75話 オタパーの姫に遭遇しましたけど? 前編
大変な事になった……。
藍口君が初レベリングでゲットした職業スキルが【勇者】だったのだ……。
あの後、ダンジョン外で力制限の魔導具を持って外で待機していたJSA横浜営業所の職員から魔導具を受け取り、ステータスの測定は東京本部で会長のタテイシ・ラミレス立ち合いの元行う事を伝え、俺と藍口君は東京へと戻った。
一応、ラミレスには藍口君がとんでもないスキルを得た事を伝え、ステータス測定は慎重にするよう釘を刺しておいた。
本部に到着した我々を出迎えたのは、馴染みの顔の美鈴さんである。
特別室に案内された我々は、部屋の中で既に額に手を当てて溜息をつくラミレスに【勇者】スキルの事を伝えた。
ラミレスは目を見開くと、美鈴さんに指示を出して魔導具で藍口君を測定させ……
……絶句した……
ラミレスの考えが纏まらないという事で、場にいる美鈴さんや俺達は絶対にこの事を他の人に言わないよう念を押されて解散となった。
それから2日後の昼過ぎ、『ガチ勢』と藍口君はタテイシ・ラミレスに呼び出された。
場にはラミレスとは別の外国人のオッサンがいる。
俺達が着座すると、ラミレスが徐に話し出した。
「本日、皆さんに集まって頂いたのは、藍口さんの【勇者】スキルについてです。
此方はWSA日本支局の支局長ドニー・マグワイアさん。
詳しくは彼に話して貰います」
ラミレスが紹介したドニーは日本駐在のWSA職員らしい。
そんなドニーが流暢な日本語で語ってくれた内容は、XXというランクのスキルはWSAが把握する限り、これまで存在しなかった事。
【勇者】スキルについては日本国内のトップシークレットとし、ドニーの権限でWSA本部にも報告しない事。
当然俺達にも秘匿義務が課される事が決定した。
「そして、此処からが本題デス。
実はダンジョンの研究機関から、日本のダンジョンのクール期間が終了した後、世界中で未曾有の災害が起こり得る可能性が高いという発表がありました。
そこで提案がありマス。
Mr.アイグチ、その神から贈られた【勇者】スキルを活かす為に、『多国籍パーティー』を組むのは如何でしょうか?
世界には【聖女】、【聖騎士】、【賢者】といったEXスキルを得た人材がいます。
活動拠点はイギリスになりますが、世界の天才達と切磋琢磨して…」
「それはお断りさせて頂きます」
藍口君はドニーの提案を食い気味に断った。
実は、昨日彼から瑠奈とパーティーを組みたいと打診されており、俺は瑠奈がOKすれば問題ないと伝えていた。
瑠奈が得た職業スキルはEXスキルの【聖女】。性女では無いので悪しからず。
そして、KOZIさんの弟子でURスキルの【剣聖】持ちの世良香澄というJKも加えるらしい。
つまり、彼は彼で国内メンバーオンリーの勇者パーティーを組むつもりなのだ。
「な、何故ですか!?
ジャパンのラノベでは勇者パーティーには、聖女、賢者、聖騎士が必須でしょう」
「外国人と一緒に活動するのは絶対無理。
食事が合わない。
アマボクで海外遠征に何度も行ったけど、外国で食べる日本食は何か違うんだよ。
おふくろの味が無いんだよ。無理だな、無理、無理」
「そんな、たかが食事で断るなんて…」
「食事を馬鹿にするなぁっ!!
我々アスリートの身体を支えるのに、食事は最も重要なんだ!
栄養価やバランスだけで無く、味も大切な要素なんだよ!
好みの味の食事が摂れないと、減量がどれだけ地獄か分かって言ってるのか!?」
藍口君はトップアスリート目線でドニーの提案を拒絶した。
俺としても、藍口君のような男が瑠奈の側に居てくれると安心なので、口を挟む事はしなかった。
結局、ドニーは藍口君の事を諦め、明らかに肩を落として部屋を出て行った。
「なぁ、ラミレス。
邪魔者が居なくなった所で、レベリングの新しいやり方について話そうぜ。
初心者ダンジョンでのレベリング以外に、Bランクダンジョン小ボス討伐によるレベリングをするべきだと思うんだが」
「ハァ……神城さんと藍口さん以外でレベリング前にワーウルフと戦える人間なんている訳ないでしょう?
