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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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ドラゴンステーキと酒の席

 丸一日かけて竜を解体した後、私達は酒場で打ち上げを行なっていた。協力してくれた狩人は全員参加、酒代は全て私が持つ。鉱化スライム片の事は置いておいても竜の売却金と比べたら微々たるもの、そのために働いてくれた彼等を労うのは当然だと思う。


 肉食寄り獣人の食糧事情を支える狩人達はヒエミ大陸の冒険者ほど荒くれ者ばかりではないけれど、一日の疲れをお酒で癒す習慣は変わらない。

 ついでに、お酒を奢ってくれる人を神か何かのように崇めるところも。

 他種族獣人向けに幅広くメニューを揃えていると言う狩人協会に隣接した酒場は盛況だった。遠目であっても竜を解体する現場を目にしたばかりだから、今日はとにかく野菜を食べたい。


「給金まで払ってもらって、酒のご褒美まである! こんな仕事ならいくらでも引き受けますから、いつでも頼ってください!」


 調子がよさそうな獅子人がジョッキを片手に叫び、ほとんどの者が同意の歓声を上げた。そのままジョッキを飲み干し、多くの者が笑顔で追加のお酒を注文していく。


 でも、そんなに軽はずみな約束をしていいのかな?

 エルフとの決戦に備えて武器を量産しようと思ったなら、もっともっと竜を狩る必要がある。選帝競儀で異論を挟ませないためでもあるし、いくら狩っても困らない。そして、竜を討伐したなら解体用の作業員が要る。

 今でこそ元気を取り戻しているものの、終了の直後は肉体的にも精神的にも限界に見えた。

 やっと終わった……。

 思わずこぼしたつぶやきは心からの訴えに思えた。斧やチェーンソーのような解体道具を振り回し、異臭漂う解体現場で丸一日を作業に費やしたのだから無理もない。


 合戦準備を整えるマルフットやその周辺で依頼しようと思っていたのだけれど、このままお言葉に甘えてしまっていいものかと迷ってしまう。作業が大変そうなのは今更確認するまでもないから、言質を得たからと押し付ける気にはなれなかった。


「お姉ちゃん、これ! これ凄いよ! 噛んだらじゅわあああ……って幸せで、ホント、すっごいの!」


 躊躇う私の思考を吹き飛ばしたのはシャハブ。

 語彙がどこかへ行ってしまったみたいで分かり辛いけど、どうも思っていた以上に感激したらしい。


「うおっ! これはスゲェ、食べた事がないくらいに美味い!」

「感動だ……! これなら消化物に塗れた甲斐もあった」

「阿保! 食欲が無くなるような事を言うな! ……いや、これだけ美味けりゃ関係ないか……?」

「滅茶苦茶美味ぇ……、これは遠征も真剣に考えるべきか?」

「馬鹿、死ぬぞ? けど、気持ちは分かる」


 彼等が食べているのはドラゴンステーキ。

 討伐者として最初に食べたシャハブを筆頭に、感動が酒場中へ伝播していく。折角だからと解体した肉の一部を提供してみたところ、想像を超えた反響だった。ファイサルさんも口へ入れた体勢のまま固まっているし、涙を流している者までいる。

 この様子なら、討伐した分だけ解体にも協力してくれるかもしれない。


「スカーレットは食べてみませんの?」

「ホントに美味しかった?」

「ええ、味は最高のものだと保証しますわ」


 なんとなく歯にものが挟まった様子のジュートに勧められて、一切れ口へ入れてみる。途端に旨味が口中へ広がった。

 生臭さが際立った亜竜と違って味わいが深い。脂はそれほど多くなく、少量のそれも口の温度でさらっと流れる。鶏肉に近くてたんぱく、と表現するには旨味が強かった。癖は少なくて食べやすい。僅かに臭いも感じられたものの、どっしりしたソースが上書きしてくれる。


「うん、美味しい! 美味しい……けど」

「ええ、困った事に私達では噛み切れませんわよね」

「噛むほど旨味が出てくるタイヤを口に入れた感じかな? 弾力はあるのにまるで歯が立ちそうにない」

「これを噛み切る歯を持っていない事が残念でなりませんわ……」


 味は間違いないものなので、ジュートとしてはもっと食べたかったらしい。

 追加で次々注文が飛び交う様子を見ながら、種族の差は大きいものだと思い知る。郷に従って試してはみたものの、肉が欲しいと領地で請われた覚えがない。そういう事かと、ヒエミ大陸で流通しない理由にすっかり納得してしまった。


 狩人達と交流する場でもあるので、気が付くとシャハブは獅子人達に囲まれていた。盛り上がっている内容が、ドラゴンのステーキにはどのソースが一番合うか……なので放っておく。

