第三十話 新たなカード
「サラーサ!! 早く逃げろ!!」
「で、でも……!!」
「いいから早く!!」
「っ……!!」
俺の必死の訴えに、サラーサは顔を俯かせ結界の外へと走り出した。
「……なぁゼノ、ちなみに聞くけど強いって……」
『うむ。軽く見積もって先日の魔人の五倍と言ったところか』
「聞きたくなかったよ……」
だが、悪魔が強いというのは既に聞かされていた話だ。
だからエリーザはここにある魔剣を抜かねば対抗できないと言っていた。
結界を解かずに戦えれば……と思ったが、やはり無理だな。
淡い微かな希望が潰えたことで、俺は改めて作戦の実行を決意する。
「ウゥゥゥゥゥアァァァァァァァ!!!!」
サラーサが結界外に出たことで、悪魔の標的は俺となった。
「……」
悪魔に意識を集中しながら、横目で中央に柄ごと刺さる魔剣に目をやる。
目視で距離は十五メートル……このまま駆け出して魔剣を手にできれば……。
そう思うが、事はそう容易くは無い。
「アアァァァァァ!!」
「くっ!!」
悪魔は両の腕で拳を繰り出し、連撃を見舞う。
放たれる拳の一撃一撃をこちらも魔剣の斬撃で対処するが、このままでは魔剣の元に辿り着くことは出来ない。
マズい……!! どうする……!!
このままじゃサラーサの張ってくれた結界の有効時間が切れる……!! そうなれば魔剣を抜いた時コイツは自由に動けるようになっちまう!!
剣を振るい、悪魔に対処する中で必死に思考する。
だがここで新たなアイデアを創造する程器用ではない。
今の俺ができるのはせいぜい今までの経験、自身が行ってきた行動……その中から使えるものが無いか探し出すことくらいだ。
っ……!!
そして辿り着く、一つの答え。
確実に魔剣の元に辿り着くことができる方法を。
しかし、これには付随する不確定要素が多い。そのため実行に移すには腰が重い。
……が、
――――選択の余地、無し……!!
俺は実行を決意した。
「ふん!!」
拳が放たれた後、次の拳が逆側の手から繰り出されるまでの僅かな時間。
そこを狙って俺は魔剣を悪魔の顔面目掛けて投擲した。
「ァァ!!」
悪魔は投擲した魔剣を難なく掴む。
先程の俺の攻撃をいとも容易く防いだように。
しかし、
「十分だ!!」
十五メートル、その先にある魔剣を掴むには十分な時間だった。
「よし!!」
魔剣との距離が離れたことで俺の身体能力は落ちる。だがこの距離を一瞬で詰める分には十分だ。
「これで……!!」
魔剣を手にし、一気に地面から引き抜く。
すると現在二層構造になっている外側の結界が消失した。
残り時間は後六分……!! さっさと終わらせる!!!
意を決し、俺は新たな魔剣を鞘から抜こうとする。
……が、
「……は?」
魔剣は抜けなかった。
「何だ!? 何でだよ!! 何で……!!」
あまりにも予想外の事態に動揺と混乱を禁じ得ない。
必死に鞘から魔剣を抜こうと力を籠めるが、それは一向に抜ける気配を見せなかった。
「くそ、くそ、くそ……!!」
「アァァァァァァァァァァ!!!!」
悪魔が雄たけびを上げる。
ゼノディーヴァを投擲したことによる時間稼ぎは全て水泡に帰してしまった。
「ははははは!! バカめ!!」
「ゥァ?」
その時だ。
悪魔が掴んだ魔剣から実体化したゼノが悪魔の顔面に蹴りを入れようとする。
「アァ……」
「何ぃ!?」
だがそれも魔剣を持たないもう片方の腕で防がれてしまった。
「アアアアァァァァ!!」
「うぉぉぉぉぉ!?」
「ゼノ!!」
悪魔の手の平に蹴りを叩き込んだゼノは、そのまま足を掴まれ地面へと叩きつけられる。
激しい轟音と土煙を立て、その場にクレーターが形成された。
「この儂に対し何と無礼な奴じゃ!! ペットの分際で生意気じゃぞ!!」
しかしそのクレーターの中心にいたゼノはピンピンしており、勢いよく起き上がると悪魔を指差す。
「っゼノ!! こっち来てくれ!!」
「あぁん? 何やっとるスパーダ、早く魔剣を抜かんか!!」
「やってる!! けど抜けないんだ!! 何か条件があるのかもしれない!!」
「全く仕方の無い奴じゃのう!!」
そう言ったゼノは再び思念体と化し、魔剣へと侵入した。
しかし次に彼女から発せられた言葉は聞きたくないものだった。
『ってなんじゃこの魔剣!! 所有権が儂に無い!! これでは儂もお前もこの剣を使えんぞ!!』
「はぁ!?」
何だよそれ!! 七魔剣はゼノの所有物で、当然その全ての所有権をゼノは持ってるはずだろ!!
