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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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40 元上司の告白と図書館司書の謎な正体

 グレース様がお部屋に戻られて、ニコラス様と二人。


「あの、明日いいんですか? せっかくのお休みなのに」


義姉上(あねうえ)に頼まれたらさすがに断れない。それに何せ君のお供だからね。行かない訳にはいかないよ」


 優しい微笑みでそう言われて、私は思わず恐縮する。

 元上司であるニコラス様に、買い物に付き合わせて荷物持ちをさせるなんて恐れ多くて。本当にいいのかなあ?


 普段から忙しい方で、休みも返上で働いてらっしゃるのを知っている身としては、たまの休みくらいしっかり休んで貰いたい気もする。


「それより、良かったらお茶でも飲みながら、少し話をしたいのだが」


「ああ、はい是非」


「じゃあ、私の部屋へ」


 えっ、ニコラス様のお部屋に!? 良いのだろうか?

 いや、ただ話をするだけだし。

 部屋へ向かいがてら彼が言った。


「あ、一応大公家に、ここにいると連絡はしておいたから」


「あ、ありがとうございます」


 アレックスに連絡がいったのだろうか? まあ、兄上もどうせ大公家に戻るだろうし、速攻で迎えが来そうで怖い。


「しばらくうちで預かると言っておいたから」


「え?」


 ニコラス様は、優しい笑みを讃えたままさらっと言った。

 しばらくここに?


「帰りたくないんだろう? だから一人であんな所に」


 私は答えられず、ただ俯く。


「まあ、その辺もゆっくり聞こうか」


 彼の部屋に通され、勧められてソファに腰を下ろすと、ニコラス様手ずからお茶を淹れてくれた。


「ありがとうございます」


 対面に座ったニコラス様は、相変わらず優しげな笑みを浮かべている。どこかのいつもニコニコしている王子とは全く違う、自然な笑顔だ。


「それで、聞いてもいいのかな? どうして帰りたくないか」


「アレックスを傷付けてしまって」


「喧嘩でもしたの?」


 私は首を横に振る。あの話をするのは、自分が浮気者だと吹聴するようで躊躇われたけど、ニコラス様には話さなければならないと思った。彼も夫候補には違いないのだから。


「それが、ユーエンとキスしているのを見られてしまって」


 ──流れる沈黙。

 私はニコラス様を直視出来ない。

 やがて、彼の方がようやく重い口を開いた。


「それは、ユーエンを相手に決めたと?」


「いいえ、まだそういう訳では」


 私はニコラス様に事情を説明した。寿命が迫っている為、相応しい相手から迫られたら拒めないこと、キスされて愛の言葉なりのトリガーが引かれれば、歯止めがきかなくなること。


「子供を産まなければ死ぬ? それは本当のことなのか?」


「ええ、たぶん。兄上には確認していませんが、先代聖乙女をよく知る人物から聞きました」


 彼は厳しい顔をして、腕を組んで考え込んだ。


「この夏の間にどうにかしろと? そんなに深刻な事態なのか」


 私が大公家に戻り辛い理由は、アレックスのこともあるけど、兄上にも会いたくないからで。兄上は、寿命のことを知らない訳がないのに。


「私が優柔普段で、決められずにいるのでいけないんです」


「結婚は一生を左右する。そう簡単に決めれるものではないよ」


 そう言うと、ニコラス様は優しく微笑んだ。

 私は、ニコラス様に嫌われると思っても、正直に話した。

 この人には嘘をつきたくなかったし、ありのままの自分を知ってもらいたかったから。


「本当に自分がどうかしてるようで、あり得ないんです。今日だけで何人も相手にキスをして。……ドン引きですよね」


「そうだね」


 彼はそう言うと、お茶を一口飲んだ。

 否定も擁護もなかった。彼らしいと言えば、そうとも言える。


「こんな浮気な女、願い下げですよね?」


 彼が私と結婚すれば、子供に必ず特性が引き継げるからと、立候補をしたのを知っている。

 他の候補者のように、決して私に好意があった訳ではない。

 元々男として、付き合いがあった訳だし。

 しかし彼から得られた返事は、意外なものだった。


「──いいや、そんなことはない」


「えっ?」


 紅茶のカップを置いて、彼は私をまっすぐに見据えた。珍しいバイオレットの双眸が真剣な光りを帯びる。


「私は君が好きだ。もちろん女性として」


 それは初めて聞く、彼からの愛の告白だった。

 私は思わず呆気に取られて、我を失う。

 聖騎士時代から憧れた理想の上司。もちろん当時は女ではなかったので、ただ単純に同性として尊敬していた人で。


 そして、思い出した前世で一番好きだった人。

 でも、あれはあくまでゲームで、現実の今とはまるで立場も心持ちも違うけれど。そんな人から好きだと言われたのだ。


「……その、まさかそんな」


 私はちょっと取り乱して、思わずカップを倒してしまう。

 溢れた紅茶が両の大腿にかかってしまった。


「熱っ!!」

 

 ニコラス様がすぐさま立ち上がり、私を抱え上げた。


「火傷したか? 跡が残ると大変だ」


 そう言って私をそのままバスルームへと運び、冷水を患部に浴びせた。


「すまない、少し我慢してくれ」

 

