四章 近付いてくる過去
「いけない子たちだ」
ダイキは回り込んでテントの脇に移動して見下ろすと、二人が膝を抱えて頭を抱えるようにして隠れている。
「よっこらせっと」
ダイキが手を伸ばして二人の襟首を後ろから掴んで、そのまま跳躍する。
人間の能力では在り得ないほどの跳躍をして、山道を駆け上がる。
「う…うわわわわっ」
「ダイキ!何をっ!」
二人がじたばた暴れると、ダイキが二人を放り投げる。
「うわあああっ!」
「後で軍事裁判にかけてやるっ!」
宙に投げ出されて二人が瞳に涙を浮かべる。
ダイキは放物線を描く二人の舌に回りこみ、腰に手を回して小脇に抱えると更に速度を上げる。木の枝をすり抜けるようにして、木の間を駆け抜ける。
断崖絶壁を両足だけで蹴り飛ばして二十メートルはあろう壁を駆け上って、ダイキは二人を下ろした。
「ここは晴れているんですよ」
にっこりとダイキが微笑むと、絶壁の下は雲がかかっているように街が霧で覆われていた。頭上に満月が二つ。
「殺戮を生き甲斐とする哀しい集団には成って欲しくない」
「ダイキ?」
スティラがダイキを見ると、ダイキがどっこらせっと岩の上で座り込む。
「今宵も月が綺麗だ」
そういうダイキを中心に二人も座る。
「クアッドの話を聞いてしまいましたね?」
「聞かせた、の間違いではなくて?」
スティラが「間違っていましてよ?」と呟く。
「ええ、まぁ。リーファ君は知っていることですから、主にあなたに聞いていただきました」
「曲者ですね、相変わらず」
リーファがそのやり口が気に入らないらしく頬を膨らませる。
「片方だけが知っているだけでは、恋の好敵手であるスティラ姫が不利でしょう?やっぱり戦いはフェアでなければ」
「余計なお世話です」
スティラが憮然と呟く。
「ですが、今回ばかりはそうも行かなくなってきた。いつものような事件とか災害であるならば、私は貴方たちがどんな行動をしようとも、そこで誰かが死んでしまっても構わないと思っていた。それが運命ですから」
さらりと、とんでもない事を言われた気がする。リーファはいつものダイキ節に慣れているので特に気にはしないが、スティラは思い切り不満そうな顔をしている。
「若い身空でずい分と物事を知っているような言い方をするのね」
「ええ、若いと言えども貴方とは十近く、離れていますし」
それに…とダイキは街を見下ろす。
「貴方の何百倍かは、人の命を奪っています」
ダイキの言葉に二人は何も言えなくなった。
「いいですか?人の命を奪っていけば、自分がどんどん人ではなくなっていく。私はそんな気がした。殺戮だけが生き甲斐になってしまう。それは間違いだ」
「私が…私たちがそうなると?」
リーファが首を傾げると、ダイキは首を横に振る。
「あなたたちは大丈夫、あなたたちは産み、育てることを許されているから」
リーファとスティラは自分の下腹部を手で抑える。いつかは好きな人と結婚して、子供を生み、そして育てるだろう。それは女性に生まれたからこその幸せでもある。
「男はそうは行かない。生きていく上で他者、人であれそうでなかれ、命を奪ってただ自らの生を繋ぐ、繋ぎ続ける。誰かから奪うことで自分の生存を立証し続けるのです」
「それは間違っています」
スティラが断言して、リーファが頷く。
「どうでしょうか。そうでしょうか。私は…家内と出会うまで気づきませんでしたから…男とはそう言う者なのです。気付かせてくれる人が居なければ、知らないままで朽ち果てて行く。何も残すことができずにね」
「なぜ、私たちにそんな話を?」
リーファが尋ねるとダイキは苦笑する。
「クアッド君に気付かせてあげられるかもしれないからです」
「?」
スティラとリーファが顔を見合わせる。
「彼は驚異的に…心のどこかが壊れてしまっている」
「自分の教え子を精神異常者のように言うのはよくないんじゃない?」
スティラが抗議すると、ダイキは苦笑した。
「そうですね。そうなんです。でも彼は…強すぎるからこそ、分かり合える者がいない」
リーファはそう言われてはっとした。
強すぎると、忌み嫌われる。あの子は特別だから、と除外される。宮廷魔術師の魔術学校でもそうだった。強すぎる孤独はそうある者にしかわからない。
スティラも同じ思いをしていた。
異端の子だった。だからこそ剣を握った。剣を振るっていれば嫌なことを忘れられた。今でこそ騎士王女などと呼ばれているが…最初は騎士王女と呼ばれることすら嫌味でしかなかった。兄弟たちからは疎まれて、兄に剣で勝った時は寂しさしか残らなかった。雄一自分に剣を教えて理解してくれた兄が、上回った瞬間から冷たくなった。
