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俺の弱小エッセイ、なろう公式に読まれていた説

https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/5168/

【重要】なろうチアーズプログラム利用規約改定の予告


をみて、お?っと妄想を膨らませてみましたw

 なろうのトップページを開いた瞬間、私は椅子の上で少しだけ浮いた。


 いや、実際には浮いていない。弱小作者は重力からも軽視されるが、免除はされない。ただ、背筋だけが勝手に一センチほど上がり、マウスを持つ右手が、クリック後の形のまま固まった。


 重要なお知らせ。


 そこに並んでいた文言を、私は一回読み、二回読み、三回目で読むふりだけをした。目は文字の上を動いているのに、頭の中では別の文字列が点滅していた。


 まさか。


「おめでとうございます」


 背後の床から、銀色の水たまりが盛り上がった。


 私はまだ何も言っていなかった。口は開いていたが、それは言葉を出すためではなく、昨夜の飲み残しの匂いが自分でも少し嫌だったから換気していただけである。なのに液体金属編集者は、こちらの沈黙を既読扱いして、首らしき部分をこちらへ傾けていた。


「まだ何も言ってない」


「言う前に来ました」


「来るなよ。せめて言ってから来いよ」


「言ってからでは遅い種類の自意識でしたので」


 銀色の表面に、モニタの白い光が乾いた鱗みたいに映っている。私は反射的に机の端へ置いてあった缶を手で隠した。昨夜、書いた。酔って書いた。しかも、ちゃんと酔った人間らしく、文章の角が全部ぶつかっていた。


 Narou Cheers、いったん止めるか、もう少し締めたほうがいいのではないか。


 だいたいそんな話だった。いや、だいたいという逃げ方はずるい。本人名義口座がどうとか、法人名義不可にしたほうがどうとか、銀行KYCがどうとか、そういう単語を、私は弱小作者のくせに妙な顔で並べた。さらにアマギフで済ませる設計の軽さだとか、slop抑止だとか、risk transferだとか、夜中のキーボードはなぜか急に英語を混ぜると偉そうに見える病気にかかる。


 読み返すと、政策提言というより、居酒屋の紙ナプキンに書いた心配性だった。


 その紙ナプキンを、私はインターネットに置いた。


「で」液体金属編集者が言った。「今、何を思いましたか」


「いや、別に」


「別に、で椅子から一センチ浮く人はいません」


「浮いてない。私は浮けるほど売れてない」


「売上と浮力を結びつけないでください」


 私はトップページをもう一度見た。重要なお知らせは、もちろん私に話しかけてはいない。誰にでも見える場所に、誰にでも向けて置かれている。そこに私の名前はないし、私の例の荒いエッセイへのリンクもない。ない。ないのだが、弱小作者の自意識というものは、ないものの周囲にだけ器用に足場を組む。


 もしかして。


 あの酔っぱらいの、句読点が肩で息をしているような文章を、誰かが見たのではないか。


 見たとしても、三秒で閉じたのではないか。


 三秒でも見たなら、それは見たに入るのではないか。


 いや、そもそも公式の人が弱小作者のエッセイを読む必要がどこにある。私はランキングを揺らしたこともなければ、界隈を燃やしたこともない。燃える前に湿るタイプである。自分で書いて、自分で投稿して、自分で翌朝ちょっと後悔する。循環型弱小作者だ。


「表情筋に、読了仮説反応が出ています」


「何その反応」


「弱小投稿者が偶然を自分宛ての信号として誤受信した際に、口角の右側だけが〇・七ミリ上がります」


「測るな」


「原生データなので」


 私は額を押さえた。画面の向こうでは、重要なお知らせが淡々と重要であり続けている。本人名義口座。法人名義不可。銀行KYC。そういう言葉は、私の頭の中で勝手に横断幕になった。だが、横断幕を持っているのは一人だけで、その一人が私で、その私は寝不足で、しかもまだ昨夜の文章を消すかどうか迷っている。


