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最強美食家令嬢は世界を味わい尽くす  作者: 涙目
第二章 ガルドの料理

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第十七話 炎角牛の厚切り香草ステーキ・赤実酒ソース

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 炎角牛を討伐してから、五日が経った。


 その間も、レスティナは毎日冒険者ギルドへ通っていた。


 新しい依頼を受けるためではない。


 ギルドの解体場にある低温保管庫で、炎角牛の肉を確認するためだ。


「おはようございます」


「今日も来たのか、《飯狂い》」


 解体場の職人が、呆れたように笑う。


「はい。お肉の状態はいかがでしょう?」


「昨日と大きくは変わらねえよ」


「見てもよいですか?」


「ああ。触る前に手を洗え」


「はい」


 レスティナは石鹸草で手を洗った。


 爪の間まで丁寧に擦り、清潔な布で水分を拭き取る。


 保管庫の奥では、炎角牛の肉が部位ごとに吊るされていた。


 骨をつけたまま切り分けられた背肉。


 後ろ脚。


 前脚。


 肩。


 腹。


 それぞれの肉が触れ合わないよう、十分な間隔を空けて並んでいる。


 肉の表面は、五日前よりも暗い赤色へ変わっていた。


 外側には薄く乾燥した膜ができている。


 だが、腐敗を示す嫌な匂いはない。


 近づけば、乾燥した肉と脂の濃い香りがした。


「表面が乾いてきました」


「風を当ててるからな。最初の二日は、ずいぶん水が落ちたぞ」


「保管庫の温度は?」


「氷を入れ替えて、昨日と同じにしてある」


 職人が壁へ設置された温度計を示した。


 目盛りは、肉が凍らず、腐敗も進みにくい範囲を保っている。


 温度が高ければ、悪い菌が増える。


 低すぎれば肉が凍り、熟成が止まってしまう。


「今日なら食えると思うが、どうする?」


 レスティナは背肉の表面を指先で押した。


 外側は硬い。


 しかし、その内側には僅かな弾力がある。


 討伐直後には張っていた筋肉が、少し柔らかくなっていた。


 匂いも確かめる。


「今日、持ち帰ります」


「ようやくか」


「長く置けば、もっと柔らかくなるでしょうか?」


「なるかもしれんが、魔獣の肉は普通の家畜と違う。炎角牛は体内に火の魔力を残している。いつ急に傷み始めるか分からねえ」


「では、今日がよさそうですね」


「ああ。少なくとも、俺ならこれ以上は勧めん」


「分かりました」


 美味しくするために待つ。


 だが、待てば待つほどよいわけではない。


 食材には、それぞれ最もよい時がある。


 見極められずに腐らせれば、それは料理ではなく、ただの無駄だ。


「五日間、ありがとうございました」


「保管料はもらってる。礼を言われることじゃねえよ」


「それでも、毎日状態を見ていただきました」


「……次に大物を持ち込むときは、先に知らせろ。あんなものを担いで正面から入ってくるな」


「裏口があるのですか?」


「大型素材用の搬入口がある!」


「次から、そちらを使います」


 レスティナは職人とともに、炎角牛の肉を荷車へ積み込んだ。


 骨つきの背肉と、調理に使う内臓。


 それ以外の肉は、部位ごとに布で包まれている。


 侯爵邸まで運びやすいよう、ギルドが荷車を貸してくれた。


「自分で引くのか?」


「はい」


「馬を借りたほうがいいんじゃねえか?」


「私が引いたほうが速いです」


「……そうだったな」


 炎角牛を一頭担いで帰ってきた少女である。


 荷車程度で苦労するはずがない。


 レスティナは荷車の柄を持ち上げた。


「では、行ってきます」


「今度、どんな味だったか教えろよ」


「はい!」


◇


 侯爵邸の裏門。