「他人より秀でている事は、必ずしも幸せであるとは限らない。自然と求めるのですよ、自分よりも強き者を…まるで破滅を望むようにね」
血塗られた道だ。
強き者を求めて歩き続け、その道の上にいる強いものを屠る。もっと、もっと…その先にあるのは何かは行く者にしかわからないだろう。だけれども…通り過ぎた後には夥しい鮮血と死体が転がっている。いずれ、己を振り返ってそれを眺めて…人で居られるのだろうか。
リーファとスティラはぞくっとした。全身に悪寒が走った。
少なくは無い。
今ですら自分が蹴落として来た人数は少なくは無かった。
「スティラ姫は同じ騎士として、リーファ君は魔術師として、道は違えど強き者の道を例外なく歩いていると私は思っている。だからこそ…クアッド君を救って欲しい」
「師匠にはできないんですか?」
その話ならば、ダイキはずい分先を歩いているのではないか?とリーファは思った。
ダイキは哀しそうに微笑む。
「できません。男ですからね。男同士は…それができないんです」
いずれ私も……のかもしれませんね。
予感がする。
そんな予感。
「正直な話、リーファ君がクアッド君を好きなのを知って安心しました」
「別に好きなわけじゃないんですよ!」
あたふたとするリーファにスティラが「へー」と呟く。
「じゃあ私に頂戴」
「それです!頂戴、とかあげる、とかいう話じゃないんですよっ!クアッドはモノじゃないんですからっ!」
「言い訳くさーい」
スティラが流し目で呟くと、リーファが言葉を詰まらせる。
「まぁそういう喧嘩は私がいなくなってからでも」
ダイキが苦笑すると、けしかけたのは誰よ?と二人が睨みつける。
「降りましょうか?」
ダイキは二人をまた小脇に抱えると、跳躍する。
「っ!」
二人が息を呑むと、ダイキは音も無く着地するとまた、夜の山間部を失踪する。
ひどい目に合った。
スティラは髪の毛を梳いて、櫛を鏡の前に置く。
野営地のテントと言えども自分だけ特別に様々なものが運び込まれるのだから、リーファと共に使用している。ベッドに寝ているリーファはあんな暴走行為に無理やり連れまわされたのに既に眠っている。
「髪の毛くらい梳きなさいよ」
仕方ないわね、とスティラがベッドに腰掛けてリーファの頭を腿の上に乗せて髪の毛を梳いてやる。
「女の子なんだから、さ」
「ですよね…」
「起こしちゃった?」
「いえ」
リーファが目を開け、スティラが櫛を通してやると猫のように気持ちよさそうな顔をするリーファに思わずスティラは微笑んでしまう。
「姫は王都に戻られるんですよね」
「仕事の話?まったく、あなたの頭の中は魔術と軍のことしかないの?出世しそうね」
スティラに言われて、リーファは困ったような顔をする。
「そうね、王都に戻るわ。軍は他の将軍も一緒に連れてきているし、クロイツもある程度の戦術を考えたら王都に戻るように指示を出してある。そもそも私、指揮官みたいな言われ方してるけど、魔術機甲甲冑装備者だから、単独で突撃しろって言われているようなものなのよ」
「そうなんですか」
「そうなんですよ」
はい、終わり、とリーファを寝かせてスティラは櫛を鏡の前に置くと、ベッドに入る。
いつもは広すぎるベッドなのに、もう一人居るだけでずい分と狭く感じるものだ。
「貴方たち、不思議よね。私が王女って知っても臆せずに突っ掛かって来るんだから」
「敵は権力だけじゃなかったもので…」
リーファの物言いが何処か可笑しくてスティラは苦笑する。
ふっとランプが消されて暗くなる。
「私の近衛隊にならない?」
「宮廷魔術師である以上、近衛隊には変わりないですからねぇ」
「生意気言ってるわね。そういう意味じゃないのよ」
「どういう意味かしら?」
ごそごそと寝返りを打つリーファ。二人の顔が息遣いがわかるほど近付く。
「私の近衛隊ってみんな嫌うのよ。お母様がお母様だからね。庶民と王の間に生まれた王女の近衛隊って出世できないって思うでしょう?」
実際、危ない任務ばかりで騎士として動き回っているのだから、余計に嫌われるのだ。そんな王女の近衛隊など…進んで引き受けるものなどいない。
変わり者、クロイツは進んで引き受けてくれるのがスティラにとって唯一の救いだった。クロイツはその人望から部下も進んでスティラを守ってくれている。今回の派兵でもクロイツの部隊が八割を超えているのも事実。
「同情を誘って私とクアッドを近衛隊に招集するつもり?」
「あなた…意外と性根の悪い子ね」
「ですよ」
ごろん、とリーファが背を向ける。
「私は女の子でもいいんだけどなぁ」
リーファは背筋がぞくっとして少し離れると、スティラが背後でくすくすと笑っている。
「何者ですか?」
リーファは上半身を起こすと、入り口に影。
