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第三十八話 戦いの終わり

「か、勝った……」


 目の前の事実を、朧気ながら認識した俺の中で……張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた。

 加えて魔剣二本分の力による肉体の負荷、ゼノの魔力消耗


「はぁ……」


 力なくその場に座り込むのには、十分すぎる理由であった。


「スパーダさん!」

「スパーダ!!」

「大丈夫!?」


 そんな俺に、サラーサとフライト、カレンが駆け寄って来る。


「あぁ……何とかな……」

 

 気力を振り絞り、力無い声で俺は答えた。


「終わったん、ですよね……?」

「……あぁ」


 頭を回す余力も残っていない。一秒前と同じような言葉をただ吐く。


「っと」


 すると、魔剣からゼノが実体化した。


「ゼ、ゼノさん……」

「君、あの時の子供かい?」

「あぁそうだわ。いたわね確かに」


 彼女の登場に、三者はそんな感想を抱く。

 だがその声は俺に右耳から左耳へと通り抜けていった。


「全く、無茶しおって」

「……あぁ、悪い」

「何を言う。あぁしなければ奴は殺せんかった。褒めはしてもそしる理由が何処にある?」

「……」


 珍しかった。いや、ゼノはよく「よくやった!」というような言葉を掛ける。

 そう言う意味では称賛されるのは珍しいことではない。

 だがこの時ばかりはそれとは違う、程よい温もりのような……そんな拙い語彙力でしか表現できないが、とにかくそんな感じだ。


「う……ぁ」


 ――――俺の意識は、そこで途絶えた。



「ん……ぁ?」


 目を開け、俺は周囲を見渡した。しかしそこらに景色と呼べるものは存在せず、ただ一面に暗闇が広がるばかりだった。


「ここは……現実じゃ、ねぇな。夢か……」


 不思議と、俺は自分の状況をすんなりと受け入れる。

 ――――すると、


「……」

「あ……?」


 俺の約十メートル先に、人影が現れた。そしてそれは徐々にこちらへと近づく。

 こちらも動こうと体に力を入れようとするが、入らない。夢の中だからだろう、体は全くと言っていいほど言うことを聞かなかった。


「……」


 人影はその間も、俺との距離を詰める。

 そうして、まるで彫刻によって姿が形作られていくように、俺の目に鮮明なその姿が映り込んだ。


「誰だ、お前……」


 目に映るのは、違うこと無き美女。

 顔はこの世の者とは思えぬほどに整い、端正。体の方は豊満に関わらず黄金の均衡を為している。

 

 しかし、何故だろう。どこか、誰かの面影を感じる。

 おかしな話だ。俺はこんな美女の血縁者と繋がりを持った覚えはない。


「……」


 その美女は何も言わない。身長は百七十前後、俺より数センチ低い。目と目が合うには、問題の無い身長差だ。


「おい、答えろよ」


 再度、俺は美女に問う。

 しかし……彼女は何も答えない。


「……」

「っ……」


 ふいに、彼女は手を伸ばし、俺の顔を優しく触る。

 指の腹で俺の肌がなぞられるその感触は……何にも代えがたいほどの奇妙なものだった。


「……」


 唇を最後に、彼女は俺の顔から手を離した。そして何一つ表情を変えることなく、後方へと後ずさる。


「あ、お……おい!」


 彼女に向かい、手を伸ばす。先ほどまではピクリとも動かなかった肉体が、手の平を返すように言うことを聞きいれた。

 しかし、何故伸ばしたのか、理由は分からない。

 そんな俺の手を、彼女は掴むことは無く、再び暗闇と同化するように……姿を消した。


「何、だったんだ……?」  

 

 また一人、暗闇へと残された俺は起きた事態、邂逅した美女に対し募った疑問を、何一つ解消できなかった。



「ん……」


 瞼を閉じていても、光を実感する。おぼろげな意識のまま、重い瞼を何とか開いた。


「……」


 目を開けると、天井には知らない景色が広がっていた。


「ここ、は……っ……」


 目、耳、鼻から入る情報の波を受け入れていると、ふいに凄まじい頭痛が走る。


 何だ……? 何か、あったような……。いや、違うな……夢で、何か……見たような……。


 思い出そうと頭に左手を当てるが、何一つ思い出せない。まるで霞が掛かっているかのような気持ちの悪さを感じる。

 

「起きたかい、スパーダ」

「……フライト」


 目の端で、見慣れた顔を補足した。フライトだけではない……カレン、サラーサ、そして。


「お帰りなさい。スパーダ」


 エリーザもまた、寝ている俺のベッドを囲うように座っていた。


「こ、ここは……」

「こら。まだ駄目よ、さっきの戦いでの負荷が消えてない」

「大丈夫だ、起き上がるくらいならな……」


 カレンの制止を振り切り、俺は上半身を持ち上げる。


「場所はシュラインガー魔法学園の医務室よ。勿論、医師も今回の件で出払っているから、何の治療もせずに寝かせていただけだけれど」


 エリーザは分かりやすく、淡々と現状を説明してくれた。


「……ん?」


 その説明を聞いていく内に、俺の意識は完全な覚醒へと向かっていき、そして気付いた。

 右手に、確かな温もりがあることを。


「……」


 視線を下に落とすと、そこには。


「ん~、むにゃむにゃ……」


 椅子に座りながら、ベッドに伏せるように眠りについているゼノがいた。

 疲れたのだろう。俺がベッドで寝ていたということは、コイツもまたそれに近しい症状があるということだ。


「はは……」


 ゼノの手を、俺は優しく握り返した。


 ――――ありがとうな、ゼノ。お前のその手に、助けられた。


 寝息を立て、子供のように眠る相棒に、俺は心の中で感謝を告げた。

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◇◇◇

小話:

第二章いよいよ最終局面に入ります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 2本目の魔剣の残留因子的なものかな。誰の先祖なのか気になるが、それよりもリンゼのヤンデレ成分が足りない。
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