コキオのお屋敷にて……
落ち着いて話し合いの席を設けるため、まずは場所を移動した。流石に竜の死骸の傍では気が休まらない。
死骸の山を放置しておく事については問題ない。あれを積み上げられるほどの存在と敵対しようって命知らずな魔物はいないから。天然の魔物除けと言える。
「さあ、どうぞ。まずは席に着いてください」
会議室でテーブルを囲むことにしたのだけれど、南大陸の獣人達は私の勧めに従ってくれなかった。
ファイサルさんは窓に張り付き、ミクダード氏は興味深そうにあちこち観察し、狩人ウスマンさんは茫然と固まり、馬人二人は身を寄せ合って震えている。
別に脅すような真似はしていない筈なのに……。
「スカーレット、本当に落ち着いてほしいなら、ここが何処で彼等の身に何が起きているのか丁寧に説明するべきでしてよ」
「そのための席の筈だけど?」
「せめて状況把握だけでもさせてあげてくださいと言っていますの。私だって展開の早さについていくのがやっとなのですから、彼等にしてみれば尚更ですわ。さっきまで竜が棲息する山中にいた筈なのに、大型の空飛ぶ列車へ乗り込んだかと思えば、鏡一枚抜けると窓の外には海が広がっているのですもの」
ついでに言うと、窓の先には邪魔なエルフ船団がキミア巨樹によって既に拘束されていた。
うん、いきなりこれを受け入れろってのは無茶かもね。
「それより、さっきの鏡の話だ! もしかしてあれは、オリハルコンではないのか⁉」
だと言うのに、自分の興味へ一直線の人がいる。
「オリハルコン……? 南ノースマークへ一瞬で移動できる鏡と言い、私が知らない事情も多そうですわね。勿論、私が納得できる程度の説明はいただけるのでしょう?」
「凄い、わたくし以外で初めて見ました。観察しただけでオリハルコンだと分かるものなのですか?」
「ワシがどれだけ金属に触れてきたと思っておる? 理想として追い続けてきたものがそこにあるなら、一発で看破できて当然じゃあ!」
立場的に聞き逃せないとジュートが加わり、面白い話になりそうだとファイサルさんは聞く体勢へ移行した。おまけにノーラが口を挟んだものだから、それにミクダード氏が応じて会議室はますます混沌としてきた。
なお、獅子人馬人の三人は何故だか更に距離を開けている。
収拾がつきそうにないので、これは質疑応答形式にするしかないのかな?
とにかく話し合いは紛糾した。
召喚後の私の行動について聞きたい者、南大陸に実態について知っておきたい者、ヒエミ大陸と南大陸の違いについて興味を持つ者、獣人達の風土について詳しく知りたがった者、数多くある南大陸固有の素材へ興味を寄せる者、とにかく関心を満たしたい者、ここぞとばかりに南ノースマークの情報収集を試みる者、現状把握に徹したい者、おまけに雑談に興じる者まで加わって、情報共有は進んでいるんだか足踏みしているんだか分からない時間が長く続いた。
私も領地の状況をある程度聞いておきたいし、私がいなくなった後の王国の動きを知っておく必要がある。それから、エルフ船を吊り上げる以外にやっておくべき事も。
「ダンジョンからオリハルコンが……⁉ いえ、あれだけ普及しているなら偶発的に発掘されるだけではないのでしょう。それに、限定空間転移……鏡面がオリハルコンとのお話でしたが、伝説で謳われるのに相応しい可能性を秘めているのは間違いありませんわ。国内にも明かしていない製法を漏らしてもらえる訳もありませんから、まずは国内の捜索……そのためには冒険者の誘致でしょうか。ミラーブ領の独自性を見いだせれば……」
「これが政治……。衣食住を整えるのは勿論として、他国……ここの場合は領地だったか? との交易を見据えて独自の産業を発展させ、住人全てに職を与える。選択の多様性が遣り甲斐を生み、しっかりした収入を保証する事で経済を活性化させ、税率を抑えても十分な税収が望める……。民に苦役を強いるのではなく、民の生活環境と共に領地を発展させる。なるほど、四か国で閉じ籠っていたのでは経済の発展が頭打ちになる訳だ」
ジュートは領主として今後南ノースマークからどう利を得るかについて頭を悩ませている。ここまで共闘した以上、ヒエミ大陸に戻れたからハイさよならって訳にもいかない。
南大陸との戦争において帝国の侯爵が活躍したのだと王国中へ周知してその貢献を評価しなければならない。ジュートは当然南ノースマークとの交易を褒賞として強請ってくると思うから、私も帝国との新しい付き合い方を考えなければいけなかった。
そしてファイサルさんは、ヒュウガライツとコキオの差に愕然とした様子だった。
歴史が違うと言えばそれまでなのだけれど、学べるところもある筈だと細かく説明を求めてきた。今回の趣旨とは外れるので半分授業の質疑応答はベネットに丸投げしたけれど、彼は真剣に聞き入っていた。