スティラも上半身を起こして素早く半身を返して剣を手に取る。
「う?」
魔力が流れていく。
クアッドのいるテントのほうに自分の魔力が流れていくのを感じてリーファは目を細めた。
「賢者の梟は夜に舞う。その瞳は闇夜を見つめて何を思う」
ぽん、とリーファの指先が光ってスティラの背に触れる。リーファの視界に夜目が利くようになった。
『魔術機甲甲冑』
二人が同時に声にする。入り口に立っている影は真っ黒な機甲甲冑を身に着けている。
「我が痩身に、集いし戦乙女の祝福は、女神の深紅なりて…その剣は万端なる邪を切り裂くツルギなり!」
スティラが立ち上がると同時に魔術機甲甲冑を装備して、黒い男に切りかかる。男は槍のような長い棒を握り、刃を輝かせる。スティラの横薙ぎの一閃を受け止めると、外に飛び出していく。リーファはローブを掴んで外に飛び出すとスティラの軍人たちが何事かと外に飛び出してきた。
「騒ぎになってしまたようだな」
低いくぐもった様な声で男が呟く。
「フィラン!」
「いけませんね…ローウェル、ここは引きましょうか」
ローウェルと呼ばれた白い甲冑がしゃなり、とクアッドのテントから出て来る。
「待て、お前たちは何者だ?」
スティラが尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「いえ、我が国の王を迎えに着たんですが…ね」
ローウェルが背を向けると、機甲甲冑の背部が朽ちて、素肌が見えていた。
「お気に召さなかったようでしてね。日を改めて迎えに上がろうかと」
「ローウェル、喋りすぎだ。行くぞ」
「はい。フィラン兄」
ローウェルはぺこり、とスティラに向かって頭を下げる。
二人が空に飛んで、彼方へと消えた。
「フィラン・ロザリア、ローウェル・ロザリアの兄弟ですね」
ダイキがいつの間にかスティラの背後に立っていた。
「ロザリア兄弟?友好国の公爵家の兄弟がなぜ?」
グロリアスより東南に位置する隣国、シルヴァラン王国の王家に名を列ねる二人が、遠いこの地に赴いてきた理由がわからない。
「どうやら…クアッドは王様だったようです」
「?」
リーファが首を傾げると、ダイキもさすがに驚いたのか諮詢している。
「で、その当人はどうしているんだ?」
スティラがテントを空けると、クアッドはベッドに座ってこちらを見ると片手を挙げた。
「無事か?」
「ご心配おかけしましたよ」
「我がレディスト王国とシルヴァラン王国の間に深く関係しているようだけど、どういうことなの?」
尋ねられてクアッドは困ったように首を捻る。
「さぁ…行き成りお迎えに上がりましたって言われたけど、俺にはさっぱりですよ」
「そう」
スティラは魔術機甲甲冑を解除するとクアッドが目を丸くする。身体のラインが丸見えのネグリジェ姿のスティラが顔を真っ赤にする。
「…どぞ」
毛布をクアッドが投げるとそれをマントのようにスティラが羽織る。
「ゆっくり休んで…明日は王都に戻るぞ」
「了解」
クアッドがごろんと横になったのを見て、スティラが自分のテントに戻るとリーファが「お帰りなさい」と迎えた。
「クアッドのことだから、フィランとローウェルのことも知っているんでしょうね」
「だね」
リーファが頷く。
「クアッドはこれからどうするんだろう」
「クアッドが決めることだし…騎士職位返上もありえるかもね」
「却下するけど」
スティラが逃がしはしないと言わんばかりに断言する。
「私やクアッドは育ててくれた村に恩返しするために宮廷魔術師や宮廷騎士に所属してるだけだったから、私は返上するつもりだよ」
「もったいないな」
正直にそう思う。リーファやクアッドほどの熟練者になれば職長クラスに二十歳未満で到達できるはずだ。
「もったいない、かぁ。私たちはたぶん自由なほうがいいよ」
「身勝手な話だな。戦う力を持たぬ者たちの剣となり、盾となる。そういう者がいるから他国の弾圧から守られている自由を、戦う力が在りながらそれを放棄するのか?」
「姫様らしいですね」
リーファが話は終わりだ、と言う様に毛布に包まる。
能力だけで駆け上がってきたクアッドとリーファをスティラは疎ましくさえ思える。何と身勝手で自由気ままで、欲しいものは何でも望めば手に入ったのだろう。その能力は人並み外れている。
だからこそ、知らないこともあるのだろう。
スティラはもやもやとした気持ちを抱いたまま、寝返りを打つ。
その日の夜は眠れそうにもなかった。
クアッド、リーファ、ダイキ、スティラが宿営地を出る。
リレインは一足先にパーティーから外れて王都グロリアスに向かったらしい。
「そんなに急ぐ必要あるのかね?」
「まぁ、人にはそれぞれ事情がありますからね。昨日の一件は特に、ね」
