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二十七話 『正義の見方と悪の見方』

 アルザリア大森林の捜索を始めてすぐ……


「オラッ! 何やってんだぁ! 歩け! あるけぇえ!!」


 という、男の吃った怒鳴り声と鞭が風を切る音が聞こえてきた。


「……殿。奴隷商人でござる」


 誰よりも早くそう言ったリンの言葉を証明するように、下腹部に奴隷の烙印を押されたボロボロの服を着ている人間たちと、それを鎖と縄で繋ぎ先導する集団が姿を見せた。

 ……おそらく、魔獣騒ぎに巻き込まれ逃げ出してきた連中であろう。


「別に犯罪者って訳じゃないよ……」

「で……ござるが」


 爵位至上主義のアルザリア帝国では、王族⇒貴族⇒平民⇒下民⇒奴隷とピラミッド型の完全身分社会が形成されている。

 借金を抱えた人間や、敵国の捕虜等など、奴隷の売買は合法化されている。

 そして、奴隷達はアルザリア帝国中で労働力となり、身分社会を支えているのだ。

 

 タレムも物の様に扱われる人間を見ていて、気持ちの良い訳でもないが、奴隷商人を裁く権利もなければ、奴隷達を助ける義理もない。

 ……それに。


「殿はああいうのを、損得関係なく救う人間だと思ってたでござる……」

「そんな見損なったみたいな声で非難しないでよ。ござるがどうしても助けたいって言うなら、協力するけど……」


 タレムは、奴隷達の諦め切り、死人の様な目が気に食わなかった。

 

「生きたいと思って足掻く人間なら、幾らでも助けるし、その意味はあると思う。でも、あの死んだ瞳の人間を助けても、きっと彼、彼女らは何も変わる事はないよ」

「子供も居るでござるよ? 殿の好きな女の子も居るでござる。助けて正妻とはいかずともハーレムを飾る――」

「――俺の理想のハーレムに、性奴隷は要らないよ。俗物な色好き貴族はああいうの好きそうだけど、俺は好きな人としか、嫁にした人としか、そういうことはしたくない。それに、既に色々やられた後だろう。病気を移されたら厄介だ」

「殿っ!!」


 タレムのあまりにもあんまりな言い分に、リンが激しく激昂する。

 

(へぇ――。ござるは、本当に奴隷が嫌いなのか。俺はそっちの方がびっくりだ)


 奴隷は身分社会の必要悪で、アルザリア帝国の血液。他にも、|帝国(光)を運営する以上、影の存在がある。

 それは、必ずしも正しい事ではないだろう。

 リンはそういう影の部分の人間だとタレムは勝手に思っていた。

 弱冠十二歳でタレムを圧倒する戦闘技術と、千騎長という破格の立場。

 ……その存在に闇がなければおかしいのだ。


「ござる。別に心配しなくても大丈夫だよ。俺は、あんな死んだ目の人間、助けたりしないけど……」


 タレムがそう言いかけた時。


「――っ! 全軍ッ! 奴らを捉えろぉおおおおおお!!」

「「「「おおおおおおおぉぉ――っ!」」」」


 イグアスの号令で、イグアスと、その騎士団が一斉に奴隷商人達へ襲い掛かった。


「ほらね。この世界にはああいう正義の味方も居るんだよ」


 タレムの親友イグアスは、イグアス・グレイシス。

 英雄グレイシスの名を持つ男であり、目の前の悪辣非道な行いを無視することはできない。

 人々の声亡き救いの声を聞き、誰に許可を取ることなく救ってしまうのが、英雄と言われる人間なのだから……


「ほへぇ~っ。イグアス殿……殿より全然良い人間だったでござる♪」

「俺、最初からそう言ってたよね……でも――」

「でも?」


 ――でも、イグアスが助けることで生まれる悲劇もある。


「いや、なんでもないよ」


 タレムは、イグアスが奴隷達を助けるために切り捨てている、何の罪も犯していない奴隷商人達を遠い瞳で見つめていた。

 ……正義の味方が問答無用で悪を打ち倒す。だが、悪の味方はいないのだ。

 もちろん、悪事を働く人間をタレムが助けようとは思わないが……元、敵国の捕虜であり、奴隷にされる寸前まで落ちたタレムには、釈然としない感情があったのだった。


 しばらくして、イグアスが奴隷達を救いだし、タレムの元に戻って来る。

 そして、イグアスは暗い顔をしたまま、


「すまない……タレム。勝手に動いた。なあ、オレは……間違っていたのか?」


 そう聞いた。

 それにタレムは、


「いや、イグアスは間違ってないよ。間違っているのは、アレを見て助けようと思わない俺と、アレを許容している……世界の方だ」

「世界か……なら、タレムも間違ってないだろう」

「……?」

「オレには何が正しいか間違っているか解らない。俺の行動すら善と悪が解らない。だが、それをわかるタレムなら、俺を間違っていない騎士にしてくれるはずだ」

「ふっ。言ってる事が訳わかんないよ」


 タレムは、呆れて笑い、イグアスの肩を叩き、呆然とする奴隷達をみて、


「で? あれ、どうするつもりなんだ?」

「後で、全員分買い直して、俺の領地にすませるさ……望むなら騎士団員にしても良い」

「そりゃ、厚待遇だ。じゃあ、折角、助けたんだ一度、安全な所まで戻るか」

「……いいのか?」

「ああ……俺の精力剤を集めるために仲間が死んだってバレたら、夜道が歩けなくなるからね」

「……っ。お前は……。ありがとう。助かる」


 タレムも急いでいるのだが、引き返す事にしたのであった。

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