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転生したら病弱少女だったけど、看護師スキルで異世界の医療を改革します!2  作者: 櫻木サヱ
暁の約束

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霧の中の約束

霧が濃くなるほどに、世界は音を失っていった。

葉擦れの音も、鳥の声も、足音さえも吸い込まれる。

リナは白い靄の中を慎重に歩きながら、胸の奥でざわめく“ déjà vuデジャヴ”を抑えきれずにいた。


――この道、知ってる。

――でも、どうして?


「リナ、離れないで」

背後からカイの声がする。

その声が、やけに遠く感じられた。


「大丈夫、カイがいるから」

そう言って微笑もうとした瞬間、足元の感触が変わる。

次の瞬間――世界がぐにゃりと歪んだ。



気づくと、リナは一人で古い教会の中に立っていた。

壁に飾られたステンドグラスは割れ、差し込む光が霧のように舞っている。

そこに、誰かが立っていた。


白衣をまとった女性。

やさしく、けれどどこか儚げな微笑み。

彼女の胸元には、見覚えのあるナースブローチが光っていた。


「あなたは……誰?」

「わたしは、リナ。――もうひとりの、あなた」


リナの心臓が跳ねた。

同じ顔。けれどその瞳には、遥か昔の記憶が宿っていた。


「この世界で、あなたが生きていることが嬉しいの」

「どういうこと……?」


もうひとりの“リナ”は静かに笑った。

「あなたが今持っている“看護の心”は、時を超えて受け継がれている。

 誰かを救いたいという願いが、わたしを――そしてあなたを、ここに導いたの」


リナの目に涙が滲む。

手を伸ばしたが、指先は霧に溶けてすり抜けた。


「待って! まだ、聞きたいことが――!」

「カイを信じて。彼は……“鍵”になる」


その言葉を最後に、幻は霧とともに消えた。

気づけば仲間たちが駆け寄ってきていた。


「リナ! 大丈夫!?」

ミナの声が焦っている。

リナは震える指で胸を押さえながら、小さくうなずいた。


「うん……でも、思い出した気がするの」

「何を?」カイが問う。


リナは霧の奥を見つめ、静かに言った。

「この森は、昔――誰かを救えなかった場所。

 でも今度こそ、救いたい。過去も、今も、全部」


霧が晴れ、朝の光が差し込む。

カイはその横顔を見つめ、何も言わずに手を伸ばした。

その手を取るリナ。二人の間に、言葉にならない約束が流れた。



その頃、森の外では――

黒いローブの影が、ゆっくりと歩き出していた。

仮面の奥で笑うその人物は、低く呟く。


「時は満ちた。封印を解く鍵は……揃いつつある」


霧が散る。

静寂のあとに訪れる嵐の音が、遠くで鳴り始めていた。


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