第七話 魔王とお風呂
前回の続きと後半はお風呂回です!
「ここの管理を……?」
「はい。まぁ管理と言っても基本ここにいるだけですよ。たまに契約書などの書類作成なども行いますが、後は好きなだけここの本を読んでるだけです」
えへへ、と笑いビクは言う。
「それにしても珍しいですね、ここに来るなんて。普段は生徒さんどころか教師も滅多に来ないんですよ」
「そう、何ですか?」
「皆古書とかには興味ないんでしょうねー。まぁ確かに、ここに書いてあることは時代遅れの産物と真偽が定かじゃない文献ばっかりとですから」
傍の本を一冊手に取ると、ビクはぺらぺらとページをめくる。
つられるように、俺も近くにあった一冊を手に取った。
その本にタイトルは無く、ページの端々が薄汚れており、文字が滲んでいた。
「いいものでしょ? 何か分からなくても、こうしているだけで、過去と相対する……過去の遺産を享受する感覚が得られる」
「……」
正直、ビクの言うことはよく理解できない。
ただ……、
「……悪くない匂いだな」
ページをめくった時に本から放たれる微かな匂い。
鼻腔を擽るそれは、不思議と気分を心地よくさせた。
「ビクさん」
「はい?」
「俺、スパーダって言います。今日から体験入学生として二週間この学園に通うことになってます」
「へー、それはそれは」
「なんで、これから毎日ここに来ていいですか?」
「うぇ!? それはまたどうして……? 管理者の僕が言うのもなんですが、ここはそんな積極的に来るような場所では無いと思いますよ……? それに二週間しか期間が無いのなら、もっと有意義な場所に行くべきだと……」
「いや、俺ここで調べたいことがあるんです」
「調べたいこと?」
「はい」
「そーですか。そういうことなら分かりました。基本的に僕はいつもここにいますので、何時でもお越しください」
「ありがとうございます!」
俺はビクさんに感謝を述べる。
そしてこの日は書庫内での調査をせず、ビクさんとの挨拶だけで終了した。
◇
学園での一日目は滞りなく終わった。
俺とゼノは帰路につき、家の扉を開ける。
「お帰りなさいませ。スパーダ様、ゼノ様」
そうして出迎えてくれたのは、柔和な笑みを見せるサイカさんだ。
「うむ! 今帰ったぞ!」
「ただいまサイカさん」
学園での一日目は滞りなく終わった。
フライトやカレンといった繋がり、そして肝心のグラゴリエス書庫の場所を実態を把握することができたのは初日にしては大きな収穫だ。
今日の成果を頭の中で思い浮かべる俺。
しかしそれも束の間、実体化したゼノが俺の手を引っ張る。
「よっし、風呂じゃスパーダ!!」
「勝手に入って来いよ。もう沸いてますよね? サイカさん」
「はい。慣れない学園生活でお疲れだと思いましたので、お食事とお風呂どちらでも選べるように用意しておきました」
「ほれ、サイカさんもあぁ言ってるし」
「何を言うとる? お前も一緒に入るんじゃ!」
「……はぁ!? 何でお前と風呂に入らなきゃならねぇんだよ!」
俺は堪らず声を上げる。
「あぁ? 今日学園に入る前言うたじゃろうが!」
「入る前……?」
ゼノの発言にピンとこない俺だったが、コイツの言っていることを直後に理解した。
「まさか……」
「うむ! 何でも言う事を一つ聞くと、お前は約束したぞ!」
「はぁ……」
どや顔で告げるゼノに、俺は思わずため息を吐く。
「見たところ、リンゼはまだクエストに出ているみたいだしのう。邪魔が入らない今がお前と儂の親睦を更に深める絶好の機会であろう!」
ゼノの言う通り、リンゼは三日前にクエストに出かけてからまだ帰ってきていない。
前回のキングゴブリンとは違い、複数日にまたいで行われるクエストのようだ。
今までも俺が風呂に入っている時にゼノやリンゼが乱入してくることはあった。
