02 まさか一番あり得ない奴と
やっぱりキスからは逃れられないんだ。
躊躇う私を見て、ラファエルが言う。
「キスが嫌なら、体を触ったりすることになるが?」
「体を触る!?」
「……胸とか、あそことか」
それって、キスよりヤバイんじゃ?
私はふるふると首を横に振った。
「やっぱりキスでいい。キスしよう!!」
「…お、おう」
私の意気込む様子に、逆にラファエルがたじろいだ。
私は覚悟を決めた。キスなら何度もしてるし、今さら照れる必要もあるもんか。あくまで発情の進度を確かめる為だもの。
「いいんだな? じゃあ試すぞ?」
ラファエルは自分の唇をペロッと舐めた。
何だかその仕草さえ、ドキッとする。
何だか体が変だ。
彼は私の隣に座ると、そのまま顔を近付けて軽くチュッとキスした。
「どうだ?」
どうだも何も、何だか物足りない!! って思ってしまう自分が嫌だ。さっきから妙に意識してしまって、ドキドキが止まらないのに。
「……分からない」
「じゃあ、もう一回するぞ」
素早く顔を傾けて、ラファエルがキスしてきた。
今度はさっきよりも長く、優しく何度も吸うように。
ああ、ダメだ。私、何だかやっぱりおかしいのかも。
彼とのキスがこんなに心地良いなんて。
理由も分からず、涙が溢れた。
そっと彼のシャツのウエスト部分を掴んだ。
「……どうして泣く?」
唇を外した彼が、私の顔を覗き込んで怪訝そうに聞いた。
私はただ黙って首を横に振った。
「何でもない」
ラファエルは優しく私の髪を撫でた。
「……弱ったな。まさか泣かれるなんて」
その行動が意外だった。こいつはいつも私の気持ちなどお構いなしな行動を取ってきた。
「今日はもうやめだ。お前は自分の部屋に帰れ」
「えっ?」
それでラファエルは完全に私への興味を無くしてしまったようで、私に背を向けて読みかけの本を読み始めた。
「早く帰れ」
私が戸惑っていつまでもそこから動かないので、焦ったそうに急かし、終いには脅してきた。
「……早く行けよ。でないと本気で襲うぞ?」
私はそれでもラファエルから目を離せない。
なぜ? この場からすぐにでも立ち去りたいのに、足が言うことを聞かない。
どうして、こいつから目が離せないの?
どうして、こいつに触れていたいと思ってしまうの?
それでも動けずにいる私に痺れを切らしたのか、ラファエルは振り返って私を凝視した。
私の同意を得ないまま、彼は私を押し倒した。
ここはベッドの上。やることはもう一つだけだ。
「帰らないお前が悪いんだからな」
ラファエルはそう言って、私にキスをした。
容赦なく舌が入ってきて、私も夢中でそれを受け入れた。
部屋にはただ私達の荒い吐息と、キスの音だけが響く。
彼はふいに私の首筋に噛み付いた。鈍い痛みが熱を帯びて全身を走った。そして私の服のボタンを素早く外すと、胸元に手を滑り込ませてきた。
軽くされる愛撫に、私は思わず溜め息を漏らした。
「もうダメ」
これ以上はダメだ。頭でそう思うのに、体が彼を求めているのが分かる。
「もっと」
ええええっ!! 何言ってるの私は!?
そこでラファエルは一旦体を起こして、自分のシャツを脱いだ。その仕草でさえ、色っぽくて艶めかしい。
完全に何かフィルターがかかっているようで、やばいくらい素敵に見える。いや、元々こいつだって特上のイケメンなんだけど。これ以上ないくらい、最高に見える。
どうしてこうもいい体をしてるんだろう?
均整の取れた綺麗な体だった。痩せてるけど、決してガリガリではない。適度に付いた筋肉が素晴らしい。
こいつなんて、完全にインドアキャラだよね?
ていうか、それどころじゃない!!
私達は一体、何をしようとしてるのか?
こっからは、冷静に客観的にこの事態を見ている私と、ただ彼に抱かれたい私とのせめぎ合いだった。
自分の中で、二つの思いがぶつかり合う妙な事態。
何なのこれ? ただ後者はどうも私が何としても抗えない、本能からくる感情のようだった。
ああ、私の貞操が!!
