表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/55

国家は何でできているか

一九八一年(昭和五十六年)十一月八日(日)

議員会館。日曜の午後。


 廊下は静かだ。


 石本茂は一人で机に向かっていた。


 机の上に並ぶ紙。

 医療報告。

 国債利回り推移。

 欠席率試算。

 電力運転員不足。


 断片。


 それぞれは別の問題に見える。

 だが、彼の頭の中では一本に繋がっていた。


 石本は白紙を引き寄せる。

 ゆっくりと書く。


 国家は、何でできているか。


 法律か。

 憲法か。

 予算か。


 どれも正しい。

 だが足りない。


 彼は続ける。


 国家は、人で動く。


 医師。

 技術者。

 議員。

 官僚。


 誰かが欠けると、穴ができる。


 一人では問題にならない。

 一割で揺れる。

 三割で臨界。


 彼は、三割の紙を思い出す。


 三割は法的には問題ない。

 だが機能は落ちる。


 つまり――

 国家の継続は、制度ではなく“機能”の問題。


 石本は初めて、その言葉を書く。


 国家継続


 災害でもない。

 戦争でもない。


 だが同じ問いが立つ。


 人が減るとき、

 どうやって機能を維持するか。


 石本は立ち上がり、窓の外を見る。


 国会議事堂。

 まだ灯りは変わらない。


 だが、中身は薄くなっている。


 彼は机に戻り、続けて書いた。


 国家継続とは、

 代表・財政・医療・インフラを、

 臨界前に再編する仕組み。


 再編。


 それは権力の集中ではない。

 機能の優先順位をつけること。


 医療を守る。

 電力を守る。

 議事機能を維持する。


 すべてを守ることはできない。

 だが優先順位を誤れば崩れる。


 ノック。


 秘書が入る。


「何を書いておられるのですか」


 石本は紙を伏せた。


「覚え書きよ」


 まだ発表するものではない。

 理論は、形になる前が一番脆い。


 石本はゆっくり言う。


「国家は、止めてはいけない」


 秘書は黙る。


 石本は続けた。


「止めないために、

 何を止めるかを決める」


 それが国家継続。


 すべてを平常通りに保つことではない。

 臨界前に、構造を変えること。


 彼は紙を畳む。

 まだ誰にも見せない。


 だが今日――


 国家継続という言葉が、

 初めて彼の中で輪郭を持った。


 それは権力の野心ではない。

 恐怖から生まれた理論。


 三割に行かせないための、最後の防衛線。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