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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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獅子英雄が望む未来

 トマトのベーコン巻き、鶏つくねのシイタケはさみ焼、大根とスペアリブの煮込み、アスパラとパプリカのソーセージ串、しめじとほうれん草の牛肉炒め、羊ミンチの甘辛パクチー和え、微妙に野菜料理と言いきれないラインナップをつまみながら話を続ける。

 他種族向けと言っても獅子人が考える野菜料理なので、サラダにはハムが、蒸し野菜には鶏ささみがと、たんぱく源とは切り離せないようだった。


 ディルガームでは魔物の狩猟に頼るだけでなく、豚、鶏、牛、羊等々豊富に畜産も行われている。そうでなくてはとても供給が追い付かない。

 それなのに食肉の取り扱いは免許制となっており、厳しい審査があると言う。

 狩人協会に所属する解体士もその一つで、希望者が誰でもなれるものでもないらしい。魔物による臓器の違いを頭に入れておくのは勿論、獲物の大きさごとにどの程度の肉を取得できるかと言った技術的な審査まで細かく規定されている。


「それだけ信頼を求められる職業という事でしょうけれど、どうしてそこまで?」

「だって、美味しそうでしょう? 食べたくなっても仕方ない」

「…………」


 ごく当たり前みたいにアスランさんから返されて、私は続く言葉がなかった。


「いや、時々いるんだ。解体の過程で出た端肉をこっそりお腹に入れる不届き者が」

「ああ、あれは厄介だ。廃棄する予定の切れ端を口にするならまだしも、腹を満たしたいがために多めに肉を削ぎ取る者もいる。ヒュウガライツでも厳しく取り締まるべきかもしれんな」


 ファイサルさんが同意している事から、肉食獣人の国では普通にある事らしい。

 そう言えば、これまで立ち寄った中に野菜泥棒は死刑って厳しい国もあったと思いだす。どの国も食糧事情は深刻な様子だった。


「今日の解体でそう言った人物が出なかったのは、狩人の皆さんがシャハブに敬意を表してくれたからでしょうか?」

「いや、つまみ食いをしようものならどんな目に遭わされるか分からなかったからだろう」

「……はい?」

「以前にあった亜竜の解体現場では、生のまま摘まむどころか火属性術師に頼んで焼き始める者までいたからね。どうしてばれないと思っていたのか、術師含めてその場で叩き出されたよ」


 焼肉臭漂う解体現場、しかも対象が大型種だから体力仕事。以降の狩人さん達はさぞかしお腹が減った事だろうと思う。

 人選の時点でサーリア支部長が窃盗の心配は要らないと保証してくれたのは、つまみ食いも含めての事だったのかもしれない。異種族、しかも文化圏のまるで異なる国だとつくづく思い知る。


「それで、君はこの国をどう変えるつもりだい?」

「どういう意味です?」

「今更誤魔化さなくてもいい。噂で聞こえる獣人側の助っ人、勝利を約束してくれる切り札はシャハブ殿でなく君だろう?」


 実兄に馬鹿だと決めつけられていたアスランさんだけど、観察眼がない訳ではないらしい。狩人をしているくらいだから、そう言った方面の勘が優れていても不思議はなかった。


「私に訊かれても困ります。それを決めるのはこの国の人達ですよ」

「そうなのかい?」

「ええ。これだけ大きな国をどうこうする能力は私にありません。そうなれば母国に協力を仰ぐしかない訳ですが、それでは方針を押し付けてくるのがエルフから無し人へ変わるだけ。獣人の皆さんには受け入れられないでしょう」


 だからこそ、獅子英雄を連合国の指導者に……なんて流れは止めないといけなかった。新たに立ち上げる臨時政府は統治に長けた人物で固める必要がある。


「そうか……、エルフの打倒に貢献する君になら誰もが従うと思ったのだが」


 アスランさんは不思議そうに言う。

 こうした認識も、変革の足を引っ張っていると思う。食糧確保の件と違って文化の違いと言うだけで片付けられるものでなく、少しずつ変えていかなければならない問題でもあった。


「勿論、意見はしますよ。けれどそれを鵜呑みにするのではなく、選択肢の一つとして熟考するくらいであってほしいと思います」

「君はボクよりずっと頭がよく、多くの事を考えているように思う。それでも取り入れてはいけないものなのかい?」

「受け入れる事と考えない事は別です。私が提示できるのは正解ではなく一案でしかないのですから、それによって何が起こるのか、どんな対策を練らなくてはいけないのか、獣人達の支持は得られるか、入念な検討を重ねるべきです。その上で同意するなら、この国の決定と言っていいでしょう」


 だから私に責任がないとまでは言わない。ここまで関わった以上は最後まで付き合おうと思う。


「なるほど……、そこまで考えるものなのか。そう言った部分なのだろうね、ボクに足りていないと父や兄から指摘されているのは」


 自覚、あったんですか……とは突っ込まなかった。

 彼が成長する切っ掛けを得て、この国が損する事はない。


「国に戻れば私も大勢の住人を抱える身です。私の選択が誰かを飢えさせるかもしれない。危険に晒すかもしれない。周囲との関係を悪化させるかもしれない……そんな事が頭をよぎれば、簡単に決断なんてできません」