ダイキは観察するようにクアッドの横顔を見ると、クアッドはいつもと変わらずにダイキの意味深な視線に気味悪そうに一歩下がった。
「俺が王子だって?人違いもいいところだよ」
「でも王子様だったら、素敵だよね」
リーファが目を輝かせると、ダイキが頷く。
「リーファ君が王族に名を列ねるのも近いですか?いや…もしやスティラ姫とご成婚となれば…大陸二大王国が一つになりますね、これはめでたい」
スティラは茶菓されてもしれっとした顔をして前を歩いている。
「何かあったんですか?」
ダイキは食って掛かってきそうな発言をしたのに無視されて具合が悪いのか、リーファに尋ねる。
「さぁ、知りませんけど…姫様って我がままそうじゃないですか。その一環じゃ?」
「おいおい」
リーファが小生意気な口調でスティラに吹っかけると、スティラが鋭い視線でリーファを睨む。
「宮廷魔術師、口が過ぎるぞ」
「申し訳ありませーん」
スティラの強い口調にリーファがなおもふざける。クアッドはため息を吐くとダイキが苦笑する。
「これは何かありましたね」
「だな」
二人がこそこそと話をしていると、スティラが今度は男二人を睨む。
「軍師、騎士。男なら堂々と話をなさいな。性根の悪い井戸端会議の女のようでしてよ?」
「怒られちゃいましたね」
ダイキはほとほと困り果ててまた苦笑する。
「クアッドは我が国の騎士の称号を与えられた正式な家臣です。今更、王族だの何だの関係ありません」
「そんなこと言うと戦争になって、多面戦争が勃発しますね。クアッド自身がどうあれ、一度、シルヴァラン王国へその身柄を護送するほうが懸命ですよ」
ダイキがまともなことを言うと、スティラがぐっと言葉を詰まらせる。
「クアッドが本当にシルヴァラン王国の王族だとしたら、です」
「本当も嘘も、シルヴァラン王国の公爵直々に動いているんですよ。向こうだって闇雲に突っ込んできたわけではない」
「ですが…」
スティラは流し目でクアッドを見る。クアッドは嫌そうな顔を隠しもせず、頬を引き攣らせる。
「私にはこの男が王族だとは思えない。気品も品性のかけらも無い。剣を振るい欲しいものを手に入れてきた蛮族と変わらない」
「それは言いすぎですね」
リーファが珍しく怒った顔をしている。と、クアッドは思った。いつもの笑顔なのだが、目が笑っていない。あれはリーファが怒ったときの顔だ。
「いくらあなたが王族で、王女であって、その騎士はあなたのものであろうとも、人格や品格までとやかく言うことはないでしょう?」
「それだから王国騎士は堕落したと言われるのだよ、宮廷魔術師。お前たちもそうだ。守られているだけで何もしない、暢気な歌を歌うことしかしない。宮廷魔術師の質も騎士の質と同様に年々悪化している」
こりゃあ、大変なパーティになったもんだ。
クアッドは二人が無言で睨みながら歩いているのを後ろで見ながら、ため息を吐いた。ダイキに至ってはもう既に我関せずという面持ちで、二人を止めようとすらしていない。
「師匠、源流ってどこなんだ?」
だいぶ狭くなってきた川を見て、ダイキに尋ねると、ダイキは「ええ」と頷いた。
「あそこに見える橋を渡ってしまいますから、本来は源流は見ることができませんが…もうちょっと上にある壁から水が湧き出していまして、そこが源流になっているんですよ」
「へぇ」
クアッドは聳え立つ山を見上げて、その雄大さに唖然とする。だいぶ上ってきたはずの山道なのに、まだ山道は続いているというのだ。
「絶壁から水が流れ出していまして、その水の量はとてつもなく多いんです。こう…壁から突然水が噴き出しているようにも見えますから、私も始めて見た時は驚きました」
「師匠ってどこでも行ってるよなぁ」
「経験ですよ、何事も」
いつものダイキ節にクアッドはどこか安心する。
「クアッド君、あれが橋です」
指を指されて三人がその先を見ると、大きな橋が対岸に向かって伸びている。
「全長四キロメートル、幅三百メートルの橋です。あれが完成する前まではあの山を登って降りなければなりません。もう一つのルートは時間をかけて、山の周りを一周するしかなかったんですよ」
高さ三千九百メートルの山を登って降りる苦労は計り知れず、その周回を回るとなれば悠に三日はかかるという、王国最大級の山だ。
「シュバイツ橋。二代前のシュバイツ王が建設した最大級の建造物です」
「へぇ」
ダイキの説明を受けつつ、四人が橋の欄干に辿り着く。
レンガで整備された舗装路は陸地とほとんど変わらず、その広さは安心かすら与えてくれた。今、自分の足元に大量の水が流れている、などとは言われなければ気付かないほど、安定していた。