 少し話せばあの子の外観と内面の違いにはすぐ気付く筈だけれど、それで対応を変えようとする者はいなかった。竜殺しの勇者として、常に一定の敬意を置いている。

 中には、シャハブの境遇を聞いて涙する者もいるくらい。


「皆、遠慮なく酒も料理も注文しているが、本当に大丈夫かい?」


 そう気を使ってくれるのはアスランさん。彼は律義にこの食事会のお礼を言おうと来てくれたらしい。


「ご心配なく、十分な収入がありますから。お世話になった狩人さん達を労うくらいは何でもありません」

「そう言ってもらえると助かるよ。彼等が不満を溜めると、すぐ喧嘩に発展してしまうものだから」

「俺達はあんなに頑張ったのに、あいつ等だけ儲けて……なんて言わせてしまうのは申し訳ないですからね。私達が大金を得られるのは、皆さんのおかげでもあります」

「しかし、一番大変なところを担当したのは君では?」

「大変?」


 ……はて?


「あの巨体を郊外まで運び、作業しやすい高さへ吊り上げ、おまけに全てが終わった後には我々にも周辺にも染みついていた血や贓物の汚れを綺麗に洗い流してくれたではないか」

「そこは、自分達が狩ってきた獲物を運んだだけですから」


 自己責任とも言う。

 王国なら大型種運搬用の車輪付き架台があるから任せるところを代替したに過ぎない。大衆に見せるためにと街中まで運んで、そのまま解体してほしいとは言えなかったって事情もある。折角の評判も地に落ちる。


 それと、狩人達を洗ったのは自己都合。獣人って自分の臭いに無頓着なところがあるから、食事の席にも水を浴びただけで来かねない。そう言った事態を避けるためにも丸洗いさせてもらった。

 お掃除魔法の延長で、服や体毛にこびり付いた汚れを落とすくらいは何でもない。

 乾燥までサービスしたので、薄汚れているのがデフォルトの狩人とは思えないくらい誰もがふわふわだった。獣人の愛玩動物扱いはマナー違反だけど、後でシャハブにモフモフさせてもらうくらいは許されるかな?


 ちなみに、そんな感じで魔法を隠していないので、守ってあげなくてはいけないか弱いお嬢様扱いはすっかり鳴りを潜めた。洗浄のために突然水をぶっかけた時も、シャハブが一目置く歯向かってはいけない人扱いで苦情の一つも出なかった。

 得体の知れない何かだと思われているのは間違いない。


「それに、決起会と思えばバカ騒ぎも当然でしょう」


 彼等の半分は協力を申し出てくれている。もう半分は国を守るための留守番で、出撃権を賭けて飲み比べや早食いに興じている者も多い。


「その決戦、ボクも参加させてもらえないかな?」

「国からの派兵ではなく個人で、ですか?」


 狩人達の参戦は自主的なもので、国の方針とは関係ない。国主の決定で軍を派遣しない事になったとしても、自分達の意志で参加すると言ってくれている。

 もともと有志を募っていたのだから本来の形ではあるものの、アスランさんはその枠で来ると言う。


「ボクが参加を表明したなら、きっと同調する者が出るだろう。過去の活躍を称賛してくれる事、僕を慕って人生の指針にしてくれる事は素直に嬉しい。けれど、それで若者達を戦場に導いてしまったのでは死人が増える」

「だから公式の派遣部隊としてでなく、いち狩人として参加すると?」

「ああ、ボクが行くならと安易に続く者は出させない」


 アスランさんが変にカリスマを発揮してしまっているものだから、彼が言うなら、彼が行くならと軽はずみに判断を委ねてしまう勢力は残っている。中には戦闘経験も碌にない者すらいた。

 竜討伐も盲信を正す切っ掛けを与えただけで、アスランさんを慕う気持ちまで否定していない。


 ディルガームでの協力要請は獣人側の犠牲者を減らす事が目的なので、そうした勢力を巻き込んでしまったのでは意味がない。正直なところ、彼から申し出てくれたのは本当にありがたかった。


 もっとも、彼がそのつもりだと最初から分かっていたなら、小細工を弄する必要もなかった話でもある。参戦が公式なものでないなら、エルフ打倒後の政府に席を用意する必要もない。その可能性を考慮する事すら忘れていた。

 単純に、出会った時点で話を持ち掛ければ済んだ。

 今更後悔はない。竜の実物を用意したおかげで狩人協会の信用は得られたし、彼等の士気も高まった。それでも、徒労感が伸し掛かる。なんとなく、無駄に騒ぎを大きくしてしまった気がした……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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