第27話 池島炭鉱跡と将来
翌日。
彼女たちは長崎の宿を出発。
西海市方面へ向かう。
池島は、長崎の北、西彼杵半島の沖合7キロに浮かぶ小さな島で、現在の人口は、たったの130人。
ただ、最盛期には7700人を超える人口がいたという。
池島に渡るには、北にある神浦港か、南にある瀬戸港からフェリーで渡ることが出来ると言う。
瀬戸港は、時間的に間に合わなかったため、彼女たちは南にある神浦港からフェリーに乗ることになった。
行ってみると、10時30分発のフェリーがあり、およそ30分弱で池島に着くということがわかった。
乗船料にバイク代を含めても、料金は片道1000円もいかない料金だった。
そして、
「何、これ」
「巨大な生簀だな」
神浦港で船を待つ間、港の隣にある漁協の直売所に足を運ぶと、そこには巨大な生簀があり、新鮮な魚が放し飼い状態になっていた。
伊勢海老、岩ガキ、ヒラメ、ブリなど新鮮な魚が泳いでおり、網ですくって捌いてくれるらしい。
さらに、食べやすいように刺身用の切り身も売っていたので、朝食を食べずに出てきた彼女たちは、早速ここで刺身を購入して食べることになった。
「美味しい!」
「さすがに新鮮ですねー」
「これは美味いな」
結局、食べているうちに船が来て、慌ててバイクで船に乗り込むことになった。
比較的小さなフェリーだったが、それでもこの船は、大型バイクまで乗れるらしく、750cc以上の表記まであった。
その日も晴れて、絶好のツーリング日和であり、暑いながらも海上に出ると、海風が心地よい、いい日和だった。
海上からは、すぐに島が見えてきたが、甲板から見ると、早くも巨大な炭鉱の跡が見えてきた。
大きなクレーンや石炭の積み出しに使われたと思われるレーンが見えたり、彼女たちの眼を楽しませてくれるのだった。
やがて、接岸。
待合所は、小さくて可愛らしい建物だった。
池島に上陸すると、「池島と炭鉱」という看板が見えてきた。
そこに色々と説明書きが書かれてあったが、この池島にあった炭鉱は1952年(昭和27年)から着手し、1959年(昭和34年)から営業を開始。
最盛期の1970年(昭和45年)頃には、住民が7776人もいたという。
ただ、その後のエネルギー革命と、安い外国製の石炭に押されて、経営が苦しくなり、炭鉱は徐々に縮小。
最終的に、池島炭鉱は2001年(平成13年)に閉山している。
池島港近くには、まだ人の営みの形跡がかろうじてあったが、少し奥に行くと。
「すごい鉄錆だ」
思わず万里香が声を上げていた。
それは無造作に原っぱに置かれたトロッコの跡で、坑道に続く線路も含めて、赤錆が浮かんでおり、付近には池島ウォークマップという地図の案内板があった。
池島は面積が、0.9平方キロメートルしかないので、歩いて回れるのだ。
もっとも一応、バイクで来たから、彼女たちはバイクで回るものの、すぐに止まって、観察することになる。
池島は、ほとんど人が住んでいないので、交通量もほとんどない。まるで忘れ去られたように静寂が支配する島だった。
帰りのフェリーは、その日の夕方に新門司港から出港するから、まだまだ時間があった。
少し行くと、巨大な石炭用のクレーンが見えたり、ベルトコンベアーが見えたり、さらに選炭工場があったり、ツタがからまったクレーンがあったり、とにかく廃墟感は満載だった。
だが、彼女たちが最も驚いたのは、その先にあった巨大な建物だった。
それは。
「大きなマンションだね」
「ディストピア感が半端ないです!」
「これか。あの博多弁のお姉さんが言っていたのは」
見えてきたのは、巨大な鉄筋コンクリートのマンション群だった。
8階建てくらいの大きな鉄筋コンクリートのマンション群が、あちこちに建ち並び、そのいずれもが廃墟だった。
驚くべきことに、ここには50棟を超える炭鉱住宅があり、当時としては最新の水洗トイレがあったらしい。
マンションの周りには、ツタが絡みつき、外壁が緑に覆われているところがあったり、珍しい渡り廊下でつながった巨大でハイソなマンションがあったり、マンションの間の小道を歩くと、まるで人類が滅亡した世界に生き残ってしまったかのような錯覚を覚えるほど、独特の雰囲気があった。
「これがあのお姉さんが言っていた、池島か。ある意味、軍艦島よりすごいな」
「だね。来た甲斐があったかも」
「すごいですねー」
一通り、写真を撮りまくり、港に戻ると。
「猫だー」
「人懐っこいですね。可愛い」
港の周りには、とにかく猫が多かった。
彼らは、元々池島の炭鉱住宅で飼われていた猫の末裔らしいが、とにかくここには通行を邪魔するような障害物も車もほとんどないから、自由に昼寝していたり、人が近づいても全然逃げようともしなかった。
猫を触り、港でフェリーを待つ間。
「これで、私たちの九州廃墟ツーリングは終わりだね」
美希が人懐っこい、茶トラの猫の頭を撫でながら、口に出した。
「そうだな。後はフェリーで帰るだけだ」
同じく、黒猫を膝に乗せた万里香が呟く。
「何だか寂しいですね」
同じく、三毛猫の顎を撫でている菜々子も応じる。
「で、これから就活になるからしばらく行けなくなるけど、将来的にはどうする?」
美希が尋ねた質問に、万里香が少し考えてから、口にした一言に、彼女たちは目を見張るのだった。
「私は、せっかくだから、世界に行きたい」
「ええっ」
「世界って、海外の廃墟に行くんですか?」
「そうだ。将来的には日本を飛び出して、海外の廃墟を見たい」
「具体的には?」
「アメリカのデトロイトの廃墟とか有名だな。まあ、治安悪いらしいけどな」
「アクティブだね」
「万里香センパイ。気をつけてくださいね」
「まあ、さすがに私は付き合えないかな」
「別に付き合ってくれとは言ってない」
「また、万里香はそんなことを言う」
と、愚痴っていた美希だが、内心では、
(この子は本当に一人で海外に行きそう)
と、少し心配な気持ちにもなっていた。
ただ、同時に、
(廃墟巡りがこんなに楽しいと思ったのは、万里香のお陰)
という気持ちもあったので、彼女には感謝をしていた。
最後に、島を去る前に、美希はしんみりとした空気を打ち破るように、明るい声を上げた。
「よし、じゃあ九州最後のご飯は、中洲に行って、とんこつラーメンだ!」
「美希センパイ、食べることばかり」
「別にいいでしょ、とんこつラーメン好きだし」
「まあ、いいけど。お前のおごりな」
「何でよ」
「冗談だ」
笑い合いながら、彼女たちは池島を去り、一路、九州最大の繁華街、福岡市の中洲に向かう。
そこで、最後にとんこつラーメンを食べて、夕方にはフェリーに乗り込み、関東に帰ることになった。
廃墟は逃げないが、いずれ時の経過と共に、「朽ちていく」宿命を帯びている。
いつまで廃墟が持つかわからない。いずれ取り壊される運命にある建物も全国各地、いや世界各地に存在している。
それら、「朽ちる前」の最後の姿を見に行くため、彼女たち三人の廃墟巡りツーリングはまだまだ続くのだ。
(完)




