緊急速報! AI作家、ついに禁止事項に該当!
https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/5159/
第2段の内容をみて、急遽作りました。
後悔していません。
# 緊急速報!AI作家、ついに禁止事項に該当!
その見出しを思いついた瞬間、私はコーヒーを吹きかけた。
六月三日の昼、投稿サイトの告知欄にAI利用状況のQ&A第二弾が出ていた。仕事用のブラウザを閉じ、作品管理画面を開き、私はいつもの癖で新規短編のタイトル欄にカーソルを置いた。
「緊急速報!AI作家、ついに禁止事項に該当!」
打ってから、自分で笑った。
次にサブタイトル欄へ、もっと悪い一文を足した。
「としかわ、ついに敗れるのか」
ひどい。ひどいが、クリックされる。悔しいが、クリックされる。私の中にいる小さな週刊誌編集者が、机を叩いて採用を叫んでいる。
もちろん本文はまだ一字もない。Q&Aを読んで、AI補助的利用だのAI間接利用だのAI翻訳だの、区分の文字列が頭の中で盆踊りを始めただけだ。私は本文欄ではなく、作品情報ページの備考欄を開いた。
備考欄。
ここが近未来の戦場である。
「AI利用区分:補助的利用。たぶん。いや、間接利用かもしれない。詳しくは本文で」
そこまで書いて、私は手を止めた。キーボードの上で指が浮く。エアコンの風が冷たく、マグカップの表面に薄い膜が張っていた。
備考欄でボケるな。
私の中にいる小さなコンプライアンス担当が、週刊誌編集者の胸ぐらを掴んだ。
だが遅かった。
保存前の画面を、私は身内作家のチャットに貼ってしまっていた。
『緊急速報!AI作家、ついに禁止事項に該当!』
五秒で既読がついた。
「ついに来たか」
「としかわ先生、今までありがとう」
「葬式会場ここ?」
「禁止事項って何をしたんですか」
「見出しだけ読んだ。AI作家終わった?」
終わっていない。まだ始まってもいない。
私は慌てて返信した。
「ネタです。Q&A読んだ感想の風刺です」
すると作家仲間の一人、やたら規約に詳しいミナトさんが、真面目な顔が見えるような文体で書き込んだ。
「いや、でも線引きは本当に大事ですよ。AI補助的利用とAI間接利用、混同されがちなので」
「それはそう」
「誤字修正、表現候補、タイトル案くらいなら補助的利用として説明しやすい。でもAIが全体展開を出して、それを下敷きにした場合は間接利用寄り、という話になってくる」
その一文が、なぜか別の作家によって切り抜かれた。
『AIが出した全体展開を下敷きにした場合は間接利用寄り』
さらに誰かが、前後を削った。
『AIが全体展開を出したらアウト』
さらに誰かが、見出しと合体させた。
『緊急速報!AI作家、ついに禁止事項に該当! AIが全体展開を出したらアウト』
私のスマホが、手の中で小刻みに震え始めた。
コメント欄が開戦した。
「見出しだけで来ました。つまりAI使ったら禁止ってこと?」
「違う。補助的利用はまだある」
「補助ってどこまで? タイトル相談は?」
「タイトル相談が補助なら、世界観相談は?」
「全体展開をAIに聞いてから自分で書いたら間接利用?」
「間接なら禁止なの?」
「禁止とは書いてないだろ」
「でも『禁止事項に該当』ってタイトルにある」
「だからクリックベイトだって作者が言ってる」
「クリックベイトなら禁止にしろ」
最後だけ方向がおかしい。
私は画面を見つめた。作品はまだ投稿していない。なのに感想欄だけが、投稿後三日目の炎上短編みたいな速度で伸びている。指先が少し汗ばんで、マウスのホイールがぬるく感じた。
そこへ別の通知が来た。
「AI翻訳だけで投稿する場合はどうなるんですか?」