「でもさ」私は慎重に言った。「タイミングが」


「偶然でも発生します」


「内容が」


「世の中で複数人が同時に考えます」


「いや、私が書いたあとに」


「あなたが書く前から検討されていた可能性もあります」


「夢がない」


「夢ではなく、分類名の問題です」


 液体金属編集者は、私の机の上をぬるりと移動し、キーボードの前で平たくなった。まるで銀色の校正記号だった。


「では、言ってください。今、頭の中にあるタイトルを」


「俺の弱小エッセイ、なろう公式に読まれていた」


「説」


「早い」


「必要な一文字です」


「でもタイトルとしては、ないほうが強くない?」


「強すぎます。観測ラベルが事実欄に混入しています。あなたの手元にあるのは証拠ではなく、深夜の投稿履歴と、朝の重要なお知らせと、都合のいい震えです」


「都合のいい震え」


 私は反射的に過去記事の管理画面を開きかけた。削除、非公開、タイトル変更。弱小作者の逃げ道は、いつだってボタンの形をしている。だが、指先がそこへ行く前に、銀色の端がキーボードの隅を押さえた。


「消すんですか」


「消すというか、整えるというか」


「昨夜のあなたは整っていませんでした」


「知ってるよ」


「むしろ貴重です。粗い投稿者が、粗いまま制度語へ手を伸ばした標本は、乾かないうちに残す価値があります」


 たまたま同じ方向。


 その表現は、私の自尊心には少し狭く、私の現実には少し広かった。ちょうど肩が引っかかるサイズの服みたいで、着られるが、鏡の前で胸を張るほどではない。


「保存しておきますか」


「やめろ。私の感情をファイル名にするな」


 私は下書き画面を開いた。開いてしまった。人間は、自分の恥を制止するときほど、なぜか新規作成ボタンを押す。


 タイトル欄に、まず「俺の弱小エッセイ、なろう公式に読まれていた」と打った。そこで指が止まった。止まっている間に、背後から銀色の気配が無言で圧をかけてくる。私は小さく息を吐き、最後に「説」と足した。


 たった一文字で、勝利宣言は急に段ボール製になった。


「これでいい?」


「かなり分類しやすくなりました」


「褒めてる?」


「観測しやすい、という意味です」


 私は画面を見つめた。読まれていた説。なんて弱い。なんてちょうどいい。公式に届いたかもしれない、届いていないかもしれない。誰かの会議資料に入った可能性も、まったく関係なく同じ結論に至った可能性も、単に私が告知を自分向けの返事として誤読している可能性もある。


 そして一番ありそうなのは、最後のやつだった。


「もし本当に読まれていたら?」


 私が言うと、液体金属編集者は少しだけ表面を波立たせた。


「その場合でも、記録名は変わりません」


「何」


「弱小投稿者、勝利宣言直前で自己冷却に失敗しかける、です」


 私は口を閉じた。


 トップページの重要なお知らせは、私の沈黙など知らずにそこにあった。昨夜の粗いエッセイも、私の後悔など知らずに公開済みだった。本人名義口座も、法人名義不可も、銀行KYCも、アマギフも、slop抑止も、risk transferも、全部が私の小さな胸の中で勝手に列を作り、勝手に解散していく。


 保存ボタンの上で、カーソルが点滅していた。


「保存しますか」


「……下書きで」


「下書き保存反応を確認しました」


「公開しないとは言ってない」


「そこが弱小作者の生命反応です」


 私は保存を押した。画面の隅に、小さく完了の表示が出た。勝利ではない。証明でもない。公式に読まれたという確定は、どこにもない。


 ただ、下書き一覧に「説」の一文字がついたタイトルが増えただけだ。


 液体金属編集者は、銀色の指先で保存完了の通知を軽く叩いた。


「では、観測を継続します」


「やめろ」


「なお、ブラウザを閉じるまでを一連の逃避行動として記録します」


「やめろって言ってるだろ」


 私はブラウザを閉じた。


私の弱小投稿小説、宇宙人の地球言語研究に使われていた件

https://ncode.syosetu.com/n9726me/


彼らについては、こちらもご覧ください

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