二十八話 『千騎長リンの実力』
助けた奴隷たちから、魔獣の情報を聞き出せた事で、タレムたちは結果的に予定よりも早く《ハニー・ビー》と遭遇していた。
――ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。
「タレム。気をつけろ。奴らの毒針は掠っただけで即死級の猛毒だ」
耳障りな音を鳴り響かせながら、現れた《ハニー・ビー》の大群。
一体、一体が体長一メートル程ある蜂の中型魔獣で、討伐難度は、騎士一人と同等のFランク。
それが百体同時に遭遇し、イグアスが豆知識でも披露するように、背筋が冷える事を言う。
「全軍! 五人一組で一体一体確実に対応しろ! 誰一人、死ぬなよ!」
「「「うおおおおおおお――っ」」」
そんな中、イグアスが騎士団に檄を飛ばして戦闘が始まった。
「フッ……っ。燃えろ!」
そうイグアスが呟きながら、一騎掛けし、騎士団よりも前に出ると、騎士剣を抜き《ハニー・ビー》の大群に向かって振り払った。
すると……
ゴウッ!
炎の渦が巻き起こり、《ハニー・ビー》の大群が燃えていく。
これが、イグアスの魔法《炎》である。
イグアスは、思いのままに……炎を生み出し操る事ができるのだ。
その炎の渦で、《ハニー・ビー》は戦力の半分が焼死、残り半分は連携を取った騎士団兵士が、確実に各固撃破していった。
だが……
ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。ブーンっ。
瀕死の虫が仲間を呼ぶ習性か、更に最初の十倍の《ハニー・ビー》が現れタレム達を取り囲んだ。
「ちッ! 燃え――」
すぐに、イグアスが再び魔法を発動しようとした。
それを――
「イグアス! 辞めとけ! 炎が森に燃え移ったら俺達が焼け死ぬぞ!」
「――っ!」
タレムが引き止めてゆびを指す。
そこには既に最初の魔法で、森に燃え移った炎があった。
最悪なのは、その炎が生み出した黒煙によって視界を遮られ、窒息状態に陥った騎士団兵士が居ることだ。
足がとまり、連携出来なくなった兵士たちを《ハニー・ビー》は待ってましたと、お尻から《毒針》を飛ばす。
毒針を放った《ハニー・ビー》は力尽きて地面に落ちていく……
ブス。ブス。ブス。ブス。ブス。
しかし、毒針は兵士たちに命中し、
「ぐぅっ!? ……ぁあああああああああああ――っ!」
ものの数秒後、毒が身体を犯し、絶叫と共に命を奪ってしまった。
「くぅっ。これ以上、むやみに魔法は使えないか……」
それ見たイグアスが生み出そうとしていた炎を抑えて、騎士剣を握る。
やはり、前線の精鋭騎士を呼び戻す事態だけはあり、そうそう簡単には進まない。
そんなとき……
ブーン。
タレムの背後に回っていた《ハニー・ビー》の一体が隙を付き、《毒針》を飛ばした。
「しま――ッ!」
タレムが気付いた時にはもう遅く、避ける間は無かった。
――死。
「殿――っ!」
ブスっ!
被弾。
されど、タレムに当たる間一髪、リンが右腕を割り込ませていた事で、毒針はリンの右腕に突き刺さっていた。
「殿。大丈夫でござるか? ……殿は弱いんだから、後ろに下がってるござるよ」
「ご、ござる! ござるこそ! ござるこそ! ――っ」
タレムは毒によって変色したリンの右腕に言葉を失ってしまう。
当然だ。タレムを守ったことで、リンが即死の猛毒を受けてしまったのだから。
毒を受けた人間がどうなるかは、ついさっき鮮明にタレムの瞳に焼き付けられた。
リンが彼らと同じ結末を送ると思うと、タレムは頭が真っ白に染まる。
……が。
「殿。泣きそうな顔をしないで、拙者、毒には耐性があるので心配無用でござるよ」
「え?」
リンは刺さった毒針を適当に引き抜き、腕を締め付けると血と一緒に毒を体外に抜き出した。
そして、何も無かったように、クナイを取り出して、
「フッ……殿の泣き顔、笑い者でござる!」
「――っ」
タレムをからかいながら、前に出ると、クナイを投擲した。
「忍法《千本影クナイ》でござる!」
ずざざざざざざざざざ――っ。
何故かリンが放ったクナイが分裂し、《ハニー・ビー》の大群を一掃していく。
更に、またどこからか取り出した、赤色の小玉、五つを五指の間で挟むと、回転しながら五方向に投擲した。
どばぁーんッ!
赤色の小玉は、着弾と同時に爆発し、炎が《ハニー・ビー》を焼き殺す。
「忍法。《火遁の術》で、ござるよ」
パラパラパラ……
空中から落ちていく《ハニー・ビー》の死骸。
リンが一人で、クナイで刺し殺し、炎で焼き殺した《ハニー・ビー》の数は百を越えている。
これが、アルザリア帝国に百人といない上級騎士、百騎長リンの実力。
リンの忍法で生み出した炎は、計算されているため森に燃え移ることもない。
「す……すごいな。本当に鬼みたいな強さだ。タレム。アレを嫁にするのか?」
「ま、まあね。でも、今ので完全に惚れた。あの小さいくて強気な心身を俺の欲望でどろどろにしてやりたいね」
「ゲスいな……だが、解らんでもない。さりげなくお前の命を身を呈して救ってるからな。ああいう献身的な所は良い」
「というか、そういえば忍法ってなんだよ!? 魔法使えないんじゃなかったの? ……ま、良いけれど」
圧倒的なリンの実力に、Mっ毛の多いタレムとイグアスは、前屈みになりながら、弱冠十二歳の少女の後ろ姿に見とれていた。
リンはそんな二人を見ずに、
「さあーさあー、お二人さん。早く蜂蜜を採取しに行くでござるよ!」
ずんずんと先に行ってしまう。
――これ、俺達要らなかったんじゃね?
この時、奇しくも、タレムとイグアスは同じ事を思っていた。




