第六話 再会と初めまして
いよいよアイツらと再会!
結局、俺たちは『大オークション』の会場に向かうことにした。こうなったのは偏にバーガンディさんやサイカさんの尽力が大きい。
二人には感謝してもし切れない。傍若無人と理不尽が服を着ている二人を良くぞ制御してくれた。
「ここが『大オークション』の会場、『スワロウズドリーム』です」
バーガンディさんが目線を向けた建物は、直方体の高層建築物だった。
一階は古代の建築様式のように荘厳さと崇高日を兼ね備えた、大理石を用いたものとなっており、二階以降は細心の金属建築がなされている。
「ここは時期によって様々な催し物を執り行っています」
「へー、じゃあこの時期はオークション会場として利用されるですね」
バーガンディさんの説明に俺はそんな声を漏らした。
「さ、早く中に入りましょう。そしてこの女をパーティーにお返ししないと」
「何を言ってるのかな? 私はスーちゃんから離れないよ?」
言い合いを続けるリンゼとエリーザは未だ俺の両腕を掴んで離さない。ここに来るまでに無の境地へと達した俺は特に反応することは無く会場内へと足を踏み入れた。
◇
「うわぁ、本当に広いな」
外観だけでも十分に伝わっていた広大さは、内部へ入ったことでそれを一層感じさせる。
ホテルと同じように受付のロビーがある、そこを通ると中規模な会場がいくつもあった。
「『大オークション』自体は一階の第一会場と第二会場を使い行われます。更に参加者の控室として二階以降にあるスイートルームも用意されています」
バーガンディさんは淡々と何も分からない俺とゼノに説明を続けてくれる。
そうして一階の長い廊下を歩いていると、
「スパーダ……?」
「お……おぉシェイズ!! それに皆も!」
ばったりと再会した。それはリンゼが所属するSランクパーティー、【竜牙の息吹】のリーダーシェイズと、メンバーの面々だ。
「スパーダ! ちっと見ない間になんか変わったなお前! 随分女を囲ってるじゃねぇか!」
そう言って軽快な口調を飛ばすのは【竜牙の息吹】で重騎士として前衛を務めるドミノ。
「いや、囲っているって言うか囲われてるの間違いだ」
ドミノの誤認識を俺は乾いた笑いで訂正する。
「スパーダ。おひさ」
「こ、こんにちわ……」
エルは変わらずダウナーな調子で何てことない風に俺に挨拶をした。そしてウーリャの人見知りも健在なようである。
だが、何はともあれ俺は【竜牙の息吹】と数週間ぶりの再会を果たしたのだった。
「あは、やほーエリーザちゃん」
「……」
すると、ドミノやエルたちを掻き分けるようにその中央から一人の少女がこちらへ向かって歩いてくる。
朗らかと穏やかさが共存しているかのような表情、そしてその所作一つ一つはどこか気品を感じさせた。
「あれ……アンタどこかで……」
その顔、姿に俺は既視感を覚える。間違いなく、どこかで彼女の姿を見た。そんな確信めいた気持ちが浮上する。
「イルミ、なぜあなたがここにいるの?」
エリーザが俺から離れ、彼女に向き合うように体の向きを変更した。
イルミ、その名前が俺の記憶の中枢を刺激し、答えに辿り着く。
「あ……『三大貴族』の!?」
任命式の時、司会の男が大仰に紹介していた『三大貴族』。エリーザはその一人だが、その括りには後二人存在した。
今目の前にいる少女は、間違いなくその内の一人である。
「初めまして、とは少し違うかな。イルミ・A・クレパスです。あなたはエリーザの騎士ね?」
「え、ま……まあ」
「あは、こうして近くで見ると結構イケメンだね。私の好きな部類の顔よ」
「っ!」
イルミさんはそう言いながら俺に顔を近づけまじまじと見ようとする。
「何をしているの」
だが、エリーザが彼女の肩を掴むことで、過度な接近を阻止した。肩を掴むエリーザの手には少しばかり力が強く籠っており、目には確かな怒りが感じられた。
「あはは、冗談冗談♪」
