第16話。繋がり
久しぶりの投稿になってしまい申し訳ございません。
ミルカが街に戻って来たが、身体中は血だらけで気力だけで歩いてきたと言う感じであった。
街の門を潜るなり、ミルカはすぐに倒れた。
早朝武器屋のおじちゃんが、早朝の散歩で見つけ死んでいるかと思ったが息があったので取り敢えずFHの宿へと駆け込んだ。
「大変だ!開けてくれ!ミルカが死にそうだ!」
その声を聞き真っ先に扉を開けたのはフィーであった。
まだ早朝の3時と言うのにもかかわらず、本日の朝食の準備と今後喫茶店を並行してやろうという試みのため朝から試食を作っていたのだった。
「よいしょ・・・よいしょ・・・」
(はぁ重たい。お兄たんが死にそうなのは分かるけど重たい・・・)
フィーの力では大きな扉を開くのは結構な苦行であった。
扉が開くと同時に、武器屋のおじちゃんがミルカを床にどてっと置いた。
フィーの叫び声により、宿に住んでいるファン(信仰者)とミーセルとおじさんがすっ飛んできた。
「フィーちゃん!見ちゃダメ・・・」
ミーセルお姉たんがとっさにフィーの目を覆うが、頭上から大粒の雨が降り注ぎ始めた。
フィーはゆっくりと手をどけると、ミルカの治療を始めた。
「おいおい・・・5柱の序列3位のミルカが死にそうだぞ・・・?」
「なんちゅうクエスト依頼したんだ?」
「確か毒沼に棲む亜竜討伐とか聞いたぞ?」
「俺は水神の蛇討伐って聞いたぜ?」
「おれは蛇の大群の討伐って聞いたけどな?」
「もしかしたら全ての依頼の同時並行でこなして来たのか?」
「いや逆じゃ無いか?同時並行でこなせって命令だったんじゃ無いか?」
珍しく宿に棲む冒険者たちは鼻水に浸された脳みそをフル回転させて一つの結論を導き出した。
フィーが診療を始めると、身体中のいたる細胞から導き出された答えとその結論は中々的を得ていた。
「フィーちゃんどう・・・?」
「お姉たんキッチンに置いてある縦長で細い青い瓶を持ってきて。」
「分かった・・・」
ミーセルは走って青い瓶を手に持ちフィーに渡すと、フィーは瓶を開けるなり自分の口に含み、口移しでその液体を飲ませた。
「羨ましい!」
「あぁ俺も瀕死の重体になりてぇ・・・」
「俺はおでこにキスでもいい・・・」
「いやいやディープなキスも捨てがたいだろう!」
「いやそれは高望みすぎだ!フィーちゃんもふもふしたい!」
「俺は髪をくんかくんかしたいな!」
「きも・・・」
「まじきも引くわ・・・」
「死ねよ」
「えっ・・・」
信仰者達が降らない口論をしている間、ミルカの傷がたちまち塞がり始めた。
ミルカが目を開けた瞬間目の前にフィーの顔があり、唇が奪われている事を脳で認識するまでに15分かかった。
その間目を閉じてずっと目が覚め無いフリをしていたところミーセルに頭をしばかれて、起き上がった。
「痛いなミーセル姉!」
「心配したんだからもう!」
「いやもう死んでも悔いは無いだってフィーちゃんの唇がえへっ////」
ミルカが唇を触りながら何やらえっちな妄想を浮かべていると、フィーが顔を赤くしながらうずくまってしまった。
そのしゃがんだワンピースの中をミルカが覗くと純白の(ry
「えへっじゃ無いわよ!」
「まぁまぁいいじゃ無いか。死なずに住んだのだから・・・。取り敢えず朝食にでもしようか?寝たい人はもう一度寝なさい起きる人は朝食の準備をするよ」
その瞬間恥じらっていたフィーがキッチンへと駆け出し、両手を広げて入っちゃやーや!と駄々を捏ねた。
だが遠目から視力の良い冒険者が、試作品の料理を作っていると分かるなり、歓喜の演舞を踊り始めた。
まるで見れたものではなく、いっそぶち殺したいと思うほど酷いものだったそうだ。
しぶしぶフィーが試作品のクッキーと紅茶をゆらゆらとしながら、テーブルへと運ぶと男達はその愛らしさに震えた。
そしてクッキーを食べるなり冒険者達は次々と難易度が高いクエストをクリアして帰ってきたと言う。
後にこのクッキーを勝戦のクッキーセットと呼ばれまた商売繁盛に繋がったと言うのは言うまでも無いことであった。
当然ミルカの瀕死から蘇生したその薬を求め訪れる客も少なくは無かったが、その薬は以前冒険者達の1人が差し出した貢物の一つのエリクサー紛いのものだった。
それをフィーが高濃度圧縮し培養しただけの事であった。
だから1から作れるわけではなく、もうエリクサーは存在しないと言うと皆冒険者達は落胆して去って行ったと言う。
クエスト斡旋所でボロを顔から足まで纏った男が、クエスト遂行の意を伝える為に真っ赤な赤紙を受付嬢に差し出した。
「少々お待ちください。ギルバート様」
周りの冒険者達はざわざわと小汚い奴が現れたと文句を言い放っていた。
歩くたび体から砂がこぼれ落ち、床に散乱するのはまるで何処かの砂漠地帯でも歩いてきたと言わんばかりであったが・・・
