第91話 死霊魔導師の完全勝利…
ブリュートナーは、ヒールショットの連射で跡形もなく消滅した。
「みんな!」
みんなはブリュートナーが暴走させ、魔法陣から出た放電を受けた。
無事だったのは俺とテリエ、ジェイミーが庇ってくれたヘルヴィの三人も疲労困憊で地面にへたり込んでいる。
「ネクロウ、ジェイミーのことは我が見ておく、だから、行ってやれ」
「仕方がないのう、もうほぼほぼ魔力も底を尽きかけておるが、デバンとジムのことは我輩が見ておくから安心せい」
「ありがとう二人とも」
ふらつきながらも立ち上がり、魔力切れの激しい頭痛に襲われているが、一番心配なセレスの元に向かう。
「セレス」
「う~、しびれるよ~ネクロウぅ~」
「よかった。ほら、動けるか」
「ありがとうネクロウ、格好良かったよ、ババババってヒールショット撃つところー」
体を支え起こしてやると、そんなことを言いながら、にへら、と笑う。
「あらあらご主人様、娘のことばかり優しくして、私のことは心配してくれませんの?」
いや、アイシャは俺が来る前から気がついてただろ。チラチラと薄目を開けてるの見ていたんだからな。
でも、悪魔との戦いでも頑張ってくれたし、セレスのお母さんだもんな、仕方がないか。
「はいはい、ほらアイシャ、掴まって」
アイシャは俺の手を取ったと同時に、ひょい、と体を起こす。
うん、やっぱり自分で起きれただろ……。
『終わったようだな。テリエの契約者よ、それ、そのままではキツかろう』
なんの音も気配もなく、チャッピーが俺の前にやって来ていた。
ドラゴンが隠密性を持ってるとか、チート過ぎるだろと思わなくもないが、チャッピーが優しい光を放つと、あんなに激しかった頭痛がスッと引いていった。
『皆の魔力を回復しておいたぞ』
「ありがとうチャッピー、これならみんなの怪我も治せるよ」
「チャッピーさんありがとー、あ、ネクロウ、もう終わったんだよね?」
「そうだな、脅威は去ったと思う」
問題はドラートツィーアー殿下のことだが、陛下には正直に伝えるしかないだろう。
「じゃあチャッピーのタマゴさんを返してあげなきゃね」
「そうだな、アイシャ、影の居住空間から出してきてくれないか?」
「いいわよって、もうデバンが持ってきてくれたわね」
そう言われ、振り返るとそこにはみんなが揃っていた。
「は? なんで?」
「え? どうして?」
「そんな……まさか」
「ん? ああ、さすがテリエね、仕事が速いわ」
そう、揃っていたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チャッピーにタマゴを返したあと、再会の約束をして、みんなで王城に戻ってきた。
陛下との謁見は、陛下が予定を変更する力技を披露して、すぐに執り行われることとなった。
公務室に、俺とヘルヴィ、セレスの三人が入り、影からドラートツィーアー殿下を外に出したあとは、陛下と二人が今回のことについて話を見守っている。
「……一度死に、ネクロウに使役されている、そういうのだなお前は」
「……ええ、父上、そのようです、到底受け入れがたいですが……」
長いような、短いような話し合いも終わりに近づいているようだ。
殿下……確かに生きている。悪魔ブリュートナーに抜かれた心臓は、いつの間にか殿下の中に戻され再生されていた。
アイシャいわく、心臓を持っていたくなくて、殿下の胸に放り投げたら勝手に傷跡へ潜り込んだらしい。
テイマーにはそんな力が……無いな。
テリエいわく、『悪魔のやったことだからな』だそうだ。
再生した殿下の体に、死霊使役したあと忘れていた殿下のレイスが勝手に入り込んだのだろう。
テイムとは比べ物になら無いほど、死霊使役は命令への強制力が薄い。
今、この時も、殿下は動こうと思えば、ロープで拘束しているとはいえ、動くこともできる。
