四人目の冒険者
敵を殲滅して、いざ剥ぎ取りタイム――かと思うと、三人は死体に目もくれず、すたすたと先に進んでいった。
皮で防具を作ったり……、討伐確認のためにギルドに持っていって「こ、このサイズの魔物ですか!? いったいどこから出したんですか?」っていう流れが……。
あ。そうか。収納魔法がないんだ。
異世界もので主人公たちは当然のスキルとして持っているけれど、あれは、現地の人たちには驚かれている高度な魔法だ。
となると三人が死体をほったらかしにするのも分かる。あんなに大きいもの、邪魔くさいだけだ。
納得。
……魔石だけでも取らないのかな。小さい割に値はあるだろうから、コスパはいいはずだけど。
でも、あれだけ大きくても、三人にとってはいつでも倒せるザコかもしれない。
身なりは三人とも、熟練の冒険者、って感じで、お金はなさそうに見えるけど、結構稼いでいるのかな。分からない。
ダンジョンで生計を立てる、という感覚が、さっぱり分からない。
この世界のことも、ダンジョンのことも、三人のことも、ギルドのクエスト的なことも、分からない。
が、現代で得た異世界の知識はあるんだ。実際のとこを見れば、すぐに分かるだろう。
あー、なるほどね。完全に理解した。って。
俺は身をよじって、小人族さんから遠い、耳長族さんを見る。
【名前】■■■
【種族】耳長族
【レベル】29
相変わらず見えるのは【種族】と【レベル】だけだ。
名前も分かりそうなんだけどな……。言語がわからないから読めないだけで、他の項目とは、ちと違う感じがする。
それにしても魔法を使う【耳長族】……。
うんうん、これぞ王道ファンタジーだ。
ただ、耳長族さんの白い肌は、太い線のような入れ墨が、顔、体、足、つまり体中に彫られている。
たぶん呪術的な、魔術的な何かを高めるための文様なんだろうけど、せっかくのきれいな顔が台無しだ。
……耳長族さんの顔は、眼力が強い。睨まれているような感じがする。
【種族】……つまり亜人のような存在がいて、それらは人とは違うから、ステータスで見える範囲も違うのだろうか?
とはいえ、龍砕剣さんはニュートラルな人間族なのか。
……うーん、巨人族とか鬼族とか言われても、納得しそうな剣さばきだったしなあ。
①亜人は【種族】と【レベル】が見える
②人間は【力】【賢】【防】【速】【装備】が見える
これが正しいとすると、それ以外の項目の、
③【職業】【階級】【才能】【スキル】【加護】が見える存在は、人でも亜人でもない。
ということになるが、……うーん、そんなはずはないよな。職業なんて、人なら当然持ってるだろうし。
となると答えは「④俺の【ステータス】がポンコツ」になるか。
まあ生後1日の赤ちゃんだしな。これから伸びるだろう、たぶん。
いろいろ考えはしたが、結局分からずじまいのまま、三人はサクサクと進んでいく。
この世界で初めて食べたのは、粘っこい水だった。ゼリーほどにはぷるんとしていない。なんの味もしない。
赤子には丁度いいけれど、彼らも同じものを含んでいた。
この世界の水は、つまめるほどに粘度のあるものが、一般的なんだろうか。
この怪しげな水は【ステータス】で見ることができた。
【名前】■■■■■■
やっぱり俺のステータス、ポンコツ?