そんな大陸はこの世界には“存在しない”のであった為ただの放浪者だと冒険者達は思っていた。
受付嬢が焦って戻って来ると換金所へと案内を始めた。
そしてこっそり、ギルドマスターがお呼びですと耳打ちをした。
皮袋にこれでもか!と詰め込まれた金貨を受け取るとギルドマスターの居る部屋へとノックなしで入室した。
「相も変わらず、ノックなしとはガサツな女だね」
「ふっ笑わせる。毎回毎回訳のわからぬクエストを依頼しやがって命がいくつあってもたらねぇんだよ」
「まぁそう言うな。物は何処に?」
冒険者とは言い難いスラッとした体型に普通の服を着こなした中年の男性が、渋い声で椅子に座りながら話しかけてきた。
「いつもの空間に入れてある。好きに引き出せ」
「それなんだが前回のモンスターは半殺しだったろ?あの空間で生きてやがって、俺が止めを刺す羽目になったんだ。回収人が6人死んだんだぞ?」
「それはそれは・・・仕方ないね」
「はぁ・・次の依頼はまた難易度が高いと思われる。お前でもな・・・。だから少しこの街で休んで行け」
「あぁ丁度良いお店がある。最近開店した?いや前からあったんだが最近繁盛し始めた分かりづらいところに店を構えている、FHって宿がある。予約は特別に取っておいた行ってこい」
「なぜ私が行かなきゃならん」
「そこの少女の占いや洗礼、料理を食べれば祝福を受けどんな高難易度のクエストでも攻略できるそんな眉唾物の伝説があるのさ。お前に死なれちゃこっちも困るんだ。
それにその少女の飯は、絶品も絶品らしいぞ?」
「・・・気が向いたら行ってやるよ」
「ミルカも居るぞ?」
「ピクッ」
「ハハハッだけどミルカは前回の依頼で瀕死の重体を負った。それを助けたのがFHで有名な少女だ。一度足を運んでみろ」
話が終わると部屋を後にしたーーーーー。
「確か住所は・・・確かに分かり辛いな」
人の思考を裏手に取ったような場所に宿はある。
一度訪れればその者は幸運だろう。
何故かってそこは人生の幸福を集めた場所だからさ?
FHに向かう途中に噂話として広まっていた話であった。
ギルバート通称ギルがやっとの思いで宿に着くと疲れ切ったその顔で扉を開いた。
扉を開けた先は楽しく笑い、楽しく踊り、音楽と酒が溢れていた。
そこは疲れ切った戦士たちの休息の憩いの場体に無数の傷から血が滲み出るものすら、踊り酒を飲んでいた。
ギルは自分は場違いだと扉を閉めようとした途端背後から声をかけられた。
「おねえたんおねえたん、いっしょにはいれば怖く無いよ?」
(馬鹿な・・・この私が気づかない・・・とは)
そこには白い肌に幼い姿の少女がいた。
まるで天使のような悪魔と表現すれば良いのか?
美しすぎて、この世の者とは思えない・・・洗練された姿であった。
「私は・・・」
「くんくん・・・くんくん・・・」
少女が身体中の匂いをくんくんと嗅ぎ始めて、少し戸惑うギルであったが少女は笑顔で、頬を赤らめながら裏口へと案内をした。
「なんだそんなに急いで!」
「魔物くさい!おねえたんいいにおいなのに!だめー!」
最近戦い詰めでろくにお風呂に入っていなかったギルは少し反省したが、体臭には最大限気を配っていた為魔物の匂いなどするはずがなかった。
裏口へと案内をされ、振り解けないぷにぷにでか弱い華奢な腕に案内されながらお風呂へと導かれた。
少女とお風呂に入る時間は魅惑であった。
まるでとろけてしまうような古傷が癒えはしないがまるで癒えていくかの様に・・・。
妹ができたらこんななのだろうなと想像を膨らませながらひと時を過ごした。
「おねえたんきれい!」
「・・・恥ずかしい・・・\\\」
鏡に映るのは絶世の美女。
フィーと並べばまるで姉妹である様に見えるほど美しく気高い高嶺の花。
ギルは少女といると不思議と話が進みなんでも話していた。
まるで魔法にでもかかっているかの様に・・・。
宿の方ではミルカが探し回っており、手がつけられなくなっていた。
そんななか、裏口から美女と現れたフィーにミルカが愕然とした。
「師匠⁉︎」
「ミルカ・・・見るな!恥ずかしい・・・」
「これまた綺麗になって・・・フィーちゃんとなんで一緒に?」
「色々あってだな・・・」
「まぁ良いや宿の予約入れてますよね師匠?ってうるせーぞお前ら!」
「おっ美人だ!それに女神が戻ってきたぞー!」
「はははフィーちゃんは妖精だと何度言ったら!」
「いやいや、フィーちゃん以上の美人はいねぇや!」
冒険者達のどんちゃん騒ぎが勢いを増して強くなった。
ギルはフィーが用意した黒いドレスを着こなしていた為、冒険者にとても好かれ身動き一つ取れない状態へと陥った。
フィーはキッチンへと戻ると一度だけ小さなため息をついた。
(繁盛するのは良いけど、酒臭いのはヤダヤダ・・・)
それから閉店時間まで冒険者達は一時の休息を心行くまで楽しんだという。