 見張りをしていた兵士が、近づいてくる荷車を見つけた。


 最初は、食材を納めに来た商人だと思った。


 しかし、荷車を引いているのは小柄な少女である。


「レスティナ様?」


「ただいま戻りました」


「そちらは、何ですか?」


「炎角牛です」


「炎角牛……」


「厨房へ運びます」


「お、お待ちください! 人を呼びますので!」


「一人で大丈夫です」


「そういう問題ではございません!」


 侯爵令嬢が巨大な肉を積んだ荷車を引き、屋敷へ入る。


 それを見た使用人が、どのような噂を流すか分からない。


 だが、兵士が止めるより早く、レスティナは荷車を厨房の裏口まで運んでしまった。


「ガルド料理長、戻りました」


「おう。今日は何を――」


 裏口から顔を出したガルドが、言葉を失った。


 荷車には、大量の肉が積まれている。


「全部、炎角牛か?」


「はい」


「大物を狩ったら、先に連絡しろと言っただろう!」


「ギルドから持ち帰るときにも、連絡が必要だったのですか?」


「当たり前だ!」


「次から気をつけます」


「その言葉、何度目だ!」


 怒鳴りながらも、ガルドの目は肉へ向いていた。


「表面が乾いているな」


「五日間、ギルドの低温保管庫で寝かせました」


「五日?」


「すぐに食べるより、柔らかくなると思いましたので」


「傷んでいないのか?」


「毎日、匂いと表面を確認しました。解体場の方にも見ていただいています」


 ガルドは肉へ顔を近づけた。


 確かに、腐敗臭はない。


 むしろ、生肉とは違う濃い香りがある。


「今日使うのは、この背肉です」


 レスティナは骨つきの背肉を示した。


 炎角牛の背中から腰へ続く部分。


 よく動かす脚や肩に比べて筋が少なく、厚切りで焼くのに向いている。


「それ以外は、どうする」


「部位ごとに分けます。肩と首は煮込み。腹は薄切り。腿は焼くものと挽き肉にするものへ分けます。骨からは出汁を取ります」


「今日中には終わらんぞ」


「氷魔法で冷やします」


「地下の冷蔵庫が肉だけで埋まるな……」


 ガルドは頭を抱えた。


 周囲の料理人たちは、すでに荷車へ集まっている。


「これが炎角牛か」


「脂が赤いぞ」


「触ると、少し温かくないか?」


「五日も冷やしてあるのに?」


 炎角牛の脂には、赤い筋が走っていた。


 肉自体は十分に冷えている。


 それでも魔力の集中している脂へ触れると、冷え切っていないような感覚が指先へ残る。


「これ、食べて大丈夫なのか?」


「毒はありません」


 レスティナは母の料理本で確認していた。


 炎角牛の肉は食用になる。


 火の魔力を含むため、寒冷地では身体を温める食材として珍重されているらしい。


「まずは、背肉を焼いてみます」


「味見は?」


「皆さんの分も作ります」


「よし。手伝え!」


 ガルドの声で、料理人たちが動き始めた。


◇


 レスティナは骨つきの背肉を、広い作業台へ置いた。


 表面は乾き、硬い膜になっている。


 最初に、匂いを確かめる。


 酸っぱい匂いはない。


 表面の一部に、乾燥しすぎて黒くなった場所がある。


 そこへ包丁を入れた。


「切ってしまうのか?」


「はい。硬く乾いたところは食べられません」


「ずいぶん厚く切るんだな」


「乾いた部分だけを薄く残すと、嫌な香りが肉へ移ります。食べられないところを惜しんで、美味しいところまで不味くしたくありません」


 表面を少しずつ削ぎ落とす。


 最初から深く包丁を入れれば、食べられる肉まで切り落としてしまう。


 薄く。


 肉の色が暗い赤から、鮮やかな深紅へ変わる境目を見ながら刃を進める。


 脂の表面も同様に整えた。


 黄色く乾燥した部分は取り除き、その下にある赤い筋の入った脂は残す。


 背骨に沿って長い包丁を入れる。


 骨へ刃を当て、削るように肉を外していく。