だが同じ『三大貴族』だからだろうか。その圧に与することなく、イルミさんは一切表情を崩さない。
「質問をしたはずよ。何故、あなたがここにいるの?」
「そんなの見れば分かるでしょ? 私も参加するの、この『大オークション』に。それでこのSランク冒険者の人たちは私の護衛」
「この前の任命式であなたは騎士を指名したはずよ。彼はどうしたの?」
エリーザの言う通り、任命式で『三大貴族』には全員(エリーザを除いて)優秀な騎士候補生が割り当てられたはずだ。
だが、見渡してみても彼女の周りにいるのは俺の知っている【竜牙の息吹】メンバーのみ。肝心の騎士と呼べる者は見当たらない。
「あー、あの子はまだ弱いからもっと強くなってねって言って王都に置いてきた」
「……」
マジかこの人……。
一切の容赦ないことを笑顔で言い放つイルミさんに俺は頬をひくつかせる。そして次の彼女の言葉には更なる毒と棘が含まれていた。
「まぁパーティーについても、本当はもっと序列が上のSランクパーティーを雇いたかったんだけどねぇ~。どのパーティーも埋まってたみたい。だから【竜牙の息吹】に頼んだんだ~」
パーティーには上位五十組までの集団序列、個人では上位百名まで個人序列というものが存在する。
有体に言えばランキング、という奴だ。高難易度クエストの達成による実績、個々の戦闘能力の高さによる単純な強さ。それらを組み合わせギルドが総合的に判断を下し、序列順位を付けるのである。
つまり、これが高ければ高いほど冒険者、冒険者パーティーとして優秀であり戦闘能力がということだ。
個々の序列は知らないが、確か【竜牙の息吹】は集団序列で言うと十九位。それは決して低い順位ではない。むしろ、冒険者として優秀、申し分のない数字である。
だが目の前にいるイルミさんという少女はそれでは満足では無いようだ。
……いや、本人たち目の前にして言うか普通……?
あまりにも空気の読めない、下手をすれば調和を壊しかねないその発言に俺は一筋の冷や汗を流す。
しかし、流石シェイズたちというべきか。イルミさんの棘のある発言に、一切顔色を変化させない。
依頼主の意向や人柄、意思を尊重し、下手な感情の機微にとらわれないように努めている。
――――ゼノたちに見習ってほしいものだ。
「というか私は【クレパス大商会】の娘だよ? 毎年このイベントには顔を出してる。さっきの台詞はむしろこっちの台詞だよ~。ねぇエリーザ、何でここにいるの?」
「……ちっ」
全く他意は無い様子で、イルミさんは見上げるようにエリーザに問う。その態度が気に入らなかったのか、エリーザは小さく舌打ちをした。
「私だって、たまにはこういった催しに参加くらいするわ」
「あはは、嘘だ~。エリーザだったら間違いなく、『金を持った豚共が興じる遊びに興味ない』とか言うよ~」
「……イルミ、前から思っていたけれど、私はあなたが心底嫌い」
「え~、でも私は好きだよ?」
無垢な笑顔、純粋な眼、嘘偽りを纏わない雰囲気。それら全てが、エリーザに抉るような攻撃を放っていた。
まさか、エリーザの天敵ってイルミさんなのでは……?
思案するように、俺は二人のやり取りを眺める。
見ていれば明らかだ。エリーザは間違いなく、純粋無垢を擬人化したようなイルミさんが放つ圧ではない何かに障られていた。
「おぉ! エリーザの奴今までに見たこと無いような表情をしておる!! 誰だか知らんがいいぞ!! やれ!!」
未だ俺に肩車をさせているゼノがイルミさんに発破をかけた。
「珍しく意見があったねゼノ!! あの女狐いい気味だよ!!」
「あれ、リンゼ。そう言えば今下見の時いなかったけど何でそっちにいるの?」
「ごめんなさい!」
依頼主の素朴な疑問にリンゼは即謝罪した。
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小話:
イルミ・A・クレパス
好きな食べ物は歯ごたえのあるもの




