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霧の森に潜むもの

それは、ある静かな朝のことだった。

 診療所の前に、村の使者が駆け込んできた。


 「お願いです……! 森の奥で、倒れている人が……!」

 使者の声は切迫しており、その瞳には深い不安が浮かんでいた。


 リリアは瞬時に表情を引き締めた。

 「ガイル、リオ、エリス、準備して。森へ行くよ」

 ——その声は迷いがなく、仲間たちは即座に動いた。


 霧が濃く立ちこめる森の中。

 木々の間を縫うように進む彼らの足元には、淡い青の花が群生している。

 その花から、どこか不思議な香りが漂っていた。


 エリスが不安そうに呟く。

 「……この花、魔力を吸ってる。自然のものじゃない……」

 リオが木の幹に触れると、かすかに脈動するような感触が伝わってきた。

 「生きてる……まるで森そのものが息をしてるみたいだ」


 やがて、霧の奥に人影が見えた。

 それは村人ではなく、旅装束をまとった青年。

 胸元には深い傷、そして淡く光る紋章が刻まれていた。


 「この紋章……見たことがある……」リリアが小さく息を呑む。

 ——それは、彼女が前世で勤めていた病院のシンボルによく似ていた。


 エリスが声を震わせる。

 「リリアさん、これって……転生の“鍵”かもしれません!」


 彼を救うため、リリアは素早く応急処置を始めた。

 包帯を巻き、薬草を混ぜたポーションを作り、仲間たちは息を合わせる。

 ガイルが周囲を警戒しながら言った。

 「……この森、何かが“見てる”。気を抜くな」


 突如、霧の奥から黒い影が這い出してくる。

 魔力の歪みから生まれた“影の魔獣”。

 その気配は明らかに人為的なものだった。


 「来るわよ!」リリアが叫ぶ。

 エリスが詠唱を始め、リオが結界を張る。ガイルは剣を構え、前へ出た。

 ——霧の森の闇が、音もなく牙を剥く。


 戦闘の中で、リリアの瞳に一瞬、前世の手術室がフラッシュバックする。

 手術灯の白い光、必死に命を救おうとしたあの夜。

 ——命を守るということは、どの世界でも同じなんだ。


 傷ついた青年の呼吸が徐々に落ち着いていくのを確認し、

 リリアは額の汗を拭った。

 「……絶対に、助けてみせる」


 魔獣を退けた後、森の静寂が戻る。

 けれど、その奥からは微かな“人の声”が聞こえていた。


 「助けて……たすけて……」


 それは、森に封じられた“何か”の、始まりの声だった。


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