34 私を巡って三人とも譲らない件
待ちに待った翌日、いよいよ大公夫妻が戻られるということで、朝から屋敷の中は慌ただしかった。
私達は朝食を済ますと、王太后様と大公夫妻を港まで迎えに行くと言うアレックスとユーエンを見送って、彼らが戻るまで時間を持て余すことになってしまった。
私は、食後のお茶を淹れながら、隣にいた兄上に聞いてみる。
「何かするにも落ち着かないし、何してよう?」
「何時くらいに戻られるのか、それもはっきりしないしな」
王太后様達と連絡が取れないので、今日こちらに到着するのは間違いないのだけれど、こちらに戻られるまで気をもむしかない。
「暇だし、四人で遊ぶか?」
そう言い出したのは、マクシミリアン王子で大概何かやるにも言い出しっぺはこの人だ。
「ジーンと二人で何かするなら、歓迎だけど」
兄上は今朝の新聞を読みながら、間延びする声でそう答えた。
「マヌエルの意見に同意だ」
マシュー王子が紅茶を飲みながらそう言うと、
「そんなこと言いだしたら、私だってそうだ」
マクシミリアン王子もふくれっ面でそう返した。
結局、私と二人で何かしたいというのは、全員同じ意見みたいだ。
私は思わず溜め息をつく。
「じゃあ時間を決めて、交代でお相手しましょう」
ここで、誰か一人優遇したら、きっと喧嘩になって面倒くさい。
「ただ、アレックス達がいつ頃戻るか分からないので、順番は公平にじゃんけんで決めて下さい」
それで兄上達三人はじゃんけんで順番を決めた。
マシュー王子、マクシミリアン王子、兄上の順だ。
「一人、三十分な!」
そう決めたのは兄上で、順番的に一番ハズレだからか非常に機嫌が悪い。
一方で一番手となったマシュー王子はご機嫌だ。
早速私の手を引いて、屋敷の外へ向かう。
「何をするんです?」
「庭を散策しよう」
彼に手を引かれて、大公家の広い庭へ出た。
四季折々の花が植えられていて、丁度初夏になろうとする今は、数々の薔薇を始め、芍薬といった大きめの花や、紫陽花なんかも植えられていた。私は花には詳しくないので、あまり分からないが、なぜかマシュー王子は花に詳しくて、色々説明しながら教えてくれた。なんと花言葉まで知っていて、私は舌を巻いた。
そういえば城にいた時、毎日欠かさず部屋に花を届けてくれていたりした。あんまり気にしてなくてごめんなさい。
兄上や兄君のマクシミリアン王子と手を繋ぐことは最近多いので、それは別に抵抗はない訳ではないけど、自然と恋人繋ぎにされてしまって、やっぱり少しは照れる。
三人の中で、彼は一番年下だけれど私の二つ上だ。
やっぱりエスコートは完璧だし、いちいち女性の扱いがどうも手馴れていて、こちらが気後れしてしまう。
「そういえば、肩の傷はいかがですか?」
「すっかり大丈夫だよ、跡は残ってしまったが」
そう言って彼は少し笑った。う、私のせいなんだよな。
王子様の体に跡の残る傷を負わせてしまうなんて。
「今、自分が悪いと思ってるだろう? だったら責任を取ってもらおうかな?」
そう言われると何も言い返せない。
「ふふ、冗談だよ。そんなんで君に無理に結婚を迫ったりはしない」
そして薔薇のアーチの小径を抜けると、広い池があって、そこにはスイレンがまばらに咲き始めていた。まだちょっと盛りには早そうだ。
私達は池の脇を少し歩いてベンチを見つけると、そこに並んで腰掛ける。ぴったり私の頭を引き寄せて、耳元で囁いた。
「父上なんかに奪られてたまるか」
そのまま、顎を動かぬように固定されてキスされてしまった。
やっぱり彼は手が早い! しかもキスが上手くて、一瞬で何だか脳が溶けそうな感じがする。
「いけません!!」
私はまだ婚約破棄がされない限りは、国王陛下の婚約者だ。
ていうか、私、最近キスされまくりだ。
兄上にも言われたけど、本当に何人とやってるんだ?
