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落とす

一九八一年(昭和五十六年)十一月二十七日(金)

午前一時十二分。

福島第一原子力発電所 一号機中央制御室。


 六名。


 本来、十名。


 副当直長は椅子に手をついている。

 微熱。顔色が白い。


 主機操作員が言う。


「再循環、振動増加」


 タービン側。


「給水圧、微減」


 当直長が画面を切り替える。


 圧力、基準内。

 温度、基準内。


 基準内。


 だが、振動が消えない。


 黄色のランプが点く。


 今度は短くない。

 消えない。


 GEのフィールドエンジニアが、電話越しに言う。


『I can check the parameter. But I cannot sign.』


 設計元。

 助言はできる。

 責任は取れない。


 責任は、ここにいる六名が背負う。


 院生が言う。


「減衰が……負側に入りかけています」


 声が小さい。

 だが、切れない。


 副当直長が言う。


「まだ基準内だ」


 院生の視界が、一瞬遠くなる。


 もし、落とさなければ。


 再循環が落ちる。

 冷却材が追いつかない。

 燃料が露出する。


 白い被覆管が、赤くなる。


 写真でしか見たことがない色。


 町。

 海。

 学校。


 地図がよぎる。


 それは現実ではない。

 だが、現実の先にある。


 彼女は戻る。

 画面へ。


 壁際のOBが言う。


「言え」


 院生は息を吸う。


「このままなら、持続振動に入ります」


 沈黙。


 当直長は電話を取る。

 官邸。


 小坂の声。


「人数は」


『六名です。本来十名です』


「落とす判断は」


『基準内です』


 小坂は短く言った。


「規定は後で責任を取る。今は落としなさい」


 その言葉は、命令ではない。

 責任の引き受けだった。


 当直長が叫ぶ。


「手動スクラム!」


 制御棒挿入。

 振動停止。

 圧力低下。

 静寂。


 午前一時十七分。


 原子炉は止まった。


 未然回避。


 歓声はない。

 誰も勝利と言わない。


 副当直長が椅子に崩れる。

 三十八度八分。


 “守った”直後に、“削られる”。


 院生はノートに書く。


 延命一日目。


 主任席は、まだ空いている。

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