リーファが恐る恐る橋の端から下を見下ろすと、水が轟々と音を立てて流れている。あの油泥で汚れた水はソーシアから流されていたらしく、ここでは綺麗な水が下流に向かって流れていた。
「はきゅぅ」
リーファが目を回すと、クアッドが苦笑してリーファの肩を抱き寄せる。
「怖いもの見たさって奴もわかるけど、水がダメなんだから覗くなよ」
「ですねぇ」
「ちょっと、ゆっくりしている暇はないのよ?」
スティラが声を張り上げて、二人を怒鳴りつける。
「申し訳ない」
クアッドとリーファがダイキとスティラの元に小走りで近付くと、スティラがさっさと歩き出す。
「…」
様子がおかしいのは気付いていたが、歩調がやけに早い。リーファはゆっくり歩くほうなので、自然と差が生まれる。
「何していますの?早くしなさい!」
「そんなに怒鳴るな」
クアッドが顔を顰めると、リーファの顔に汗がびっしょりと浮かび上がっていた。
ただでさえ、水が足元を流れているという状況で精神的に苦しいリーファにとって、橋の上とは言え、恐怖心があるのだろう。
「少し休むか」
クアッドが言うとダイキも頷く。
「休む?休むですって?」
ツカツカと足音を立ててスティラがクアッドに噛み付かんばかりの勢いで迫る。
「あー、ほら…リーファが…」
クアッドがリーファの顔色が悪いことを伝えようとすると、その異変に気付いた。
スティラの顔色も心なしか悪いし、唇が震えている。
「スティラ様、そこは崩れやすいかもしれませんから気をつけてください」
クアッドが地面を指差す。
「ひぃっ!」
がばっとクアッドは抱き付かれて、にやり、と笑った。そして確信する。
「スティラ…ひょっとして怖いのか?」
「なっ!」
スティラが騙された事に気付いてクアッドから離れると、ダイキが「ほぅ」と瞳を光らせた。
「水が怖いんですか?」
ダイキが尋ねると、スティラは首を横に振る。
「怖くなんか無い!ふざけるな!私は王女だぞ!」
王女であろうとなかろうと関係ないだろう、とクアッドはあえて突っ込まないことにする。
「あーっ!土砂崩れだ!」
ダイキが声を上げると、スティラがクアッドの後ろに回りこんで下流に隠れる。
「怖いんじゃねぇか」
クアッドが頭を抱えると、スティラがごすっと肘でクアッドの背中を打つ。
「ぐあっ!」
クアッドが背中を丸めてうずくまると、リーファがへたり込む。
「私は水が怖いんじゃない!こう…足元がおぼつかないというか…足の下に何も無いというか…」
「浮いているような状態が苦手なんですか?」
「そうだ、苦手なのだ。怖くは無い!」
スティラが顔を真っ赤にしてうずくまった。
「何だよ」
クアッドはようやくダメージから回復して立ち上がる。
要するにスティラは水が苦手なのではなくて、水の上という状況が苦手なのだ。人間は水の上には立てないのだから、普通は沈む。橋の上でもすぐ足元に水が勢い良く流れている。何と無く自分が宙に浮いているような気がして、その感覚が気に入らない、ということらしい。
「…リーファ君と同じですよね」
「だな」
クアッドが頷くと、スティラは瞳に涙を貯めて首を傾げる。
「リーファもスティラと一緒で…空を飛んだり、水の上に浮いたりするものが苦手なんだ」
「私は…空は別に…」
魔術機甲甲冑で空を飛ぶのは別段、怖いと思わない。あれは自分で制御するものだから問題は無かった。
「じゃあ先に行けばいいじゃん」
クアッドが対岸まで続く端の先をすっと指差すと、スティラが俯いた。
「なんで?」
「は?」
スティラの身体に魔術機甲甲冑が装着されて、クアッドは驚く。
「なんで私が欲しいものは手に入らないんだろう」
どんっと轟音を鳴らして王都方面へ飛んでいく。
「本当に行きやがった」
クアッドは頭を掻くと、ダイキとリーファがため息を吐く。
「最低」
「情操教育を間違えましたか」
二人に非難されるような視線を浴びてクアッドがたじろぐ。
「スティラさんって本当にクアッドが好きだったんですね」
「そのようです」
リーファが呟くとダイキが頷く。
「私も最初はクアッドをからかっているだけかと思ったんですが…ねぇ」
「へぇ」
クアッドは人事のように呟くと、リーファがぱんっとクアッドの頬を引っ叩く。
「女の敵ですね」
「むしろ、男の敵でもありますよ。かわいい女性に好かれる野郎はね」
ダイキがにやにやと笑う。
「あんたまで何言いやがる。奥さんにばらすぞ」
「それは困る」
本気でダイキは橋の欄干に手を突いて、後悔しているのか項垂れる。
「とりあえず、クアッド君。王都に着いたらスティラ姫に謝ること」
「はぁ」
クアッドはいまいち納得できていないのか生返事を返す。
本当にわかってないのかしら?
