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第二十一話 魔剣の在り処 その1

 決闘が終わったその日の夕方、俺はエリーザに呼び出された。

 彼女が言うには既にシュラインガー魔法学園の応接室にいるらしく、そこに来いとの事だった。

 フルラビル学院まで来いとか言うのかと思っていた俺は、意外な気持ちで学園内の廊下を歩く。


 そして応接室の前に到着すると、ノックすることもなく扉を開けた。


「あら。マナーがなってないわよ」

「お前相手にそんなもん必要ねぇだろ」

「ふふ……教えを乞う立場なのによくそんな口が利けるわね。私の機嫌を損ねるかもしれない……とは思わなかったのかしら?」


 彼女の言葉を聞きながら、俺は対面するソファに座る。


「そんなんで機嫌損ねる奴じゃねぇだろ、お前」


 エリーザと知り合いまだ一週間も経過していないが、彼女がそんなことをする人間では無いと……俺には確信めいた直感があった。


「良く分かっているじゃない、そんなに私のことを理解してくれているだなんて嬉しいわ」

「茶化すなよ。早く本題に入ろうぜ」

「せっかちね、まぁいいわ。一先ずお疲れ様……よくやったわ。これでヴァロナント家とチェンバー家の慣習はほぼ壊滅と言っていい」

「そうかよ……あんま気分のいいもんじゃないけどな」

「あら、どうして? 候補生のトップを倒したのよ?」


 俺の言葉に、エリーザは疑問の声を向ける。


「……アイツは、どうなるんだ?」

「ロズ・チェンバーのことかしら?」

「……あぁ」

「そうね。あなたに敗北したことで家名が傷ついたから、下手をすれば家を追放……なんてこともあるんじゃないかしら」

「他人事かよ」

「他人事だもの」


 エリーザには全く詫びる様子が無い。


「そうじゃぞスパーダ。負けた人間のことなど考えるな」


 魔剣から実体化し、俺の隣に座ったゼノもエリーザと同意見のようだった。


「あら、意見があったわね魔王」

「うるさいわ。ふん!」

「相変わらずつれないわね……あ、そうだ。先日のことは謝るわ、ごめんなさい」

「んなぁ!? 何じゃその取ってつけたような返事は!! もっと誠意を見せろ!!」


 あっけらかんとしたエリーザの態度にゼノは両腕を上げて抗議する。

 だが前回とは違い、癇癪を起したり拗ねたりするといった姿勢は見せなかった。

 少しは成長したということだろうか。


「って、また話が逸れてた……教えろよ。魔剣の在り処を」


 自分で逸らした話を無理やり自分で修正した俺は本題を聞く。


「そうね。あなたとの他愛の無い会話は素敵だけれど、今あなたがそんな気分じゃないのも理解しているわ。それじゃあ言いましょう」

「……」


 ゴクリと、俺は唾を飲み込む。

 遂に魔剣への大きな手掛かりが手に入るという緊張の一瞬に俺の顔は強張った。


「ここよ」

「……」


 ココ……? 一体どこだ? 村、町? それとも都市……?


「何か勘違いしているようねスパーダ。ここは場所の名前では無いわ。正確には言うと、固有名詞じゃない」

「固有名詞じゃない……?」


 どういうことだ? つまり通称……? 呼び方が地域によって違うってことなのか……?


「凄まじく斜め上の曲解をしているわね」


 すると何故かエリーザがそんなことを言い始める。


 何を言ってんだ……?


 俺からすれば彼女の言葉が理解できない。

 普通に考えて、ココという場所にそれ以外の解釈は存在しないだろう。

 

「全く……ここよここ」


 そんな俺の様子を見たからか、エリーザは指差した。

 ――――この応接室の床を。


「……ここって……ココじゃなくて……」

「えぇ。七魔剣の内の一つは、このシュラインガー魔法学園にあるわ」

「……はぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


 あまりにも衝撃的過ぎる話に俺は思わず前傾姿勢となり目の前の机に両手を叩きつける。


「ほ、本気で言ってんのかよ!?」

「えぇ。本気も本気よ」


 ま、まさか王都内……それも俺が今通ってるこの学園にあるなんて……。

 いや……ていうか、


「お前……そのために俺をここに招待したのか……?」

「えぇ、ご名答」


 その問いに、エリーザは俺の鼻頭に人差し指を当てた。


「そ、それで……学園のどこにあるんだよ……?」

「それを言うにはもう一人、会わせなければならない人がいるわ」

 

 会わせなければならない人?