 骨の近くには旨味の強い肉が残っているため、刃を何度も小さく動かし、できるだけ無駄を出さない。


 外した背肉は、大人の腕よりも太かった。


「どのくらいの厚さに切る?」


 ガルドが尋ねる。


「指三本分です」


「厚すぎないか?」


「薄く切れば、中心まで火が通る前に水分が抜けます。このお肉の柔らかさを確かめたいので、厚く焼きます」


 レスティナは繊維の向きを確認した。


 筋が横へ走るように肉を置き、繊維を断つ方向へ切る。


 包丁を何度も前後させない。


 長い刃全体を使い、一息で引き切る。


 切断面は滑らかで、潰れていない。


 分厚い肉の塊が、人数分切り分けられた。


 形の崩れた端肉は取っておく。


 小さく刻み、別の料理に使えばよい。


「すぐに焼くのか?」


「いいえ。冷えすぎています」


 低温保管庫から出したばかりの肉を、そのまま強火で焼く。


 そうすれば、表面だけが焦げ、中心は冷たいまま残る。


 中心へ火が届くまで焼き続ければ、今度は外側が硬くなる。


 レスティナは肉を網の上へ並べた。


 互いに触れないよう、間隔を空ける。


 清潔な布を上からふんわりとかけ、厨房の中でも涼しい場所へ置いた。


「これで、しばらく待ちます」


「腹が減ったぞ」


「待つのも料理です」


「最近、そればかりだな」


「美味しくなるまで待つのは大切です」


 肉を待つ間に、付け合わせとソースを準備する。


 料理の名は――。


『炎角牛の厚切り香草ステーキ・赤実酒ソース』


 付け合わせには、小粒の芋を使う。


 表面の土を水で洗い、皮は剥かない。


 大きさの揃ったものを選び、塩を加えた水から茹で始める。


 沸騰した湯へ入れれば、表面だけが先に柔らかくなり、中心へ火が通る頃には外側が崩れてしまう。


 水からゆっくり温度を上げることで、中まで均等に火を通す。


 細い串が、僅かな抵抗だけで中心まで入る。


 芋を湯から上げ、熱いうちに布で包んだ。


 その上から、手のひらで軽く押し潰す。


 完全には潰さない。


 皮が裂け、中の芋が見える程度。


「何で潰すんだ?」


「焼く面を増やします」


 平鍋へ炎角牛から切り取った脂を入れ、弱火にかける。


 赤い筋を持つ脂がゆっくりと溶け、透明な油へ変わっていく。


 残った脂の塊が薄茶色になったところで取り出す。


 火を少し強め、潰した芋を並べた。


 平らになった面を、鍋底へ押しつける。


 すぐには動かさない。


 表面の水分が飛び、皮と芋へ濃い焼き色がつくまで待つ。


 片面が香ばしく焼けたら裏返す。


 塩と刻んだ香草を振り、両面を焼き上げた。


「芋だけでも美味しそうだな」


「焼けたところは味見をしてもよいですよ」


「本当か?」


「皆さんの分もあります」


 若い料理人が、一つ摘まんだ。


「あつっ!」


「今、鍋から出したばかりです」


「先に言ってくれ!」


「見れば分かると思いました」


 厨房に笑いが起きる。


 芋を焼き終えると、いよいよ肉の準備に入った。


 レスティナは肉の表面へ触れる。


 冷たさは残っているが、芯まで冷え切った状態ではない。


 布で表面の水分を、もう一度丁寧に拭き取る。


 塩は、焼く直前。


 高い位置から両面へ均等に振る。


 側面にも忘れずに。


 胡椒に似た乾燥香辛料は、まだ使わない。


「香辛料は振らないのか?」


「強火で焼くと焦げます。香りは最後につけます」


 厚い鉄鍋を竈へ置いた。


 何も入れず、強火で十分に熱する。


 濡らした指先から水滴を一滴落とす。


 水はその場で蒸発せず、丸い玉になって鍋の上を走った。


「これくらいです」


「熱しすぎじゃないのか?」


「最初に表面を焼き固めます」


 植物油を薄く引く。


 炎角牛の脂は香りが強い。


 最初から大量に使わず、焦げにくい植物油で表面を焼く。


 肉を鍋へ置いた。


 ジュアアアアアッ!