このまま抱かれてしまったら、さすがにラファエルと結婚することになってしまうのだろう。
漠然と考えながら身を委ねるしかない私は、ただされるがまま。それから先はあっという間で、嵐のようにことが済んでしまった。
ラファエルはさっさとシャワーを浴びに行ってしまい、私は一人ベッドに取り残され、ただ呆然としていた。
とうとうやってしまった。愕然と項垂れる私。
……どうしよう?
よりにもよって、一番あり得ない奴と!!
「……………」
戻ってきたラファエルは無言のまま、何とも気まずそうな目で私を見つめた。
「すまん。今回の件は失敗だったかも……」
「え?」
「吸血鬼に血を吸われたりすると、盲目的に相手を慕うようになる。つまり──」
つまり、いわゆる隷属というものだ。相手を意のままに従わせたり出来るとかいう。
使い魔とかよく分からないけど、なんかそんな類のものだろう。
「あれ? でも私、血は吸われてないよね?」
「……いや、それが」
ラファエルは私の首筋を指差した。
指で触ってみると、確かに違和感が。
そういや、途中で噛まれたような?
「興奮してつい噛んだ。その傷から、お前の血を少量だが吸ってしまった」
「ええっ!?」
だから私は否応なしにラファエルを求めてしまったの?
このかた血なんか吸ったこともないし、吸う気もないって言ってたよね?
この現象はきっとただの発情だけじゃない。
その血の影響も受けてのことだ。
しかし、もうことが済んでしまった今では取り返しがつかない。
私は思わず布団を被って、ラファエルから顔を背けた。
つまり、私はこいつの眷属とやらになってしまったの?
半吸血鬼だから、その効果がないとでも思ってたのだろうか?
「お前に俺の血を与えたことで妙な相乗効果を上げてしまったようだ。完全に俺のミスだ」
ミスだろうが何だろうが、私はこれでラファエルと結婚するしかなくなってしまった。
それともこれは事故みたいなものだから、ノーカン?
「あんたのことだから、予想が付いてたんじゃないの?」
ラファエルは軽く溜め息をつきながら言った。
「全く予想してなかった訳じゃない。でも、本当に寿命を伸ばせればいいと思った。お前に良かれと思ってやったんだ」
何も答えない私に、ラファエルがようやく謝罪の言葉を発した。
「……悪かったよ。お前が可愛く見えて、俺も抑えがきかなかった。ちゃんと責任は取るから、悪く思わないでくれ」
「別に一回寝たくらいで!! 事故みたいなものなら、お互い忘れた方が良くない?」
しかしラファエルは難しい顔をする。
「前にも言っただろ? やれば妊娠するって」
確かに以前、そんなことを聞かされていた。
こいつがそう言うってことは、ちゃんと根拠があるんだろう。
「つまり、私はもう?」
ラファエルは頷く。
「正確を期すなら、妊娠が分かるまで何回かすべきだろうが」
そんな、またするの!?
もうこいつと結婚するしかない以上は、子供を作って寿命を延ばすのが賢明だろうけど。
皆は何と言うだろうか? 実験の一環で勢いで関係をもってしまっただなんて。
「血の効果ってどのくらい続くの?」
少なくとも今、私は冷静だ。
目の前にいるこいつに、どうこうしようとする気なんかさらさらない。
だが、あの時はもう自分が自分でなくなったような感覚があった。
「眷属としてと契約なら、一生だな」
な、何だって!? そうしたら、私はこいつに一生従うってこと?
「俺は完全な吸血鬼じゃないから、実際どうなのか良く分からん」
「うーん」
その晩は結局、私は自室に戻った。
一人になって、今後をちゃんと考えたかった。
正直、ラファエルのことが好きかどうかもはっきりと断言出来ない。ただ、離れているのはどうにも不安に感じたし、重ねた肌の温もりがとても恋しく感じられた。
いつもありがとうございます。
多忙につき、更新ペースが遅くて申し訳ないです。
それと章で分けている為か、最新の章の更新でないと更新履歴にも載らないみたいです(汗
前の章の更新の場合は差し込んで載せてます。
仕様なので仕方ないのですが、更新遅いなーと思いましたら、実は更新されているかもです。目次で確認して下さると有り難いです。
以上、次回もよろしくお願いします。




