幕間 小さな恋のメモリー 後編
「ちぇー、結局少しかオッパイ見れないでやんの!」
「フフフ、まぁそう不貞腐れるな。
幾ら弟クンのお嫁さんになると言っても、そんなにしょっちゅう見せてたらありがたみが無いだろう?」
俺はあの後、10分くらい気絶していたらしい。
気付くと、俺は美優先生が泊まる部屋のベッドに寝かされていた。
目を覚ました時には先生は既に新しい水着に着替えており、俺は盛大に頬を膨らませた。
ゴネたらもう一度あの美しい裸体を拝めるかと思ったんだが、美優先生は高校1年とは思えない大人な対応を見せて俺を窘めた。
「そう言えば部屋に運んだ時に思ったんだが、弟クンは細く見えるのにかなり筋肉質な身体をしているんだな」
「え?そうかな。
あ、でも、友達には良く馬鹿力だって言われるかも。
それよりも美優先生は合宿なのにあんまり練習しないんだね。
他の人の練習を見てるって感じでさぁ」
「う、うむ……
じ、実はだな……私はもう選手として、試合を組んで貰えないかも知れんのだ……」
何の気無しの質問によって、美優先生の表情は一気に暗くなってしまった。
でも、試合を組まれないってどういう事だ!?
砂浜でシャドーなんかを見てたけど、先生は他の誰よりもキレキレの動きをしていたのに……
「どうしてさ!?
美優先生はパンチもメチャクチャキレてたし、こう、躱す動きから攻撃に行く繋ぎっていうの?
守りから攻めに変わる動きがメチャクチャ早かったじゃんか!」
「弟クンは私のシャドーがそこまで見えていたのか!?
いや、あのミット打ちが出来るなら当然か……
そうだな……弟クンもさっきからチラチラ見ているだろう?
私は中学2年からオッパイが大きくなってな……試合をしても邪魔になるし、男共からいやらしい目で見られるんだ……」
「う……ゴ、ゴメンなさい……」
「いや、弟クンは良いんだ!
将来の旦那様だからな!
でも、スポンサー企業からはこのような裸よりも恥ずかしい水着を着させられるし、試合も男達の欲望を満たすような事……いや、もうやめよう。
とにかく、私は弟クンが羨ましいよ……
格闘技の才能が有って身体の力も強い。
これから幾らでも強さを追い求められるのだからな……
私はもう……」
ま、マズい!先生が更に元気を無くしてしまった……
どうにかして元気付けられないかな?
「そ、そうだ!
俺が先生の分まで強くなるよ!世界一強くなる!
そして、チャンピオンとかになっていっぱいお金を稼いだら、美優先生が本気で戦えるような場所を作るんだ!
だから先生ももうダメみたいな事は言わないでさ、一緒に強くなろ!!」
「弟クン……ははは!
そうか、それは嬉しいな……私は素敵な旦那様を持ったようだ。
では、早速練習に行こうか!」
「うん!」
美優先生の笑顔を取り戻せた。たったそれだけで、俺の心も明るくなった。
俺は先生と一緒に訓練場に戻り、一生懸命格闘技の練習に励んだのだった……。
◆◇◆◇◆
その日の夜、俺は美優先生の裸がいつまでもチラつき、中々寝付く事が出来なかった。
同じ部屋で泊まっているオッサンのイビキもうるさいし、部屋の冷房の調子も悪くて蒸し暑い。
俺は自販機でジュースを買おうと、訓練所のロビーへと向かったんだが……
「馴れ馴れしく腕に触るな!」
「ウヒヒヒ、良いじゃねえか!
俺達、名門の世久原大ボクシング部よ?」
「未来の金メダリストの俺達にお酌をさせてやろうつってんだ!
早く俺らの部屋に来いよ!」
「こんな可愛い爆乳JKが部屋に来たら、お酌じゃ済まねえけどなぁ!」
「イ、イヤ!それ以上近付くと蹴り飛ばすぞ!」
ロビーで美優先生がガラの悪いチンピラ共に絡まれていた。
1人が背後から先生を歯がいじめして、他の2人が先生の胸を触ろうとしている……
俺は速攻でブチギレて、触ろうとしている内のチビの方に飛び蹴りを喰らわせた。
ゴキンッ!……ドサッ……
チビは首が少し傾き、白眼を向いて床に突っ伏した。
「お、おい、サエキ!!」
「て、テメェ、ガキィ!」
「お前、汚ねえ手を離せ!
美優先生は俺のお嫁さんなんだぞ!!」
「舐めた事言ってんじゃねえぞ、このガキんちょが!」
俺がカッコ良く先生から手を離すように伝えると、胸を揉もうとしていたもう1人の金髪の男が殴りかかって来た。
コイツは酒が入っているせいか、それとも元が大した事が無いのか殴る時の動作が大きい。
俺は大きくサイドにステップして金髪の打ち下ろしを躱し、空ぶって前のめりになった金髪の左膝を狙って関節蹴りをした。
グキッという嫌な音と共に金髪の膝は変な角度に折れ曲がり、金髪は無様に悲鳴を上げながら床をのたうち回った。
「美優先生に変な事をするヤツは俺が許さない!