 激しい音とともに、白い煙が上がる。


 だが、動かさない。


 鍋へ置いた直後は、肉が鉄へ張りついている。


 十分な焼き色がつけば、自然に剥がれる。


 肉の側面を見ながら待つ。


 下から指一本分ほど、赤い色が薄く変わった。


 そこで持ち上げる。


 表面には、濃い褐色の焼き目がついていた。


「焦げているぞ」


「黒くないので、焦げではありません。肉の表面と脂が焼けた色です」


 裏返す。


 反対側にも同じように焼き目をつける。


 さらに、脂の多い側面を鍋へ押し当てた。


 赤い筋の入った脂が溶け出し、甘い香りが立ち上る。


 すべての面を焼いたところで、肉を一度鍋から取り出した。


「もう終わりか?」


「まだ中は生です」


「なら、なぜ取り出す」


「このまま強火で焼くと、外側だけが硬くなります」


 レスティナは竈の火を弱めた。


 炭を端へ寄せ、穏やかな熱だけが残る場所を作る。


 平たい天板へ肉を並べ、上から金属製の蓋を被せた。


 直接強い火へ当てず、周囲の熱で中心を温めていく。


 厚い肉だからこそ、急いではいけない。


 何度も蓋を開ければ熱が逃げる。


 レスティナは時間を測り、途中で一度だけ肉を裏返した。


 肉の中心へ細い金串を刺す。


 数秒待ち、引き抜いた串を下唇へ当てる。


「まだ少し冷たいです」


 再び蓋をする。


 少し待つ。


 二度目に刺した串は、冷たくも熱くもない。


 唇へ当てると、温かさがゆっくり伝わってきた。


「もう少しです」


 三度目。


 金串から、はっきりとした温かさを感じる。


 熱くて触れられないほどではない。


「これで大丈夫です」


 肉を取り出す。


 だが、まだ切らない。


 網の上へ置き、清潔な布をふんわりと被せる。


「また待つのか?」


「はい」


 ガルドの問いに、レスティナは頷いた。


「焼いている間、熱で押された肉汁が中心へ集まっています。今切れば、全部お皿へ流れます」


「どれくらい待つ」


「焼いた時間の半分ほどです」


 肉を休ませている間に、ソースを作る。


 最初に肉を焼いた鉄鍋。


 底には、焼けた肉と脂の茶色い跡が残っている。


 黒く焦げた部分だけを布で取り除き、旨味のある焼き跡は残した。


 余分な脂を別の器へ移す。


 すべて捨てず、薄く鍋底へ残す。


 そこへ、細かく刻んだ鱗茎を入れた。


 弱火で炒める。


 透明になり、甘い香りが立ったところで、赤い果実酒を注いだ。


 ジュワッ!


