単行本2巻発売記念幕間 ウォッシャ大佐の華麗なる休日
※時間軸は本編開始前くらい。
ウォッシャ大佐は非常に働き者だった。
上にバレないように書類偽装で虚偽の報告をしたり、立ち周りしやすくするために部下や学生の弱みを握るための調査をおこなったり――。
日々、全力で働いていた。
そんなウォッシャ大佐に久々の休日が訪れた。
「ククク……オレは休日にきちんと切り替えるタイプだ……」
ウォッシャ大佐は勲章がジャラジャラと付けられた海軍制服を脱ぎ、アロハシャツに着替えた。
普段の恐ろしさや威圧感は消え、ただの鼻の長いおっさんだ。
サングラスをチャキッとかけて、外へと繰り出した。
このマリレーン島は小さいが、生活するための店などはある。
「いらっしゃいませ――……あ、ウォッシャ大佐。ご注文の品が入りましたよ」
「本当か!!」
ウォッシャ大佐がやってきたのは、海軍学校の中にある酒保――いわゆる雑貨屋だ。
そこは少し特殊で海兵ではなく、商人が間借りして経営している形となっていた。
そのためウォッシャ大佐も高圧的な態度では無く、ただの客として立ち寄っている。
「ディーロランド王国から仕入れた、王族御用達の水タバコ用のパイプです」
「おぉ、さすがレアな逸品だ……ツヤが違う……。素材も上質な木材が使われているな」
「普通のタバコパイプと違って、小型魔術装置の区分なので輸入に苦労しましたよ」
ウォッシャ大佐の数少ない趣味である水タバコ。
そのパイプも凝っていて、コレクションにしているほどなのだ。
以前から注文していたパイプが届き、普段とは違う少年のような笑顔を見せている。
「おっと、その格好は今から出かけるんですか? それならあとでお部屋にお届けしますか?」
「いや、ワクワクが止まらん。このままパイプを咥えながら休日を楽しむとしよう」
「はは、良い休日を」
「ああ、ありがとう」
上機嫌なウォッシャ大佐は商人に多めのチップを渡してから、真新しいパイプを嬉しそうに受け取った。
次にウォッシャ大佐が向かったのは、自慢の船――〝51門ウォッシャ専用艦ゴッシャー号〟だった。
港に泊めてあり、学生たちに甲板を磨かせていた。
「う、ウォッシャ大佐!? 敬礼!!」
「ふんっ、今は休暇中だ。見に来ただけだから気にするな、うっとうしい」
「はっ!! 清掃作業に戻ります!!」
海軍学校の生徒ならウォッシャ大佐を恐れない者はいない。
たとえ休日だろうと至らないところを見つけると、鬼のようにしごいてくるのだ。
その分、現在の首席と次席は成長したとか何とか。
「ククク……今日も我が船は美しいな……!」
海に関わる人間なら、誰しもが自分の船に愛着を持つものだろう。
ご多分に漏れずウォッシャ大佐もその一人である。
特に伝説の海賊であるフランシスに昔から対抗心を感じていたため、彼のゴールデンリンクス号よりも良い船を持つのだとずっと決めていたのだ。
そして完成させたのが、この〝51門ウォッシャ専用艦ゴッシャー号〟だ。
これでもまだ全盛期のゴールデンリンクス号には及ばないと内心わかってしまっているので、まだまだ資金を投入して高性能にする予定だ。
それもフランシスの遺産を使うことによって、鬱憤も晴らせて一石二鳥だ。
「海の正義を執行するのは海賊ではなく、海軍だ……!!」
正義。
今は歪んでしまったが、ウォッシャ大佐も若かりし頃は青い時代があったのだ。
元々、優秀な若手として期待をされていた。
海の平和は海軍である自分が守ると誇りを持っていた。
だが、そこに現れた正義を名乗るフランシス海賊団。
どんな敵からも王国を守り、国民たちの支持を得た。
その圧倒的な強さとカリスマで、海軍の立場を〝転覆〟させていったのだ。
『もう海軍はいらない』
そう国民や貴族たちが大っぴらに話していたほどだ。
(あのときの屈辱は忘れんぞ……海のゴミ……海賊……!!)
