第8話 ホロウの断罪と、終わらない闇
「何故だ⋯⋯」
「どうしてだ⋯⋯」
「俺は間違ってないのに!」
「俺が一番なのに!」
「悪いのは全部あいつらなのに!」
堂庵のあげた悲鳴はやがて罵声と怨嗟の嵐の言葉に変わる。怒りをぶつけ、かつての仲間達にも激しい敵意を向けて吠える。
緋音たちの真実の告白で、次々とミスター・ホロウの元から人が去ってゆくのが各サイトで確認された。中にはホロウを擁護したり、個人的に繋がりを保つ者達はいたのだが、彼が裏で行っていた事が暴かれ、信頼を失った。
そして運営サイトからは、度重なるルール違反に加えて、メッセージ機能を悪用した件について度々説明を求められていたのだが、堂庵浩二により退会する事になった創作者の一人が警察へ相談した事により、堂庵のアカウントはあっさり削除された。
「天罰⋯⋯というか自業自得よね」
「素行の悪さや、ルール違反が確認されたニャ」
「人気の出たホロウを排除するほど、運営に強制力はないって言ってたわ」
呆気ない幕切れだったけれど、三人は油断していなかった。何故なら堂庵という男は反省などしない。人の心を平気で踏みにじり、利用するだけ利用するネット社会の怪物だからだ。
仲間達の信頼を裏切る行為は最低最悪の行為だろう。しかし、それはアカウントの消滅する事でリセットされるとホロウは考え、あっさり削除された時と同様に、簡単に復帰した。
「結局売名行為ってことね。自分の承認欲求を満たすためなら、相手が困るような真似も気にしない」
大半の者は故意悪意なく、ネット世界の中でも円滑に穏やかに信頼関係を構築しようとする。それはネット内の世界を見つめる本人の人柄であり、人間性がそうさせると言える。
しかし堂庵浩二────ミスター・ホロウは違った。表面的には温厚な優しい人の皮を被るが、彼は人の気持ちなど頭にない‥‥まったく考えていないのだ。体面のため、保身のために反省の言葉は重ねるだろう。
だが‥‥悪びれた様子もなくシレッと同じ創作者名で復帰をし、当たり前のように悲劇の作品を投じ、同情の押し売りを始める。
大半の創作者達には、堂庵は懲りない男に見えただろう。しかし────彼は復帰後、風当たりの強さも始めから計算していた。
彼には痛む心がない。だから注目さえ浴びるのなら、炎上しようが嫌われようが関係なかった。
「心が折れないって厄介よね」
「今度は一人一人じっくり取り込んで、裏切らせないようにするようだニャ。悪い奴ほど無駄に学習する見本だニャ」
「どうする、緋音?」
「堂庵はおそらく、なぜ自分が非難されたのか、最後まで理解していない」
「そうだニャ。皆が僕の優しさを誤解しただけだって都合良く解釈しそうだニャ」
緋音とララ、二人の言葉は諦めにも似た空気を纏う。毬奈は手に持つタブレットへと目を向ける。
「はじめまして‥‥いえ、お久しぶりです。色々悩んで辞めたのですが、心機一転やり直そうと思いました。皆さんとまた仲良くしたいです」
堂庵浩二はミスター・ホロウとううアカウント名で、何事もなかったかのようにそう言って、緋音たちが話し合う創作の庭へと入り込んで来た。
犯罪の事実はうやむやで確たる証拠もない。しかし、騒動を引き起こし散々罵って辞めた事や、ルール違反にで退去させられた不都合な事実が彼の中からスッパリ消えてなくなっていた。
過去の騒動を知らない新たな人々や、何かあったのか知らない人が自分から罠に掛かるのを、狙っての事なのは言うまでもない。緋音たちに限らず、他人を介せば誤解される。
堂庵はより狡猾になり、緋音たちの予測したように一人一人を個人的に的にして、悲劇のヒロインになって、味方に取り込んでいった。かつてのミスター・ホロウが、より慎重になり、反省したポーズを武器に、新たな獲物を探し始めた。
緋音もララも毬奈も、個人で出来る限りの事は尽くした。それでも水面下で嘘を履き続ける怪人の存在に、不安は拭えない。
緋音はララと毬奈と別れた後、自宅で静かにパソコンの前に座り、一連の流れを一つの物語として認めていた。
『嘘つき殿下と偽りの聖女』
『ライアー・バスター ホロウの断罪』
毬奈と共に、立て続けに出した創作の物語は大ヒットし、堂庵のような怪人への牽制になった。そういう人物がいる事、今後トラブルに巻き込まれないように、甘い言葉の罠に注意するように警鐘は鳴らし続ける。
これらは自分たちの戦いの記録であり、忘れてはいけない警告だ。ネットの海は広く、時間はすべてを風化させる。
一つの事実‥‥一つの真実など、百の嘘で塗り替えてしまえば良い。それがミスター・ホロウ⋯⋯堂庵浩二の、ネットの怪人たちの考え。
────緋音はパソコンの電源を落としながら、静かに呟いた。
「ミスター・ホロウ‥‥何度でもその本性を暴いてやるわ」
緋音は決して一人じゃない。それだけでも充分ネットの怪人と戦う勇気を与えてくれた。




