ミクダードの実力
一週間かけて五十五匹。
大漁だった。
積み上げた竜は山となっている。そこらの丘より高い。
「思い切り暴れられて、実に爽快でしたわ」
風と闇属性を除いてコンプリートできたジュートも機嫌がいい。ただし服は無事で済まなかったので、彼女はボロボロになったジャケットの上からコートを羽織っている。スパンコールのキラキラ素材が隠れて彼女にしては地味な装いだった。
討伐分全ての所有は主張しないけれど、皮と鱗は一部持ち帰って装飾に用いるらしい。王国では見ない風習だけれど、帝国では威勢を見せつけるために魔物の一部を纏う事は珍しくないらしい。
普通は軍の功績や所属冒険者の活躍を誇るためのも筈が、中には自らの戦績を誇示する者もいる。近年まで、打倒王国しか頭にない軍国脳筋主義だった名残で。
竜の鱗四種はさぞ目立つだろうと思う。
探せばまだいるだろうけど、捜索の労力が上がって来たのでこのあたりで切り上げる。ブラヒムが竜の討伐数で私達に対抗しようとしたとしても、今から五十匹以上の竜を探し当てるのは現実的じゃない。
選帝競儀における正当性は手に入れた。
五十五匹と聞けば多いようで、帝国へ攻め込むために竜を集めた時ほど果て無く竜が襲ってこない。やっぱりヒエミ大陸と比べて個体数が少ないらしい。そのせいか、巣に籠って凶暴性も低いように思えた。
竜同士で争わないからかな。
考えてみれば竜の平穏を脅かすような別種もいない。唯一の災害種だから示威行動をとる必要がないとも考えられた。
私は索敵と討伐に専念していたので、竜を運んで積み上げるのはファイサルさん達の仕事。私の空間収納に死骸を入れたくないし、生活空間でもあるフィルママンで一緒も嫌なので、とりあえず積んである。
シャハブがいない事もあって運搬はファイサルさんが進んでやってくれた。彼と獅子狩人ウスマンさんは竜の尾を食事にもらっている事もあって特に張り切っている。
馬人二人も協力的だった。
本職とは違うけれど、各地を駆け回るだけあって強化魔法は得意らしい。貴重な経験をさせてもらったと竜を運ぶ。
ハイサムはともかく、馬人への対応が悪いエルフに思うところもあったのだと思う。私達がユーシアメイルへ攻め込むと聞いた時点で更に積極的になった。
ミクダード氏は当然馬車から出てこない。
「よし! できたぞ。会心の出来だ!」
――などと思っていたら、馬車から勢いよく飛び出してきた。出された食事を食べる以外の動きがないから置物程度に思っていたのだけれど。
「できた、とは一体何の事でしょう?」
「これだ! お前さんの設計図を改良したのだ。多少製作の手間は増えるが、素材の配置を見直す事で確実に性能を向上させられる筈だ!」
「鋼板製作に集中していたのでは?」
「そっちは切りのいい百枚で止めた。どうせマルフットに集まる人数分を揃えられる訳でもないからな。それより、お前さんの設計に手を入れた方がワシを認めさせられると思っただけだ」
三日で十枚のペースをここまで上げられただけでも脅威ではある。それだけ作業を効率化した。
でもそれ以上に、私ができうる限りで最適化した設計図に手を入れたって事実に興味があった。私は自分を完璧だなんて思っていないので、指摘点があるなら歓迎する。
「けれど、ユーシアメイルを討つ武器を作る事に抵抗はないのですか?」
「ふん、今更だ。そんなつもりがあったなら、ハイサム坊やの甘言に乗ったりはせん!」
「家族や知人は国に残っているのですよね?」
「審美眼もなくしてしまった一族に未練はないし、ワシの研鑽を認めようとしなかった職人共には愛想が尽きた。新しい技術を得て面白い作品が作れるなら悪魔にでも魂を売ってやるわ!」
随分と覚悟が決まっているらしい。初対面の偏屈さの時点で、スパイである心配はしていなかったけど。
渡された図面を確認してみると、威力面でおよそ一割、射程に至っては二割を超える改善が期待できた。しかも、魔力消費は変わらない。
「これは……本当に凄いですね」
「ふん! ワシ等が扱う基礎とは違うが、理解できん訳じゃない。それに、応用が利かない訳でもな。確かに発想は斬新じゃが、性質が異なる素材の活用が甘い。ただ並べるだけでなく、素材同士の相性を考えて組み合わせを考えれば、このくらいはできる!」
私だってそれを考えなかった訳じゃない。素材の特性によっては近接させると反発し、想定した出力を得られない場合がある。そうした弊害は避けて設計したものの、ミクダード氏の改良は更に上を行くものだった。
言ってみれば共鳴。
