ドS王子の親
今日も目が死んでいる第一王子は安い事務机で書類を捌いている。
いくらでも良い机を用意できるのに、王子は落ちつかない仕事に落ち着くためのものはいらないというのが持論だ。
おかげで国の大臣が同じ物を使用することになり腰痛肩こり眼精疲労を患っていることは王子は知らない。
今はまだ日が昇る前の時間帯だ。普通この時間はロウソクに明かりを灯してその薄暗い中で行動しなければならないのだが、王子の部屋は昼間というほどではないが夕方ぐらいの光量があった。
たまにペカペカと点滅するのが玉に瑕だが王子の使用するロウソクの値段より安くつくので王子は便利にしている。
「ふむ財務大臣の裏の蓄財が溜まってきた頃だな、そろそろ収穫して西の街道でも整備させるか・・・」
「あなたは罪を暴いて裁くことを収穫というのですか」
光源がペカペカ点滅する。
「人身売買や奴隷推奨なら大臣の一門の貴族をまとめて処分して港湾施設でも造るのですが、残念ながら王都の有力商会から賄賂を貰って溜め込むだけなので放出させるだけです。金を回らせないと経済が死にますからね。ついでに商会連中にも知っているぞ脅しをかけて無駄に上げた商品の値段を適正価格より少し低い値段で数年売らせましょうか」
「ちゃんと民のことを考えているのがムカつきますね」
「ええ誰かさんの教会の様にしていたら国というものは維持できませんからね」
「嫌味ですか?ええあなたは無自覚で人を追い込みますもんね」
ペカ~と光が弱くなる光源。
「なにを言っているのですか自覚して追い込みますよ。そしてあなたは人でなく時給お菓子一個で働く光源・・・いえ女神様ではないですか、明かりが弱いと書類が書けませんので上げてもらえますか」
「私は創世の女神ですぅーっ!それをロウソクの代わりにしているあなたがおかしいんですぅ!あと自覚してたのかこの野郎っ」
明かりが弱くなって眉根を寄せる王子。
そして怒りでペカーッ!と強い光を出す女神様。
時給お菓子一個を頂いている時点でそれは仕事なのを忘れている。
「そうそうそのくらいで明かりをお願いします」
光源が明るくなったので王子は事務仕事に戻った。
光源はソファーに座らず、寝そべってケーキを食べ始める。
王子専属メイドに前日に怒られたのに反省しない光だった。
「あなたのしている仕事は普通は王がするものではないですか?」
横になったまま神の力でケーキを切って浮かせて食べる駄女神が、そう言えばという感じで王子に聞いてきた。
ピタリと止まる第一王子のペン。
あ、これはヤバい事を聞いてしまったと思う駄女神。
「ふむ、ちょうどキリの良いところまで終わったので私も休憩してそのことについてお話ししましょうか」
「い、いえ、さあ残りを片付けるぞって感じだったじゃないですかぁっ!」
「ハハハハハ、そんなものは明日の朝までに終わらせればすむことです」
「私の残業が決定しているぅ!」
創世の女神様は対人関係が最近までほとんど無かったので良いように使われています。あと迂闊な発言をしては城の人間に弄られているのは本人は知らぬこと。
大体は第一王子のメイドで、次点が第一王子という鉄壁の布陣で上位は占められていた。
ちなみに大臣たちが関わりたくない人達の上位にも第一王子達はいる。
王子が女神様の対面のソファーに座って自分のお茶を頼むためにメイドを呼んだら、言葉が終わるころには三人のメイドが入ってくる。
その手には準備万端のお茶の一式が揃っているのは謎だ。
「「「ちっ」」」
「神に向かって舌打ちしたっ」
三人のメイド、アーリャ、ミコス、トシナはソファーに寝そべる女神様を見て表情を一切変えずに舌打ちする。
駄女神が怠惰なのが原因なのだが神に対して容赦の無いメイド達だった。
メイド達がお茶の準備を、一応女神様の分もして部屋から出ていく。扉が閉まる前に女神様に聞こえるように舌打ちするのは忘れない。
「さて、王のことでしたね」
「あなたはメイド達の躾をしないといけないと思いますよ・・・」
舌打ちされても寝そべったままの駄女神には権限はなかった。
「王は、今は病で臥せっております」
「そうなんですか」
「ええ、足の小指が痒いという病で後宮に」
「え?」
表情を変えずに紅茶を飲む王子。
「よほど痒いんでしょうね、数年前から姿を見ていません。情けない姿を見せたくないのでしょう」
「・・・」
女神様はこっそり神の力を使って王を探すが何故か王都から遠く離れた海の魚達に反応があった。
「いやあ王はお盛んな人でして。私には妹三人、弟四人、庶子にいたってはいまだに増えていっているんです。女神様のお力で庶子を全員見つけられませんか?時給のケーキを三・・・二個に増やしますが」
「い、いえそんな便利な事は出来ません」
出来るけど全く笑っていない王子の目が怖くて隠すことにした女神様。
「そうですか・・・、再教育してから潰した貴族の領地に放り込もうと思っていたのですが」
女神様の勘は大当たり。
王子、数字も読めない貴族を潰して身内で固めようとしていました。ちなみに城内は第一王子は掌握済み、恐怖政治はしていないのに恐怖している大臣が沢山います。
「私の母、王妃は心労で体の調子を崩して今は離宮で静養中ですし私しか国の舵取りをする者がいないんです」
一応、一応、女神様は王妃も探すと王都の近くにある湖の傍に建つ城の庭で中年の女性が微睡んでいるの見て内心でホッとした。
「側妃様達は王が心配と言って一緒に後宮に入られたのですが、まあ王の介護を頑張っておられるでしょう」
「・・・」
再び神の力をオープン。
海の中に視点がいくのは何も思わないことにした女神様。
「側妃様達の実家も王と側妃様を心配して後宮を立て直してくれましてね。国費よりも自分達が出すと言ってくれて、ええ本当に忠臣達です」
神の力を使わなくてもわかってしまう女神様。
たぶん後宮は立て直しされてなくて他のことに使われたのだろう。側妃達の実家は・・・そのための庶子かと納得する女神様。
一人と一柱は沈黙してお茶を飲む。駄女神は神の力で寝たまま飲んでいるが。
「王は本当に慕われていて、いまだ忠臣達が王の為にいろいろと用立ててくれまして」
「もういいですぅーっ!」
さらに続けようとした王子を止める女神様。
聞くたびに神の力を使いたくなってドロドロしたもの知るのは長年世界を放置していたぼっち女神様には刺激が強かったらしい。
「おや?王の事を聞きたかったのですから王太后の御実家のことも」
「聞きたくありませーんっ」
王子、女神様の表情から神の力でも使って裏を取っているなと判断していた。面白いので王家ドロドロ裏事情を隠しつつ話していたのである。
「いえいえ是非とも聞いていただきたく。王太后は」
「イーヤーッ!」
ソファーにあったクッションに顔を押し付けている女神様は見れなかった。珍しく楽しそうに笑っている王子を。
そのあとお茶を交換しに入って来たアーリャ、ミコス、トシナにこの駄女神がっ!と罵られてへこんだ女神様。
メイドに交代で見張られて、ろうそくの代わりを朝方まですることになった。