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なろう企画会議

絵の生成AI界隈などでよく見かけるユーザー企画・コンペの仕組みを、小説投稿サイトでも実装できないかと考えてみました。

# なろう企画会議


 架空の運営会社の会議室は、昼なのに白い蛍光灯だけが妙に目立っていた。


 提案者は、印刷した企画書をテーブルの上に置いた。表紙には大きく「ユーザー企画機能の公式UI化について」とある。向かいの席で、社長はペンの頭を親指で押したり戻したりしていた。


「本日は、小説投稿サイトのトップページに、ユーザー企画バナーを常設する案をお持ちしました」


「常設」


 社長の声は、まだ怒ってはいない。ただし、企画書の一行目を読んだだけで胃に来る種類の声だった。


「はい。トップページに『開催中のユーザー企画』というバナーを出します。クリックすると、現在開催中の企画一覧に遷移します」


「また投稿を増やす話か?」


 提案者は二枚目をめくった。紙の端が、会議室の静けさに乾いた音を立てた。


「投稿を増やす話に見えますが、主目的は違います。現在、ユーザー企画は主催者の活動報告、SNS、タグ検索などに散っています。読者から見ると、入口が点在していて、見つけた人だけが参加作品にたどり着く状態です」


「つまり、棚がない」


「はい。公式UI上に棚を作ります」


 社長はペンを置いた。


「で、その棚には何が並ぶ」


「企画一覧には、企画名、主催者、参加作品数、参加者数、開催期間、ジャンル、AI利用可否を表示します。たとえば『春の短編恋愛企画』『異世界お仕事読切祭』のように、読者が今読める企画を一画面で比較できる形です」


「AI利用可否も出すのか」


「はい。禁止のためではなく、読者の選択材料としてです。AI利用可、AI補助のみ、AI不可、未設定。主催者が企画単位で方針を明示できるようにします」


「炎上しないか」


「炎上しないUIはありません」


 社長の眉が少し上がった。


 提案者は慌てて続けた。


「ただし、叩くための表示にはしません。作品を探す読者が、自分の読みたい条件に合わせて入口を選べるようにするだけです。AI大量投稿時代の対策は、投稿禁止ではなく、読者の時間を守る設計として扱います」


「言い方だけはうまい」


「ありがとうございます」


「褒めてない」


 会議室の空調が、資料の端をほんの少し揺らした。


 提案者は三枚目を出した。そこには、企画一覧のモックが印刷されている。企画名の横に小さなアイコン、参加作品数、参加者数、残り日数、ジャンル。社長はしばらく黙って眺めていた。


「参加作品数は見える。で、読まれた数は?」


 提案者は一拍止まった。


 ペン先ではなく、社長の視線が紙の上を叩いているようだった。


「そこが今回の急所です。参加作品数だけだと、企画が盛り上がっているように見えても、読者がどこで何を読めばいいかわからないままになります。なので、企画一覧には『参加作品数』と別に、『読まれた数』に近い指標を持たせます」


「近い指標」


「表に出す数字は慎重にします。たとえば『読了された作品数』『読了導線あり』『初回読者が多い』のような、ランキングではなく棚の状態を示す表示です。内部的には、滞在時間、スクロール到達率、読了率をベータ機能として計測します」


「ベータ機能」


「はい。まずは公開ランキングにせず、企画の並び順やおすすめ表示の改善に使います。クリックだけでなく、実際に読まれたかを見る。作品ページの末尾には『この企画の次の作品へ』という読了導線を置きます。読み終えた読者が、同じ企画内の別作品に移りやすくするためです」


「投稿者は喜ぶな」


「読者も迷いにくくなります」


「そこを先に言え」


 提案者は、次のページに指をかけたまま固まった。今まさに先に言うべきことを後から言っている自覚があった。


「さらに、企画作成権にも条件を置きます」


「今度は何を縛る」


「主催者が企画を作るには、一定の読書実績を必要にします」


 社長は、ゆっくり顔を上げた。


「企画を立てるやつは、他人の作品を読んでるのか?」


「そこです」


「そこです、じゃない。怖いところを笑顔で指すな」


 提案者は資料を一枚引き抜いた。表には「企画作成権ベータ」とある。


「案としては、週20作品の読了、または読了文字数・読了時間による判定です。短編中心の読者と長編中心の読者で不公平にならないよう、作品数だけでなく、読了文字数、読了時間も見ます」


「読んだふりは?」


「内部的には滞在時間、スクロール到達率、読了率を組み合わせます。ただし、個人を罰するためではなく、企画作成権のベータ判定に使います。主催するなら、まず読む側の導線を体験していることを条件にする、という設計です」


「読書感想文は書かせないんだな」


「書かせません」


「よかった。そこまでやったら学校だ」


 社長は椅子の背にもたれた。提案者は少しだけ息を吐いた。


「AI大量投稿時代には、投稿数だけを見ると棚がすぐ埋まります。だから、投稿を止めるのではなく、読者が時間を失わないように入口を整理します。企画一覧では、主催者の方針、ジャンル、開催期間、読了導線の有無を見せる。内部では、実際に読まれた流れを見て、読者が次に進める棚を上に出す」


「作者を裁くのではなく、読者の時間を守る」


「はい」


「それ、資料の何ページ目だ」


「七ページ目です」


「遅い」


 提案者は、七ページ目を前に出した。社長はそこだけを読んだ。会議室の時計の秒針が、二人の間で小さく働き続けていた。


 提案者は姿勢を正した。


「企画は投稿を増やす装置ではなく、読む入口を作る装置です」


「それを最初に言え」


「はい」


「トップページのバナーは、入口。企画一覧は、棚。参加作品数は棚の量。読了導線は、読者が次の一冊に行ける通路。企画作成権は、棚を作る人間が棚を歩いたことがあるかの確認」


「その理解で合っています」


「だったら企画名の横に、主催者の読書実績を出すのか?」


「外には出しません。主催者を競わせる数字にすると、読むことが作業になります。内部判定だけにして、外には『作成条件確認済み』程度の表示に留めます」


「読者には必要な情報だけ、運営には判断材料を持つ」


「はい」


「AI利用可否も同じか。殴る札じゃなくて、入口の札」


「はい。読む前の期待値を合わせる札です」


 社長はまた黙った。


 提案者は、その沈黙の間に余計な説明を足したくなった。だが、足せば足すほど、企画は投稿者向けの管理画面に戻ってしまう。読者のための棚、と言ったばかりだった。


 だから黙った。


 社長はペンを取り、企画書の表紙の隅を軽く叩いた。


「実装は重い」


「はい」


「数字の出し方を間違えると、ランキングの別名になる」


「はい」


「読書実績を雑に扱うと、読者を監視しているように見える」


「はい」


「AI利用可否は、書き方を間違えると争点になる」


「はい」


「でも、入口がないまま企画だけ増えるのも、それはそれで読者に不親切だ」


 提案者は返事をしなかった。社長の言葉が、採用にも不採用にも聞こえなかったからだ。


 会議室の白い光の下で、紙資料だけが妙に現実的だった。まだ、誰も結論を言わなかった。


社長「……資料、置いていけ」

提案者「はい」

個人で企画を立てている方はかなりいると思いますが、それをちゃんと場として提供することで、読者が作品に出会う入口も増えていくものと考えています。

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