しかし、ゼノが乱入する時はリンゼがそれを阻止し、リンゼが乱入する時はゼノが阻止をしていたため俺はゼノやリンゼと風呂に入ったことはない。
ある意味二人の独占欲に助けられている。
「さぁさぁさぁ! 行くぞスパーダ! この儂の高貴な体を洗うという大役を与える!!」
「分かったよ……」
観念したように俺はゼノと風呂場に向かった。
◇
「~♪」
機嫌の良い鼻歌を歌いながらゼノは俺に身を任せている。
かくいう俺はと言えば、そんなゼノの頭を背中越しにシャンプーで絶賛洗髪中であった。
にしても、コイツ本当に良い髪質してるな。
ゼノの髪の毛はもう何度も触っている。
美しい銀髪はまるで艶やかで滑らかな絹繊維のようだ。
この感触は何時まで経っても慣れる気がしない。
「ふふん! 気持ちがいいぞ!! 流石儂のパートナー、ツボを心得ておるな!」
ゼノは満足そうに言葉を漏らす。
「へいへい、それは良かったよ」
「むー、儂が褒めているのになんじゃその薄い反応は……」
一転して今度は不満げな反応を示した。
「……よし、頭終わり。流すから目つぶってろよー」
風呂桶を手に取り、湯を汲んだ俺はそれをゼノの頭の上にぶっかけた。
直後、ゼノはまるで犬のように頭を左右に震わせ頭から水滴を払い落とす。
「次は身体じゃ!」
「分かってるよ」
次いで、俺はゼノの洗体に取り掛かかる。
髪の毛もそうだが、ゼノは肌も凄い。
何が凄いかと言うと肌に触れた瞬間、指が吸い付けられるかのような弾力とそれに似合わないすべすべの肌をしているのだ。
これで魔王だもんな……。
俺がガキの頃イメージしていた魔王の姿とはえらい違いだ。
そんなことを考えながら俺はゼノの身体を丁寧に洗っていく。
「……」
だが、またもやゼノは不満そうだった。
「……ん? どうしたゼノ」
何だ……? さっきみたいに薄い反応をしたわけでもない。ただ黙々と体を洗ってやってるのに。
「……お前は何も感じぬのか?」
「は……?」
何を言ってんだこの魔王は。
「儂が実体化してから数週間……最初はまさかとは思っていたが、今ので確信したぞ。スパーダ、お前は儂に対する思いが足りとらん!」
「は……?」
「「は……?」ではない! 現に今お前の最愛のパートナーがこうして裸体を晒しているというのにお前の反応はまるでそこらの子供に示すような反応ではないか!!」
「はぁ!? 見た目ガキなんだから別にいいだろうが!!」
「ガキではない!! こちとら数百年以上生きとる魔王じゃ!!」
「だったら何だよ!? もっと丁寧に体洗えってか!? てめぇ髪洗ってた時は満足そうにしてたじゃねぇか!」
「……っ! ち、違う! も、もっとこう……儂に対して恥じらいを見せるとかだな……!! こんなにずかずかと洗われてはまるでお前が儂に対して何も興味を抱いていないというか……ゴニョゴニョゴニョ」
ゼノの声量はどんどん小さくなり、後半はほとんど聞き取れない。
そのため俺は前半に聞こえた部分だけで反論することにした。
「恥じらいだぁ!? てめぇ相手に何を恥じらって何を遠慮することがあんだよ!!」
だが、その言葉が契機となった。
「っ!! こ、この分からず屋がぁ!!」
「ぐへぇ!?」
ゼノに殴られ俺は風呂の浴槽に頭から突っ込んだ。
「もう知らん! バカバカバーカ!! スパーダのバーカ!!」
いつものように子供のような罵声を俺に浴びせながら、ゼノは風呂から出て行ってしまった。
「ブクブクブク……な、何なんだよ……」
思わず俺はそう呟いた。
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◇◇◇
小話:
ゼノは二日に一回の割合でサイカさんと一緒に入浴しています。




