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第八話 ビクさんにバレそうになった

 俺が魔法学園に体験入学し、早くも三日が経過した。

 授業と言うのにも慣れ、学園内の構造も一通り把握したつもりだ。

 会ったばかりの俺を助けてくれたフライトやカレンの尽力も大きい。


 そんな俺は現在、三日前の宣言通りグラゴリエス書庫に入り浸っていた。


「……」

「いやぁ~それにしても本当に熱心ですねぇ~」


 食い入るように書庫内の本を読む俺に対し、書庫管理者のビクさんは言う。


「今時考古学者でも魔王について調べようとする人いませんよ」

「そうなんですか?」

「はい。まぁ正確には国から正式に学位をもらった人は魔王に関しての調査を行ってはいけないんです」

「それはまた、どうして?」

「さぁ?」


 素朴な疑問に、ビクさんは肩をすくませた。


「でもまぁ人並みの考えですけど、一番可能性があるのは……調べられたらマズいから、でしょうね」

「調べられたら……マズい……」


 言われて、俺は周囲を見渡し大量の本の山を目にする。


 書庫での調査を始めてから三日。

 確かに王立図書館では調べられなかったような情報がここには多く存在している。

 けど、肝心な情報……魔王や魔剣に関しての情報は一向に見つかっていない。


 文献が無い、調べることも禁忌とされている……一体どういうことだ……?


 思考を巡らせるがその答えは出ない。

 あまりにも情報が少な過ぎるし、少ない情報から解を導き出す頭も俺は持ち合わせていない。


「くそ……」


 初日はイケると思ったんだが……またどん詰まりか。

 学園での情報収集が難航を示す。


「まぁまぁ、そんな根を詰めないで下さい。集中しすぎるのも良くないですよ?」

「そうじゃぞスパーダ。休むことも大事じゃ」

「ゼノさんの言う通りです。とりあえずこれでもどうぞ、売店で買ったお茶です」

「ありがとうございます」


 俺はビクさんから飲み物の入った容器を受け取ると、一気に喉に流し込んだ。


 ……。


「……ん?」


 あれ、おかしいな。今有り得ない言葉と光景が……。


 まさかと思いながら俺はゆっくりとそちらに首を曲げる。


「全く、この本何を書いてあるのかさっぱり分からんぞ。もっとあれじゃ。絵がたくさん描いてあるのが良い。見ていて楽しいからな」

「あぁ、それならこういったものがありますよ」


 えーっと……。

 

「む? おぉ、なんじゃこれは! ページ全体に絵が描かれとる!」

「絵本と言う種類の本です」


 えーーーーーーーーーっと……。


「話も単純じゃ! これなら飽きんぞ!」

「それは良かったです。沢山あるので持ってきますね」


「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 俺は堪らず声を上げた。上げずにはいられなかった。


「む? なんじゃいきなり大声なぞ出しおって、行儀が悪いぞ」

「お前に行儀が悪いなんて言われる筋合いはねぇ!! ていうかそういう話じゃねぇ!!」


 脱線しそうになるのは無理やり軌道修正した俺は再び口を開く。


「何でお前がここにいるんだよゼノ!!」


 いや、ゼノはいつも俺の傍にいる。

 だからここにいること自体はなにも不思議ではない。


 問題なのは、コイツが実体化してしまっているということだ。


「ちょ、ちょっとこっち来い!!」


 俺はゼノの手を引きビクさんと距離を取る。


「何してるんだよ……! しかも、何だその恰好……!!」

「これか? 何か魔力を操作したら作れた! 流石儂じゃな、どうじゃ可愛いじゃろ?」


 ゼノは普段の洋装とは違い、ここシュラインガー魔法学園の女子生徒の制服を身に纏っていた。

 サイズもピッタリだ。

 くるくるとその場で回り、ひらひらとスカートが舞う。


 何と言うか……精巧に作られてた人形のように可愛らしかった。


「ってアブねぇ……!! 流されるところだった!! 問題はそこじゃねぇ!!」

「あぁ?」

「何で実体化してんだよ……?」


 ヒソヒソ声で、俺はゼノの耳元で質問する。


「ふっ、それを聞くか……」


 すると何やら含みを持たせるように笑い、ゼノは俺の目を見る。


 何だこの反応……まさか何か切迫した事態が……?


 そう思ったが矢先にゼノが吐いた言葉は、


「暇だった」


 今すぐぶん殴りたくなってしまうようなものだった。


「じゃから儂もお前の調べものとやらを手伝ってやろうと思ったのじゃ。有難く思うがよい」

「有難くってお前……ビクさんに姿を見せてどうするつもりだよ!?」


 彼は書庫の管理者と言え、その立場はこの学園の教員に近い。

 そんな人がもし見ず知らずの生徒を目撃などしたら明らかに不自然だ。それにゼノはかなり目立つ容姿をしている。

 不法侵入でもしたと思われれば……。


「問題ない。実体化するところは見せていないからな。突然現れた生徒程度にしか思うとらん」

「それはそれで問題だろ!?」

「どうしました?」

「へ? あ、あははははは! だ、大丈夫です大丈夫です!!」


 俺は無理やり作り笑いをして、必死に誤魔化す。

 すると、ここまで俺たちのコソコソとしたやり取りを見ていたビクさんがにっこりと微笑む。


「それにしても驚きましたよ。スパーダさんはゼノさんと恋人関係なんですよね? ゼノさんから少しお話は聞きましたよ」


 何!? 俺が調べものに集中している間に話がそんなことになってたのか……!

 ていうか無理アリ過ぎるだろその設定!! 何で体験入学生の俺は三日で彼女作ってるんだよ……!?


 自分の世界に没頭してし本を読んでいた自身を悔やみながら、俺は次の言葉を探すが、


「いやぁこうしてその気兼ねの無いやり取りを見ていると、お似合いだと思いますよ!」

「あ、あぁ……ははは……それはどうも……」

 

 勝手に曲解し、歪曲させながら会話をするビクさんに相槌をするのが精いっぱいだ。

 しかしどうやらビクさんは話のちぐはぐさを気にしていない様子だった。


「はははははははは! そうじゃろうそうじゃろう!! スパーダは儂の自慢のパートナーじゃからな!」


 そう言ってゼノはジャンプして、直立している俺の首元に飛びついてきた。


 ……まぁ、良く分からんが危機は回避できたのか。

 ビクさんの性格に感謝だな……。


 俺は内心で深い息を吐くように安堵した。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


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◇◇◇


小話:

ゼノの好きな童話は主人公が苦しんで死ぬタイプです。

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