第三十八話 戦いの終わり
「か、勝った……」
目の前の事実を、朧気ながら認識した俺の中で……張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた。
加えて魔剣二本分の力による肉体の負荷、ゼノの魔力消耗
「はぁ……」
力なくその場に座り込むのには、十分すぎる理由であった。
「スパーダさん!」
「スパーダ!!」
「大丈夫!?」
そんな俺に、サラーサとフライト、カレンが駆け寄って来る。
「あぁ……何とかな……」
気力を振り絞り、力無い声で俺は答えた。
「終わったん、ですよね……?」
「……あぁ」
頭を回す余力も残っていない。一秒前と同じような言葉をただ吐く。
「っと」
すると、魔剣からゼノが実体化した。
「ゼ、ゼノさん……」
「君、あの時の子供かい?」
「あぁそうだわ。いたわね確かに」
彼女の登場に、三者はそんな感想を抱く。
だがその声は俺に右耳から左耳へと通り抜けていった。
「全く、無茶しおって」
「……あぁ、悪い」
「何を言う。あぁしなければ奴は殺せんかった。褒めはしても誹る理由が何処にある?」
「……」
珍しかった。いや、ゼノはよく「よくやった!」というような言葉を掛ける。
そう言う意味では称賛されるのは珍しいことではない。
だがこの時ばかりはそれとは違う、程よい温もりのような……そんな拙い語彙力でしか表現できないが、とにかくそんな感じだ。
「う……ぁ」
――――俺の意識は、そこで途絶えた。
◇
「ん……ぁ?」
目を開け、俺は周囲を見渡した。しかしそこらに景色と呼べるものは存在せず、ただ一面に暗闇が広がるばかりだった。
「ここは……現実じゃ、ねぇな。夢か……」
不思議と、俺は自分の状況をすんなりと受け入れる。
――――すると、
「……」
「あ……?」
俺の約十メートル先に、人影が現れた。そしてそれは徐々にこちらへと近づく。
こちらも動こうと体に力を入れようとするが、入らない。夢の中だからだろう、体は全くと言っていいほど言うことを聞かなかった。
「……」
人影はその間も、俺との距離を詰める。
そうして、まるで彫刻によって姿が形作られていくように、俺の目に鮮明なその姿が映り込んだ。
「誰だ、お前……」
目に映るのは、違うこと無き美女。
顔はこの世の者とは思えぬほどに整い、端正。体の方は豊満に関わらず黄金の均衡を為している。
しかし、何故だろう。どこか、誰かの面影を感じる。
おかしな話だ。俺はこんな美女の血縁者と繋がりを持った覚えはない。
「……」
その美女は何も言わない。身長は百七十前後、俺より数センチ低い。目と目が合うには、問題の無い身長差だ。
「おい、答えろよ」
再度、俺は美女に問う。
しかし……彼女は何も答えない。
「……」
「っ……」
ふいに、彼女は手を伸ばし、俺の顔を優しく触る。
指の腹で俺の肌がなぞられるその感触は……何にも代えがたいほどの奇妙なものだった。
「……」
唇を最後に、彼女は俺の顔から手を離した。そして何一つ表情を変えることなく、後方へと後ずさる。
「あ、お……おい!」
彼女に向かい、手を伸ばす。先ほどまではピクリとも動かなかった肉体が、手の平を返すように言うことを聞きいれた。
しかし、何故伸ばしたのか、理由は分からない。
そんな俺の手を、彼女は掴むことは無く、再び暗闇と同化するように……姿を消した。
「何、だったんだ……?」
また一人、暗闇へと残された俺は起きた事態、邂逅した美女に対し募った疑問を、何一つ解消できなかった。
◇
「ん……」
瞼を閉じていても、光を実感する。朧げな意識のまま、重い瞼を何とか開いた。
「……」
目を開けると、天井には知らない景色が広がっていた。
「ここ、は……っ……」
目、耳、鼻から入る情報の波を受け入れていると、ふいに凄まじい頭痛が走る。
何だ……? 何か、あったような……。いや、違うな……夢で、何か……見たような……。
思い出そうと頭に左手を当てるが、何一つ思い出せない。まるで霞が掛かっているかのような気持ちの悪さを感じる。
「起きたかい、スパーダ」
「……フライト」
目の端で、見慣れた顔を補足した。フライトだけではない……カレン、サラーサ、そして。
「お帰りなさい。スパーダ」
エリーザもまた、寝ている俺のベッドを囲うように座っていた。
「こ、ここは……」
「こら。まだ駄目よ、さっきの戦いでの負荷が消えてない」
「大丈夫だ、起き上がるくらいならな……」
カレンの制止を振り切り、俺は上半身を持ち上げる。
「場所はシュラインガー魔法学園の医務室よ。勿論、医師も今回の件で出払っているから、何の治療もせずに寝かせていただけだけれど」
エリーザは分かりやすく、淡々と現状を説明してくれた。
「……ん?」
その説明を聞いていく内に、俺の意識は完全な覚醒へと向かっていき、そして気付いた。
右手に、確かな温もりがあることを。
「……」
視線を下に落とすと、そこには。
「ん~、むにゃむにゃ……」
椅子に座りながら、ベッドに伏せるように眠りについているゼノがいた。
疲れたのだろう。俺がベッドで寝ていたということは、コイツもまたそれに近しい症状があるということだ。
「はは……」
ゼノの手を、俺は優しく握り返した。
――――ありがとうな、ゼノ。お前のその手に、助けられた。
寝息を立て、子供のように眠る相棒に、俺は心の中で感謝を告げた。
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◇◇◇
小話:
第二章いよいよ最終局面に入ります!




