第53話 死霊魔導師の陛下襲撃?
「なんだと!」
「はわわっ!」
「ちょっ! 声大きいって!」
依頼完了証をギルドに提出して報酬をもらった後、大通りを王城に向かってる。
雑踏の中、両脇の二人にだけ聞こえるように、今回の護衛対象者が聖女だったことを告げた。
「なんと、そのような者が我らの足元におったのか」
ヘルヴィも、あまりの大物に驚きを隠せていない。
「どうしよー、わたし上で飛び跳ねたりしてたよー、うるさくなかったかなー」
セレスは別のところで混乱しているようだ。
「今はジェイミーが戻ってきたからジムに見てもらってる」
「しかし……なぜシュテルネに来たのだ?」
「わからないけど、高い確率で、陛下と父様、ギルドマスターは知っているだろうな」
「あ、お茶とかこぼしちゃったし、濡れたりしなかったかなー、ネクロウ、どう思う? 謝りにいった方がいいよね?」
セレスの混乱は続き、後ろ向きに歩きながら変な躍りのような動きをしてる。
このままだと、他の人にぶつかったり、叩く危険がある。
元々力が強かったのに、レベルが上がったのだ。
普通の人だと怪我じゃ済まないかもしれない。
ヘルヴィも、同じことを思ったのか、ふらふらぶんぶんと不規則に動く左手を捕まえた。
当然、俺は右手を確保して、ぐるりと前を向かせる。
これで被害は防げるだろう。
「まったく……これが悪戯なら、一度父上をこらしめないと駄目だな」
「本当だよな」
俺たちの間で、ぶつぶつとまだ悩んでいるセレスの手を引き、王城に向かった。
王城に到着して最初に向かったのは、拐われていた子たちのところだ。
盗賊たちのことも気にはなるが、あとで報告くらいは聞かせてもらえるだろう。
「こちらです」
途中でヘルヴィが捕まえたメイドさんの案内で、連れてこられたのは騎士団の宿舎。
ちょうど第三王子のドラートツィーアー殿下が、ダンジョンの街へ騎士団を連れて遠征に行っているので、宿舎が空いていたそうだ。
なんでも、ドラートツィーアー殿下の職業、テイマーの能力を使い、ダンジョンでの実践訓練を行っているらしい。
俺とは違い、生きた魔物のほぼ全てを使役できるとか……完全に死霊魔導師の上位互換だよな。
ワイバーンなどの亜竜や、ドラゴンだけはまだ成功したことがないらしい。
そう考えると、ドラゴンゾンビは俺にも使役できないかもしれないな。
ちょっと使役して空とか飛んでみたかったんだが……。
いや、そもそもドラゴンゾンビにそうそう会えるわけもない。
夢は心の奥にしまって、そんな幸運に恵まれた時に出すことにしよう。
通された部屋には、俺たちと同じくらいの歳に見える十人の女の子。
何か見覚えのある服装の子がいるが、どこで見たんだっけ……。
お菓子を手に持ったまま、入ってきた俺たちに視線が集中した。
「皆さん、先ほど教えた、皆さんを救いだしてくれた、あの、王都を救った英雄のお三方です」
いや、その紹介はちょっと……。
「英雄姫のヘルトヴァイゼだ!」
「英雄姫騎士のセレスだよー」
ノリノリかよ! 俺もそれやるの!?
セレスとヘルヴィは揃って両手を腰に当て、ふんすと鼻息荒く胸を張る。
その顔はドヤ顔だ。
「……ネクロウです」
数瞬、葛藤したあと、名前だけを告げた。
頭をかきながら、たぶん苦笑いになってるだろう笑顔で。
「ほんとだ! あの絵の三人だよ!」
そしてその子が指差した先には、いつ描いたのか、俺たちの姿絵が壁にかかっていた。
いつの間に描いたんだよ!
……でも、上手いな。
写真とはいわないけど、写実画だけに、三人とも本当にそっくりだ。
ちょっと俺のことはイケメンに描きすぎだと思うけど、綺麗なセレスとヘルヴィの間にいても浮くことはなさそうだ。
というか……拐われたのに元気だな。
「きゃー! 英雄姫様って実物の方がずっと綺麗!」
「うんうん、英雄姫騎士様もすっごく格好いい!」
「あ! そうだ! シュヴェールトの冒険者ギルドで見たことあるー!」
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……女が三人寄れば姦しいというが、なんにせよ元気なようでよかった。
俺たちが、王女と貴族と聞かされているのか、取り囲まれはしたけど、一定の距離を保ったまま、接触はしてこない。
「この者たちは、落ちた体力が戻り次第、住んでいたシュヴェールトに送り届ける予定です」
……十分元気だとは思うけど、誰一人怪我とかはなさそうだ。
顔色もいいし、気に病んでるような子もいない。
売るための商品として扱われていたからだろうが、不幸中の幸いと思っておこう。
しばらく質問責めを受けたあと、数日ゆっくりして、王都の案内も予定されているそうだ。
拐われたことが心の傷にならないよう、少しでも楽しんでくれるといいな。
できれば楽しい思い出で辛い出来事を覆い隠せるくらい。
軽く、『またシュヴェールトでね』と挨拶をして、俺たちはその場を離れた。
「父上、何か言い残すことはあるか?」
公務室に入ってすぐ、ヘルヴィは陛下の胸ぐらを掴んでの一言。
「な、なななんだヘルヴィ! いきなり何事だ!」
「ほほう、それが最後の言葉でいいのだな」
「話が見えんぞ! 待て! こんなところで火魔法を使うな!」
「姫殿下! お待ちください! 陛下の首がしまっております!」
やっぱり止めるよね。
陛下の顔が鬱血してきてるし……やりすぎじゃない?
「わざわざギルドマスターなど使い、聖女を護衛させるとはな!」
陛下の悪戯ならと、ヘルヴィが驚かせる作戦をたてた。
作戦は、部屋に飛び込んで、ヘルヴィが陛下に詰め寄りビビらせるだった。
そこまでは、まあ、親子だし、大事にはならないだろうと、俺もセレスも賛成はした。
だけどヘルヴィ……魔法は俺もやりすぎだと思う。
「ぷはっ! せ、聖女!? 聖女とはなんのことだ!」
ヤバいと感じたのか、掴んでいた手の力を弛めると、ゼハー、ゼハーと荒く息を吸う陛下。
「姫殿下! 陛下は中々帰ってきてくれない姫殿下も、冒険者の依頼を通してなら来てくれると思ったまででございます!」
ヘルヴィと会いたかっただけ?
「なんだ? 聖女は父上絡みではないのか?」
はた迷惑なことだけど、今は置いておこう。
なら……聖女はなぜシュテルネに来たんだ?




