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第三十九話 騎士の契約

「……」


 あの悪魔……ジオルドとゲオルドを倒してから、二日が経過した。死体の処理はエリーザが秘密裏に行い、『大堂円』については何か別の地下施設を作るらしい。

 まぁあれだけ地下深く、それも巨大な場所であれば何でもできるだろう。


 あれだけのことがあっても、学園の生徒たちは一部を除いてそれを知らない。

 平和な研鑽の日々を彼ら彼女らは謳歌していた。


 以上が悪魔討伐後の周辺の話――――そしてこれからは、未来の話だ。



「本日で、スパーダ君の体験入学期間が終了します。スパーダ君、前へ」

「はい」


 今日はアルマさんの言う通り、俺がシュラインガー魔法学園へと通う最後の日。

 後はこのHRが終われば、俺の体験入学のカリキュラムは全て終了する。


「えー、皆さん……」


 参ったな……いざ何か言うってなると何にも出てこないぞ。


 視線が集中されたことに一抹の羞恥を覚えながら、俺は頭を掻く。


「正直、俺は全員と関われたと思ってません。事実、このクラスだけでも喋ったことのない人たちはたくさんいます。だから皆良い人だったとか……そんなことは言いません」


 覚悟を決めた俺は、本心を述べる。


「……けど、一つだけ言えます。このクラスの生徒……いや、この学園の人たちは皆……夢に向かって真っすぐに進んでいるってことです。それを目の当たりにして、俺も頑張らないとなって、思いました。なんで、これからも頑張ってください。ま、まぁ誰目線だよって感じですけど……」


 ははは、と乾いた笑いを浮かべる。める言葉が思いつかなかったからだ。


 パチパチパチパチ

 

 ――――ん?


 少しだけ顔を俯かせていると、手を叩く音が耳に届く。

 一体何だと、羞恥を忍んで顔を上がる。そこには俺のことを真っすぐに見据えて拍手を送る三人の生徒の姿があった。


 フライト、カレン、サラーサ。


 俺がこの二週間、最も関わった……『友人』。


 パチパチパチパチパチパチパチ


「……え」


 すると、他の生徒も三人と同じように拍手をし始める。まるで水面に石を投げ、波紋が広がるように。

 俺は心底思う――――地下の悪魔を倒せて、良かったと。



「スパーダ。頑張るんだぞ」

「大変そうだけど、応援してるわ」

「あぁ、ありがとな。お前ら」


 HRが終わり、教室を出る直前フライトとカレンの言葉に感謝を述べる。


「お前はこの学園の生徒では無くなってしまうが、僕は君のことを……友として誇りに思う」


 フライトはそう言って、俺に向かい手を伸ばす。


「……そりゃあ、こっちの台詞だ」


 その手に、俺は応えた。


「今生の別れじゃないんだし、またいつか会いましょ」


 男二人の握手を、カレンは両手で包み込んだ。

 道は別々だが、またいつか……その道が交差する時まで。こうして俺たちは別れを済ませた。


「あ、あの! 私も良いですか!?」


 すると、サラーサがそう言って俺たちの前に現れる。


「あぁ構わないよ! 君もこの前の一件に大きく貢献した人物じゃないか! もう他人ではないさ!」

「一緒にやりましょ」


 カレンは少し位置を変え、サラーサのためにスペースを空ける。


「……!」

 

 意図を察した彼女はそのスペースに立ち、カレンと同じように手を重ねた。


「じゃあな」

「あぁ」

「またね」

「ま、また会いましょう!」


 互いに手を振り、踵を返す。

 フライトとカレンは騎士としてさらに自身を研鑽するため。

 サラーサは騎士でなく、冒険者としての道を歩むため。

 

 そして俺は……。



「待っていたわよ。スパーダ」


 場所はこの二週間で何度も足を運んだ応接室。そしてそこには見慣れた顔ぶれが既にいた。

 この二週間、俺を最も振り回し続けた存在でありエリーザと、その執事であるバーガンディさんだ。


「で、何だよ話って……もう魔剣は手に入った。地下の悪魔も倒した。加えて俺の体験入学期間は終わり、もうお前と関わる義理も無い」


 エリーザは柔和な笑みを浮かべる。


「えぇ、確かにそうね。けど……私は欲しいモノは絶対に手に入れる」


 そう言って、エリーザは一枚の紙を俺の前に提示した。


「何だ……これ?」

「広告用紙よ。『大オークション』のね」

「『大オークション』……? 何だ、それ」


 聞き慣れない言葉に、思わず俺はそれを繰り返す。


「ここから北西に百キロ以上先にある商業都市『ブルーノ』で年に一度行われる世界最大級のオークションのことよ」

「それと、お前に何の関係があるんだよ?」


 恐る恐る聞くと、エリーザは更に一枚の写真を提示した。出されたそれに、俺は黙って目を通す。 


「剣……?」

 

 その写真に写っていたのは一本のつるぎだった。

 何の意図があってそれを俺に見せたのか、一瞬理解に苦しんだが……その直後、俺は理解した。


「……おい、まさか」

「えぇ、そのまさかよ。次の『大オークション』、これが出品される……この、がね」

「っ……」

「まぁ出品名は『出土不明の古代武具』だけどね。誰もこれが魔剣だとは認識していないわ」


 理解の一致に、顔を歪ませる。受け入れたくない現実を、受け入れさせられた。


「『大オークション』はその規模もだけれど、最も特筆すべきは品の貴重性。出品されるものはSランクダンジョンから持ち出された魔具や、古代の骨董品こっとうひんばかりよ」

「だから……なんだよ」


 ――――嘘である。俺は分かっていた。分かっていたが、聞いたのだ。


「『大オークション』は世界の名だたるコレクターや富豪が集まるわ。この魔剣は造形も申し分ない、加えて年代は古代。蒐集しゅうしゅう癖のある彼らは手が出るほど欲しいでしょうね。いくらを積んでも……」


 エリーザは俺に艶めかしい視線を向ける。


「けど、私なら……魔剣を落札できる」

「……だろうな」


 エリーザは三大貴族、大富豪なのは言うまでもない。彼女であれば、名だたる金持ちがどれだけ集まろうが、目当ての品を手に入れることができるのだろう。

 そこに疑いの余地は一切なかった。


 ――――だが、問題がある。


「じゃ、魔剣を落札したら俺にくれよ」

「駄目」


 ですよねー……。


 分かり切っていた返答に、俺は苦笑いを浮かべた。


「さ、ここからが本題よスパーダ。私は魔剣を落札する、そしてそれをあたに渡す。だから……」


 その台詞の先を、俺は知っている。この女の――――揺るぎない意志を実感する。


「私の騎士になりなさい」


 ここでの最後の正念場が、訪れた。

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◇◇◇

小話:

学園長は悪魔の討伐報告をすると肩の荷が降りて倒れてしまい、現在自宅療養中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] リンゼが居たら確実に発狂するなww 遠征で何もなければ良いけど.... それよりも、双剣なら分かるが、3本目の魔剣を手に入れるとなると使う用途ではなく、バフデバフの用途のみで使うという事なの…
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