第45話 死霊魔導師は追跡される。
ギルドマスターの依頼は、シュテルネの王都へ行く商隊の護衛依頼だった。
「おかしな話だよねー、ヘルヴィがいるのに護衛する側なんてさー」
「その通りだな。本来なら我が護衛される側となる。当然、叙爵されたお前たちもだがな」
「まったくだ」
ギルドマスターの話を聞いたあと、ランクアップ作業も終わっていて、森の魔物討伐依頼を請け森へ入る。
早ければ、討伐依頼でシュヴェールトの領都を出た俺たちを、トリューガーたち闇騎士団が追ってくるかもと、身構えていたのに予想が外れた。
ジェイミーも帰ってきていないし、今日はもう来ないかもな。
森に入り、ついでとばかりに薬草や、木の実、果物も採取していった。
お昼に少し過ぎた頃、ジェイミーが念話を送ってきた。
『主ぃー、主たちの寝床を探って今夜襲うって言ってるっすよー』
『ジェイミー、それ本当?』
『トリューガーとあの二人が言ってたっす。今はクランメンバーの召集中っすね』
『ありがとうジェイミー、とりあえず監視は続けて、何かあれば教えてね』
『任せておくっすねー。あ、主、悪戯用の面白そうな薬草も補充して欲しいっす』
『あ、うん、時間があればね』
『頼んどくっすよー』
毒々しい色味をしている美味しいキノコを倒木からもぎり取る。
その横には凄く美味しそうに見えるが、くしゃみが出て止まらなくなるキノコが映えていた。
神様が採取しろ、と、言ってるのかと思えるほど、タイミング過ぎる発見だ。
くしゃみが止まらないのか……。
ジェイミーの言う『面白そうな』には当てはまるキノコだ。
キノコに伸ばしたくなる手をなんとか引き戻し、採取を保留にしたんだが……。
「ヘルヴィ! いいの見つけたよ! このキノコはくしゃみが出続けるやつだよ!」
「くしゃみ、か……斧男たちに使えそうだな。セレス、食用とは分けて優先的に採取するぞ!」
「……」
所在なさげな引き戻しかけた手を伸ばし、キノコを採取した。
「あ……」
倒木の影に毛生え薬になる薬草がびっしりと生えていた。
そう、毛が生える薬。……全身に。
そっと根から慎重に採取しておいたのは言うまでもない。
依頼の魔物討伐は、ワイルドボアとホーンラビットが、採取していた俺たちのもとにポンポン現れてくれたので、移動もそこそこに完了した。
討伐を終え、帰路についた俺たちは、領都へ入る順番待ちの列に並んでいる。
シュヴェールトは隣国へ向かう街道で、最後の大きな街だ。
そのためか、行商隊も少なくない馬車の列を作っているため、荷物の検査は厳しくされている。
それでも無くならないということは、それだけ儲かるのだろう。
禁制の麻薬類はもちろん、シュテルネでは禁止されている奴隷もそうだ。
父様もその事に頭を痛めているようだけど、検査の厳正化が進んでも、密輸は後を絶たない。
「ネクロウ、順番が来たよー」
「何度も思うが、商人たちの列は別にして貰いたいものだな」
本当にヘルヴィの言うとおりなんだよな。
二列に分かれているけど、徒歩と馬車はごちゃ混ぜだ。
冒険者になってから思ったことで、父様にも相談済みで、今、調整中とのこと。
門をくぐり抜け、街に入ったところで念話が飛んできた。
『主よ、どうやらトリューガーどもは帰ってくるのを待ち伏せしていたようですぞ』
『大丈夫、見張ってるだけ』
ジェイミーが言ってた住んでいるところを確認するつもりか。
『ありがとう。でもそうすると、素直に家に帰れば問題解決か?』
この領都を含む、領地を治めるシュヴェールト辺境伯家のものだとわかるだろう。
そうなれば、今後ちょっかいなんて掛けようとは思わないはずだ。
そこまでわかれば俺が伯爵で、第二位の王位継承権を持つヘルヴィ、子爵になったセレスのことも自然とわかるからな。
好き好んで貴族を敵に回すようなことは、処刑台へ自ら上ろうとする行為と一緒だし、そんな馬鹿なことはしないだろう。
『そうですな。よほどの馬鹿か、狂人でない限りは』
『それでいい、問題ない』
そうだよな。別に隠してもいない。
パレードで顔出ししてるから隠す必要もあまりない。
一応ヘルヴィはフード付きのローブで多少は顔を隠してはいるけどその程度だ。
陛下も父様も最初はきちんと隠すよう言ってたが、まさか王女が冒険者をしているとは思わないだろうと、今の格好で落ち着いた。
実際にバレたことも、怪しまれたことすら無い。
『主よ、見張りは冒険者ギルド横の脇道ですぞ』
『後ろにもいる、ついて来た』
言われた方向から俺たちを監視するような視線を感じる。
『なら、無駄足になるだろうけど、最後までついてきてもらおう』
冒険者ギルドで依頼の完了報告と、魔石を買い取りしてもらった後、追跡者を引き連れ家路についた。
といっても、大通りを進むだけだ。
辺境伯邸に近づくにつれ、背後の追跡者たちの動揺が伝わってくる。
それをよそに俺たちは、シュヴェールト辺境伯邸の門を当然のようにくぐり抜け、そのまま帰宅を果たした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side トリューガー
「なんだと! 辺境伯邸に入った!?」
「へい、三人ともです」
どういうことだ。あのガキ共は辺境伯邸に住んでいるとでも言うのか……。
それが本当のことならおそらく辺境伯軍の上位騎士の子供。
邸宅を護る上位騎士は家族総出で住んでいるのもうなずける。
なら冒険者でレベルを上げることはよくあることだ。
この地で辺境伯繋がりのものに手を出すのは自殺行為だが、相手は騎士の子供。
「なら、夜襲は止めだ! てめえらよく聞け! 領都の外で俺様の闇騎士団を馬鹿にしたツケを払って貰うぞ!」
クランハウスに集まった皆が色めき立つ。
「だが殺すな! 特に小娘二人はなるべく傷もつけるんじゃねえぞ? 男のガキは手足の一本くらいは構わねえからよ!」
沸き立つクランメンバーの興奮は、俺様にも移り、深夜を過ぎてもおさまることはなかった。
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