第五話 互いの状況
リンゼとエリーザの板挟みに遭った後、俺たちは互いの状況を把握すべく、都市観光で街道を歩きながら、リンゼから話を聞いていた。
「なぁ、リンゼはどうしてここにいるんだ? お前の受けてるSランククエストってモンスターの討伐だったろ?」
「うん。けどそれは一週間前に終わったよ。今はその後に依頼されたクエストの真っ最中!」
「依頼された? ってことは、特定依頼か」
冒険者は通常、クエスト一覧にあるクエストから自身の条件と身の丈にあったものを自発的に選ぶか、ギルド局員からおススメのクエストを紹介されるという主に二通りの方法でクエストを受注する。
だが、例外がある。それが特定依頼だ。
特定依頼とは、クエストを出した依頼人がそのクエストを受注する人を指名するというものである。
「Sランク冒険者に特定依頼するってことは、そいつ相当な金持ちだな」
特定依頼の報奨金は依頼主が支払う。つまりリンゼたちにクエストを依頼した人物はSランク冒険者を雇えるほどの相当裕福な者だということだ。
そこまで考えると、俺の頭に次の疑問が浮かぶ。
「ていうかリンゼ、俺たちとこんな所にいていいのか? クエストに向かわないといけないんじゃ」
「あー大丈夫大丈夫! 私のクエスト内容はここである人を護衛することだから!」
「そういうことか」
冒険者が受注するクエストは何もモンスター討伐や採集だけではない。時には傭兵のような役割で、要人を護衛するといったこともクエストとして存在するのだ。
けど、要人護衛のクエストか……てことは。
俺は状況とリンゼの発言から一つの結論に達する。
「お前の警護するその人って、多分『大オークション』が目的だろ?」
「うん! そうだよ、良く分かったね」
「消去法だ。Sランク冒険者を雇う金持ちがこの時期にここに来たってことは、選択肢を消してけば自ずと辿り着く」
「流石スーちゃん。じゃあスーちゃんの目的もきっと同じだね?」
「おぉ、察しが早くて助かる」
リンゼは俺が今彼女と似たような状況であると認識し、説明するまでも無く理解を示してくれた。リンゼのこういった点に関しては有難い。
「だから、その女が大事なんだ……」
「おい、目に光を灯してくれ」
隣を歩くエリーザに視線を向けるリンゼを俺は恐る恐る宥める。
「そ、それよりも他の【竜牙の息吹】メンバーはどうしたんだ?」
そして誤魔化すように話題を変える。だがこれはずっと思っていたことだ。リンゼと再会したホテルのロビーでも、シェイズたちの姿は見掛けなかった。
別行動なのだろうか。
「あー、他の皆は先に目的の場所に行ってる。私は一人でロビーに残ってたの」
「? 何でだ?」
リンゼの行動の意味が全く分からなかった俺は、素直な気持ちでリンゼに問うた。
「だってスーちゃんの気配がしたから!」
「……」
あー、うん。
俺は全てを理解した。
「最初ロビーにいた時は、まさかと思ったよ。だって、ロビーにスーちゃんの気配と残り香がするんだもん。けど私がスーちゃんの匂いを嗅ぎ間違える訳がない。だからあそこにいれば必ずスーちゃんに会えると思ったの! それで結果は大正解! 私はスーちゃんと運命の再会を果たすことができたのでした!」
パチパチと自分で拍手をするリンゼ。そんな彼女の喜びに、俺は全く同調することができない。
だってそうだろう。つまり、コイツは俺の匂いを感じて、間違いなく俺があのホテルにいると確信していたというワケだ。
その異常性の高さに戦慄するのが精いっぱいである。
うん、無視だ。無視しよう。
リンゼがおかしいのは今に始まったことじゃない。というか一々こんなんで驚いていたらこっちの身がもたない。
そう判断した俺はとくに突っかかることなく、そのまま会話を進めることにした。
「てことは、お前メンバーの所に行かないとならないんじゃないのか?」
「うん。そうだけどついでだよ。スーちゃんたちもこの後『大オークション』会場に向かうでしょ?」
「あ、あぁ。まぁそうだけど」
「私も今日シェイズさんたちと下見に行く予定だったんだ。だから今他のメンバーは先に会場に行ってるってワケ」
「……なるほどな。だから俺たちと歩いていても問題ないってか。いや、待てよそれでも急いだほうがいいんじゃ……」
「細かいことは気にしちゃダメだよスーちゃん。久しぶりの再会なんだからもっとこうやって二人のデートを楽しもうよ~」
リンゼはそう言うと、俺の右腕に自身の腕を絡ませてくる。
「リンゼ? 私の騎士に何をしているのかしら?」
するとエリーザもまた、逆の左腕に腕を絡ませた。
両手に花……何の事情も知らない一般人が傍から見れはそう思うかもしれない。
だがこれらはただの花ではない、共に致死量すれすれの毒を持っている。今すぐに手放したい。
「これは不可抗力だよ。ちょっと足元がよろけて仕方なくスーちゃんに支えてもらってるだけ」
「その割には足取りが軽快ね」
「気のせいじゃない? 何でもかんでも疑うのは良くないよ」
「……」
「……」
「いや、あの……本当に勘弁してくれお前ら!」
腕に掛かる圧力の増加をヒシヒシと感じる俺は堪らず口を開いた。
「第一、私たちはまだこの都市を観光が終わっていないわ。会場に行くのは後だからあなたはさっさと会場に向かいなさい」
「それは下見が終わってからでもできるよね? いや、むしろ要件を済ませてからの方が心置きなく観光に専念できると思うな。ね、スーちゃん?」
「お、おぉそうだな」
「スパーダ? 私に逆らうの?」
「そんな訳無いだろ」
自分で二重人格を疑うレベルの発言を繰り返す。しかしそんなことが通用するワケが無かった。
「スーちゃん」
「スパーダ」
二人の美少女の視線が俺に直撃する。
「ふっ……」
俺は笑みがこぼれた。この状況が嬉しかったり幸せだったりするからでは断じてない。笑うしかないから笑ったのである。
そして俺は、儚げな気持ちで思った。
――――誰か、助けて下さい。
その時だった。背後からこちらに向かい走ってくる足音が聞こえる。
まさか……本当に救世主が……!?
そう思ったのも束の間、俺の後頭部に衝撃が走った。
「おいお前ら儂が屋台に気を取られている間に何しとんじゃァ!!」
「……」
後方から飛び掛かり、俺に強制的に肩車を強いるゼノが参入する。
両手に毒花、頭に爆弾とはこのことだ。
「さっきは黙っておったが、改めて言っておくぞ? スパーダは儂のパートナー、お前らに介入の余地など微塵も存在せん!」
「ゼノは黙ってて!! 私は今この女狐に用があるの!!」
「残念幼女は口を閉じていなさい。私はこの雌豚に用があるの」
「……」
俺は頭を上に向け、ゼノを見る。
ゼノは二人から放たれた想定外の言葉に目が点になっていた。
「ス、スパーダ?」
「いや、うん……」
ゼノの圧を全くと言っていいほど意に介さないリンゼとエリーザの鬼気迫る様子に、ゼノは俺の頭皮を意味も無く揉んだ。
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小話:
リンゼは元々少し遠方の場所にいるSランクモンスター討伐の依頼を受け、見事にそれを完遂しました。その後すぐにギルドから特定依頼があり、ここに来たという感じです。