幾らトップの格闘家でも普通に死にますよ。
先日、FULL BOCKO王者の大林健が、Cランクダンジョンに行って意識不明の重態になったニュースを見たでしょう?
我々は今、世の中に向けて危険なレベリングをしないよう呼びかけているんです。
藍口さんの事だって、神城さんの同行が有ったから特例で認めただけですから」
ラミレスに断られてしまったか……確かに、元王者の大林が大怪我したばかりだからな…
まぁ、新しいレベリングはもう少し先で良いか。
俺達は最後に藍口君の考えている彼のパーティーメンバーについてラミレスを交えて話し合い、ラミレスの賛成を得た所で解散する事になった。
◆◇◆◇◆
「姫菜ちゃん、コッチ向いて!」
「気怠そうな姫様がヤバ可愛い件」
「ハァハァ…ミニスカとハイソの組み合わせが最高過ぎて死にたい…」
「お前、どけろよ!撮影の邪魔なんだよ!」
「姫菜ちゃん、『姫様キーホルダー』300個ネット注文したから握手して下さい!」
話し合いを終えた俺達と藍口君が帰ろうとすると、出入り口付近に20人位の人集りが出来ていた。
何やらむさ苦しい男どもが誰かを取り囲んでいるようだ。
「ちょっと、あなた達邪魔。
姫疲れてるの。ブウ太、椅子になってくれなきゃ、姫パーティーやめちゃうから!」
「ブヒブヒ!喜んで姫の椅子になるでごさる!!」
取り囲んでいる連中が道を開けると、如何にもな感じの服を着たツインテールの女が豚のマスクを付けた男達を従えて、エントランスの方に移動した。
女が豚男の1人にクソムカつく事を命じると、ブー太と呼ばれた肥満体型の男は速攻で四つん這いになった。
女は豚男の背中に勢いよく腰を落とすと、他の豚男達はいそいそと姫を自称するその女の周りに移動する。
「あぁん、もう!ガントレット外れない〜!」
「姫様、このブウ夫めが外します」
「では、このブウ助めが左手のガントレットを」
何だあの女は!?何故豚男達はあんな女の我儘に従うんだ?
我儘ツインテール女を取り囲んでいた野郎どもは、皆んなスマホで豚男に腰掛けるツインテール女を撮影していて、誰も女の行動を注意しない。
「何だ、あの変な集団は!?
どうしてあのブリブリの服を着た勘違い女を注意しないんだ?」
「多分、アレは『オタパーの姫』だと思います」
俺が疑問に思った事を口にすると、雪乃ちゃんは冷めた表情で答えてくれた。
雪乃ちゃん曰く、『オタパーの姫』とは、オタク男だけで編成された『オタクパーティー』に途中加入する女の事を指す言葉だそうだ。
『オタパー』は2年くらい前からワイドショーなんかで取り上げられていて、好きな2次元作品のキャラになりきってダンジョン探索をする連中の総称だ。
そんなオタク探索者は御多分に洩れず、内気で女にモテない。
そういう女にモテない奴らの中に女が入ると、オタク連中は女をお姫様扱いする。
そんな感じで『オタパーの姫』が出来上がるという事らしい。
「アレは最近人気急上昇の『姫菜&ブタメンズ』というパーティーだと思いますわ。
確か先日、『オークに襲われる姫騎士配信』というシチュエーション配信をして、国内パーティーのスパチャランキング3位にランキングしたはずですわ」
「柊さん…シチュエーション配信て何ですか?」
「アラ、ご存知ありませんこと?
シチュエーション配信は、ダンジョンのセーフエリアで色々な場面を再現するエンタメ配信ですわ。
リーダーの姫菜さんが姫騎士役をして、ブタマスクを付けた殿方達がオーク役をするという感じで、BANされないギリギリのエロな感じのお芝居を生配信したのですわ」
「クソ!なんて事だ!
知ってたら幾らでもスパチャを送ったのに!」
彩音とのやり取りで、完全に藍口君のイメージが崩れてしまった……。
本当に彼と瑠奈を同じパーティーにして良いのだろうか?
藍口君、瑠奈の椅子になったりしないよな?
いや、今はそれどころじゃ無い。
幾ら何でも公衆の面前で、自分のパーティーメンバーを椅子代わりにするとかは行き過ぎた行動だ。
ミニスカなのでパンツがチラりするかもだが、此処はSSランク探索者としてバチっと注意せねば。