これまでユーシアメオルは特殊、と目を逸らしてきたものが今頃になって形を変えて突き付けられている。四種族共栄圏で満足してしまっていたせいで、発展の可能性を潰していたのだと。
出立の際、私達が期待を寄せなかった理由も今になって知ったのかもしれない。
そして、一番衝撃を受けたのはミクダード氏らしかった。
「どうか、貴女様に仕えさせていただきたい……!」
両膝を突いて床に座り、深く頭を下げている。
正直、彼がこんな態度に出るなんて考えてもみなかった。
「えーと、一体どんな心変わりを?」
「ワシには誇りがあった。ドワーフとして生まれ、ワシ等の大陸の最先端を担っている。大陸を隔てて基礎が異なろうと、我等の積み重ねが劣る事は決してない、と」
「それであんな態度を?」
「今となっては恥ずかしい限りじゃが、設計の斬新さに感心しようと、ワシ等とは異なる着眼点に驚かされようと、その内容をきちんと理解し対等に語り合える……そう、思っておった」
私はその考え方を、思い上がりとは捉えない。
皇国への技術供与の際、考えなしに講義をボイコットした連中とは違う。ミクダード氏は意地があろうと、現状把握は投げ出さなかった。
「この都を見て衝撃を受けた。ワシ等がどれほど頭を捻ろうとあの街は造れん。エルフ共に求められなかったから……などと言い訳はせん。我等の研鑽は明らかにこの国より劣っておる」
コキオがこの大陸の最先端だって事実は黙っておく。異常な発展がここだけだからって、おそらく彼の矜持は戻らない。
「オリハルコンを発見するばかりか既に実用化している状況にも打ちのめされたが、それ以前にこの部屋の椅子も壁も、どんな材質であるか判別できん。木材を原料としているようではあるが、どんな加工を施せばこのような丈夫で滑らかな、魔力をふんだんに含んだ材質を生み出せるものか……、まるで想像できん」
キミア巨樹ってチートあっての建材ではある。けれど巨樹自体が私のオリジナルである以上、種明かしをしたところ慰めにはならない気がした。
「ワシのつまらん意地は粉々じゃあ! これほどまで圧倒的に未熟を思い知らされるとは思わんかった」
「えーと、すみません?」
「何を謝る? 何を気にする必要がある? ワシは未熟じゃった。仕えたいと申し出たところで、学ばねばならん事が山とある。主様のお役に立てる日はずっと先じゃろう。けれど、それは研鑽を積む機会が多くあるという事、これまでよりずっと多くを知れるという事。ワシはまだまだ新しいものが作れる……こんなに嬉しい事、何処にある?」
あ、その気持ちは分かってしまう。
「勿論、一方的に学ぶとは言わぬ。ワシが知る限りの知識を主様に伝えよう」
「ありがたいですけれど、守秘義務があるのではないのですか? ドワーフ族の積み重ねであるなら、貴方の一存で漏らせるものでもない筈です」
「それは問題ないじゃろう。主様達はこれからユーシアメイルを滅ぼすのであろう? であるならば、敗戦国の技術をどう扱おうと勝手にすればいい。獣人達が活用するのと同時に、勝利に貢献した主様が参考とするのにどんな問題が?」
私達の目的くらいは知っていたらしい。その上で、今漏らすのも戦後に情報を吐かせるのも結果は同じだと割り切っている。ユーシアメイルに未練がないのは今更だし。
「分かりました。ミクダード、貴方をこの南ノースマークの技師として受け入れます。当面は監視を付けますけれど」
「そんな、集中すれば気にならなくなるものはどうでもいい。受け入れてくださった事、感謝しますぞ」
その集中度合いについては知っている。
むしろ、見張り甲斐のない相手へ誰を付けるかの方が問題だった。ないとは思うけれど、集中している間は何も起きないだろうと目を離した隙を狙われると困る。
特例として、真面目なキリト隊長とか借りられないかな……。
「それと、オリハルコンなどと驚きの品があるなら、国を売ってでも研究に加わりたい者も多いのではないかな? ハイサム坊が戻ったなら、扇動を任せてみればいい?」
「それは、ユーシアメイル中枢にも影響力を持つハダード炎錬家を引き入れる事も可能と言う申し出なのでしょうか?」
「いや、あの馬鹿どもは駄目だ。オリハルコンを見せびらかしたところで出世の道具だとしか考えられんような間抜けは、相手にするだけ無駄だろう」
それでも、提案自体は魅力的だった。ハイサムと再び巡り合えるかどうかはともかくとして。
言ってみればドワーフは種族全体が兵器管理部隊。
ブラヒムからの報告で戦争が確実なものになったとして、武器類のメンテナンス要員がごそっといなくなったのでは準備が立ち行かない。
民間人への無駄な被害が減らせて楽にユーシアメイルへ嫌がらせができるかもと、その実行手段を真剣に検討するのだった。
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