テイムの心配なセレスもいるが、罪人に施す能力を封印する魔道具のお陰でその心配は無い。
「ドット、お前はこれまで犯した罪により、極刑となる」
話も本当の大詰めのようだ。
「でしょうね。今さら何をしても逃げられないようですから、仕方ありませんね」
「処刑は公開で執り行うことになる。それまで、お前には色々と話を聞かせてもらうことになるだろう」
それが殿下の執行猶予だろう。
「ええ、多少シュテルネ王国が騒がしくなるかもしれませんが」
しばらく沈黙が続いた後、陛下の呼んだ騎士に殿下がソファーから立たされる。
「兄上!」
ずっと俺の横で下を向き、黙っていたヘルヴィが立ち上がり、叫んだ。
その声に、もう扉のところまで進んでいた殿下が、首だけひねり、ヘルヴィを見た。
「ヘルヴィ。貴女がもう少し兄上たちのように馬鹿でしたら、こんなことにはならなかったのに」
「兄上! 我は一度たりとも王位に興味を持ったことなど無かった!」
「……ヘルヴィ、元気でね。おい、話は終わりだ。連れていってくれるかな」
「待て! 待ってくれ……我は……」
その後、殿下は振り返ること無く公務室を騎士に連れられ出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
殿下を陛下に引き渡し、テイムの解けた聖女たちが旅立ってからもう一年も経つのか。
「ヘルヴィ大丈夫?」
「ああ、問題ない。今朝別れの挨拶は済ませてきた」
そして今日がドラートツィーアー殿下の処刑日だ。
俺たちは、処刑が行われる王都の中央広場に向かっているところだ。
「でもさー、ヘルヴィのお兄さん、色々やってたんだねー、ビックリだよ」
「ああ、特に敵国シュマルツと手を結んでいたことには我も驚いたぞ」
王位を奪うことができなかった事態に備え、シュマルツ王国に亡命後、王女との婚姻も、計画にあったらしい。
馬車が止まり、中央広場に到着したようだ。
「これより! 罪人、ドラートツィーアーの処刑を行う!」
陛下が開会の挨拶を始めたのを、ヘルヴィと一緒に後ろに控えたまま聞きながら、すでに断頭台に固定されているドラートツィーアー殿下の姿を見て驚いた。
一年前、最後に見た姿とは違い、脂肪も筋肉も削げ落ちて、ガリガリになっている。
「まず、処刑の前に……」
おそらく運動すらできない環境だったのだろう。
「私の息子が犯した罰を見に、皆が集まったこの機会に、謝罪しよう。皆の者、シュテルネの王として、本当に申し訳なかった」
腰からしっかりと曲げ、頭を下げる陛下の向こう側の全貌が見えた。
陛下が頭を下げたことに驚く、集まった民衆に、貴族たち、そしてドラートツィーアー殿下。
陛下は頭を上げ、罪状を読み上げ、最後にもう一度頭を下げる。
誰も声を忘れたように静まり返っている中、笑い声が響く。
ドラートツィーアー殿下が笑っていた。
断頭台に控えていた騎士たちに制止されてもその笑いは止まらなかった。
最後に、陛下は首をふり、右手を天に向けて伸ばす。
「さらばだ我が息子よ!」
陛下が振り下ろす手の動きにあわせ、刑は執行された。
「ネクロウ! 信じられないことが起こったぞ!」
「本当だよー! わたしも信じられないんだからー!」
ドラートツィーアー殿下の処刑のあと、陛下には色々とやらされた。
陛下はいつもこうやって、ヘルヴィとセレスを使い、俺に指令を持ってくる。
もう殿下の後始末に追われるのは勘弁して欲しい。
「……もうその手には乗らないからな」
そう言って、褒美にもらったチャッピーのいる岩山の山頂で、昼寝をすることにした。
「早く起きろネクロウ!」
「起きてってばネクロウ!」
まだまだゆっくりはできないようだ。
これにて完結です。
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