 

「案内するわ」

「お、おう」


 どうやら前回とは違い、何か言葉巧みに俺を騙そうとしている訳でも何か追加で条件を追加するようなことはなく素直に案内してくれるようだ。

 立ち上がりドアに向かう彼女の背中を追う。


「あら……」


 しかし、突如として彼女はその場にへたり込んだ。


「は? おい大丈夫かよ?」


 その様子を見た俺は、発作か何かで体調に支障をきたしたのかと思いすぐさま駆け寄る。


「駄目ね」

「駄目って……」


 どうするんだよ……とりあえず、すぐに教員か医者に来てもらわないと……。


「待ってろ。とりあえず誰か呼んでくる」


 そう言って俺は立ち上がった。

 だが、そんな俺の袖を彼女は掴む。


「お、おい離せって」


 その手を振り払おうと軽く腕を動かすが、エリーザは頑なに離さなかった。


「別に重病じゃないわ。ただの発作」

「発作だって下手したら命に関わるだろ。いいから待ってろ」

「本当に大したことじゃないの。けど歩けそうには無いわね。だからスパーダ、私を抱きかかえて」

「あ……?」

「そうすれば案内するのに支障が出ないでしょ?」

「いや、まぁ……確かにそうだけど」

「決まりね。はい」


 そう言って、彼女は俺に向かって両手を広げる。


「……いや嘘だろ」


 俺はエリーザを半眼で見詰めた。


「何のことかしら?」

「発作の話だよ。よく考えたら全然苦しそうでも何でもないし」

「あら、人をそんな外面だけの症状で判断するのは早計と思うけれど」

「そんなこと言える余裕があるなら大丈夫だな」

「……」


 俺がそう言うと、エリーザは少しだけ片頬を膨らませる。


「別にいいじゃない。減るものでもないし、案内する駄賃と思えば問題無いでしょう?」

「……」


 まぁ、確かにその通りだ。

 エリーザを抱きかかえるだけでいいのなら特に断る理由も無い。

 ここで変に揉める事で話がややこしくなるのは俺としても避けたかった。


「分かったよ。これでいいか?」 


 言われた通り、俺は彼女を抱きかかえる。


「えぇ、じゃあ立ち上がって」

「分かった」


 更に言われた通り、俺は彼女を抱きかかえたまま立ち上がった。


「いいわね。好きな人の腕の中は……幸せ」

「へいへい……」

「ちょっと待てぇい!」


 足を一歩前に出そうとしたところでゼノが前に立ちはだかった。


「何かしら魔王様。そこにいては先に進めないわよ」

「うるさい! 何勝手なことしとるんじゃ!! スパーダは儂のパートナー、すなわち儂の所有物じゃぞ!!」

「あら、スパーダも嫌がっていないから別にいいじゃない。あなたにとやかく言われることじゃないわ」


 エリーザはそう言うと、俺の胸に顔を寄せて来た。


「おぉい!? スパーダ!! 早くソイツを降ろせ!! 嘘つきの言葉などに耳を傾けるな!!」

「いやまぁそうかもしれなけど、別にいいだろこれくらいなら」 

「むぅー! どうしてもそいつを降ろさんと言うなら儂も考えがあるぞ!」

「うぉっ!?」


 ゼノが俺の頭部に飛びつき、俺が彼女を肩車する態勢になった。

 

「……」


 腕には少女を抱え、頭には幼女がくっついている。

 最早ツッコむ気にもなれない状況を受け入れた俺は、そのまま応接室を後にした。 

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◇◇◇

小話:

エリーザの身長は百六十三センチです。

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