 鍋底から白い蒸気が上がる。


 木べらで焼き跡を擦り、果実酒へ溶かす。


 潰した酸味の強い赤実。


 肉の出汁。


 蜜を少量。


 半分ほどの量になるまで煮詰める。


 木べらで鍋底へ線を引き、跡が一瞬残る。


 火を止める。


 冷たい獣酪を、小さな角切りにして一つずつ加えた。


 一つが溶けてから、次。


 鍋を火へ戻さず、余熱だけで溶かす。


 赤いソースへ艶が生まれ、とろりとした濃度がついた。


 最後に、指先で潰した香辛料と刻んだ香草を加える。


「香辛料は、ここで入れるのですね」


 料理人の一人が言う。


「はい。長く火へかけないので、焦げずに香りが残ります」


 肉を休ませる時間が終わった。


 レスティナは一枚を作業台へ置く。


 繊維の向きを確かめ、斜めへ包丁を入れた。


 切断面が現れる。


 外側には濃い焼き色。


 その内側は薄い桃色。


 中心は赤みを残しているが、冷たい生肉の色ではない。


 温かく、艶がある。


 切った場所から肉汁が僅かに滲む。


 だが、作業台へ流れ出すことはなかった。


「綺麗に焼けています」


 ガルドが断面を覗き込む。


「真ん中が赤いぞ」


「火は通っています。中心まで温かくなっていました」


「炎角牛の肉だ。本当に大丈夫なのか?」


「心配でしたら、ガルド料理長の分はもう少し焼きます」


「誰が心配だと言った。確認しただけだ」


 ガルドは一切れを持ち上げた。


「まだ盛りつけが――」


「味見だ」


「先ほど、芋も味見しました」


「肉の確認は別だ」


 赤実酒ソースを少しつけ、口へ運ぶ。


「……っ」


 噛んだ瞬間。


 表面の香ばしい味が広がる。


 そのあとから、肉の中に閉じ込められていた熱い肉汁が溢れた。


 炎角牛の肉は、家畜の牛よりも味が濃い。


 野性味はある。


 だが、五日間休ませたことで血の匂いが抜け、代わりに熟成した肉と脂の香りが強くなっている。


 硬さもない。


 厚く切った肉を、低い温度でゆっくり温めたため、中心まで柔らかいままだった。


 赤実酒ソースの酸味と甘み。


 最後に加えた香辛料の鮮やかな香り。


 炎角牛の脂を受け止め、口の中を重たくさせない。


「ガルド料理長、いかがですか?」


「……悪くない」


「料理長が、悪くないって言ったぞ」


「ものすごく美味いってことだな」


「聞こえているぞ!」


 料理人たちが笑う。


 レスティナは人数分の皿を用意した。


 焼いた芋。


 切り分けた厚切り肉。


 赤実酒ソースは、焼き目を消さないよう肉の横へ流す。


 最後に香草を添えた。


「できました」


『炎角牛の厚切り香草ステーキ・赤実酒ソース』


 厨房の長い卓へ皿を並べる。


 レスティナも席へ座った。


「いただきます」


 最初はソースをつけず、肉だけを食べる。


 表面の焼けた脂。


 強い肉の旨味。


 噛むほどに溢れる肉汁。


 普通の牛肉よりも濃厚で、僅かに香ばしいような味が最初から肉の中にある。


「美味しい~」


 レスティナの目尻が下がった。


 二口目は、赤実酒ソースをつける。


 濃い肉の味へ、果実の酸味と甘みが重なる。


「ん~。こちらも美味しいです」


 焼いた芋も一緒に食べる。


 表面は炎角牛の脂で香ばしく、中は柔らかい。


 芋の素朴な甘みが、濃い肉の味を受け止める。


「これは待った甲斐がありました」


 料理人たちも夢中で食べていた。


「身体が熱くなってきたな」


「ああ。厨房の火のせいじゃないぞ」


「指先まで温かい」


「炎角牛の肉だからでしょうか」


 レスティナも、自分の身体が内側から温まるのを感じていた。


 火の前に立ったときのような表面の熱ではない。


 腹の底から、穏やかな熱が全身へ広がっている。


「寒い土地で食べられていると、本に書いてありました」


「確かに、冬に食えばよさそうだ」


「残りは冬まで保存できるか?」


「干し肉や燻製にすれば、できます」


 レスティナは炎角牛の肉を見る。


 塩漬け。


 燻製。


 煮込み。


 薄切り肉。


 骨の出汁。


 作りたい料理はいくらでもある。


「明日は、どの部位を使いましょう」


「今日食ったばかりだろう!」


「まだ舌と内臓があります」


「先に残りの肉を処理しろ!」


「はい」


 食事を終え、レスティナは立ち上がった。


 身体が軽い。


 魔力の巡りも、普段より僅かに滑らかになっている気がする。


 けれど、それを不思議とは思わなかった。


「美味しいものを食べたから、元気になったのでしょう」


 レスティナは満足そうに頷いた。


 彼女はまだ知らない。


 料理を食べた者たちの身体へ、火に対する僅かな耐性が生まれていたことを。


 そして、その効果が他の者よりも強く、長く、自分の身体へ残っていることを。


 何も知らないまま。


 レスティナは炎角牛の残りを、次の料理へ使うために切り分け始めた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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