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76話 オタパーの姫に遭遇しましたけど? 中編



「なぁ、ちょっと良いかな?」


「ヤベェ、イケメンニキだ!!」

「イケメンは嫌いだけど、神城サマは別格に大好きッス!!」

「あ!ユキノ様だ!」

「アヤネ様もいるぞ!」

「あ、あの……神城サマ、ユキノ様とアヤネ様を遠目で一枚だけ撮っても良いですか!?」

「アヤネ様!自分、アヤネ様がジャケ写の『麗しのバッキンガム宮殿』を200枚買いました!めっちゃファンなので握手お願いします!」

「お前、押すなよ!俺だってユキノ様のご尊顔を拝みてえんだ!」



 俺が『姫菜(ヒメナ)&ブタメンズ』に声をかけると、取り巻き連中が騒ぎ出した。

 速攻で雪乃ちゃん達の方へ移動する連中もいる。


 だが、これで少し話し易くなったな。



「クッ……何なのよ、アナタ!!

アナタのせいで皆んなが散っちゃったじゃない!

ちょっと!(しもべ)ども!こっちに戻って、可愛い姫を崇め奉りなさいよ!!」


「それは申し訳ないが、お前らはパーティーなんだろ?

パーティーメンバーの彼を椅子にさせて衆目に晒すなんて行き過ぎだ。

見ていて気持ちいいモノじゃないし…」


「拙者は気持ちイイでござる!!」



 俺が突っかかって来た姫菜(ヒメナ)を窘め、肥満体の彼を椅子にしないよう注意していると、椅子役の肥満男がとんでもない事を大声で叫び出した。



「イケメンニキ殿、勘違いして貰いたくないでござるが、コレは拙者にとってのご褒美でござるよ。

姫様の神々しいヒップを背に感じ、姫様の体温を布切れ何枚か越しに感じる事が出来る……


この行為は姫様と『お花畑で蜂蜜取り』をする時に続いて2番目の幸福でござる!!」


「な、何?

『お花畑で蜂蜜取り』?何だソレは?

養蜂場に行くって事か?」


「ぐぬぬ……このメルヘンな隠語が分からぬとは、何と不粋な御仁でござるか!」


「ブウ太!『蜂蜜取り』の事を人前で話すなって言ったよね?

1週間禁止にしちゃうんだからね!」


「ブヒィィィ!な、何卒、姫様!何卒ご容赦をぉぉぉ!」



 何だコイツら?訳が分からんぞ?

 姫菜はめちゃくちゃ眉間に皺を寄らせているし、椅子役のブウ太とやらは四つん這いのまま器用に頭だけヘコヘコと下げてやがる。



「雄貴さん、『お花畑で蜂蜜取り』ってその……えっちな行為の隠語です……」



 いつの間にか俺の後ろにいた雪乃ちゃんが、そっと耳打ちをしてくれた。

 ヤバ…美少女に耳打ちされると下半身が反応しそうになる…


 いや、今はそんな場合じゃ無い!

 コイツ、ブタのマスクを付けて椅子になって喜ぶ変態の癖に、ちゃっかりお姫様扱いしている女を抱いているというのか!?



「オタパーのオタクが姫と腰を振るとか、一番やっちゃダメな行為だろうが!!」


「む?何を言ってるでござるか?

我々はAランクパーティーでござる。毎晩メンバーの女人(にょにん)と交わるのは暗黙の了解ではござらぬか?」



 こ、ここでも高位パーティーの性事情の常識とやらを持ち出されるとは……



「イケメンニキ殿とて、女神の如き清川殿と柊殿と三人で興じているのでござろう?」


「うるせぇ!彼女達を侮辱するな!!

俺はそんな邪な行為はしていない!雪乃ちゃんとだってプラトニックな関係を貫いてるんだぜ!

俺と雪乃ちゃんの純愛を肉欲に溺れたブタ野郎が汚すんじゃねえ!」


「雄貴さん…嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいです…」



 俺が下衆な勘繰りを入れてくるブタ野郎を怒鳴り飛ばすと、雪乃ちゃんが腕をムギュッとホールドして来た。


 や、柔らかくも弾力のある感触が……




「ほう?SSランクパーティーの神城殿が、2人とプラトニックですと?




……気持ち悪いんじゃあっ!!」




 な、何故かブタ男がブチギレ出した……

 ござるとかいうキャラ設定も忘れる程ブチギレるような事なのだろうか?




「探索者は命懸けの職業だろうが!

今日が無事でも、明日は無事か分からないのが常なんじゃ!

可愛い女が近くにいて、抱かずにいるとか普通にあり得んだろ!


俺らはコレまで、命を落としたパーティーを何組も見て来たんだ!

恋人や片想いの相手が悲しむ様をなぁ!

だからいつ死んでも後悔しないように、俺達は毎晩姫とやる!姫に精一杯奉仕する!


