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百三十二話 ユリアの従魔

「あなたは……」


 ユリアの目の前に現れたのは、燃えるような赤髪の綺麗な女性だった。

 これはインフェルティスが俺の前で良く見せていた姿だ。インフェルティスはこうして、人の姿を取ることもできる。


「ユリア、と申したな。して、何を望みにここまでやってきたのだ? よもや今語った青い理想のためではなかろう?」


 その言葉に、ユリアは顔を赤くした。ルディスのようになりたい、それを超えたいという言葉を思い出し、恥ずかしくなったのだろう。


「そ、それは……私はただ、この火口の謎が知りたかったのです。そしてそれを悪用しようとする者を、阻止しようと」

「なるほど。私の力を使おうと企む者がおるのだな」


 インフェルティスはユリアの顔を見て察したようだ。


 そうだ。もともとここに先に到着する必要があったのは、ユリアの兄であるリュアック王子にここに眠るとされていた力を悪用させないため。


 ユリアが真剣な顔で頷くと、インフェルティスは即答する。


「安心せよ。誰にも力は貸さぬ。少なくとも今、お前以外の人間にはな」

「それは……どういう……え?」


 ユリアは、火口から飛んできた小さな火の鳥に気が付く。


 火の鳥は優雅に翼を広げながら、ユリアの目の前に降り立つ。


「この鳥は……」


 インフェルティスは目を丸くするユリアに、こう答えた。


「私が体の一部を分け与えた、いうなればフェニックスの赤子だ。こやつをそなたに預けよう」

「わ、私に?」

「うむ。お主の手の印。ルディスと同じものであることは、分かっておろう?」

「い、意匠は知っています。しかし、これが何に?」

「それは魔物を従える印。ルディスはそれを用い、魔物を従えておった。光っているということは、相手の魔物がお前への服従を願っておるということだ」


 インフェルティスの声に、ユリアは自分の手の甲を見た。


「従える覚悟があるなら、念じよ。そのフェニックスはお前を助け、お前に魔力の恩恵をもたらす」

「私は……この子を従える資格があるのでしょうか?」

「お前が先程語った思いが本当なら、そのような質問をする必要などないはずだ。成し遂げたいことがあるのだろう?」


 その問いかけに、ユリアは力強く頷いた。


「……ありがとうございます。皆、私はこの子を従えようと思います」


 ユリアはロストンや俺たち冒険者に顔を向けた。


 皆、ユリアの決意にうんと頷く。魔物は悪しき者だと主張する者は、ここにはいなかった。


 ユリアはそのまま、小さなフェニックスに手を差し伸べる。

 するとフェニックスもまた、翼の先をユリアに向けるのだった。


 ユリアの五芒星の帝印が優しく光った。こうして、ユリアは最初の魔物をテイムするのだった。

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