第二十八話 悪魔邂逅
「……まさか、あなたが協力するとはね」
「……」
四日後、エリーザと対面したサラーサは緊張した面持ちで喉を鳴らす。
俺がシュラインガー魔法学園に体験入学して早十一日。今日はいよいよ作戦の決行日だ。
学園内の応接室で、俺たちは最終確認を行っていた。
「今日は休校日で学生は来ない。学園に来て仕事をする教員も今日は来ないように手配させたわ」
「じゃあ……本当に今ここにいるのは俺たちだけなんだな?」
「えぇ」
最重要の確認をエリーザは肯定する。
「よし」
これで被害者の出る可能性がかなり下がった……後は。
「悪魔が地上に出るまでに、倒す」
「改めて作戦を確認するわ。バーガンディー」
「はっ」
エリーザの指示に彼は机の上に一枚の見取り図を広げる。
「『大堂円』の入り口はここ」
そう言って彼女は学園長室を指し示した。
「イゾルの机の下には隠しボタンがある。それを押すと、机の横の床が開いて、地下へ続く階段が出現する。次にこれ」
バーガンディーさんが出した地図には学園長室から地下へと続く道、そして地下の内部構造までもが描かれている。
「いい? 学園長室から四百七十メートル下まで降りると平坦な通路になってる。そこから道なりにまっすぐ進めば……」
「……結界と、そこにいる悪魔とご対面できるってわけだな。よし、手順を確認するぞ。サラーサは『私の景色』で姿を消して先陣を切り、悪魔が封じられている結界内へ侵入。悪魔を囲うよう……四方にこれを設置する」
机の上にあるのは見取り図だけではない。
界創端末、手の平大のそれは四つ設置することでそこを起点に結界を発動、作動した結界の内部にある物体を閉じ込めることが可能だ。
効果時間は約六分、発動範囲は二百メートル。人の出入りは登録制であり、それを済ませてある俺とサラーサだけが出入り可能である。ゼノに関しては実体化しないため登録の必要は無かった。
「今発動している結界を結界A、新たに発動する結界を結界Bとして……エリーザ、改めて聞くが俺たちは結界Aの中に入れるんだよな?」
「問題無いわよ。今作動している結界Aは中にいる悪魔だけを対象にしている。つまり、私たちは問題なく自由に出入りすることができる。これは数百年前の実験書記から分かっているわ」
それを聞いた俺は、真剣な目でサラーサを見る。
「……サラーサ、この作戦は最初に全てが掛かっていると言ってもいい。大役を任せて申し訳ないけど、頼むぞ……」
「は、はい! 不肖サラーサ、絶対に遂行してみせます!」
頼もしい返事が聞こえたところで、次の手順を確認する。
「こちらで用意した結界Bが作動した瞬間、俺は結界Aを通過し、結界Bに侵入する。そして魔剣を抜いて、結界Bを覆う形になっている結界Aを解除する」
――――そこから先は、正直時間との勝負だ。
六分……その間に倒せなければ結界Bは自動的に解除され、悪魔が自由に動けるようになってしまう。
そうなってしまうかどうかは、全て俺とゼノに掛かっているワケだ……。
「ふぅぅぅぅぅ……」
目を瞑り、深く深呼吸をする。
「っし!! いくぞ!!」
そして目を見開いて俺は自分を鼓舞した。
「あ、そうだ忘れていたわスパーダ」
「って何だよ!! 今完全に行く雰囲気だったろうが!!」
途中で水を差された気分になりなった俺はエリーザを睨み付ける。
「これも渡しておくわ」
「は……? 何だよこれ?」
エリーザから手渡されたものは手の平に収まり切る大きさの円形の物体だった。
界創端末とは違うそれに戸惑いを隠し切れない。
「私が指示したらそれを使いなさい。それまでは使っては駄目よ」
「はぁ……?」
意味深な彼女の発言に困惑しながらも、俺はそれを腰のポーチにしまった。
◇
ゴゴゴゴゴゴゴ。
学園長室の石床がそんな音を立てながら動き出し、地下へと続く階段を出現させた。
「こちらスパーダ、今から地下へと侵入する」
『了解』
俺とサラーサ、そしてエリーザは魔水晶片を通して音声による通信を行っている。
これも界創端末と同じく登録した者、そして登録した者同士でしか通信できない。
おまけに遠方と音声通話が可能と言う代物のためかなり値が張り、Sランク冒険者でさえ中々手が出せない。こういったものがタダで使えるのはかなり有難い。
俺はエリーザと知り合えたことを初めて感謝した。
コツン、コツンと二名のブーツが石階段を踏む音が下層にまで静かに響く。
「「……」」
俺とサラーサの表情は、下へと降る度に強張った。
緊張からか……足の感覚は既に無い。
だが足は動くことを止めなかった。まるでどこまでも深い深淵へと誘われるように、俺たちは足を動かし続けたのだ。
◇
無音。
どこまでも音は無く、まるで音と言う概念がこの世界から隔絶されたような気さえする。
「じゃあ、行きます」
「……あぁ」
緊迫と切迫の板挟みの中、俺とサラーサは短く意思疎通を行う。
――――そして、
「『私の景色』」
彼女の姿が景色と同化した。
目視出来なくなったことから、俺と彼女は魔水晶片で連絡を取り合う。
と言っても、頻繁に言葉を交わすわけではない……サラーサが一定の歩幅で歩き距離を測り、二十メートルごとに俺に短く数字で報告する。
数字を聞いた俺はそれに合わせてサラーサとの距離間隔を空けながら歩き進める。
この距離間隔はサラーサの姿が見えていれば容易に測れるのだが、今の彼女は姿を消している。よって彼女から今どこにいるのかの情報を適宜知る必要があるのだ。
また、この行動には確かな意義が二つある。
一つ目は、仮に悪魔がサラーサに気付いても、俺の存在を悟られないようにするため。
そして二つ目は、魔剣と俺との距離を限りなく縮めるためだ。
界創端末による結界が作動した瞬間に俺が突っ込んだ際、魔剣と俺との距離が遠ければ悪魔に俺の動きを対処されてしまう可能性がある。これはその可能性を限りなく下げることに繋がる。
「二十」
『大堂円』までの距離は二百メートル。
つまり後これを十回繰り返せば、サラーサは悪魔の元へと辿り着くことになる。
「……」
そして俺も自分で距離を取りながら、サラーサとの距離感を保ちつつ『大堂円』に向かい歩く。
◇
「……」
緊張を押し殺しながら、サラーサは歩く。
歩けば歩くほどに寿命が縮むような思いであり、心臓に手が掛かっているかのような錯覚さえ覚えていた。
「っ……」
空気が更に冷気を帯びてくるのが分かる。
正面にある空間から出る、吹き抜けた風によるものだと……明確に示していた。
――――あ。
そうして、サラーサは辿り着いた。
『大堂円』、巨大な空間が広がり特にこれと言った装飾は無い。
ただあるのは、
「……」
巨大な結界の中に鎮座する、全長三十メートルほどある悪魔だけだった。
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◇◇◇
小話:
今回使う魔具は一つ一千万ネイスくらいです。