「ジーン、本当に好きなんだ。愛してる」
私を見つめる淡いペールブルーの瞳は、切なさの色が浮かんでいて、何とも言えない気持ちになる。
「私のどこがそんなにいいんでしょうか?」
「うーん、やっぱり一番は顔」
即答だ! そう言えばスターリングも顔だと断言していた。
「もちろん、顔だけじゃない。君のその真面目な所や、慎ましい所、照れ屋な所、そのすらっとしたスタイルも好きだ」
こちらが照れて赤面するくらい、すらすら挙げられて、彼は本当に女性を口説き落とすのが慣れているんだと実感させられた。
「君という存在が、どうにも愛しくてたまらないんだ」
ああ、そうなんだ。やっぱり好きになったら、どうにもならないんだ。好きな所はいくつか挙げられるけど、理由じゃないんだ。その人でないとダメだとなぜか分かる。まるでパズルのピースがぴったりはまるような。
私にはそんな人が見つかるのだろうか?
この目の前の人なのかもしれなかった。
恋はするものじゃなくて、落ちるものだと言うけれど。
「なぜ、あの時私を庇ったのですか?」
「分からない。気付いたら、勝手に体が動いていた。理屈じゃ説明出来ないな」
そう言って、彼は少し自重気味に笑う。
「それにしても、殿下は私が女だとすぐ見破りましたよね」
それは常々聞いてみたいことだった。彼は初見で私の性別を見破ったのだから。
「まあ、アレックスの事情を知っていたからね。あの子が婿を取って結婚すると聞いて、随分と驚いたから。偽装結婚かと思ったら、相手がなんと君だという。顔を見て、なぜか心惹かれた。まさかと思った。線が細いというか中性的というか、勘というか直感?」
「直感て」
「私は男にはまるで興味がない。その私が心惹かれた相手ということは、女性でしかありえないんだ」
相変わらず、すごい自信だ。
「それにしてもこれと決めた女性が聖乙女で、まさか父上や兄上と競うことになるなんてなぁ」
彼は腕を組んで、ちょっと渋い顔をした。
「そういえば、マクシミリアン殿下は、あんまり浮いた話を聞かないんですけど、なぜですか?」
そういう話を聞かない人なのに、私に対する扱いといい、どうも手馴れた気がして、不思議だったからだ。
「それは私に対する嫌味なのかな? 兄上はああ見えて、遊んでる。もみ消すのが上手いだけだ」
もみ消す?
私が首を傾げて、詳しく話を聞こうとすると、
「はい、そこまでーー!!」
「!!」
突然、ベンチの裏から噂をしていたマクシミリアン王子が現れて、話を遮ってしまった。
「兄上、空気を読めよ」
「すまないね、もう交代の時間だ」
そう言うと、彼はにこにこしながら私の手を取った。
「おいで、行こう」
不満そうに見送るマシュー王子をよそに、マクシミリアン王子はご機嫌だった。
「私の話をしてたね? 私に興味があるのかな?」
「まあ、そういうことにしときます」
「本当に? これは嬉しいなぁ」
彼もすかさず、手の繋ぎ方を恋人繋ぎに変えた。
王子様方はこの手の繋ぎ方、好きだよな。
「マヌエルがどこで見てるか分からないから、ちょっと隠れようか?」
兄上が? いや、あなたも私と弟君を結局尾行してたんじゃ?
でも兄上ならやりかねないな。きっとどこかで見張ってる。
私は辺りをきょろきょろと見回した。
「ははは、そんなにマヌエルの目が気になる? 私はむしろ見せつけてやりたいけど?」
マクシミリアン王子は、花々には目もくれず、早歩きで庭園を抜けて小さな小屋に辿り着いた。
「ここは?」
「庭園管理人の小屋だね。中のオジさんなら留守だよ」
なんで知ってるんだろう? まさか根回し済み!?