一体どうなっている……そんなことを考えていると、
「ウアアァァァァ!!!」
悪魔の拳が俺たちに向かい飛来する。
「くっそ!!」
悪態を吐きながら、跳躍し攻撃を躱した。
しかも問題はそれだけじゃねぇ……!! あっちからの攻撃は辛うじて対処できるが、こっちが攻撃を仕掛けると全て対処しやがる!
このままじゃ……!!
「おいゼノ!! 何とかしろ!!」
俺に魔剣に魔剣をどうこうできる力は無い。こういった時はどうしてもゼノに頼るしかないのだ。
「分かっとる!! じゃが今所有権を儂に書き換えようとしているところじゃ!!」
「書き換えまでに掛かる時間は!?」
「少なく見積もって四分!!」
「はぁ!?」
四分……本来ならば大したことの無い時間だが、今この状況において三分という時間は永久にも感じる時間である。
それに四分と言うのは制限時間である六分の三分の二を占める。つまり実質二分で悪魔を倒さなければならないということだ。
だがやるしかない……!! ゼノが魔剣の所有権を書き換えている間、悪魔の攻撃を対処する!!
そう考え、背中の鞘から魔剣を抜こうとした時、俺は思い出した。
「……」
悪魔の方を見る。すると眼前の敵の右手にはゼノディーヴァが握られていた。
そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
心の中で頭を抱える。
マズい!! これじゃあ満足に身体強化ができないし悪魔の攻撃を捌き切れない!!
――――絶望は、「圧倒的」絶望に変貌した。
『ピンチかしら?』
そんな時、あまりの窮地に顔を歪ませていると魔水晶片から一方的にエリーザの声が届く。
「ピンチだよ!! マジでヤバい!! 何か手はねぇか!?」
本来であればこんな風にエリーザに縋りたくはない。だが今は状況が状況だ。
切羽詰まった、焦りを含む口調で彼女に言う。
『状況は?』
魔水晶片は音声通信のみで、視界を共有できるわけではない。
そのためエリーザは何がどうピンチなのか正確に分かっていないのだ。
「魔剣の所有権書き換えに四分掛かる!! 魔剣も手元にない、それまでに悪魔に殺されちまいそうだ!!」
『なるほどね』
悪く言えば雑、良く言えば端的な俺の説明に彼女は納得した。
『しなければならないことは魔剣の奪還、そして四分間の時間稼ぎね。それなら切るカードは決まっているわ』
「切るカード……?」
エリーザの物言いに、訝し気に言葉を返す。
『スパーダ。さっき渡した魔具を使いなさい』
「さっき渡した……ってこれか!!」
言われて思い出す。作戦決行直前、彼女に渡された謎の物体を。
「これ魔具だったのかよ……!!」
『使い方は簡単よ。悪魔の攻撃範囲外にそれを投げなさい』
「投げるって……」
「ウゥゥゥゥゥアァァァァァァ!!!」
「うおぉ!?」
エリーザの指示を耳にしていると、悪魔が俺に向かい咆哮を浴びせる。そして再び攻撃を仕掛けてきた。
「っ!!」
瞬間、俺はエリーザの言う通り悪魔から遠ざけるように円形の物体……もとい魔具を投げた。
地面へとぶつかった魔具は瞬間的に光を放ち、それを投影するように地面に魔法陣が描かれる。
「何だ……!? 一体何が……!!」
紙一重で悪魔の拳を回避した俺は魔具を投げた方に目をやった。
そして魔法陣から出てきたのは二人の人影だった。
あの魔具は転移系の魔具だったのか……? ならエリーザは一体誰を……?
目を凝らし魔法陣へと注視する俺だが、
「は……?」
魔法陣から現れたその人に、唖然となる。
それもそのはず。
「ははは! 来たぞスパーダ!」
「はぁ……本当、アンタよくそんなテンションでいられるわね」
現れたのは、先日絶交したはずのフライトとカレンだったのだから。
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◇◇◇
小話:
なし




