33裏 作戦の実態
33話の作戦中のお兄さん視点の話です。
ジーンを何とか宥めて帰らせて、僕は今夜の作戦の為に、入念に準備に取り掛かった。
この作戦は必ず成功させねばならない。
万が一にも失敗すれば、僕の命もないだろう。
仮にも一国の国王を、女装してだまくらかそうだなんて、もしバレたら八つ裂きにされたって文句は言えないだろう。
しかし、この役目をジーンにやらせる訳にはいかない。
あいつは変なところ真面目で、要領が悪い。
僕は、常日頃から懇意にしているメイド達に、メイクから髪のセットまで、完璧に整えて貰った。
彼女達の協力はこの作戦には不可欠だ。
「本当にジーン様にそっくりです。まるで双子ですね」
「目元のホクロはコンシーラーで消しときましょうね」
メイド達は、むしろ率先して手伝ってくれた。
新しく配属されたメイド達をシャットアウトしてまで、ジーン付きのメイド達は良くしてくれる。
「さすがに身長は誤魔化せませんね、でもジーン様も女性にしてはかなり高いので、そんなに気にはならないかと」
それくらいは部屋を薄暗くしとけば、ある程度は平気だろう。
どうせ、座って酌をするくらいだろうし。
鏡に映る僕は完璧にジーンの顔だ。
何だか妙な気分だな? 自分の顔に惚れ惚れするなんて。
夜も更けて、いつ陛下が見えてもいいように、僕はワインとグラスを用意した。例の薬もいつでも仕込めるように胸元に忍ばせてある。
あとは実際に来るのを待つだけだ。
具合が悪いことは伝えてあるが、そんなのあのエロジジイに通用する訳がないだろう。
僕のジーンに手を出そうだなんて、腹わたが煮えくり返りそうだ。婚約? マジふざけるな。絶対に許す訳にはいかない。
この件がうまくいったら、ジーンに何としてでも結婚を承諾させないと。誰も選べなかったら僕と結婚すると約束はしたものの、あいつらは全員抜け目がない。先に手を出されでもしたら、ジーンのことだから、そいつに流されそうだ。
特にマックス王子は危険だ。
あいつはやる。そのうちやる。
「ユージェニー様、陛下がお見えです。いかがなさいますか?」
いかがなさいますか? って言うけどさ、結局、僕に断る選択肢なんかないんだろ?
「入って頂いて」
喉を絞るように裏声で答えた。
「具合が悪いと聞いてきたが、大事ないか?」
僕は立ち上がって、深くお辞儀をして陛下を迎え入れた。
「色々ありましたので精神的に疲れたようです。風邪をひいてしまいました」
「酷い声だ。どれ、熱を測ろうか?」
結局触ろうとするのな。
「あまり近付いては! 陛下に風邪を移したら大変でございます」
すかさずそう言って、体を離す。
ジーンなら、この場合簡単に捕まってしまうんだろうな。
「そなたに移されるなら、本望だ」
うへ!! こういう所、マシュー王子にそっくりだ。
「それより、お酒でも召しになりませんか? 良いワインを頂いたのです」
僕はすかさずワインを用意する。陛下に背中を向けて、見えないようにして例の薬を仕込んだ。
陛下はソファにどかっと腰を下ろした。
「では、頂くとするか。こちらへ持ってきてくれ」
僕は陛下の隣に座って、ワイングラスを差し出した。
「どうぞ」
彼が飲み干すのを、しっかりと見届けて、僕は一息ついた。
即効性と聞いているから、すぐ効果が、あれ?
「それにしても、今日のそなたは昨日よりも大人びてるな」
そりゃあ、昨日とは別人だからな。
まだ効果が出ないぞ?
「そなたは本当に綺麗な顔をしているな。私の初恋の人にそっくりなのだ」
なるほど。それでずっと独身だったのに、とうとう再婚する気になったのか。
「もう一度、その顔の娘と巡り会えるとは、これはきっと運命なのだ」
「その方とは、どうなりましたの?」
「彼女が年上だったので、結婚が認められなかったのだ。だが、ずっと心残りでな。辛いことに、彼女は若くして亡くなってしまった」
おおい、まだか! ひょっとして、薬足りなかったのか?