そんな当然の事を(よこしま)だとかいう、お前みたいなヤツが生物的に一番気持ち悪いんじゃあっ!!」




 ブタ野郎の魂の叫びが炸裂した……

 確かに、生物は命の危険を感じると性欲が高まると言われている。

 ヤツの意見も一理あるが……




「お前の言う事は正しいのかも知れない。

だが、心残りがあるからこそ、土壇場に陥った時に実力以上のパワーを発揮出来るんだと俺は思う。


初レベリングの時、俺には命よりも大切な桐斗の存在があった。

だから窮地に陥っても逆転する力を発揮出来た。


今は更に雪乃ちゃんというかけがえのない婚約者がいる。

彼女と一緒になって幸せな家庭を築きたいからこそ、今の俺は過去一で強い力を発揮出来る訳だ」


「雄貴さん……」


「はぁ?

そんなん、清川さんを抱いても同じだろうが!

ソレとも何か?彼女を抱いたら彼女を幸せにしたいと思わねえって事かよ?


だから抱かないってぇんなら、筋は通ってるケドよぉ」



 クッ!このブタ野郎、屁理屈を捏ねやがってぇっ!!



「言い争いは辞めた前!聞くに耐えない」



 俺が言い返そうとしたその時、待ったをかけたのは常識人の藍口君だった。

 金メダリストで品行方正な彼が仲裁に入ってくれるのは助かる。



「先ずは椅子役の君、君は大きな間違いを犯している」


「な、何が間違えてるっつーんだ……」


「毎晩女とするのはスポーツ科学の見識からするに、非合理的と言わざるを得ない。

男は精を放つと筋肉を分解する成分が分泌される。

探索者のようにパワーと持久力が必須な職業の場合、少なくともダンジョンアタックの3日前から禁欲する事が必須だ。


人によっては2週間前から禁欲するという者もいるが、そこは自分でどれくらい禁欲した方が当日のパフォーマンスが上がるかを試して行った方が良い。

因みに、俺は試合4日前からの禁欲がベストだった」


「え、あ、はい……ソウナンデスネ……」



 こ、この人何言っちゃってるの?

 確かに、キックのジムに通ってた頃、プロ選手達が何日前からエッチ的な行為をストップするか話しているのを聞いた事があるけれど。



「もう!いい加減にしてよねっ!!

さっきからヘンな事ばっか喋って!!

もう姫プンプンしちゃったんだからっ!!」



 うおっ!急にオタパーの姫が叫び出したぞ!!

 


「とりあえず、ブウ太は1週間蜂蜜取り禁止ね!」


「グッ……姫様に従うでござる……」



 ブウ太とやらは、計らずも禁欲生活を送る事となった……

 だが、コレは本人にとって良い事かも知れない。


 性欲処理は余り大っぴらにはされていないが、一部重要視する格闘家やアスリートもいる。

 命の危険を伴う戦闘職ならば尚更、精を放出した後の自身のパフォーマンスを模索するのは重要だと思う。



「それからアナタ達!

さっきから姫の(しもべ)どもを掻っ攫っておいて、姫を無視してお喋りするとか有り得ないんですけどっ!!」



 オタパーの姫こと姫菜は今度は俺達をビシッと指を指して怒鳴り付けて来た。


 別に故意に取り巻きの関心をこっちに向けた訳じゃないんで、そんな風に突っかかられても困るんですが……



「あの、私達は別に好きでこの人達に取り囲まれてる訳じゃ無いんだけど。


そもそも、私達は周りにチヤホヤされて自己満足に浸るような感性は持ち合わせてないから、そんな風に安っぽい言いがかりをして来ないでもらえる?」



 雪乃ちゃんの冷たい声色が暫しの静寂を齎らした……

 

 言ってる事は間違いでは無いんだが、この手の手合いに煽るような事を言ったら余計に拗れると思うんですけど……



「カッチーーン!!

もー怒った!!ゲキオコプンのスケなんだからね!!


ちょっと可愛いからって、チョーシこいてさぁ!

どーせアンタらなんて無名の新人でしょ!?

数字を持ってる姫の気を引くとか、やり方がお下品よ!!」


「ひ、姫……あの人達は無名なんかじゃないッス!

美男美女パーティーで有名な『ガチ勢』ッスよ!ニュースでも毎日取り上げられてるッス!!」



 お、姫菜の後方で青い瓶をトレイに乗せていたブタマスクの彼が窘めてくれたゾ!

 俺としては、人前でパーティーメンバーに酷い仕打ちをするなと言いたかっただけだし、彼の説得で引き下がってくれたらありがたいんだが……



「えぇ〜、姫ニュースなんて見ないから分からなぁい!


何か知らないケド、ゆーめーじんなら尚更タチ悪いナリぃ!

姫の人気を落とそうとして、(しもべ)どもを姫から奪おうって事でしょ?」


「い、いや、あの方達の方が姫より人気があるので、そんな意味のない事はしないと思うッスけど……」


「ブウ矢ぁぁあ!アンタ、今なんて言ったぁ?

姫よりあの女達の方が可愛い、そゆことぉ!?」



 よ、予想以上にヤベェ女だな……ブウ矢君は別にどちらが可愛いなんて言ってないんだが、どんだけ捻じ曲げた解釈をすればそうなるんだ?



「もう限界ヨッ!!

姫のブウ矢まで(たぶら)かすとか、あり得ないんだからぁ!!


黒髪女ぁ!姫とどっちが可愛いか勝負よ!!」



 思考が電波過ぎる姫菜は、我等がリーダー雪乃ちゃんに宣戦布告したのだった……。



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