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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
毒舌執事は私にだけ優しい
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01 毒舌執事が豹変するとき

大公家執事でアレックスの異母兄のユーエンとのお話になります。

エンディングまで十話程度の予定です。


彼以外のキャラとのエンディングをお望みの方は適度にスルーして下さい。


本編64話からの続きになります。

 ユーエンとは先程の件で、中途半端なことになっていた。

 クロエ様に直接頼まれたのは彼だし、やっぱり薬の効果を試すなら、彼にお願いするのが筋だろう。


 でもいざ部屋の前に立つと、妙に緊張する。

 彼は口数も少なく、ポーカーフェイスで、口を開いたかと思えば結構な毒舌だけども本当は優しい……あ、いや優しいのは私にだけかも。


 思い出して思わず苦笑いする。

 意を決してノックをすると、すぐ返事があってドアが開いた。


「あなたでしたか」


 彼は少し驚いた様子だったけれど、すぐ部屋の中へ入れてくれた。


「すみません。ここではお茶の一つも出せなくて」


 部屋の中を見回しても、私の部屋とさして変わらず。

 本当にベッドくらいしかないので、話をするにもベッドに腰掛けるしかない。


「どうします?」


「あの、えっと」


 その時、私のお腹がぐーっと鳴った。

 うわっ!! 恥ずかしいっ!!

 何だかんだ忙しくて、あんまり食べられなかったからだ。

 俯く私に彼は少し笑った。


「厨房に行きますか。何か夜食でも作ります」


 彼と一緒に誰もいない厨房に移動した。

 昼間と違いさすがに静まり返っている。


「で、昼間の話の続きでしょうか?」


 手早く料理をしながら、彼が問う。

 相変わらずのその手際の良さに感心しながら、私はハッとした。

 昼間の話の続きとしたら、例の薬の効果を試すということでは?

 途端に緊張して、私は固まる。

 そんなこんなであっという間に料理が出来てしまった。


「どうぞ、召し上がれ」


 パンケーキ? 違うこれは!!


「お好み焼き?」


「ええ、そうです」


 まさかお好み焼きが出てくるとは思わなかった。

 そもそもお好み焼きって和食なんじゃ?


「アレックスにせがまれてよく作ったんです。あの子は野菜も好き嫌いが多くて、こうするとよく食べるので」


 アレックスならお好み焼きを知ってて当然か。

 まあ、何でも混ぜ込めるしね。


「頂きます」


 私は手を合わせて、早速一口食べた。

 ソースまでちゃんとしてる!! お手製のマヨネーズまでかかってる!!


「どうですか?」


「美味しい!!」


「良かった。あり合わせの材料で作ったので、あんまり自信がなくて。青のりはさすがにないですけど」


 こんな山奥じゃ。さすがにねぇ。

 そもそもこの国では海苔を食べる文化がない。

 それでもやっぱり彼は凄い。正直、毎日彼の料理が食べたい。


「ユーエンはきっといいお嫁さんになれるね!」


「それは褒め言葉と受け取るべきでしょうか?」


「あっ!!」


 そりゃあ、男の人にいいお嫁さんになれるだなんて言っても、嬉しくもなんともないだろう。


「ごめん、あなたの料理を毎日食べたいと思っただけなんで」


 そう言うと、彼はぷっと吹き出した。


「それはまるで、プロポーズみたいですね」


 そんな風に聞こえてしまった? し、しまった!?

 彼は珍しく声を立てて笑いながら、


「毎日食べたいですか? ではなりましょうか? あなたの言うお嫁さんに」


「えっ、本当に!?」


「ええ、あなたがそう望むなら」


 ユーエンがこんな冗談を言うだなんて、意外だった。

 彼は私を見つめたまま、優しく微笑んで言った。

 ああ、やっぱり彼の笑顔はなんて綺麗なんだろう?

 心に沁みるというか、洗われるというか。

 普段なかなか見れないからか、インパクトがでかい。


 私は何だか照れてしまって、お好み焼きをぱくついた。

 彼が優しい笑みを浮かべて、ずっとこちらを見ているのを感じる。


「ソース付いてますよ」


「えっ、どこ?」

 

 彼は自分の口元を指を指して、教えてくれる。

 私は彼の真似をするけど、どうも逆のようで、


「あ、違います。反対ですよ」


「あぁ」


 それでも私はうまく拭えなかったみたいで、痺れを切らした彼が指で取ってそれを舐めた。


「!!」


 な、舐めた!!

 私が驚いて目を見張ると、彼はちょっと照れ臭そうに言った。


「あ、すみません。つい」


 ……まさに有能な執事だ。ていうか逆に照れるとか何なの!?

 萌えてしまうでしょうが!!