 しばらく冷水を当てられた後、スカートをたくし上げられ、患部を凝視された。

 羞恥で耳まで真っ赤になるのが、自分でも分かった。


「ああ、やっぱり赤くなってしまったな。回復魔法を使おう」


 彼は、私の大腿に回復魔法をかけた。

 みるみる痛みがひいて、赤みも取れていく。

 さすが聖騎士団長、回復魔法もお手の物だ。


「ありがとうございます」


「気を付けないとダメだ。すまない、動揺させたのは私か」


「いえ、すみません」


 すっかり火傷は治ったので、彼がその場で着替えを用意してくれた。さすがにこの服のまま、部屋には戻れない。


「私の服で申し訳ないが、ここでメイドを呼ぶのも、……その、少しまずいだろう」


 彼は少し照れた様子で、バスルームに私を残して部屋に戻ってしまった。

 渡されたのは、仕立ての良い肌触り良いシャツだった。

 久々に着る男物の服。それが彼の服だと思うと何だか妙にドキドキした。


 素早く着替えて部屋に戻ると、彼が言った。


「他の候補が君にどう言って、何をしたかは聞かないし、知るつもりもないが、君の事態は話を聞いた限り深刻だ。その、聖乙女に詳しい人物と君の兄も、いや他の候補もか。一度全員で話し合う必要があると思う」


「そうですね」


 ニコラス様の言う通りだった。夫を早く決める為にも、私の事情は全員に話すべきだ。

 だからと言って、すぐ誰か一人に決めるなんて今の私には出来ないけれど。


「……その、君の中で、誰か特別に思う人は本当にいないのか?」


 言われて私はドキリとするも、はっきりとは答えられない。

 思うことを正直に話すしかない。

 この人には安心して話せる気がした。


「あの、本当に皆さん素晴らしい方々ばかりで、私なんかにはもったいないくらいの方達で……。でも私は長らく男として育ちました。自分の中の性もはっきり定まらず、ようやく最近女として自覚が出てきたばかりなのに、まだよく分からないのです。一人一人と向き合うと、それぞれドキドキしたり、好きかもと思ってしまうし」


「まあ、無理もないね。候補者全員が君が好きで仕方がないのだから。誰もが君を得たいと思う。君は混乱するだろうな、選択肢が多過ぎて」


 候補者全員が私を好き? 他の人はともかく、ラファエルに限ってはそれはないような?


「ん? どうした?」


「あ、あの一人は違うと思います。私と結婚すれば王立図書館の禁書が読み放題になるとかで、それが目的だとはっきり言われました」


 ニコラス様はやや驚いた顔をして、少し笑った。


「ふふっ、それは詭弁だと思うよ?」


「え?」


「本音はその彼にしか分からないだろうけど、君に好意がなかったら、結婚なんかしたいと思わないだろう。聖乙女の伴侶は、思ったより難しい立場になる。何より準王族とされるし、その資産やプライベートまでも公開されてしまう。元々王族な殿下達は別だが、君の兄や私、その彼もそうだが、やっぱりそう簡単には受け入れがたいものだよ」


 ──確かに。おそらく公的なイベントにも出席を求められるし、あの面倒くさがりのラファエルにとても向いているとは思えない。それに聖乙女のことを誰より知っているはずの彼だ。そんな身分になるのを知らない訳がない。


「あ!!」


 私はそこで初めて気付く。聖乙女の息子も、また同じ扱いだったということに。彼女が亡くなって、その立場は変わってしまったのかもしれないけど、ラファエルには経験があるんだ。


「どうしたんだ?」


 突然声を上げた私に、ニコラス様は不思議そうな顔をした。


「実はその人、先代聖乙女の息子なんです」


「何だって?」


 ニコラス様は本棚から、一冊の本を取り出す。

 どうも歴代の聖乙女に関する本のようだ。

 手早くページをめくり、何かを確認した。


「先代に息子がいたという記述はないんだが。一体どういうことだ?」


「えっ!? でも本人がそう言ってましたよ?」


 聖乙女の息子だと、確かに言っていた。

 でも先代には子がいないと言う。私は首を傾げるしかない。


 ニコラス様は首を横に振る。


「その彼の名前は?」


「ラファエルです。ラファエル・シェイファー。王立図書館で司書をしています」


 ニコラス様は珍しく渋い顔をしてページをめくり、やがて何かを見つけたようだった。そのページを読みながら彼が言った。


「君の言うラファエルが、本当に聖乙女の息子だとしたら、それは先代じゃない。三代前だ」


 三代前!? そんなの年齢がさすがに合わない。

 三代前なんて、何十年前の人?


「名字が違うが、ここの記述の人物がその彼本人だとしたら、実年齢は今の見た目の年齢の倍以上だろうな」


 ラファエルは私の二学年上だから、二十歳のはず。確かに見た目は少年から青年に変わる、そんな境目な感じだ。


 彼はそのページを私にも見せた。

 三代前が結婚して、息子を一人産んだと記述があった。

 三代前の聖乙女の名前はイヴ。結婚相手はファーガス・クロスビー、息子が一人ラファエルと書いてあった。


「このラファエルと、君の言うラファエルが同一人物ならば、そのラファエルはきっと普通の人間ではないのだろう。君の夫候補だと言うのなら、なおさら早く会わないといけない」


「何かの間違いでは? きちんと図書館に勤めている人ですよ?」


 ニコラス様は、口元に手を当てて考え込んだ。


「明日、早速図書館に行き、とにかく彼に会ってみよう。本人から話を聞かないことには何とも言えないし」


 聖騎士団長の立場として、普通の人ではないかもしれない人物を放ってはおけないのだろう。


 ラファエルは一体、何者なのだろう?

いつもありがとうございます。


なんとか40話まできましたが、まだまだ本編は続きます。ラブコメなのになんか設定重い! あと風呂敷広げすぎたー!! と早くも頭を抱え気味ですが、何とか頑張りますのでよろしくお願いします。


それにしてもニコラス氏は紳士だなぁ。


次回もよろしくお願いします。

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