「あ、あのウォッシャ大佐……」
船を掃除していた海軍学校次席のミディ・オクラが話しかけてきた。
ウォッシャ大佐としては、どこか親近感があって目をかけてやっている。
特に海賊の娘に首席を阻まれて、コンプレックスを持っているところなど応援したい。
「どうした、ミディ・オクラ」
「その……ジーニャスへの扱いが不当に思えてしまって……」
「あぁ?」
その名前を聞いて、ついウォッシャ大佐は眉間にシワを寄せてしまった。
ミディはビクッとしながらも、眼を逸らさず見てきている。
「貴様もいつかわかる。海賊など海のゴミだ」
「で、ですが……」
「オレは大佐だぞ? 意見をするのなら、偉くなってからにするんだな。それこそ、どんな手段を使ってでも登ってこい」
オレのようにな、とは言わなかった。
あまりに青く、苦い記憶だからだ。
もう汚い事をするのにも慣れてしまって、正義感など鼻で笑えるほどになってしまった。
いつか、この若き生徒もわかるだろう。
そのために、次席としてジャマな海賊の娘を自らの手で討ち取らせる機会を与えてやっても良いかもしれない。
「ミディ・オクラ、いつかお前に成長するチャンスをやろう。期待を裏切るなよ」
「え……? は、はい!」
「ククク……ハハハハハハ!!」
ウォッシャ大佐は声高らかに笑った。
ミディは意味がわからず、苦笑いだ。
人生とは、いかにジャマをするゴミを水で洗い流すかである。
フランシスが勝手に消えてくれたときのように、このミディ・オクラもジャマなジーニャスが消えれば理解するだろう。
「ハハハハハ――わぷっ!?」
急に新聞紙が飛んできて、ウォッシャ大佐の顔面に張り付いてきた。
驚いて新しいパイプを海に落としてしまった。
ポチャンと波紋が広がった場所にはゴミが多く、もう見つけることは難しいだろう。
「あーっ!?」
顔面に張り付いていた新聞紙には『ノアクル王子、ゴミ流しの刑を執行される!』と書いてあった。
「ご、ゴミ王子があああああぁぁッッ!!」
ウォッシャ大佐は名前しか知らない王子が書かれた記事を破り捨てるのだが、このあと大変な目に遭わされるのはまだ知らない。
コミカライズ単行本2巻が発売されるタイミングに何か幕間を投降しようかなーと思っていたのですが、ネタが決まってなかったので、担当編集のYさんに相談したところ『ウォッシャ大佐の日常なんてどうですか?(意訳)』と言われたのでこんな感じになりました!
Yさん、ありがとうございます!
何かウォッシャ大佐のところの試し読みがTwitterでバズっていたし、人気っぽいので丁度良かったです!
というわけで、本日『最強イカダ国家』のコミカライズ2巻の単行本発売日なので、よろしくお願いします!
2巻はマリレーン島でジーニャスがアレコレなっているところをやっています!
漫画家のフミキチさんのパワーを感じるのだ!(小声だけど、ジーニャスの太もも描写に力が入ってるよ)
そして、新作の投降を始めました!
そちらもよろしくお願い致します!
【タイトル】
『モンスターを鎧にする仕事 ~お前は釣り合わないと婚約破棄されたけど、手先が器用なので服とか鎧を作って自由に暮らしてたら、なぜか国中が俺を探すようになった件~』
https://ncode.syosetu.com/n5346lw/
【あらすじ】
模型雑誌ライターのイストは異世界召喚されてしまった。
どうやらレアな存在らしく、いつの間にかお姫様と婚約させられていたが、スキルも魔力も無いことが判明した途端に手の平返しをされてしまう。
婚約破棄を宣告され、追放されてしまったのだ。
しかし、イストは手先の器用さでモンスター素材から防具を作る楽しさに目覚める。
実はその防具は、この世界では異質なほどに強く、その噂を聞いた国中がイストを探し始めるのだった。
そんなことは気にせず、今日もイストは山奥でマイペースで好き勝手にモンスター防具を作っていく。
今日は少しセクシーな軽鎧? 異形のローブ? 格好良いドレス?
いつの間にか周りの冒険者たちが最強になっていくのだが……?





