エルフの基地へ
『止まれ! そこから先はアル・サウル基地の警戒区域内だ! それ以上進むなら敵対の意思があるものとして攻撃する!』
狐人の国コートスォロでの後始末を終えた後、西へ向かった私達はエルフから警告を受けた。巨大な岩塊を吊り下げた飛行物体が基地へ近づいたと考えれば、連合国軍の対応としては当然と言える。むしろ、問答無用で攻撃しなかっただけ理性的かもしれない。
とは言え、それで止まる道理はこちらにない。
ここに基地があると分かって寄り道したのだから、想定通りでしかなかった。
『私はヴァンデル王国伯爵、スカーレット・ノースマーク。赤の狩人とも呼ばれている者です。既に貴国からの先制攻撃を受け、戦端は開かれています。宣戦布告もなく我が領地を攻撃した蛮族に対して、報復行動に出るのは当然の権利だと認識しています』
『え? ……は⁉』
強気で警告を発してきた兵士の声が、通信魔法を介して戸惑いを伝える。こんな返しが待っているなどと考えていなかったに違いない。
この基地の兵士が状況を何処まで知っているのかは知らない。
国家的な戦略として上層部で情報を共有していても、海の向こうへ進軍する計画が内陸のアル・サウル基地まで知らされていなくても不思議はない。そもそも、私やジュートがここにいる事も想定の遥か外だと思う。
だからと言って、ここで手を引いてあげる義理はなかった。
『先ほど、移動中のコートスォロでも攻撃を受けました。キミア巨樹奪取が侵攻目的と聞いていましたが、私個人も攻撃目標とするものだと判断し、これより自衛及び迎撃行動に移ります』
手を出したのはジュートからだったような気もするけど、こちらは命まで奪うつもりはないのに殺す気満々で攻撃してきたのだから似たようなものだと思う。力量差はともかく、五十人で襲い掛かっておいてそんな気はなかっただなんて言い訳は聞かない。
基地を陥落させる目的は、明確に敵対意思を示して狐人達を巻き込まないためなので、宣告の内容は何でもいい。
実際、エルフ達を圧倒した様子に興奮して協力を申し出る声はあった。感謝と同じくらいに、横暴なエルフへ一矢報いる機会だと沸き立っていた。
中には、私達の旅に同行するのだと準備を進める狩人や、シャハブから魔法を学ぼうとする者まで。
でも、私達はあの国へずっと滞在する訳じゃない。
虎兎熊豚共栄圏からの出兵すら拒んだのに、立ち寄っただけの狐人を巻き込めない。
だから、あくまで個人的、王国の戦略とするためにアル・サウル基地へ向かった。南ノースマークへの奇襲に意趣返しがしたいのも本当だし、こちらの立場を明確にするいい機会でもある。
ちなみに、コートスォロで撃退した五十人は岩塊に埋めた状態で飛空艇から吊ってある。捕虜の拘束具がなかったため、ジュートの地属性魔法を代替とした。顔だけ露出しているから窒息の心配は要らない。
『我々と敵対するものと判断する。撃てっ!』
私の宣告を真に受けた様子はないけれど、岩塊に埋まった同胞は視界に入ったのか腹立たしそうな様子で攻撃を命じてきた。すぐに高射砲がこちらへ向く。
飛空艇との戦闘は想定していなくても、魔物領域が近いから鳥型の魔物への備えはあったらしい。
けれど、発射を待ってあげるほど優しくない。
フィルママンへ砲塔を向けた二門をシャハブとジュートの集束魔法が先に貫いた。電磁加速砲は連合国の標準装備ではないらしく、それならレーザー魔法の方が速い。
警告の時点でひるむものとこちらを軽んじていたエルフと、基地を陥落させるつもりで計画を練った私達とでは心構えが違う。
「おうおう、ぞろぞろやって来てるぜ」
同じく特殊魔法籠手で高射砲を撃ち崩しながら、ファイサルさんがエルフ達の動きを伝える。兵器の照準が間に合わないなら魔法でと、短杖を携えたエルフが基地から飛び出して来る。
迎え撃つのはシャハブとジュート。