リーファは首を傾げると、とりあえず歩を進める。
「ふぅ」
長すぎる橋を終える頃にはようやく慣れたのだが、クアッドはまだ何か考えているのか、疑問を解決できていないように首をかしげている。
「クアッド君、お迎えです」
ダイキが前を指差すと、魔術機甲甲冑を身に着けたままのスティラが剣を地面に突き刺し、それを握って立っている。
「あい?」
クアッドは目を丸くすると、ヘルムを未装備のスティラがこちらを見て、口の端を吊り上げるようにして笑っている。
「悪女みたいです」
「ですねぇ」
リーファとダイキはその異様なオーラを発しているスティラを見て、顔を見合わせる。
「リレインさんは…空間移動術を使える魔術師素養があったわけですか」
リーファがスティラの後ろに立っているリレインを見つけて、小さな声で呟いた。
空間移動術は魔法の中でもかなり難しい高位魔法に位置する魔法で、宮廷魔術師と言えども使える人間は数えるほどしかいない。騎士でありながら、空間移動術を使えるとなると、諜報部員に生まれてくるためのような存在としか言いようが無い。
「クアッド・アルマーティ。貴殿を我が王国の来賓として迎え入れるよう、父からの伝言だ」
「ってことはリレイン、俺は本当に…?」
王族の人間だったのか?とは尋ねないが、その意図を察してリレインが複雑そうな顔をして頷く。
やべぇ…なんか複雑なことになってきやがったぜ。
昔から面倒な事はできるだけ避けて通ってきたのだが、リーファの行動で大体は面倒なことに巻き込まれる、が…今回は勝手が違った。まさか自分の知らない…失われたキヲクが絡んでくるとは思わなかった。
「如いては…クアッド、シルヴァラン王国第一王子を王都まで安全に送り届けるよう承り…」
スティラが不満なのか、哀しいのか、いくつもの感情が入り混じったような無表情でクアッドを真っ直ぐに見つめた。
「私はその事を光栄に思います」
畏まって跪くスティラとリレインにクアッドは…逃げ出した。
「え?」
「はい?」
橋を逆走しているクアッドの背中を見て、リーファとダイキが目を丸くする。
「何故逃げるんだ?」
「し…知りませんよ」
顔を上げて逃げ出したクアッドのその意味不明な行動にスティラが思わずリレインに尋ねるがリレインにその真意がわかるはずもない。
「何故逃げる!」
「しるかあああっ」
スティラがクアッドの後ろに付いて追いかける。魔術機甲甲冑の機動力にクアッドが逃げ切れるはずも無い。クアッドも魔術機甲甲冑を装備しようとしたがリーファがロックをかけているのか装備できずに、とりあえず足を動かした。
「ええい鬱陶しい!」
スティラが前に出てクアッドを両手を広げて止めようとする。
「ここは橋の上だぞ!」
「ひぅ!?」
恐怖感を思い出してスティラが身をこわばらせると、その脇をクアッドがするりと抜ける。
「卑怯者があああああっ!」
スティラはまたクアッドに一枚かまされて、頭の中が真っ白になった。
「私がどんな思いで貴様の前に傅いたと思っているんだ!」
「しるかあああ!お前が勝手にそうしたんだろうがっ!」
クアッドは後ろから魔法で狙撃されてもんどりうって倒れる。
「なっ!」
遥か後方、リーファの魔法狙撃にやられたことを察知してクアッドは川に飛び込む。
「!?」
スティラが水面すれすれに飛ぶと、クアッドの姿が見えない。
「何処に行った…」
周囲を見回してもクアッドの姿は無かった。
「逃げ…た…」
スティラは舌打ちすると、リーファを抱えたダイキとそのすぐ後ろにリレインが追従して、スティラの側に四人が集まる。
「えっと…ダイキさん、リーファさん。全ての任務を放棄してクアッドさんの身柄の拘束を騎士団長に命じられました…」
リレインが申し訳なさそうに報告すると、ダイキは苦笑する。
「これは…少々厄介なことになってしまいましたよ」
拘束するも何も、その対象が全力で逃げ切るつもりなのだ。
元ハンターのクアッドを山間部で探すのは至難の業。相手はサバイバルの知識を全て自然に学習している野生に最も近い人物。
「源流…シェルトス山に入られたら軍でも探し出せるかどうか」
ダイキは川の上流を見上げて、ため息を吐いた。
恐らくクアッドは山の中に壮大に引きこもってしまった。
「なんで逃げたのよ」
スティラは意味不明なクアッドの行動に頭を悩ませる。
「クアッド君は…言ってみれば戦闘のプロですから、自分の状況がわからなくなったりすると絶対に安全なポイントまで撤退して戦場において自分の立ち位置を再確認する癖がありますよね」
ダイキがリーファに視線を送ると、リーファが頷く。
「でもまぁ、アンカー打ち込んだのでどこにいったかはわかります」