いや違う。【名前】は読めないが、これは、俺がこっちの言葉を覚えていないからだ。よくよく見てみると、三人の名前と共通する文字が使われている。
三人の【職業】が???になっているのとは違い、まだ読めそうなのだ。
頭の中に単語帳があれば、語学勉強も捗るだろう。
なにせ、俺はスポンジのように知識を吸収するゼロ歳児だからな。
「やーあうあー!(やったるぞー!)」
『わっ、うるせえなあ。これだからガキは嫌いなんだよ』
『しかし泣かないねえ。あと一日あれば地上に出るけど、どうするクサカ?』
『そうだな。最後の休憩にしよう』
『おいおい、それって死ぬって意味じゃねえよな』
『無論』
俺の独り言のせいか、なにごとか話し合っている。小人族さんがなにか笑っているから、悪いことではないんだろうけど。
小人族さんがカバンから俺をほうりだして、カバンから鍋やら肉やら布やらを出している。
キャンプだ。
明らかに、カバンより多くのものが取り出されている。
俺が突っ込まれていたのは、収納魔法が入ったカバンだったのか。
そんなもんに人を突っ込んで大丈夫なのか? いや大丈夫だったんだけど。
急に外気に放りだされ、ぼけーっとキャンプの用意をする小人族さんを見ていると、耳長族さんが後ろから抱えてきた。
「わやー」
思わず変な声が出てしまった。
しかしゼロ歳児なのだから気にしないのだ。
裸で美人エルフに抱えられても、気にしない気にしない。
耳長族さんの周囲にある炎は、一つは篝火代わりとなって、一つは頭の上で静止し、他の炎はキャンプの周りを旋回している。
索敵もしてくれる便利な炎なのだろうか。
レベルは29で、小人族さんに負けているけれど、こっちの方が強いような気がする。レーザー光線もすごい威力だったし。
『ふふ、びっくりした? ごめんね? 私、ハリア。分かる? ハリア』
耳長族さんは、自分を指差しながら、大きく口を動かす。
ハ・リ・ア。ハ・リ・ア。
……もしかして耳長族さんの名前だろうか。
「あいあ。あいあ」
『そうそうそうそう! ハリア。ハリア』
「あいあ。あいあ」
ハリア、とぜんぜん言えてない。
けれども、耳長族さん――ハリアさんは、満面の笑みだ。
『あっちのちっちゃいのはね、イジュ』
『おい、明らかガキの方がちっこいだろうが』
『イジュ。イジュ』
「いう。いう」
『そうそうそうそう! もう一人はね、クサカ。クサカ』
ハリアさんは、龍砕剣さんを指しながら、何度も言う。
この流れは全員の名前に違いない。
「うああ。うああ」
ハリア。イジュ。クサカ。
俺は改めて【ステータス】を見る。
【名前】■■■
【種族】小人族
【レベル】42
名前は相変わらず読めない。
しかし、これはイジュと読むのだ。
文字と言葉をセットで、頭の中に叩き込めるゼロ歳児。しかも思考力は大人並み。
うーん、間違いなく神童になれそうだ。
【名前】だけ現地言葉で、【種族】【レベル】が日本語で理解できるのは、まだ分からない。ただ、俺が言葉を理解して、【ステータス】の仕様を把握していけば、おのずと分かるだろう。
『こんなちっちゃいのに、もう言葉が分かるのねえ』
『なにせミミック製だからな。お前もビビったか?』
『人間にしか見えないんだけどなあ……。殺しちゃう?』
「あいあ。いう。うああ」
俺が三人の名前を覚えようと、ぶつぶつ言っていると、突然地上が遠く離れた。
とんでもない速度で天井まで吹き飛ばされたような気がした。
実際には、龍砕剣さん――クサカさんに抱え上げられただけだったが。
彼は表情少なく、俺をまっすぐに見つめる。
「うああ。うああ」
『……』
何も言ってこないのが怖い。もしかしてクサカってのは名前ではなくて蔑称かなにかで、怒らせているのだろうか?
三人パーティなのに陰口……いや、さすがにそんな険悪な仲には見えなかったけれど……。
眼力が怖い。漏らしてしまいそうだ。
あ。赤ちゃんだから漏らしてもいいのか。少し気が楽になった。
『聡く早熟で悪いこともあるまい』
『そうだけどさあ。どこに預けるにしても、こういう子は生きにくいんじゃない?』
『それならお前が育てるがよかろう。レガシィなき今、冒険者をやる理由もあるまい』
『私が……?』
クサカさんから再びハリアさんに抱えられる。
ただ抱き方が、両腕に寝っ転がる形だ。聖母の抱き方。
ハリアさんの険しい目付きも、こころなしか穏やかに見える。
『ふふ、いいかもね。レガシィの最後の土産。私の子。レガシィ……』
ハリアさんは、俺の顔をなでながら、何度かレガシィと言う。
流れ的に、俺の名前だろうか。
「えあいー。えあいー」
『まあ。この子、自分のことだと思ってる』
『二代目レガシィはミミックか。アイツ並に奇想天外になりそうだな』
イジュさんが俺をぺちぺちしながらなにか笑っている。
ハリアさんは我が子を慈しむように、穏やかに笑っている。
クサカさんは仁王立ちしてどこかを見ている。ダンジョンではなく、どこか遠くを見ているような気がする。
いいパーティだな。
俺は何もできない、文字通りのお荷物だが、【現代知識】と【ステータス】がある。
いつかこの三人を越えるくらいに強くなるぞ、と固く決心した。
「いう。あいあ。うああ。えあいー」
――もう一人越えるべき相手・二度と越えることができない相手がいるだなんて、俺はまったく分かっていなかった。
レガシィ。
俺が初代レガシィを知ったのは、七年後だった。
レガシィと、
魔法と、
精霊と、
異世界と、
【ステータス】についてよく知った日。
冒険の日――。




