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三十九話 『自由な氷の女王』

 グレイシス家でマリカの瞳から色が消えた丁度その時、


(ウィルム・ドラクレア助祭じゃなく司祭……。なるほど、子爵に昇格したってのはそういうことか。司祭からは修道士でも結婚出来る)


「って話よ。グレイシスは。うふふ。アンタも貴族ならわかるわよね? 三大公爵が二柱、グレイシスの馬鹿たちと、ドラクレアの糞たちが婚姻を結ぶ意味」


 アルタイル邸では、乱入したアイリスが、大まかな事情を大胆不敵に笑って言いながら、細長く冷たい指でタレムの顎を掴んでいた。

 その端正な顔も近いせいで、清凜とした息が懸かる。


「三すくみになっていた権力抗争が崩れる……? て、アイリスちゃん。顔近いし、言葉が汚いよ(赤面)」

「うふふ。可愛い反応ね。気持ち悪い。しねば良いのに」

「普通に……酷い」

「まっ、正解ではあるのだけれど……」


 そう、アイリスが詰まらなそうに呟くと、対面に座るユリウスが、アイリスの言動にタレムとは別の意味で真っ赤に顔を染めている妻のコルネリアを制しながら補足する。


「その通り、帝国は長年、三つの公爵家が権力を平等に握ってきた。それは一つの家に権力が集中すると、国として多角的な意見が取り入れられなくなるからだ」

「んふふ。おじ様。何、格好つけて言ってんのよ? 違うでしょ? 国の私物化を防ぐため。もっと言うなら、帝国の乗っ取り。でしょ?」

「……」

「ふふ、ドラクレアは王にでもなりたいのかしらね? こんな醜悪な国の」


 パッとタレムから離れたアイリスは、三十近く歳の離れたユリウスに身を寄せて、甘い息を拭きかける。


「ちょっと! ユリウス様に失礼ですわよ! 離れなさい! 負け犬!!」

「……」


 そんな行動に、コルネリアが遂に声を荒げて激情。

 ……だが、アイリスは意に返すことはなく、ユリウスに寄り掛かり、


「失礼? ……憐れね。いつまで自分が、公爵婦人だと思っているのかしら? アンタの夫は、私より騎士階級はしたなのよ?」

「……っ! 小娘が……っ」

「ねぇ? おじ様。この老害。不愉快なのだけれど、どうにかしてくれないかしら?」


 確かに現在の階級で言えば、百騎士長のユリウスよりも、三百騎士長のアイリスの方が階級は上である。

 だが、元、三大公爵にして現在も三騎士と恐れられるユリウスに一体どれだけの三百人騎士長が同じ態度を取れるだろうか?

 ……おそらく、アイリスだけであろう。


「コルネリア。悪いが、下がっていてくれ……」

「ユリウス様……こんな小娘ッ! どうしてッ!」


 しかも、いくらなんでも不遜が過ぎるアイリスの言葉にユリウスは従ってしまう。


「ふふ、若い娘の方が良いわよね? おじ様」

「コルネリア……下がれと言っている」

「……っ! はい。仰せのままに、ですわ」


 まだ十六歳程度の小娘に、強制退出をさせられるコルネリアの心情は、言葉の冷静さとは裏腹に煮え繰り返っている。

 ……アイリスを睨むギラギラとした瞳が、その証だ。


(良かった、ロッテを奥様から外して貰っていて……)


 コルネリアが退出していく背中を見ながら、タレムがそんなことを思っていると、


「……とにかく、よ? タレム。グレイシスの子豚ちゃんとドラクレアのボンボンがこのまま結婚すると、政界がドラクレア家とグレイシス家に傾いちゃうの。……まあ、グレイシス家がその辺を考えているとは思えないのだけれど……本当に、グレイシスって馬鹿よね」


 何もなかった様に、アイリスが話を戻してしまう。

 ……ぺらぺらと口を回しているが、ユリウスに寄り掛かったまま、である。


「だからと言って、愛し合う馬鹿たちを引き裂くにも三大公爵、相手だと骨が折れるでしょ?」

「愛し合ってはないよ! ……たぶん」


 ふふん。と鼻で笑いながら、コルネリアがいなくなった場所に足を載せ、ユリウスの膝を枕に寝転がる。

 ……本当にフリーダムだ。


「で、焦った私のお父様、アダムは、私とアンタを結婚させて、クラネットの力でアルタイルを復権。公爵まで引き上げ、グレイシスとドラクレアの抵抗勢力を作る事にしたのよ。だから、わざわざ向こうに、式の日取りを合わせたわけ……ここまでついて、来てる?」

「……うん。そりゃ、一応、当主候補だったしね」

「強がらないの。わからなけば、アルタイル家が復興するための政略結婚だと思っていれば良いわよ?」

「優しいのに、やっぱり馬鹿にされてる!?」

「……本当に、今回に関しては、私も予想外。完全にアダムに使われちゃったわ。アンタと結婚しても、私には何の得もありゃしない。……分かったなら死んでくれる?」

「嫌だよ!」


 本当に心から面倒臭そうに、アイリスがユリウスの膝の上で欠伸をする。

 

(でも、ここまで結婚に対して嫌そうなアイリスちゃんが、素直に従っているって事は、それだけの一大事、って事なんだろう……)


 マリカが結婚する、というだけで、タレムの頭は一杯一杯なのだが、更に積み上がる大きな問題。

 それはアルザリア帝国の根幹に関わるほどの物だ。


 そんな中、ユリウスが言う。


「まあ、タレム。クラネット家の思惑も、ドラクレア家の思惑も、グレイシス家の思惑も捨て置け」

「……え?」

「……」


 ……自分の家かと思う程に膝で寛ぐアイリスを全く気にせず、


「私には私の……アルタイル家としての思惑がある」

「アルタイル家の思惑?」

「何、小難しい事はない。お前がアイリス嬢と婚姻を完了した暁に、わたしは《全ての家督をお前に譲る》」

「あ……ん?」

「ふっ、分からんか? つまり、タレムがアルタイルの当主になる。ということだ」


 とんでもない事を言い出したのであった。(もう少し小難しい話が続く)

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