悪い影響を避けるだけでなく、素材が放つ微弱な力場同士を作用させて性質を引き上げる。特に属性が異なるもの同士を上手く配置してあった。多少の細工もあるようだけど。
私が目指したのは百パーセント。素材が性能を十全に発揮すればいい。
対してミクダード氏は百二十パーセントを目指している。素材に負荷をかけて耐久性を落とすのではなく、相性のいい素材同士を同調させての実現だった。
「どうだ、恐れ入ったか? ワシの技術も大したものだろう」」
「ええ、大変勉強になりました。現時点で真似られるほど理解できた訳ではありませんが、この技術を使えば魔道具の可能性はもっと広がると思います」
「そうだろう、そうだろう。わっはっは……と笑いたいところだが、魔力の消費量は削減できなかった。そちらでもドワーフの積み重ねを見せつけてやろうと思ったが、魔導線の選別、損耗を抑えた配置、無駄のない設計、どれも見事だったぞ」
「そう言ってもらえると光栄ですね」
「うむ、その方面では完敗と言っていい。複数の付与基板を組み合わせる発想と言い、異なる属性を一つの魔道具に組み込む技術と言い、あれらの基礎技術を生み出した人間は天才だろう。北大陸へ行く機会があるなら、是非会ってみたいものだ……」
目の前にいますよ……とはあえて言わなかった。
ミクダード氏への依頼はあくまで兵器生産への協力。
ある程度の技術は見せ合ったものの、これ以上は技術供与の話となるので全てが終わった後でないといけない。協力してもらっているとは言え、敵国の人間にいくつもの技術を無償で提供したとなると帰国後に問題となる。
「ところでさっきから気になっておったのじゃが……」
「なんでしょう?」
「なの大量の竜は何だ⁉ 全てとは言わんが、鱗と骨のいくつかを貰っていいか?」
「はあ⁉」
力が抜けて座りこみそうになった。
鋼板製作に夢中で、ここへ何をしに来たかも把握していなかったらしい。ひょっとすると、ディルガームの半壊も知らない可能性まであった。
人間性を疑うと同時に、その集中力は評価する。
「とりあえず、竜の素材については成功報酬としておきましょうか。あれに夢中になられると魔道具製作が疎かになってしまいそうなので」
「む、むう……」
自覚はあるのか、それでもとは言わなかった。
作業で役に立たないなら間違いなく捨てていく。そんな事態はプライドに障るらしい。
「しかしスカーレット、ここで仕様を変更して生産が遅れるようだと支給数に影響が出ませんか? あんまり複雑化して製造できる人間が限られると予定数を用意できなくなるではありませんの?」
「その心配は要らないかな。私が設計したものより少し複雑になっているのは間違いないし、手間とコツが増えているのも事実だけど、基板への魔力融和ほど製作者を限定する訳じゃないから問題ないよ」
「そうなんですの?」
「うん。基板同士の間にあえて隙間を作ったり、反発する素材を近付ける場合に絶縁板を挟んで相性のいい素材とだけ影響し合えるように調整したりといくつかの工夫はしてあるけど、劇的に作業効率を落とすほどのものじゃないからね」
多分、そのあたりにも留意して手を加えたのだと思う。余程の熟達でなければ組み上げられないほどでもない。
で、私が絶賛するところをミクダード氏は腕を組んでふんぞり返った状態で嬉しそうに何度も頷いていた。
聞けば三百歳を超えるお爺ちゃんだって話だったけど、身長が私の胸くらいしかないのもあってマスコットみたいで可愛い。頭身が違うアンバランスさもあるのかな。
「けれど、量産を頼む当てはありますの? ハイサムとははぐれましたし、私達がこれから向かうマルフットに伝手がある訳でもないでしょう?」
「その点も大丈夫。既に応援を呼んであるから」
「……応、援?」
最初は狩人協会を頼る予定だった。でもハイサムが意外と使えそうだったので、多少複雑な構造でも大丈夫だろうと魔法籠手を魔改造した。
そのハイサムが行方不明になるのは想定外だったけど、もっと頼れる仲間と連絡がついた。
証明する方法がなかったから、ノーラと話した夢についてはジュートにも説明していない。代わりに私は胸を張って天を指す。
「これまで私が幾度となく起こしてきた奇跡。それを常に助けてくれた最高の友人達を」
「「「――‼」」」
私が示した先を追って空を見上げた全員の顔が驚愕に染まる。
フィルママンすら希少な南大陸の空に、流線型を複数組み合わせた巨大な車体がゆっくりと降下していた。
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