先ほどクアッドにぶつけた魔法は、追跡探知を含んだ精霊粉のマジックアイテムを使用した、対象を感知できるもの。クアッドの行動原理を良く知っているからこそ出来る芸当だった。
「じゃあ、クアッド探さないと…」
リレインがおろおろと川を覗き込む。上流は水量が少ないがだいぶ流れも早い。流されていたりしたら大変だ。
「大丈夫ですよ」
リーファが橋に向かって手を伸ばす。
「クアッド、十秒前です」
「?」
全員が首を傾げると、リーファが妖艶に微笑む。
「きゅー、はち…ごー」
「待て!八の次は七だろうが!」
クアッドがひょいと橋の下から姿を現すと、リーファが苦笑した。
「隠れている場所ごと吹き飛ばすつもりだったのか」
スティラが渋い顔をしてリーファを睨む。この橋を壊してでも炙り出すほど急務ではないのだが、本当に壊されてしまったら進軍に響く。そのことをもう少し考えて欲しいと口には出さないが、その浅はかさにさすがに戸惑う。
「とりあえず話をまとめましょう」
ダイキが二度手を叩いて全員の注目を集める。
「リレイン君」
「はい」
リレインが頷くと、少し考えてから口を開いた。
「国境の街が壊滅したことは帝国議会に伝えました。ダイキに対する拘束命令は解除され、クアッド、リーファ二名と同行するようにという命令が騎士団長より発令されています」
「了解しましたよ」
ダイキが頷く。
「次いで、私は唯一使用可能魔法の空間転移によって王都グロリアスとあなたたちを結ぶメッセンジャーになっています。スティラ様に下された命令はクアッド第一王子の保護です。可能な限り王都グロリアスにて保護するのが妥当と判断され、王都グロリアスに入った場合は、シルヴァラン王国に使者を送り、クアッドをシルヴァラン王国へ引き渡すよう、王の命令です」
「つまり、クアッドは本当に王子だったわけですか?」
「です」
リレインがクアッドを真っ直ぐに見つめると、クアッドは視線を逸らした。
「今更王子だとか、しかも隣国のとか言われても困るよな」
「ですね」
苦笑いするクアッドにリーファが頷く。
「考え方によっては互いに我関せずだった王国同士が手を結ぶいい機会なのかもしれません」
ダイキに言われてクアッドが頷く。
「俺は自由なほうがいいんだが…スティラを見てるとどうしても王族って堅苦しくて戴けないんだよね」
「まぁ、王族などに名を列ねると面倒なことは多いな」
スティラもそこは否定せずに頷く。
「ただし、今は一刻を争うんです。クアッド、レディスト王国とシルヴァラン王国を結ぶ橋渡しになって戴ければ、今後の戦況もだいぶ楽になると思います」
「さすが元軍師。っていうか…まぁそれが妥当なんだろうけど」
逃げ出そうとしたほどその王族、というのが嫌いなわけで…。
「提案がある」
「?」
全員が首をかしげてスティラを見ると、ダイキが「なるほど」と呟く。
「クアッド、リーファ、リレイン、ダイキを私の近衛隊として認定する」
「それが一番、動きやすいですね。権限も強くなるし、クアッドに限ってはシルヴァラン王子として動けるし、こっちでは近衛隊として動ける」
「そんな都合よく行くのかね?」
「行くだろうね」
ふわり、と優しい声が後ろからかけられて、全員が驚く。
クアッドの背後に魔術機甲甲冑を装着したローウェルが立っていた。
「義兄さん、探したよ」
「昨日の…双子か」
「ローウェルと申します。ローウェル・ロザリア」
綺麗な顔立ちで中性的、それでいて紳士さを伺わせる優雅な足取り。
「ボクは信頼されていないからね。本当は兄のほうが良かったのかもしれないけれど…そういう二国間で動きたいって言うなら、父上にそう伝えておこうか?」
「頼むわ」
クアッドが片手を投げやりに挙げると、ローウェルが苦笑する。
二人は確かによく似ていた。ローウェルとクアッドの顔を交互に見ると、その特徴はよく似ている。温室育ちそうなローウェルと眼光の鋭いクアッドは野生を感じる。育ちの違いだけが違うだけで、その他は良く似ていた。
「ただ父上に顔を見せてやって欲しいのだけれど、それはどうする?」
「今は少し待ってくれ。俺は知りたいことがある」
「義兄さんがどうして、今のような状況になったのか、知りたいんだね?」
「そうだ」
クアッドが頷くと、ローウェルも頷いた。
「そう、僕たちもそれを調べている最中なんだ。第一王位継承権を持つ義兄さんは誘拐されてから、今までの経緯がほとんどわからない」
「ではどうして、クアッドを王子だと確定したんですか?」
ダイキが尋ねると、ローウェルはしまった、という顔をして顔を顰めた。
「昨日、義兄さんと戦闘をしてその毛髪を少し拝借させてもらったんだ。うちの魔術研究員がそれを解析したら、百パーセント第一王子の魔法細胞と一致した」
「なるほど」
ダイキがうんうんと頷く。
「おや…?」