早く先生から手を離さないと、お前もソイツらみたいに再起不能にさせるぞ!!」
「クッ、ガキの癖にチョーシこいてんじゃ…」
「そこで何をしている!!」
騒ぎ声を聞きつけたのか、施設のガードマンらしき人がやって来た。
その事に驚いたのか、最後の1人が美優先生を羽交締めにしていた腕を離した。
俺は怯える美優先生の腕を引き、俺の後ろに移動させる。
美優先生はガタガタと震えている。
余程怖かったんだろう。
それから色々な大人の人がゾロゾロと集まり、俺はガードマンや他の人達に事情を説明した。
やがて世久原大学のボクシング部のコーチと名乗るオッサンも現れて、ヘコヘコと謝って来た。
どうやら世久原大は今日が合宿最後の夜で、3人の部員達は羽目を外し過ぎたらしい。
酒が足りなくなったので、近くのコンビニに酒を買い出しに行こうとした3人と、遅目のお風呂を堪能した美優先生がかちあって今に至るという訳だ。
「す、済まない……まだ怖くて……もう少し側にいてくれないか?」
夜も遅いので、明日改めて大学側が先生達に詫びに来るという事になり、俺が先生を部屋に送り届けると、まだ怯えた表情の先生が俺にそんな事を言って来た。
「モチのロンだぜ!
何たって美優先生は俺のお嫁さん…フガッ!!」
俺が二つ返事でオーケーした瞬間、先生に思い切り抱き締められた……
顔面に柔らかくも凄まじい弾力のオッパイが押し付けられている……
先生の甘酸っぱくもけしからん感じの香りがする……
暫く巨大なオッパイと甘けしからん香りを堪能していると、俺の身体は解放された。
「さっきの弟……さっきの雄貴はとてもカッコ良かったぞ。
私は……その……本気で好きになっちゃったかもだ……」
「え?んっ……」
続いて美優先生は俺にキッスをして来た……控え目に言って最高過ぎた……
俺はこうして、初めての恋と家族以外の女の人の裸体とキッスを経験したのだった……。
ーーーーーーーーーー
「……経験したのだった……じゃねえだろ!」
「ゆ、雄貴さん……初恋の割にアダルト過ぎません?」
「……アンタ……美優先生に何て事を……」
「……うん……エロとバイオレンスに満ちた初恋?……初恋って言って良いのかな?」
俺がせっかく感動的な話をしたのに、瑠奈を筆頭にごちゃごちゃと突っ込まれた。
「つーか、その感じだとまだ続くよね?
合宿もあと何日かあったんでしょ?その間その先生とは何してたのよ?」
「ん?何って、流石に次の日からは顔を合わせると照れがあるし、日中は練習に打ち込んだよ。
で、夜に施設の中庭で待ち合わせして、色々お話したりキッスしたりしたかな」
「クッ……最早ツッコミどころしか無いんだが……
あとさぁ、雄貴って私が初めての彼女って言ってたけど、初めてした時童貞じゃなかったよね?」
「ん?そりゃ、初めては美優先生とだったからな。
美優先生は婚約者だから、お前が初めての彼女という事に間違いは無いが?」
「雄貴ぃぃ!アンタ、マジで何て事してくれちゃってるの!?
私、この先美優先生に顔向け出来ないじゃない!!」
「ん?結婚の約束してたんだし、野暮な事言うなよ」
「くぅぅっ!な、何てヤツを弟に持ったんだろ!」
「あ、あの……美優先生とは結婚の約束をしてたんですよね?
それで、その方は今どうしているんですか?」
瑠奈と姉貴がガミガミ五月蝿い中、控え目な雪乃ちゃんがおずおずと先生の今を尋ねて来た。
「さぁ?9年前に探索者になる為にロンドンに行くって言って、それっきり会ってないなぁ。
連絡も来ないし、先生ももう30歳だ。向こうでいい人と結婚してるんじゃ無いかな?」
「もし……もしですよ?
先生が結婚してなくて、雄貴さんと結婚する為に日本に戻って来たらどうするんですか?」
「いや、それは絶対に無いだろう!
結婚の条件が俺はプロキックで世界チャンピオンになる事で、先生は探索者として世界ランカーになる事だったんだ」
「え、でも、雄貴さんは探索者として有名ですし、ある意味格闘技の世界チャンピオンより凄いですよね?
美優先生も世界ランカーだったら」
「いやいやいや!
先生は誓いを破るような人じゃない!
俺は世界チャンピオンじゃないし、先生はミユーという名前で登録した筈だが、今まで一度も世界ランキングに入ってない筈だ。
もう良いだろう?全ては淡い恋の思い出って事さ」
俺は妙に食い下がる雪乃ちゃんを何とか納得させた。
……でも、どうなんだろう……もし美優先生がまだ独身で俺の前に現れたら……
……俺は……俺の気持ちは……




