第七話 新たなSランクパーティー
なんとこれで100話目です。
リンゼはイルミさんに事情を正直に説明した。しかし、理由が理由……傍から聞けば非常にふざけたものでしかないため怒られるのは至極当然、そう思っていたが……。
「なぁんだ。そんな理由だったんだね。なら仕方ないよ」
「分かってくれてよかったです!」
どうやらイルミさんのおつむは大分弱いようだ。
「じゃあ親睦を深めるために私たちと一緒に夜の祭りに参加しない? スパーダ」
「え、そんなのあるんですか?」
「うん! 前夜祭って言って、今日から『大オークション』終了の日まで、毎日夜大規模なお祭りをするんだよ」
「へー、つってもなぁ。俺は……」
どうするべきか、チラリとエリーザを見ると非常に気に食わないと言った表情をしている。まぁそうなるよなと思うばかりだ。
というか決定権はエリーザにある。イルミさんたちと一緒にこの後も行動を共にするかどうか、判断するのは彼女である。
「……仕方ないわね」
「やった~! エリーザありがと~」
「ちょ、くっつかないで!」
祭りに一緒に行くことが決定したイルミさんは嬉しそうにエリーザの頬に自身の頬を擦り合わせた。
◇
イルミさんの提案に従い、俺たちは都市の前夜祭に顔を出していた。ゼノは祭りの食べ物を食べたいと言ったためサイカさんを連れて別行動。
イルミさんと彼女の護衛クエストを受けた【竜牙の息吹】は目の前にある、どうやって設置したんだと疑問に思うばかりの巨大な滑り台のアトラクションで声を上げながら遊んでいた。
で、それ以外……つまり俺たちと言えばその光景をぼーっと見ている。親睦を深めようとは何だったのか、数時間前の彼女に指摘したい気持ちで山々だ。
「はぁ……」
「何か、大変だったな」
珍しくため息を吐くエリーザに、俺もこれまた珍しく労いの言葉を掛ける。
「苦手なのよ」
「あぁ、見てれば分かる」
むしろアレで苦手じゃないなら何なのだと疑問を投げたいくらいだ。
現在、時刻は十七時を回っており太陽が沈み始めている。
周囲は人々のにぎやかな声と笑顔で溢れかえっていた。
というのも、先程イルミさんが言っていた祭りの影響である。『大オークション』の開催に伴い、多くの金持ちがこの都市に集合することから、集客力の見込まれるこのイベントが毎年行われているらしい。また、様々な出店や出し物があることから市民や観光客にも大盛況だそうだ。
「あの子、嘘とか下心とか全くないのよ。全て本心を口にするし、まさに純粋無垢が服を着て歩いているような存在。見ていて吐き気がするし身の毛がよだつし気持ちが悪いわ」
「そこまで言うか……」
「言うわよ。スパーダも、アレを見て何も思わなかったわけじゃないでしょう?」
「まぁ……なんかちょっと、不気味だなとは思ったけど」
正直言えば、あまり反りは合わないだろうな、と思った。
「ほら。やっぱり気が合うわね私たち。結婚しましょう」
「最低の合い方だな。そして理論を飛躍させんな」
周囲の喧騒と楽器隊の演奏による音楽の彩の中、くだらない会話を重ね続ける。
「けどまぁ、ちょっとは仲良くしてもいいんじゃないか?」
「何を言っているのスパーダ、冗談じゃないわ。私が欲しいのはあなただけよ」
「……」
あまりの即答振りに、思わず酸っぱいものを口に含んだように俺は唇を突き出した。
すると見計らったようなベストタイミングでイルミたちが目の前のアトラクションから出てくる。
「お待たせぇー! いやぁ楽しいねぇ! 今年は色々なお店に力が入ってて嬉しいよ! 次はどこ行こっか?」
ニッコリとした笑顔で言うイルミさんに対し、エリーザは気だるげな様子で「どこでもいいわよ……」と力なく言うのだった。
◇
色々な出店を回ったり、イベントステージを見物した俺たちは、こじゃれた飲食店へと足を踏み入れた。所謂「レストラン」というものらしい。
しかし、ここにいるエリーザやイルミさんは貴族だ。彼女たちならばもっと位のある……まぁ「高級レストラン」に行くものだと思っていた。だが、彼女たちに連れられ足を運んだのは見ても分かる通り、一般市民も入り浸るものであった。
だがまぁ、レストランであるは変わりない。酒場で食事を済ませていた俺にとって、ここは未知の世界であり、楽しみであった。
「下手に高い店に行くとさー、すごい居辛くてね? だからこういう場所の方が気兼ねなく食事ができていいんだよ。料理の美味しさもさして違いが無いし」
そんなことを言いながら、イルミさんはメニューを手に取る。
「皆はここきっと初めてでしょ? だから注文は全部私が決めて上げる。すみませーん!」
イルミさんは全て取り仕切るようにレストランの従業員を呼んだ。
「これとー、あとこれとこれ、あー、これはこっちでこれはこれ」
メニューに指を差し、「これ」を連呼してイルミさんは従業員に食事を注文した。それこそ俺たちの介入の余地など全く無く。
「あなた、遠慮というモノを覚えた方がいいわよ」
「あはは、何言ってるのエリーザ? そんなことしてたら人生楽しくないよ?」
「……確かに、それは間違いないわね」
「同意をするな同意を……」
肯定するエリーザに思わずツッコんだ。その時である。
「あれ、ひょっとして【竜牙の息吹】か?」
「あらあら、そうみたいね」
一組の男女の声がこちらに向かい届いた。どうやら二人は今ここに入店したばかりであり、座る席も決まっていなかった。
二人はこちらに向かい歩き、空いていた隣のテーブル席へと腰を下ろす。
男は普通の人間。だが、女の方はそうではない。
――――端的に言えば、エルフだ。
艶やかな金髪に、長い耳、思わず目移りする容姿は明確に彼女がその種族であることを示していた。
エルフは「亜人」という部類に属する。俺たちは「人間」の部類だ。
そして、人間はどこの国の生まれと言った分類しかないが、亜人は違う。出身という分類の他にエルフや獣人と言った種族別の分類が存在する。
こうして、この世界には今人間と亜人が共存して暮らしている。まぁ他にも別の種族がいるのかも知れないが。
「……あなたは!」
するとシェイズが「はっ」としたように声を上げた。
どうやら彼らに心当たりがあるらしい。俺は他の【竜牙の息吹】メンバーを見る。するとドミノたち他のメンバーも知識があるようだ。
「お、おい知ってるのかシェイズ?」
俺はシェイズに尋ねる。彼は抵抗すること無く答えてくれた。
「あぁ、あの人たちは共に個人序列に名を連ねる冒険者。そして夫婦でパーティーを組んでいて、その集団序列は十二位。正真正銘……一流のSランク冒険者だ」
「なっ……」
「どうもー、今紹介に預かった。愛する嫁とイチャイチャする二人だけの夫婦パーティー、【愛愛愛】所属のグラコスだ。よ・ろ・し・く!」
「はーい、愛する夫とイチャイチャしてます。【愛愛愛】所属のラエルです」
二人のSランク冒険者は何てことない風に、俺たちに自己紹介をした。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
「面白かった」
「これから面白くなりそう」
「続きが気になる」
と少しでも思っていただけた方は、広告の下にある【☆☆☆☆☆】から評価していただけると大変励みになります!
☆は1~5まで、読者様が思うこの作品にふさわしい評価を気軽に残していってください!
ブックマークや感想などもお待ちしています!
◇◇◇
小話:
エルフは森に住んでいます。森は世界中にあり、様々な森出身のエルフがいます。