ダイキがふと気付いて首をかしげる。
「確かクアッド君の本名はクライスですよね?」
「だね」
「クライス第一王子は四歳のときに…教会最高権力枢機卿の娘と許婚の…」
「あ…」
リレインもスティラもそのことは知っている。二人は同時に声を上げるとローウェルが苦笑した。
「生きているとなれば、それも再成立しますね。今、枢機卿の姫巫女と呼ばれるマザーマリアはクライス王子の生存を知って嬉々としておられました」
「クアッドって呼んでくれよ。俺はクライスって名前に馴染みが無くてね」
「そう言うと思いまして、好きにしろと父上は申してたね」
ローウェルが苦笑するとクアッドは舌打ちする。どうやら性格まで向こうは調べ上げたようだ。
「まぁ義兄さん、今までの功績は両国で認められているようですね」
「クアッド君は優秀な我が国の騎士ですからね」
ダイキが苦笑するとローウェルが頷く。
「クアッド君、順を追って行動してみては?」
「俺は今のままがいい」
クアッドが駄々をこねるようにその場に座り込むと、リーファが苦笑した。
「クアッド…」
リーファがクアッドの隣に座ってそっと耳打ちすると、クアッドがうんうん、と頷いている。
「本当にそんなふうになるのか?」
「たぶんねー」
リーファが微笑む。
「じゃあ、そうしようか」
クアッドが立ち上がってリーファに手を差し伸べると、リーファがそれを受けて立ち上がる。
「まず、王都に向かう。グロリアスからシルヴァランに行って…」
どうするんだっけ?とリーファに尋ねると、リーファが困ったように微笑して続ける。
「シルヴァラン王国にレディスト王国との共同繁栄戦線とでも称する同盟を組んでいただきましょう。そしてクアッドは第一王位継承権を保有する王子としての承諾を受ける」
「承諾を受ける条件が同盟かな?」
ローウェルが首をかしげると、リーファが頷く。
「この件に関して、私とリレインは同盟協定決議に参加するスティラ王女の護衛という形でそちらの国に向かいます。当然、私たちはスティラ王女の近衛隊として同行するわけで、クアッドも例外ではない」
「義兄の立場が近衛隊である以上、重複した立場であることはどうするんだい?」
ローウェルが目を細めるとリーファが流し目をして微笑む。
「クアッドは貴国の王子であると同時に、我が国のスティラ近衛隊の隊長であるということを了解しない限り、同盟も組めなければ第一王位継承権も認めない。それは貴国にとっても政治的な混乱を迎えることになるでしょう?」
「なるほど、双方共に困ることがあるからこそ、そういう無理な交渉ができるわけか。貴女は恐ろしい人だな」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
リーファが頭を下げるとローウェルが眉を顰める。褒めたわけではない、が…。
「私もそれでよい」
スティラが何処か面白くなさそうに呟くとローウェルがハタとダイキを見る。
「貴殿はどうするんだ?」
「そうですね、私も一応近衛隊なんですよね?」
「そうだ」
スティラが尋ねられて頷くと、ダイキが「そういうことです」と言う。つまり、同行。
「ローウェルには国のほうを説得して欲しい」
「義兄さんのためなら。だけれどこっちの国も少し忙しくなっている事は忘れないで欲しい。アーミルズ共和国がレディスト王国に進軍したことは正直、脅威だ。同盟を組んだところで貴国が血を流すことには変わりない」
ローウェルがスティラを見るとスティラが頷いた。
「我が国の民が血を流すことは明白…その量を少しでも減らすために私は貴国と同盟を組みたい」
「御意」
ローウェルが地面を蹴って空に消えてゆく。
「クアッド君、リーファ君、君たちは何を考えているんですか?」
ダイキが二人に尋ねると、二人は顔を見合わせて苦笑する。
「私も聞きたいな…」
スティラが悔しそうに声を上げた。
クアッドとスティラの間にある絆や協調はとうてい他の人が入れるようなものではないようで、それを見せ付けられて心が苦しい。スティラは正直にそう思っていた。
「リレイン」
クアッドに呼ばれてリレインが首をかしげる。
「先行して今回の話し合いの結果を王都に通達してほしい。王が了承しなけりゃこの話は進まない」
「了解」
リレインが頷くと、足元に光の文字が浮かび、円が刻まれる。
「最上級魔法の転移魔法か」
クアッドは苦笑すると、リレインが光に包まれて姿を消した。
「聞かせてはくれないのか?」
スティラがなおも食い下がると、ダイキがスティラの肩を叩いた。
「あの子達は…二人で生きてきたから、大切な事は二人で決めるんですよ」
私はそこに入れないのか…。
寂しいような、哀しいような…。
「王都へ」
リーファとクアッドが並んで歩き出す。