「……そう聞けば、安易な考えは無責任でしかない訳だ」

「はい。考えて、考えて、考えて、こうするべきなのだと自分を納得させるくらいでなければ、誰かの命や生活を背負うなんてできる筈もありません」


 だからと言って、迷っている姿を見せたのでは頼りなく映ってしまう。どれだけ困惑していても、自分が正しいと信じて疑わないような顔をしているようでなければ、領主なんて務まらない。

 少なくとも、前世の私ならずっと前に音を上げていた。


「うん、今日ここで君と話せて良かった。おかげで今何をすべきか定まったような気がする」

「もしかして、国主を目指す気があるのですか?」

「向いていないのは百も承知だ。今日まで執務から逃げておいて何を今更と思われるかもしれないが、このディルガームのために何かしたいって気持ちはずっとあるんだ」

「アスランさんの背を押せるほどの立場にはありませんが、悪いとまでは言いませんよ。少なくとも、誰かに推されたからと流されるよりはましだと思います」


 そうした場合は大抵、自分が望んだ訳じゃない、押し付けられた立場だから仕方ないと、逃避の言い訳を考える。責任と向き合うのではなく、自分を守るための選択肢へ飛びつく。

 自分の意志で立つ。

 指導者になるための最低限であっても、確かな一歩には違いない。


「ほとんどを人に頼るかもしれない。名前ばかりでもいい。国の皆を導く象徴になれればと思う。兄さんは優秀であっても、人を見ない。あの人だけに任せる訳にはいかないんだ」

「あんなにもお金への関心に全振りの人、私もはじめて見ました」

「だろう? 印象も悪い。人が暮らす国を治めるのに、お金の事ばかりを考えていたのではいけないと思うんだ。国家の運営だって一人で何でもこなせる訳じゃない」

「けれど一方で、お金がなければ国は立ち行きません。その意味で貴方のお兄さんは一流です」

「知っている。あの人の全てを否定できる訳じゃない。そんな資格もボクにない。でも、兄さんは極端が過ぎる」

「例えば外壁の修繕、道路の整備、非常時への備え、安全の確保、どれも必要な事で、かと言ってそのための予算が無限に湧いてくる訳でもありません。優先順位をつければ、誰かに不便を強いる事になります。それでも決断できますか?」

「できる……と、現時点では言えない。それでも誰かに相談するくらいはできる筈だ。頼りきりにするのではなく、自分の意思も交えて共に考えたいと思う」


 誰かを頼るという事は、考えの放棄と違うのだと痛感しただけでも前進だと思う。


「逆ではいけないのですか? お兄さんに国主を任せて、補佐する貴方が住人の不満を解消していく方法だってある筈です」

「……それだと、できる事が狭まってしまう。ボクの願いが叶わない」

「貫きたい意志があると?」

「うん。差別のない国を、誰かを見下したり、特定の人間を不当に扱ったりしない国を目指したいんだ」

「それは……随分と難しい事を言いますね」


 まだ現実の捉え方が甘いからか、夢想家染みて聞こえた。

 けれど彼は獅子人至上主義の切っ掛けになってしまっただけで、その思想に賛同してた訳じゃない。


 アスランさんを慕うと同時に他種族を蔑んで話す若者達へ苦言を呈した事もあったらしい。

 でも説得は通じない。一部の連中は、アスランさんは凄い、つまり獅子人は偉い、それならもっと優遇されるべき……と不思議な常識を自分の中に展開しているので、同じ言語を使っていながら会話は成立しない。

 そうした不快な経験をした経緯から、理想を追いたいと思ったのかもしれない。


 とは言え、夢ばかり見ているような気もするので厳しい事も言っておく。


「一つお願いしてもいいですか?」

「うん? ボクにできる事なら」

「それほど難しい事ではありません。現国主、貴方のお父様が派兵を決めてくれたなら、マルフットを目指す部隊へ訓示を述べてほしいのです」

「まあ、それくらいなら……」

「この中の何人かは確実に死ぬ。それでも国のために戦って来い、と」

「え……⁉」


 固まってしまったアスランの表情は恐怖に近かったのではないかと思う。どうしてそんな酷い事を、そう顔にはっきりと書いてあった。

 私にも覚えがある。

 誰かに犠牲を強いるのは怖い。自分が傷付くよりずっと痛い。

 それでも、現実から目を背けているようで指導者は務まらない。住人に苦難を突きつけて非難されたとしても、決して折れない意志が要る。覚悟、と言ってもいい。


 ディルガームの継承問題にまで口を挟む必要はないけれど、確実に影響を与えた一人として意思を確認しておく。これで日和るようなら話にならないし、それでもと思えるなら立ち向かえばいい。


「考えてください。それを貴方は背負える人間なのか。誰かに任せてしまって楽になりたいずるい人間なのか。それでも国主になると言えますか? アスランさんを評価する立場に私はありませんが、後悔のない選択をお願いします」

いつもお読みいただきありがとうございます。

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