「アレックスにもこんな風するの?」


「まさか」


 即答だった。やっぱりこれは普段はしないことなんだ。

 私は途端に意識して、頬が真っ赤になるのを感じた。

 ひょっとすると、耳まで赤くなっているかもしれない。


「な、何だか暑いね!」


 緊張して、つい早口になる。

 彼の前だと、どうも調子が狂ってしまうんだよな。


「可愛いですね」


「あんまりそんなこと言わないで。自分がそういうキャラでないことは分かってるから!!」


 お世辞にも、私は可愛いとは言えない。

 美人だとは言われても、顔も可愛い部類のものじゃないしな。


「そういうところが可愛いと言ってるんです」


 ユーエンは、珍しく声を上げて笑った。

 彼がこんなに笑うだなんて。その笑顔に見惚れた。

 隣り合って座る私達は、いつのまにかお互いにお互いを見つめていた。自然と鼓動が高鳴るのが分かる。

 私はやっぱり彼のことが好きなのだろうか?

 彼の目に映る私は、どんな風に見えているのだろう?

 彼がゆっくり顔を近付けてきた。

 それに合わせるように目を閉じると、軽く唇と唇が触れるのを感じた。


 でもそれは一瞬で、彼はすぐ私から体を離した。


「……すみません。調子に乗りました」


 彼は駆け落ちの時のことを気にしているか?

 あの時は勢いでしてしまって、後で気まずくなってしまったから。


「大丈夫、平気。私こそ、ごめんなさい」


 あの時キスをせがんだのは私だ。彼は悪くない。


「片付けますね。あなたはもう休んだ方がいいでしょう」


 そう言って彼は席を立つと、食器を下げようとした。

 私はその手を思わず止めて、彼を振り仰いだ。


「待って、私も手伝うよ」


 彼は少し笑って答えた。


「すぐ済みますし、一人で大丈夫ですよ。……おやすみなさい」


「……あの、部屋で待ってるから、後で来て」


 私が強くそう言うと、彼は少し驚いた様子で私を見た。そして少し間を置いて言った。


「では、後ほど伺います」


 とうとう、自分から誘ってしまった!! しかもユーエンを。

 私は慌てて身なりを整える。 って、さっき彼とは既に会ってるし、今さら着ているものを気にしても仕方ない。


 もうなるようにしかならない。

 彼はきっとそのつもりで来るに違いない。

 いや、私ももちろん、もしかしたらと思うけれども、まずはちゃんと話をしたい。


 どうしよう? 彼には以前、妻になって欲しいと言われてるから、プロポーズに答えるとでも言えばいいだろうか?

 今にも緊張で口から心臓が飛び出そうだ。


 その時、コンコンとドアをノックする音がして、私は思わず飛び上がった。


 来ちゃった!! ど、どうしよう?


 私は恐る恐るドアを開けた。そこにはユーエンが静かに立っていた。


「お待たせして申し訳ありません」


 その表情には余裕すら感じられる。彼は王子達と違って、(失礼!)いきなり手を出してくるだなんてことは、さすがにないだろう。


「入って」


 彼を部屋の中に招き入れて、辺りを窺いながらそっとドアを閉めた。

 ユーエンを部屋に連れ込んだなんて誰かに知られたら、色々大変だ。


「ごめんね、わざわざ来てもらって」


「いいえ」


 しかし部屋の中に入るなり、彼は豹変した。黙ったまま自分の眼鏡を外すと、片手で私の腰を抱き寄せてキスした。

 さっきの触れるだけのキスとは大違いな、舌を絡めるような激しいキスだった。


 に、肉食系だ!!

 紛れもなく彼も、王子達と同類だったのだ!!


 彼は私の額や頬や首筋にも、雨のようにキスを降らした。

 こんなの聞いてない!! 彼がこんなに情熱的だなんて。

 とりあえず話をするつもりだった私の気持ちを、一気にどこかへ攫って行ってしまった。

 不覚にも私は彼のキスだけで腰が砕けて、足元から崩れ落ちそうになってしまう。そんな私を彼は軽々と抱いてベッドに運んだ。


 もうこれ以上進んだら、決して後には戻れない。


「私の妻に。私と結婚して下さいますか?」


 彼がいつから私を好きなのかは分からない。

 私もいつのまにか彼が好きだったのかもしれない。

 いつも控えめで、口を開けばきつい口調だけど、私にだけは優しい彼に惹かれていたのかもしれない。


 私が頷くと、彼は小さく呟いた。


「もう逃がしません」


 その晩、私は直接触れる人肌の温もりを知った。

 漆黒の闇の中で、誰かと一緒に眠ることが、こんなに心が落ち着くものだなんて思わなかった。

いつもありがとうございます。


本当はマクシミリアン王子とラファエル編を先に終わらそうとも思ったのですが、他の話にも関連するネタバレ要素がある為、オチは後で一気に更新することに決めました。

ぼちぼち修正しつつ載せていきますので、よろしくお願いします。

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