私達は小屋の中に入り、まさに密室に二人きりになる。
この広い庭園を維持する為に、管理人用の休憩場所を兼ねた小屋だ。部屋は六畳ほどの広さで、二人がけのテーブルと椅子、暖炉にはお湯が沸いていた。そして二人で余裕で乗れそうなハンモックがかかっている。
なんかもう色々準備してあるような? 気のせいかな?
「少し歩いて喉が乾かない? お茶でも淹れよう」
「あ、私がやります」
私がお茶を淹れようと、彼の前を横切ろうとしたその時だった。
体を肩に担ぐように抱え上げられて、そのままハンモックの上に乗せられてしまった。
「殿下!?」
「ふふふ、これがやりたかったんだ」
そのままハンモックに彼も上がってきて、大きく揺れる。
「わあああ」
バランスを取る為、思わず彼にしがみつく。
彼はそのまま私を抱き寄せたまま座らせ、隣に沿うように自分も座った。
「今日はイチャイチャしよう?」
「しません!!」
完全に狙ってたな、これ。
なんだかマシュー王子の言ってた、彼が遊んでるがもみ消すのが上手いという意味が。
彼は計算済みで、用意周到なんだ。それは後処理まで全て込みで。
「そう拒絶しないで。前に言ったろう? 君のことが本当に好きだと」
言われてドキッとした。
「なかなか二人きりで過ごせないから、ちょっと手を回しただけだ。それだけ真剣なんだよ、分かってくれ」
彼の綺麗なエメラルドグリーンの瞳は真剣そのものだった。
いつものふざけた雰囲気はまるで消えていた。
そのまま見つめあって、彼はゆっくり私にキスをする。
まさか兄弟二人とも、同じ日にキスするなんて。
そして私はなんで、抵抗出来ないんだろう?
なんでいつも受け入れてしまうのだろう?
私はひょっとして彼が好きなのか? 頭の中で様々な思いがぐるぐる浮かぶ。
彼が満足して離してくれるまで、私はずっとされるがままだった。
「このまま、連れ去ってしまいたい」
ぎゅっと抱き締められて、私はたまらない気持ちになった。
このまま彼と一緒になりたい。そんな気すらした。
「殿下」
今度は私からキスした。首に手を回すと、彼は私のキスを受け入れて、そのまま私を優しく押し倒した。
「ジーン、愛してる」
頭の中で、何かが鳴り響く。
この行為に対する肯定なのか、否定なのか。
彼とキスを交わしながら、私は何も考えられなくなってきていた。
その時、外から何やら声が聞こえた。
「ジーン!!」
私は一気に正気に戻される。
「ジーンどこだ!?」
あ、兄上!?
「もう、時間切れか」
王子が体を起こして、窓の方を眺めた。
私は慌てて体を起こして、ハンモックから降りた。
小屋のドアが開いて、兄上が私達を見つけた。
「こんな所に連れ込んで。殿下も人が悪いですね」
兄上はどう見ても怒っているようだった。
一方の王子は、兄上をからかうような口ぶりで、
「それは兄としての発言か? それとも彼女を巡るライバルとしての苦言か?」
兄上は溜め息をついて、私を自分の方へ引き寄せた。
「両方ですかね? とにかくもう時間切れですので、ジーンは連れて行きます」
いつも読んで下さりありがとうございます。
今回は、最近足りなかったイチャイチャ回になります。
贅沢にも三人とも!!
お兄さんだけ尺足りなかったごめんなさい。
と言う訳で次回に雪崩れ込みます。
それにしても本編中の主人公は側から見ると浮気者ですね。設定上、仕方ないんですが。
他のキャラとも今後あります。やります。
まだあんまり絡んでない人とも。
また次回よろしくお願いします。
P.S 評価&ブクマありがとうございます!
本当に励みになります。ご期待に添えるように精進して頑張ります!




