第56話 死霊魔導師は面倒が嫌い?
『ここっすよー』
「廃墟?」
ツタに覆われ、崩れかけた柱が四本立っているが、石造りだったと思われる天井はもちろん、壁すら崩れ去っている。
『よくわからないっすけど、お墓なのは間違いないっす、ほら、繋がれたレイスがいるの見えてるっすよね?』
「あー、うん、見ないようにしていたんだけどね」
四本の柱から伸びる魔力の鎖で、ぐるぐるに巻かれたレイスが見えている。
普通のレイスなら、透けた体の向こう側が見えるのに、繋がれているレイスは漆黒で、透けてさえいない。
どうしようか……なんだか視線も感じる。
でも、敵愾心は無さそうなんだよな。
なんというか、目の前にいる俺たちに興味津々と行った気配しか感じない。
このまま見ているだけで済ます選択肢もあるが……話しかけてみるか。
「……あー、えっと、俺の名はネクロウ。貴方は……その、話せるかな?」
『ほう、我輩に話しかけようとする者がいるとはな』
おお、会話が普通にできるなんてデバンたち以来だ。
『我輩は大賢者テリエ、四大陸の覇者であり、シャイターン帝国皇帝だ』
なんだか情報が多いし濃いぞ。
「大賢者で皇帝……」
『そうた。四大陸の覇者でもあるぞ。大事なところゆえに抜かすでない』
なんだか面倒くさいのに捕まった気がするが……一応機嫌は取っておいた方がいい気がする。
「……大賢者で皇帝で四大陸の覇者なんですね」
『うむうむ、その通りだ』
漆黒のモヤモヤしただけのレイスなのに、なぜかドヤ顔が見えたような……。
目をこすり、もう一度見ると、最初に見た漆黒のモヤモヤだけだった。
……気のせいだな。
『テリエって名前っすか、それに大賢者……あ、古い伝承で聞いたことがあるっすよ主』
「古い伝承?」
『そっすそっす、確か千年以上前の初代魔王っす』
「魔王!?」
普通じゃない、漆黒のレイスだと思っていたけど想像以上に大物だった。
『千年以上前だと! そんなに時が進んでいたのか!』
ジェイミーの言葉に反応した漆黒のモヤモヤ、テリエさんが動揺したように揺らめいている。
それより聞き捨てられない単語があった。
『魔王』
職業が大賢者ということは、光と闇を含む六属性の強力な魔法が使えるということ。
そうだ、死霊魔導師が歴代魔王の職業でもっとも多いが、他の職業の魔王も存在していても不思議じゃない。
『なんということだ、それではあれは夢ではなかったということか……』
何かショックなことがあったのか、テリエさんは押し黙り、声をかけても反応しなくなった。
『どうするっすか主、今のうちに死霊使役するのがおすすめっすよ?』
ジェイミーの言う通り、それが一番無難な選択だ。
大賢者で初代魔王のレイス。
敵に回せばこれ以上ない強敵になるだろう。
デバンたちのように仲間にできるなら、俺たちに不足がちな魔法職の穴が埋められる。
結界魔法が主のヘルヴィが使う攻撃魔法以外は、俺のヒールショットしか攻撃系の魔法が無い俺たち。
魔法が本職の仲間は、喉から手が出るほど欲しい人材だ。
「でもさ、あの魔力でできた鎖って……解けるのか?」
『あ……それがあったっすね。見たところ、実体を拘束している訳じゃないっすから……』
「だよな、死霊使役しても、レイスはレイスだし、デバンたちみたいに実体じゃないもんな」
テリエさんは千年経っていたことにショックを受けているようだ。
それに、ぶつぶつと、聞き取れない小さな声で何やら呟いている。
これ、完全に俺たちのことを忘れてないか?
『主、面倒く……解ける解けないは一旦保留にして、とりあえず死霊使役してから考えたらよくないっすか?』
今、面倒くさいって言おうとしたよね……。
でもジェイミーの意見には賛成だ。
それに、今の状態ならテリエさんの同意が無くても使役できそうだということも大きい。
実際、放っておく方が後々ジェイミーの言う通り面倒になりそうだし、拒否されても、困った状況になる可能性が高い。
ここは、野営地からそれほど離れていない場所だ。
まかり間違って、この封印を解ける人がこの場所に来ないともいえない。
それなら俺が使役しておいた方が絶対にいいはずだ。
使役しておけば、解除するか俺が死ぬまで脅威になることはない。
「うん、さっさと使役してしまおう」
……それに、思い出したけど、そろそろ帰らないとハンバーグが完成する頃合いだ。
「死霊使役!」
俺から立ち上った黒い魔力がまとまり始め、どんどん細い糸状に変わっていく。
そのままどんどん伸びていき、ぶつぶつ自分の世界に入り込んでいるテリエに触れた。
「ぐっ! き、キツっ!」
デバンたちを使役した時の何倍もの負担という抵抗が伝わってくる。
さらには使役しようとしている俺を逆に取り込もうとする魔力が迫ってくる。
『主っ! 頑張るっす! まだ自動防御っすからそのまま押し返すっすよ!』
それが伝わったのか、ジェイミーからアドバイスと応援が飛んできた。
「言うこと――聞け!」
テリエからの濃い魔力を押し返し、今度はお返しとばかりに俺の魔力を流し込んでいく。
『何っ! こ、これは!』
今頃気がついてももう遅い。
すでにテリエの魂の部分を俺の魔力が包み込んだあとだ。
「俺の名はネクロウ・フォン・シュヴェールト! テリエ! 俺の仲間になれ!」
漆黒のモヤモヤだけにとどまらず、魔力の鎖も、四本の柱さえも俺の魔力で覆う。
ビキッ、と石にヒビが入るような音がした。
黒い魔力の覆いを突き破り、まるで針ネズミのように光が放たれた。
「な、なんだ! ジェイミー! お前は影へ入れ!」
『あ、マズいっす!』
「急げ!」
横にいたジェイミーは、迫る光のトゲを間一髪のところで避けざまに、影へと沈み込んだ。
「くうっ!」
避けたジェイミーとは違い、まともに光のトゲを受けてしまった。
「くそ! コイツ、俺まで捕まえる気だ!」