知らない読者からの質問だった。いや、知らない読者というより、たぶん読んでいない読者だ。本文が存在しないのだから。
私は返信欄に「それは危ういと思います」と打った。
また手が止まる。
危うい。便利な言葉だ。崖の高さも、柵の有無も、落ちた後の責任も、全部ぼかせる。
チャットでは翻訳勢が参戦していた。
「海外読者向けに自作をAI翻訳するのは?」
「それは補助じゃない?」
「でもAI翻訳だけで、自分が内容確認できない言語にして投稿したら?」
「読めない本文を自作として出すのは怖くない?」
「怖いかどうかと禁止かどうかは別」
「別だけど、備考欄にどう書くの」
「備考欄警察が来るぞ」
「もう来てます」
来ていた。
作品情報ページのスクリーンショットに、赤い丸を三つつけた画像が流れてきた。タイトル、AI利用区分、備考欄。私の雑な下書きが、現場検証写真みたいになっている。
「ここ、たぶんじゃなくて明記してください」
「詳しくは本文で、は備考欄として不親切」
「そもそも本文がない」
「本文がない作品の利用区分とは」
正しい。最後の人はとても正しい。
私は椅子の背にもたれた。天井の蛍光灯が、昼なのに白々しい。窓の外では宅配バイクが止まり、すぐに走り去った。こんなに騒がしいのに、私の部屋だけが変に静かだった。
AI補助的利用。
AI間接利用。
AI翻訳。
禁止事項。
どれも、読めば読むほど境界線が見えてくる。けれど見出しだけだと、線は全部まとめて一本の断崖になる。そこに「AI作家」と書いた看板を立てれば、誰かが落ちたことにできる。
私だ。
としかわ、ついに敗れるのか。
敗れたのは私ではなく、私の見出しに対する自制心だった。
私は新規投稿画面に戻った。タイトル欄には、まだ例の文字が残っている。
「緊急速報!AI作家、ついに禁止事項に該当!」
消すべきだろうか。
いや、残したい。残して、その横に小さく「※見出しだけで判断しないでください」と書きたい。だがそれもまた見出しだ。見出しはいつも、注意書きより足が速い。
まず備考欄を空にした。次にAI利用区分のプルダウンを開いた。補助的利用。間接利用。該当なし。その他。指先が上下するたび、コメント欄の幻聴が鳴った。
「作者、逃げた?」
「いや慎重になっただけ」
「慎重なら最初から煽るな」
「それはそう」
それはそう。
私は本文欄に短い前書きを書いた。
『これはAI利用区分をめぐる誤読と過剰反応についての短編です。作中の判断は、個別の運用解釈ではありません。見出しだけで騒ぐ人々を描きます。なお作者もたぶん騒ぐ側です。』
たぶん、を消した。
もう一度、最後だけ書き直した。
『作者も騒ぐ側です。』
少しだけましになった。
公開ボタンの上でカーソルが止まった。押せば、見出しは見出しではなく作品になる。押さなければ、見出しはまだ見出しのままだ。採用か、不採用か。補助か、間接か。危ういか、まだ大丈夫か。そういう札を、今ここで私が一枚に決めるほど、話は単純ではなかった。
そのとき、チャットにミナトさんが最後の一言を置いた。
「禁止されたの、作家じゃなくて、雑な理解のほうでは」
画面の向こうで、誰もすぐには返事をしなかった。既読の数字だけが増え、しばらくしてからスタンプが一つ落ちた。合掌している猫だった。真面目なのかふざけているのか、判定に困る。私は笑いかけて、やめた。ここで笑うと、またスクリーンショットになる気がした。
私はコメント欄の設定を開いた。閉じる、にチェックを入れかけて、外した。
公開ボタンに戻った。押しかけて、やめた。
最後に下書き保存を押した。保存完了の小さな表示が出て、作品情報ページだけが残った。
見出しは、まだ残っている。
そっかー自分禁止なんだー
って感じです。どうしましょうかねー。