兵士に向かって即死級の集束魔法を使う気はないので、二人は魔力を薄く広げた。
途端に、エルフ達の進行を遮るように複数の火花が散る。後手に回ったエルフの魔力散布は間に合わない。
加減が苦手と言うか、手加減が必要な場数の少ないシャハブが魔法の威力を調整するには、エルフの模倣はちょうどよかった。真似と言うか、シャハブは完全に習得したと言っていいけど。
そもそも彼は学習能力が異様に高い。
まるで肉体の成長に合わせようとするように、知識も技術も砂地が水を吸うみたいな速度で身につけている。それで精神年齢まで急成長している訳でなくとも、生きるための手札を確実に増やしていた。
頼もしい限りではある。
短杖を持つ手、顔の正面、露出した素肌、シャハブは僅かな隙を上手く狙ってエルフ達を足止めしていく。
なんでも、獣人の髭は魔力の流れをある程度把握できるらしい。
なんとなくで魔力を散布する私と違って、的確に狙いを定められる。後天的にであっても、魔法の才能に恵まれたシャハブの精度は特に高い。
「魔力を薄く馴染ませて……」
そしてジュートの場合、地面へ魔力を広げる。
戦術的に魔力を拡散する以上、消費の無駄が生じてしまう。それを抑えるためにも魔力を薄く展開するのだから、空気中に石礫や岩塊を作り出すことはできない。それを、地面に直接作用させることで補っていた。
「局所的に地面が弾ける様子を伝えて……あ、駄目ですわ」
バンッ‼
大きな音とともに、地面が吹き飛んだ。
多分、爆発のイメージが広げた魔力全体に伝わったのだと思う。基地施設の入り口に大きな穴が開いていた。
そこにいたエルフ軍人達は弾けた石片を受けて血塗れになっている。エルフの回復魔法事情は知らないけれど、当たり所が悪かった者は失明したり、足に深刻な後遺症が残ったりもあるかもしれない。
「うーん、なかなか難しいものですわね」
それでも命に別条があるほどじゃないから、ジュートは魔法の失敗を気にしている。どうも、局所的に魔法を発生させるイメージが難しい。
ジュートは魔力の広がりを間接的にも感覚的にも知る手段がない。そのため三人の中で着弾位置の調整が最も難しい立場にいるのだけれど、それ以前の段階までしか進んでいなかった。
まあ、シャハブと比べると悲惨な被害であろうと、基地制圧の目的からは外れていない。
連中とは敵対関係にあるのだから、魔法の練習台となって痛い目に遭うくらいは当然の仕打ちだと思っておく。
なお、ファイサルさんは薄く広げる魔力のコントロール自体が難しいからと、魔法籠手で大型兵器への警戒を続けている。
「ええい、撃て! 撃てぇ!!」
魔力量的に上空まで魔力を届かせるのは難しいのか、基地のエルフ達は普通に魔法を撃ってくる。
その程度で打ち破れるほど私の魔法障壁は柔じゃない。
「攻撃する箇所、魔力を広げた状態で維持する箇所、それぞれを意識的に分けた方が上手くいくと思うよ」
防御が完璧だから、魔法を試行錯誤できるくらい余裕がある。
シャハブが助言をくれるけれど、どうにも魔法感性が仕事をしてくれない。
でも、ヒントにはなった。
テレビの爆発シーン、CGで作った炎、ゲームの演出、前世の記憶がある私は局所的な爆発を何度も見てきた。光が弾ける場面なら容易に思い描ける。
「魔力展開、空間把握、炸裂箇所設定……」
今ならできそうな気がした。
そう思ったら、試さずにはいられなかった。
「あ、お姉ちゃん。待って」
「スカーレット、貴女はやめておいた方が……」
好奇心のスイッチが入ってしまった結果、シャハブとジュートが制止する声も届かない。
その結果――
どかん‼
「……」
「……」
「……」
ファイサルさんにまで呆れた視線を向けられて、とてもいたたまれなかった。
……これ、もう範囲攻撃魔法って事でいいんじゃないかな?
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