「今宵はそなたが慰めてくれ」
そう言って、陛下は僕を自分の方へ引き寄せてきた。
「いけません! 風邪が移ってしまいます!」
ドーンと少し力を入れて、突き飛ばしてやった。
陛下は後ろにひっくり返った。しまった。やり過ぎたか?
「なかなか元気ではないか?」
懲りてねえ!!
「さすが聖騎士なだけあって、力も強いのだな。ますます気に入った! 可愛がってやろう、こっちへ来い」
つうか、なんかもう酔っ払ってきてるぞ、これ。
おい薬は? そっちの効果はまだか?
腕を掴まれて、強引にベッドへ引っ張られる。
うーん、もうこれは殴ってもいいのか?
「陛下、お戯れはおよしになって下さい!」
一応、ベッドに押し倒されて、抵抗を試みる。
ここで辞めてくれたら、殴らない。辞めないようなら、殴る!
「まだ結婚前です。結婚までは清い体でいたいのです! バージンロードは清い体で歩くのが夢なのです。 どうか、どうかお願いです!」
わざとらしく泣いてみる。
「では、最後まではしないことにする。だが、その綺麗な体は見せてもらうことにしよう」
もうこれ、殴っていいよな?
僕が殴ろうと身構えた時だった。
誰かが、陛下の体を後ろからガッと掴んで、僕から引き離した。
「!?」
「父上、ジーンに手を出すのは辞めてください!」
マックス王子!?
何しに来たんだ?
「私はジーンを愛しています。それが、たとえあなたでも彼女を譲る訳にはいかないのです。彼女も、私を愛しているのですから!」
おい、そんな話聞いてないぞ!?
「何だと? そなた達、既に愛し合っているのか?」
「ジーンは、王太子妃の座に気後れして、なかなか結婚に首を縦に振ってはくれませんでした。しかし、彼女の心は既に私のもの、私は彼女が勇気を出すのを、待っていただけなのです」
くそっ! もうここは、マックス王子に合わせるしかない。
「そうなのです! 私はマクシミリアン殿下をお慕いしております。彼を愛しているのです。ですから、陛下とは結婚出来ません!!」
そう言うと、マックス王子は僕を引き寄せて、そのままキスした。仕方ないので、僕もそれに応える。
何が楽しくて男同士でやらないとだめなんだ?
つうか、舌を入れるな!!
陛下は僕達のキスシーンを、最前列で眺める羽目に。
「そういうことなので、私達は失礼します。婚約を破棄して頂かない限り、帰りませんので」
そうして僕達は、二人仲良く手を繋いで、堂々と部屋を後にした。
廊下を突き進むと衛兵達が立ちはだかって、僕らを止めようとする。
「殿下、なりません!」
「そこをどけ!」
「通して差し上げろ」
ニコラスが悠々と現れ、衛兵達を止めた。
「悪いな、ニコラス」
「いいえ」
にこにこ柔らかな笑みを浮かべているが、こいつは腹の底で今、絶対に大爆笑してることだろう。
聖騎士団長の癖に、率先して僕達に協力するなんて。こいつもジーンが好きなのは分かってるんだ。
ジーンは鈍いから気付いてないみたいだけどな。
僕達は馬車に乗り込む寸前まで手を繋いでいたが、乗り込んだ瞬間、パッと手を離してお互いそっぽを向いた。
こいつにまんまとしてやられた!!
後で陛下の前で愛を誓い合ったからと、ジーンに迫りでもしたら、背後から闇討ちでもしてやろうか?
僕達はそれから大公家に着くまで、一言もお互い喋らなかった。
いつもありがとうございます。
これがやりたかったネタです。
くだらなくてすみません!!
これからもこんな感じでアホな話を投下するかもしれませんが、生温かい目で見てやって下さい。
次もよろしくお願いします。




