしら?」

「……」

「でも、ダメね。層が薄い。この程度なら、力業で空間を壊すことが出来るでしょうに……馬鹿に限るけれど……正攻法なら……そうね。うふふっ」


 カツカツと、足音を響かせて流れる様に歩くのは、薄氷色の花嫁。


「さて、このボンボンには、語るべきネタも無ければ、痛め付けたい欲望もないのよね」

「……(この声。クネラットの令嬢。アイリス・クネラットさんですか……フフっ。タレム・アルタイルに結婚放棄された方。私と強力してタレムに復讐ですか)」


 壇上側を向いているウィルムの真後ろで、件の少女は立ち止まり、ひんやりとした空気を発する。


「まっ、ドラクレアは全員、揃って処刑対象ではあるのだけれど……」


 カチャリ……

 冷たい氷の鎖が、ウィルムの首につけられた。


「アンタは、私のモノになってもらうわよ? うふふっ。相方に逃げられた者同士、傷を舐め合いましょ?」

「――っ!」


 それを、つけられた瞬間、ウィルムの瞳から輝きが失われた。

 ……思考能力が低下していく。


「一つ。タレムに対して、間接的・直接的問わず、害を与えるべからず。

 二つ。私に対し、絶対の愛と服従を誓うこと。

 三つ。許可なく、私に触れないこと。

 四つ。この契約を忘れ、誰にも言わないこと。」


 花嫁は淡々と花婿に告げる。


「破ったら、冗談じゃなく、その鎖がアンタの命を刈り取るから……うふふっ。私達、仲睦まじい幸せな夫婦になりましょうね? うふふっ」


 そして、花嫁が右腕を虚空に向けると、そこに氷のメイスを創造し、腕を横に切った。

 同時にメイスが連動し虚空を動き、時間停止状態のウィルムを横から殴り飛ばす。


 ――ガラスが割れる音。


 直後、メイスによってタレムが、どんなに殴っても一ミリも動かなかったウィルムの身体が壇上へ吹き飛んだ。

 ……タレムの魔法が解除されたのだ。


 かつかつと、花嫁は花婿に向かって歩みより……


 ――グシッ。


 仰向けで転がるウィルムの腹を踏み付けた。


「うふっ。グレイシスは子豚ちゃんとタレムを気に入っているから、放っておいても平気。アルタイルはユリウスの粛清でタレムの罪はチャラ。クラネットはタレムに固執してないし、コレと私が結婚すれば政界のバランスは取れる、ドラクレアは私の婚約者ドレイが抑える。と……後始末は、終わりね」

「……あぅ」

「ふふっ。私の旦那様ドレイになれて嬉しいでしょ?」


 ガシガシと嗜虐的な微笑みで踏み付ける花嫁に、ウィルムは、


「はい。嬉しいです……」


 生のない瞳で答えた。


「じゃあ、子豚を従えるタレムをハメ殺そうとした権力を使って、私を五百騎士長くらいにはしてほしいわね」

「……は……い。御主人様」

「あらら、調教が必要かしら? 人前ではハニーって呼びなさい。一応、夫なんだから」

「は、ハニー……」

「うふふっ。元々、アンタをドレイしたかったのよ? ユリウスの策略には驚いたけれど。結局、この政略結婚は私の一人勝ちね♪」

「……ハニー」

「うふふっ。でも、アンタの事は食べてあげないわよ? 結婚式もいらないわよね? 後で書類だけ役所に送り付けておくわ」


 暗闇の中、うふふと、唇をなめ回し、花婿を足げにしたまま花嫁は愉しそうに唏う。……唏う。

 ここに、一つの夫婦が誕生し、


「……タレム。私の理想のハーレムも一つ出来たわよ? 子供も作っちゃおうかしら? 顔だけは良いしね」

「……っ!」

「嘘よ。勝手に発情しないで頂戴」

「……ハー」

「しねばいいのに……」


 アイリス・クネラット……彼女の恐ろしい野望がまた一歩、進んだのであった。

 しかし、つぶやかれる声は何処か……。(次、終わり)

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